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顧客事例

三井物産: Google Earth Engine で森林巡視システムを開発、持続可能な森林経営への道を拓く

2023年12月8日
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Google Cloud Japan Team

社員一人ひとりが「挑戦と創造」の DNA を持ち、五大商社の 1 つとしてグローバルにさまざまな事業を展開する三井物産株式会社(以下、三井物産)。そんな同社が今、力を入れているのが環境問題への対策です。本記事では、そうした取り組みの中から、国内森林を対象とした森林J-クレジット事業に、Google Cloud のテクノロジーがどのように役立てられているのかを、本プロジェクトを技術面で支援するデジタル総合戦略部デジタルテクノロジー戦略室のお 2 人に伺いました。

利用しているサービス:
Google Earth Engine

森林J-クレジットの活性化で国内森林の持つポテンシャルを引き出す

森林保護や植林などによって生まれた CO2 など温室効果ガス削減量(削減効果)を「クレジット」化し、事業において温室効果ガス排出を避けられない企業が購入することで、排出量を埋め合わせる「カーボン・オフセット」という仕組み。元々は欧米で 1990 年代に広まった概念ですが、近年は国内でも注目を集め始めており、2013 年度には国が主導する「J-クレジット制度」がスタートしています。

日本全国 75 か所に合計 45,000 ヘクタールの森林を保有する三井物産は森林由来の J-クレジット(森林J-クレジット)創出の事業化に着手しました。2019 年 9 月にまずは自社保有の社有林におけるクレジット創出から手がけ始め、現在では社有林以外の公有林などにまで拡大。年間 3,800 万トンとも言われる国内森林の CO2 吸収能力をクレジット化していくことで、経済的にも持続可能な森林経営に貢献しようとしています。

「ただし、現時点での森林J-クレジットの創出量は、そのポテンシャルと比べてまだ一部に過ぎません。それがなぜなのか、この数年間、実際に取り組んでいく中でさまざまな課題が明らかになってきました。」

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そう語るのは、同社デジタル総合戦略部デジタルテクノロジー戦略室の下出琢人氏。下出氏は、クレジットを生むために大がかりな調査を行い、複雑な申請書を用意しなくてはならないこと、その後も継続的な調査・報告が必要なこと、生み出されたクレジットを流通させる市場がまだ成熟していないことなど、多くの課題が森林J-クレジットの盛り上がりを阻害していたと分析します。

「しかし、そうした課題解決こそ総合商社としての三井物産が得意とするところ。三井物産ならではの総合力を生かしたアプローチによって、この 1、2 年で事業として回していくめどが立ち、現在は、国内各所の森林保有者様にお声がけし、大規模なプロジェクトをいくつも立ち上げつつあるところです。」(下出氏)

Google Earth Engine の活用で森林巡視の新標準を提案

森林J-クレジット創出・活用に向けた課題解決に向け、航空機あるいはドローンで測量したデジタルデータを用いたJ-クレジット申請の制度改定の提案など、ここ数年、さまざまな取り組みを行ってきた三井物産。中でも特に大きな成果と言えるのが、申請が認められた後、実際にクレジットを創出するために必要となる「巡視(モニタリング)」の効率化です。

「森林J-クレジットを発行するには、森林の登録後、その状況を毎年現地で巡視し、被災や伐採などがあった場合に報告する義務があります。当然ながら膨大な手間が発生し、大規模なプロジェクトほど現実的ではありません。そこで我々は、Google Cloud の地理空間分析プラットフォーム Google Earth Engine を使った森林の巡視に挑戦し、従来と比べて大幅な費用とコストの削減に成功しました。」(下出氏)

下の画像Aは、Google Earth Engine 上で、あるプロジェクトの森林分布を示したもの。黒い線で囲まれている部分、一つひとつが登録されている森林の小班(森林内の区画のこと)で、これまでは個別に現地確認して回る必要があったと言います。今回の取り組みではこの森林分布のデータに、Google Earth Engine が衛星写真を元に生成した土地分類図を重ね合わせることで、J-クレジット申請したエリアが今も変わらず森であるかを確認できるようにしました。

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(A: Google Earth Engine での具体的な解析イメージ図)

「黒い線の内側が全て森(緑)になっていれば正常ですが、そうなっていない部分がいくつもあります(画像 A 内 青枠部分)。例えば台風などで木が倒れてしまったり、開発されたような場所です。このような異常発生の可能性がある場所を検出し、Google Earth の精細な衛星写真(下記画像 B)で目視確認の上、それでも被災等の確認すべき状態があった場合には現地確認を実施して短時間でモニタリング報告書をまとめられるようにしました。

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(B: Google Earth Engine での目視確認ツール)

現在取り組んでいる岡山県の森林には 4,000 か所もの小班があり、これまでの経験から、仮に 1 か所あたりの現地確認に要する時間を平均 30 分~ 1 時間程度と想定すると、単純計算でも、全てを見て回るのが現実的でないことが明白です。この仕組みを使うことで、森林の専門家の手を借りることなく、専門的な知見を持たない担当者でもトータル 40~50 時間程度で 4,000 か所の巡視を完了することができるようになります。」(下出氏)

なお、巡視に基づくモニタリング報告書の審査は国が委託した審査機関が行っています。それまで巡視と言えば現地確認だった中、三井物産からの衛星画像を用いた巡視の報告は当初かなり驚かれたと言います。しかし、丁寧な説明をしていく中で「これが本来あるべき姿で、今後の標準にすべきと言っていただけるようになりました」と下出氏は自信を滲ませます。

もちろん、この取り組みはまだ始まったばかり。今後も、さらなるアップデートを予定しているとのことです。

「異常検出の精度をさらに高めていくのはもちろんのこと、Google Earth Engine や Google Earth を利用するインターフェースや申請作業の自動化のアプリケーションを Google Cloud 上に構築することで、巡視作業を誰でも簡単かつ効率的に実施できるようにすることを目指しています。また、申請作業の自動化にも着手していきたいと考えています。」(下出氏)

さらに長期的な展望として、森林保有者ごとにバラバラで、デジタル化されていないことも多いという森林の管理情報を取り込み、正規化されたデータにして管理・活用しやすくしていくことも企図しています。一通りの環境ができあがったところでプロジェクト自体をデジタル総合戦略部から森林管理を専門とする関連会社、三井物産フォレスト株式会社に移管していくことを目指しているとのことです。

「森林管理のための下地を作り上げ、森林の価値を顕在化し、森林保有者等に還元していくことがこのプロジェクトの最終目標です。ここでいう森林の価値とは、 CO2 吸収量や木材のような金銭化できるものだけではありません。生物多様性の保護など、値段の付かない価値についても私たちは大切にしていきたいと考えています。」(下出氏)

最後に、本プロジェクトをマネジメントしてきたデジタル総合戦略部デジタルテクノロジー戦略室 次長、上野昌章氏は一連の取り組みと今後の展望について、次のように語ってくれました。

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「三井物産は長らく事業における CO2 の排出量を減らす取り組みに力を入れてきましたが。それと並行して、事業以外のところでも、世の中全体で CO2 排出量を減らしていく取り組みに積極的に投資を行っています。今回お話しさせていただいた森林 J- クレジットに関する取り組みもその 1 つ。こうした取り組みでは我々が培ってきたノウハウに加え、従来の発想にとらわれない新たな発想、そしてそれを実現するためのテクノロジーが重要になってきます。今後も、Google Cloud のテクノロジーやサービスを駆使して、新たな解決策を見いだしていくため、何か課題やアイデアをお持ちの企業の皆さまには、ぜひお声がけいただきたいと考えています。」


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三井物産株式会社
三井グループの総合商社。世界 62 か国・地域に 126 拠点を展開し、金属資源、エネルギー、プロジェクト、モビリティ、化学品、鉄鋼製品、食料、流通事業、ウェルネス事業、ICT事業、コーポレートディベロップメントの各分野でグローバルに事業を展開。従業員数は 5,449 名、連結従業員数 46,811 名(2023 年 3 月 31 日現在)。

インタビュイー(写真左から)
・デジタル総合戦略部 デジタルテクノロジー戦略室 兼 DX 第二室 次長
 上野 昌章 氏
・デジタル総合戦略部 デジタルテクノロジー戦略室
 下出 琢人 氏


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