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Healthcare & Life Sciences

手のひらにラボを: Cue Health は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)とその先の医療診断をどう革新していくか

2022年3月31日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2022 年 3 月 16 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

編集者注: COVID-19 のパンデミックに対応するため、Cue Health は、携帯型の Cue Health Monitoring System と Cue COVID-19 At-Home Test を開発しました。Google Cloud は、同社の迅速な変革とバックエンド オペレーションのスケーリングをサポートしています。2010 年の創業からずっと、Cue Health はいわゆる研究開発モードの会社であったと言えます。しかし、ほぼ一夜にして、全米に数百万台の Cue ユニットを製造、展開する商業モードの会社に移行する必要に迫られたのです。

Cue の最初のゴールは、シンプルな遠隔診断検査を適正な価格で手に入れやすくすることでした。しかし、特にパンデミック時におけるさらなる重要なミッションは、公衆衛生当局や研究者が地域医療の全体像を把握する手助けをすることでした。Cue は Google Cloud の安全なインフラストラクチャを利用して、COVID-19 のパンデミックに関するよりタイムリーで正確な情報を当局に提供するための、重要なデータのスケーリング、保存、保護を迅速にサポートしました。また、このデータから得られる継続的なフィードバックを活かしながら、Cue の検査がユーザーにとっての最も正確な COVID-19 のセルフテストであり続けられるように努力を続けています。

Cue のこれまでたどってきた道のりをご紹介します。


現代の微生物学は、バクテリアが発見された 17 世紀に始まりました。2 世紀ののち、Louis Pasteur は微生物学の原理を応用して細菌と疾病の関連性を研究していましたが、狂犬病の原因の究明に苦戦していました。狂犬病は当時の標準的な装置では検出できないほど小さいウイルスによって引き起こされていたからです。しかし、4 年にも及ぶたゆまぬ実験の結果、Pasteur は、狂犬病に感染した組織を弱毒化した抽出物が狂犬病を防ぐかもしれないことを発見したのです。これが、最初のワクチンが誕生した瞬間だと考えらえています。この歴史的発見以降、科学者たちは実験を通して答えを探し続けました。そして 1930 年代、電子顕微鏡の発明によって、contagium vivum fluidum(生命を持った感染性の液体)、つまりウイルスを実際に目で見て研究をすることができるようになり、そこからワクチンの改良が進んでいきました。

COVID-19 の終息に何十年も何世紀もかかるとは考えにくいですが、疲弊した社会からすると、このパンデミックとの闘いは、1 日 1 日が永遠に思えることでしょう。医療の世界でウイルスへの対策を日々模索する現代の戦士たちにとっては、ウイルスを目で見て、性質を特定し、治療法を見つける実験を行うだけでは不十分なのです。データの収集と分析は、病原体の傾向を追跡し、どの治療法が最も効果的に病原体を中和するかを理解するために最も強力な方法の一つと言えます。

これまでのところ、タイムリーで包括的なデータはパンデミックにおいては真価を発揮できておらず、結果、2 年以上にもわたりパンデミックが猛威を振るうままになっています。

Pasteur の時代からの目覚ましい進化にもかかわらず、またこれほどのデータが利用可能であるにもかかわらず、データがばらばらのままになっている理由は明白です。「現在使用されている医療診断のインフラストラクチャの大部分は、何十年も前に確立されたシステム上に構築されているのです。」こう話すのは、Cue Health のチーフ戦略オフィサーである Chris Achar 氏です。

Achar 氏によると、従来の診断のシステムはこうです。患者は予約をして医師の診察を受け、医師は患者が提供した検体を中央検査室に送ります。検査結果が出て、医師が患者に結果を知らせて治療法を提案するまで数日、時には 1 週間かかることもあります。診断データは通常、一元管理され、患者のアクセスは許可されていません。

COVID-19 のパンデミックでは、こうした時間のずれが公衆衛生当局に明白な問題を引き起こしました。最初の症状が出てから最終検査結果が出るまでに数週間かかることもあり、この時間の隔たりのせいで、世間がその存在を知る前に変異が広がってしまう可能性があるのです。「この国における DNA 配列データの処理には平均 28 日かかります」と Acher 氏は説明します。「デルタ株は、30 日もかからずに支配的な変異株となりました。」

公衆衛生当局がその存在を認知したときには、すでにデルタ株に置き換わっていたのです。

オミクロンのような変異株が現れたとき、感染を恐れる人々は、自宅でできる迅速な抗体検査に群がりました。従来のラボでの診断より早く結果が得られますが、結果の信頼性は劣ります。さらに、多くの人は陽性であっても報告しないため、公衆衛生当局は本当の陽性率、発生場所、感染拡大の速度を把握できません。そのため、予想外の変異が発生した場合に、対策のために当局が利用するツールのほとんどは、すでに古くなっている情報に依存しているものでした。「これにより、国全体で大きな盲点が発生していました」と Achar 氏は言います。

COVID-19 に似た症状が現れて具合が悪くなったときに必要なものは、迅速で正確な検査と診断です。同様に衛生当局も、時間内に対応を策定して効果を発揮できるよう、迅速で正確、かつ接続されたデータ報告を必要としています。このデータの壁を超えない限りは、社会はこのパンデミックの新たな局面やそれに続く新たなパンデミックに翻弄され続けることになるでしょう。

家庭用分子検査のパイオニア

Cue Health は、2010 年から家庭用の分子検査の技術の開拓に取り組んでいます。創立者である Ayub Khattak 氏と Clint Sever 氏は、2009 年の豚インフルエンザの大流行としても知られる H1N1 のパンデミックの際、診断のキャパシティ不足や当時の医療現場の状況を目の当たりにして、Cue Health を立ち上げました。

「彼らが目指したものは、高速で現場にデプロイ可能で信頼性の高いもの、またデータを公共医療システムに戻すことができるものでした」と Achar 氏は話します。「医療従事者と、最終的には消費者が同様に使用できるもので、多くの分子分析を行うことができるプラットフォーム機能です。」

そうした彼らの努力は、Cue Health Monitoring System として実を結びました。これは、Bluetooth で動作する、充電式の携帯デバイスである Cue Reader をベースとしています。また、Cue Test Cartridge は、核酸増幅検査(NAAT)の実施に必要なすべての化学物質とコンポーネントを含む 1 回限りの使い捨てユニットです。極めつけは、モバイルアプリである Cue Health アプリです。これをダウンロードすると、ユーザーが検査結果を管理できるだけでなく、必要に応じて管理対象の検査を受けたり、アプリ上のバーチャルケアを通して医師と話したり、電子処方箋機能を利用したりできます。

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使用法は簡単です。Cue Reader に新しいカートリッジを装着して、付属の棒で検体を採取し、カートリッジに挿入するだけです。後は Cue アプリがやってくれます。「Cue Reader は Bluetooth を通じてモバイルアプリに接続されており、電子処方箋と医療システムに統合されています」と Achar 氏は説明します。Cue Health は、検査結果を匿名化し、ほぼリアルタイムで傾向を分析し、公衆衛生当局に貴重な分析情報を提供します。

COVID-19 のパンデミック以前から、Cue はすでに、米国保健社会福祉省の医療技術の発展を目的とした部門であるアメリカ生物医学先端研究開発局(BARDA)と協力していました。BARDA は、パンデミックへの対応に注力しながら米国の医療インフラを維持していく一環として、Cue の技術に関心を持ったのです。

この関係性を通じて、Cue Health は、2020 年の初めに COVID-19 のゲノム配列が利用可能になったとき、すぐアクセスすることができた数少ない企業の一つとなりました。Cue Health Monitoring System は当初から適応性を考慮して設計されていたため、Cue Health のエンジニアは、カートリッジ内の化学物質を変更するだけで、COVID-19 検出用の新しいセットを作ることができたのです。3 週間で高性能の検査薬が完成しました。この検査薬は、家庭用分子診断薬として初めて米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けることになりました。

Mayo Clinic の独立臨床調査の検証によると、Cue Health の COVID-19 検査は、ラボベースの PCR 検査と比べた場合、実に 97.8% の精度を誇ります。

「Cue Reader を使えば、どこからでも COVID-19 の検査が可能です」と Achar 氏は言います。「ラボ並みの精度を持つ分子検査の結果が、20 分以内にモバイル デバイスに届くのです。」

パンデミック レベルの需要に応える

正確で信頼性の高い COVID-19 検査の開発は最も重要なステップではありましたが、最初の一歩にすぎません。この検査への需要は、少数の個人や地域のレベルを超えて拡大しうると思われます。地球上のあらゆるコミュニティや国がこの検査の恩恵を受けられるでしょう。次なる、そしてはるかに高いハードルは、地球規模のパンデミックにおける需要に応えられるだけの数の検査を製造、配布、処理することです。

「今の社会の状況を見るにつけ、もっと良い方法があるはずだと考えていました。」Cue Health の共同創立者の一人である CEO の Ayub Khattak 氏は言います。「この問題を解決するために力を合わせ、それに適した技術の創造に着手したのです。」米国国防総省からパンデミックのインフラストラクチャ構築のための助成金を得て、Cue Health は、研究開発から商業規模に事業を転換する際に直面するあらゆる問題を洗い出して対処するための支援を求めました。

「COVID-19 と豚インフルエンザは、医療情報へのアクセスが抱える非常に根本的な問題に光を当ててくれました」Khattak 氏はそう話します。「拡張性のある製品を構築する必要がありました。」非常に大きな需要に応えることを求められ、特にプライバシーとセキュリティに関するヘルスケアの厳しい要件を満たすには、オンプレミスのインフラストラクチャの拡張性では追い付かないことを、Cue Health 自身も認識していました。このビジョンを実現するため、Cue Health は既存の環境をクラウドに移行する手助けを Google Cloud に求めたのです。まず、パンデミックの正確な全体像の把握のために必要な、膨大な検査結果データを保存できるヘルスケア データレイクを一元化することから始めました。

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「保健福祉省と国防総省の信頼を得るためには、セキュリティ、HIPAA、スケーラビリティ、冗長性に関するデータ コンプライアンスとアプローチを共有する必要がありました」と Achar 氏は説明します。「それは Google Cloud の得意とするところでした。また、国際的な観点からも、認可された各地域内でヘルスデータを保管しなければならなかったのですが、Google Cloud があれば、毎回一から作り直さなくてもよいのです。たとえばカナダやシンガポールなど、認可を受けた国における Google Cloud の機能の中で、データを分離して保管することができます。」

Cue Health が Google Cloud を選んだ理由は他にもあります。HL7v2 や FHIR といった業界固有のデータ標準をネイティブ サポートしていることや、HIPAA に準拠した環境が事前に構築されているため、環境をまたいだ迅速なスケーリングが非常に容易であることなどです。また、Google Cloud は、患者や医療従事者が刻々と変わるデータに簡単かつ安全にアクセスできるようにするとともに、Google Cloud Healthcare API でデータを匿名化し、研究者がそのデータを利用して医療関連のトレンドをほぼリアルタイムで分析できるようにしています。

「今は 21 世紀ですから、」Achar 氏は続けます。「私たちの健康に関するデータは非常に個人的なものであると同時に、私たち自身のものでもあります。そのため、もっと簡単にアクセスできるようにする必要があります。Google Cloud は私たちが必要としていたスケーラビリティとセキュリティを提供してくれました。人々のデータがどう使われるかやどこに報告されるのかなどは、非常に重要なトピックだからです。」

データを使って一歩先んじる

さらに、Cue は現在、検査を受けて陽性となった人の COVID-19 サンプルを別途家庭用の Sequencing Collection Kit を使って DNA の塩基配列を決定できる機能も提供しています。配列決定されたゲノムデータは Google Cloud に保存され、高度な AI と機械学習ツールを使った大規模なスケールでの解析が可能です。

「これは、より多くの配列決定データが集まり、他の重要なデータレイヤーに接続することができれば、今後の予測をする際に非常に有意な情報となるという考えに基づいています」と Khattak 氏は言います。

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携帯型の検査ソリューションが広く利用可能となった今、診断のできるラボ施設を持たないコミュニティにおいても、ラボと同等の精度を持った検査が広く可能になり、新しい変異株を特定するのに要する期間を現在の 10 日間からさらに短縮できると期待しています。また、どの人口層が高リスクを抱えているのか、またどんな人がどの治療法に向いているのかなどの判断を医療コミュニティが行う際にも非常に役立つと考えています。

「サービスの行き届かないコミュニティ、地方のコミュニティ、それに部族地域などにも届けています」と Achar は話します。「これは、  ラボと同等の精度の分子 PCR 検査へのアクセスを持たない人々にとって大いなる一歩です。」

このデータの壁を超えることで、公衆衛生当局は、あらゆる人を助けるための的確な予防措置を取ることができます。むやみやたらに多くの人々に、遅すぎる措置を行う代わりにです。「Google Cloud と共同で発表したとおり、現在、公衆衛生当局が利用できるダッシュボードを構築しています」と Achar は説明します。「私たちは、ある地域において、他の地域と比べて陽性が増加する時期を示すミニメッシュ ソナー ネットワークを想定しています。これにより、公衆衛生当局は抗ウイルスチームやサージ対応チームをどこにより多く配置するかを決定できます。」

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Pasteur の足跡をたどってきた科学者たちにとって、病気とは解明すべき複雑な構造であり、生命をも左右しかねない、治療を必要とする人間の状態であると言えます。しかし、病気を研究するには、その生物学的な構造を学ぶだけでは不十分です。病気を食い止める方法を学ぶためには、病気がどのように発生して広がっていくのか、またどのように個人や人々に影響するのかを理解しなければなりません。Cue Health のようなパイオニアが、一日でも一刻でも早く、重要な診断データを医療従事者や科学者に届けることができれば、疲弊した医療界がこの公衆衛生の危機に先手を打ち、次の危機に優位に立ち向かえるようになるのです。

「接続性やデータを持つこと、そしてパンデミックだけでなく医療全般に対してより良いアクションを取ることの意味は非常に大きなものです」と Achar 氏は言います。「これはまだ始まったばかりなのです。」



- Google Cloud メドテック戦略とソリューション グローバル リード、Alissa Hsu Lynch
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