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顧客事例

ライオンが挑む「攻めの IT」への変革。BigQuery をデータ戦略の中核に据えた次世代データ基盤構築の舞台裏

2025年10月15日
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Google Cloud Japan Team

「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」というパーパスを掲げるライオン株式会社(以下、ライオン)は、1891 年の創業以来、オーラルケアからビューティケア、医薬品まで、暮らしに寄り添う製品を提供し続けてきました。同社は現在「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」という経営ビジョンの実現に向け、データドリブン経営への変革を加速させています。その大きな一歩として、このたび全社データ基盤を刷新し、その中核に Google Cloud を採用しました。

本プロジェクトは、単なるインフラ刷新に留まらず、IT 部門が「守り」から「攻め」へと転換し、ビジネス成長を牽引するプロフィットドライバーへとなるという強い意志が込められています。なぜライオンは Google Cloud を選んだのか。そして、データ基盤がもたらす未来とは。プロジェクトを推進するデジタル戦略部の皆様にお話を伺いました。

なぜ今、データ基盤の刷新だったのか? 「守りの IT」からの脱却

ライオン株式会社が、全社のデータを集約する次世代データ基盤の構築に踏み切った背景には、強い危機感がありました。デジタル戦略部の土谷氏は、当時を次のように語ります。

「市場のデジタル化が加速し、顧客ニーズが多様化する中で、データに基づいた迅速な意思決定の重要性が飛躍的に高まっていました。しかし、従来の我々のシステムは、市場の変化に追従できる仕組みになっていなかったのです。このままでは競争力の低下を招くという、大きなリスクを感じていました。」

その根源にあったのが、長年運用されてきた IT インフラの限界です。自社データセンターのインフラは老朽化し、その維持・運用に IT 予算の大半が費やされる、いわゆる「守りの IT」の状態でした。

さらに、業務に合わせて個別に構築してきたシステムは、組織内にデータを分散させ、サイロ化を生んでいました。「基幹システムからリアルタイムにデータが生成されても、それを全社で活用しきれていない」。この歯がゆい状況が、データに基づいた顧客理解やビジネスチャンスの創出を阻んでいたのです。

この状況を打破し、経営改革を牽引する「攻めの IT」を実現するため、ライオンは柔軟性と拡張性に優れたデータ基盤への刷新を決断しました。

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データ戦略の心臓部 "BigQuery" がもたらす「攻め」への変革

数あるクラウドベンダーの中から、ライオンがパートナーとして選んだのは Google Cloud でした。特に、SAP S/4 HANA(以下 SAP)のデータをクラウドで活用する上での安心材料となったのが、データ分析のテンプレートを提供する Google Cloud Cortex Framework でした。デジタル戦略部の福山氏は次のように語ります。

「選定当時、Cortex Framework の存在は大きな魅力でした。ここでは基幹システムのデータを分析するためのモデリングのテンプレートが提供されているため、そもそも我々が SAP のデータを効果的に分析するにはどうすればよいのか、理解を深めることができました。我々は SAP にカスタムテーブルを多く利用しているため、結果的に Cortex の採用は見送ることになりましたが、その設計思想や、モデリング手法は非常に参考になりました。Google Cloud が SAP を含めたエコシステムとの連携を重視していることが理解でき、技術的な安心感を得ることができました。」

そして、このデータ基盤のアーキテクチャにおいて、まさに心臓部と言える役割を担うのが BigQuery です。

福山氏は、BigQuery について、フルマネージドによる運用負荷の低減、高いコストパフォーマンス、そして将来のデータ増にも対応できるスケーラビリティを決定打として挙げています。

さらに、データパイプラインの構築においては Dataform がその真価を発揮しています。

「ELT 処理をシンプルに実装できるのが素晴らしいですね。特に、SQLX 形式でテーブル定義などのメタデータもコードで管理できるため、従来表計算ソフトなどで別管理していたドキュメント作成の手間が大幅に削減されました。テーブル間の依存関係が自動で可視化されるので、データリネージの把握も容易です。さらに、すべて Git でバージョン管理できるため、モダンな開発プロセスを実践できます。」と濱野氏は話します。

これらの技術的な優位性に加え、土谷氏は BigQuery がもたらす本質的な価値を強調します。

「BigQuery は、単なるデータ分析基盤ではありません。サーバレスアーキテクチャの恩恵により、将来的にペタバイト級のデータが集まっても問題なく対応できるスケーラビリティがあります。これは、オンプレミス中心だった従来では想像もできなかった世界です。この基盤があるからこそ、我々 IT 部門は『守り』から『攻め』の IT へと役割を変えることができるのです。BigQuery は、ライオンの今後のデータ戦略の中核をなす存在になるのです。」

DX エンジンが駆動する未来 ― 全社でデータを活用する組織へ

今回のプロジェクトは、単なる技術導入ではなく、組織変革への挑戦でもありました。その鍵となったのが「内製化」と、全社的なクラウド活用を推進する専門組織「CCoE (Cloud Center of Excellence)」の設立です。

土谷氏は、その狙いをこう語ります。

「当初、社内に Google Cloud の知見は豊富ではありませんでした。だからこそ、我々自身が変革する必要があったのです。CCoE を立ち上げ、今回のプロジェクトを通してパートナーと協業しながらノウハウを組織に蓄積することで、クラウドネイティブな開発体制への準備が整ったと考えています」

また、Google Cloud の学習しやすさも、この内製化を後押ししました。他社クラウド経験のある福井氏は、Google Cloud の構成がシンプルなことや、クラウド自体のコンセプトに他のクラウドサービスとも共通する部分も多いことから、既存の知識を活かしながらスムーズに学習を進められたと評価しています。

こうして組織と技術の土台を固めたライオンが次に見据えるのは、AI・機械学習の本格活用です。アーキテクチャには当初から Vertex AI が組み込まれており、高精度な需要予測などを構想しています。現場からは、福山氏が期待する Gemini in BigQuery による分析の民主化や、濱野氏が注目する Looker の Conversational Analytics による対話的な分析など、生成 AI を活用した未来の姿に大きな期待が寄せられています。

最後に、土谷氏は今回の取り組みをこう締めくくりました。

「この基盤は、ライオンの DX を推進するエンジンと位置付けています。会社全体をデータドリブンな組織に変えていけることに、大きな可能性を感じています。我々の挑戦は、まだ始まったばかりです。」

「守りの IT」から脱却し、未来を創造する「攻めの IT」へと舵を切ったライオン。Google Cloud と共に築いた新たなエンジンは、同社のパーパスである「より良い習慣づくり」をデータとテクノロジーの力で加速させ、人々の暮らしをより豊かにしていくための強力な推進力となるでしょう。

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インタビュイー(写真左から)
ライオン株式会社
・デジタル戦略部 福井氏、濱野氏、福山氏、土谷氏

ライオン株式会社
ライオン株式会社は、1891 年の創業以来、人々の健やかで快適な毎日をサポートする製品を提供しています。主な事業領域は、ハミガキ・ハブラシなどの「オーラルヘルスケア」、「ビューティケア・ファブリックケア・リビングケア」(ハンドソープ、衣料用洗剤、住居用洗剤など)、そして医薬品事業です。連結従業員数は約 7,500 名、国内およびアジアで事業を展開しており、皆様の暮らしに寄り添う製品をお届けしています。

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