テクノロジーによってどのように効率的で透明性の高い安全な金融市場の基盤が築かれているのか

Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 3 月 23 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
金融市場は新しいテクノロジーを先駆けて採用した市場の一つであり、これはまた、電子商取引をいち早く取り入れたデリバティブ市場にも当てはまります。今後、業界関係者のコミュニケーション、分析、取引の方法が新たな機能によって大きく変わっていくと見込まれています。
FIA Boca 2022 にて、Google Cloud の Phil Moyer と元 SEC コミッショナーの Troy Paredes 氏にインタビューし、今後の市場やポリシー、スピード感と透明性の向上に向けてすでにその貢献が認められつつある新しいテクノロジーについてお話を伺いました。また、市場の長期的なビジョンを実現するために、クラウドによってどのように復元性、パフォーマンス、セキュリティの向上を促進できるかについても論じられました。以下はその要約です。

クラウド テクノロジーの現状
テクノロジーの採用という点においては、市場および市場参加者によるクラウド テクノロジーと、さらには機械学習(ML)の導入がますます拡大しています。クラウド テクノロジーにより、大規模なデータセットや ML のテストがより簡単かつ迅速に、そしてはるかに安全になります。
Google のスポンサー提供のもと Coalition Greenwich が行った最近の調査(2021 年 9 月)によると、取引システム、取引所、データ プロバイダの 93% 以上がなんらかの形でクラウド上でのサービスを提供していることがわかりました。同調査では、バイサイドかセルサイドかを問わず金融業界の約 72% が、パブリック クラウド データをベースとする市場データを今後 1 年以内に利用する意向を持っていることが明らかになっています。
データドリブンな意思決定とリスク管理は、これまでも、そしてこれからも、金融市場にとって不可欠なものです。時の経過とともに、技術革新によってデータからより深く詳細な分析情報を得られるようになり、その結果、より優れた意思決定とリスク管理を行えるようになりました。このようにデータを高度に活用する取り組みは現在の主流となっており、今後さらに洗練されていくことでしょう。
複数のフェーズで考えるテクノロジーの軌跡
取引所のクラウド化には、「Crawl-Walk-Run(ハイハイ - 歩く - 走る)」と呼ばれる方式を取り入れて、簡単なことから着手し、徐々に範囲を拡大していきます。短期的にはまず簡単に達成できる目標が選定され、中長期的にはより大きな抜本的変革に取り掛かります。なかには、この 3 つのステージは進むペースが異なることを承知したうえで、それらを同時に開始する組織もあります。
「Crawl」のフェーズでは、組織はまずデータをクラウドに移行し、ある程度の分析を試みるなどして、基盤を構築します。これは、透明性を高め、リスク管理の機会を具体化する最も重要なフェーズの一つです。
人、プロセス、テクノロジーの組み合わせにそれまで依存していたインフラストラクチャは、クラウドに移行すると、アプリケーションを実行するコードに置き換えられます。初期に行われるこのフェーズは、組織がクラウドベースかつアジャイル優先の運用モデルに移行するための鍵となります。これにより、よりミッション重視の作業に注力できるよう、スタッフやリソースを IT 管理から解放することもでき、その後の新製品をより簡単かつシームレスにリリースできるようになります。
クラウドの運用モデルを確立することで、コンプライアンスの自動化が進み、レイテンシの影響を受けやすいアプリケーションの運用が容易になります。また、次世代の取引所、市場参加者、規制当局が将来の課題に備えてしっかりと対応できるようになり、「Walk」と「Run」のフェーズを簡素化できます。
「Walk」のフェーズでは、多くのイノベーションが行われます。ここで取引所は大きな進歩を遂げています。決済、清算、リスク管理、担保管理、コンプライアンスの改善や、新製品のリリースに、「Crawl」フェーズでの基本的なデータに基づく意思決定と、クラウドのイノベーションが活用されています。
そして最後に「Run」フェーズです。この段階で、企業はレイテンシの影響を受けやすい市場をクラウドに移行し始めます。市場では、これまでの市場アクセスに対する障害を解決するため、透明性や分析とともに、低レイテンシと高パフォーマンスがますます求められるようになるためです。
規制当局と市場参加者双方にとっての機会
規制当局は、特に法令遵守の観点から、大きな技術的変化が行われた際には必ずその影響を調査します。
技術的な変化により、規制当局と市場参加者の双方がより多くの機会を得られるようになってきています。また、このような変化によって整合性や透明性が向上し、市場の保護の強化につながる場合もあります。
時間の経過とともに、規制制度(規則、規制、法令、解釈、ガイダンス)も新しいテクノロジーに適応し、市場に利益をもたらすとともに、規制の目標を推進することになるのです。
その一例として、クラウドでは、コンプライアンスをトランザクションに組み込めるようにすることで、コンプライアンス要件に対応する能力を高めています。さらに、規制業界にはリアルタイムでの規制報告というビジョンがあり、ここ数年ペースを上げている市場の技術的進展も後押しとなり、さまざまな規制当局がより高度な分析を使用するようになっています。この傾向は今後も続き、より効果的かつ効率的に規制目標を達成し、市場全体についての期待を監視、実現していくための規制当局の推進力となるでしょう。
金融市場における機械学習の役割
Google Cloud の AI および業種別ソリューション担当責任者である Andrew Moore は、ML が今後 10 年で、「意味を与える」、「コンシェルジュ サービスを提供する」、「保護管理者的な役割を果たす」という 3 つの重要な仕事を行うようになるだろうと述べています。投資家の意思決定に不可欠な情報を抽出することは極めて重要です。かつてないほど多くのデータを使用することで、ML はその処理能力を高めると同時に、クラウド上でのアクセス性も向上させ、法令遵守をより適切にサポートできるようになります。
ML は、市場の機能として導入されるようになると、取引、マネー ロンダリング防止、さまざまなリスク管理の分野で力を発揮すると予想されます。意思決定、監視、保護の面で投資家と規制当局の双方の利益をサポートするものになるでしょう。
人をプロセスから排除するわけではありません。人の持つ専門知識はこれからも重要な目標の達成に欠かせません。市場、アセット、ガードレールのデジタル化と ML を組み合わせることで、そうした知識をさまざまな仕方で発揮できるようになるのです。
将来に向けた市場基盤の構築
運用上の復元力、セキュリティ、プライバシーに関する目標が、市場参加者と規制当局の双方にとって、市場の基盤を構築するうえで鍵となる点は今後も変わりません。そのため、テクノロジーの導入には具体的で目に見えるメリットがあるとはいえ、その潜在的なリスクや懸念事項を精査することが重要です。
テクノロジー プロバイダにとっての優先事項は、転送データの暗号化や保存データの暗号化を含むゼロトラスト セキュリティ環境を構築して、そのインフラストラクチャ上で実行されるすべての取引に信頼を付加しつつ、同時に市場の運用上の復元力を保証することです。マルチクラウドのアーキテクチャとアプローチも、運用の復元性を高めるソリューションに組み込むことを検討できます。
いつの時代も、流動性はアクセス、透明性、安全性の向上の結果でした。テクノロジー プロバイダは、将来の市場に対する責任を引き受けるだけでなく、その運命共同体ともなり、金融業界の効率、スピード、透明性、セキュリティを改善するため、日々奮闘しています。
Google のアプローチの詳細については、最新のホワイト ペーパー「Building the financial markets foundation for the future」をご覧ください。
- Google Cloud シニア カウンセル Behnaz Kibria