電通デジタル: 生成 AI を活用した次世代マーケティング支援ツール「∞AI」に Vertex AI を採用

Google Cloud Japan Team
AI をはじめとする最新テクノロジーやデータを組み合わせることで生み出される創造力と先進技術を 1 つにした他にないソリューションでクライアント企業のトランスフォーメーションを支援する株式会社電通デジタル(以下、電通デジタル)。AI 活用の取り組みの一環として提供する新たな AI サービスブランド「∞AI(ムゲンエーアイ)」により、企業の次世代マーケティング活動を統合的に支援しています。この ∞AI の開発プラットフォームとして Vertex AI など、Google Cloud のプロダクトを採用。∞AI 開発プロジェクトについて、データ& AI 部門のお 2 人にお話を伺いました。
利用しているソリューション:
Generative AI
他のプロジェクトで実績がある Vertex AI と日本語性能の高い PaLM 2 を採用
デジタル広告の会社というイメージが強い電通デジタルですが、デジタル広告以外にもメディアやクリエイティブなどにより既存のビジネスを成長させる「成長伴走」、およびコンサルティングや SI、DX 支援によりまったく新しいビジネス価値を創出する「変革支援」という大きく 2 つの領域で事業を展開しています。さらに現在、デジタル広告と生活者の情報をシームレスにつなぐことで新たな価値を生み出す取り組みも推進。2 つの領域をつなぐ仕組みの 1 つとして開発されたのが ∞AI です。
∞AI は、商品やサービスを知ってもらうための「∞AI Ads(ムゲンエーアイ アズ)」、商品やサービスを正しく理解するための「∞AI Chat(ムゲンエーアイ チャット)」、ロイヤリティを醸成するための「∞AI Contents(ムゲンエーアイ コンテンツ)」、顧客インサイトを導出し、効果的な営業活動の推進を支援する「∞AI Chat for Sales(ムゲンエーアイ チャット フォー セールス)」の 4 つのソリューションで構成されています。また、4 つのソリューションや外部のシステム、データなどを連携するための基盤として「∞AI Marketing Hub(ムゲンエーアイ マーケティング ハブ)」も提供しています。




電通デジタル 執行役員 データ & AI 部門 部門長の山本 覚氏(以下、山本氏)は、「2023 年 10 月にリリースされた ∞AI Ads は、すでに 100 社以上で採用され、効果を上げていることから利用社数が月に 10〜20 社ほど増えています。∞AI Chat も、国内最大級のポータルサイト運営企業に導入され、サービスの販売から、その後のアフターフォローまでをチャットでサポートすることで、他社からの問い合わせが増加しています。同時に AI のハブとなる ∞AI Marketing Hub も展開。∞AI Contents に関しては、まだ実験レベルのため今後の本格展開を計画しています」と話します。
∞AI の開発に Google Cloud を採用した理由について山本氏は、「最新版の生成 AI で約 3 か月かけて検証を行ったのですが、求めている精度を実現できないことや開発環境が使いにくいなどの問題がありました。そこで他のプロジェクトでも利用して実績があった Vertex AI でシステム実装をすることに決定。また、日本語の性能が高く、チューニングの機能が提供されている PaLM2 にも魅力を感じたため利用することにしました。PoC(概念実証)を実施したところ、我々の求める性能が得られたため、採用を決めました。最新情報やプレビュー機能の提供など、Google Cloud の担当者の手厚いサポートも採用の決め手になりました」と話しています。
Vertex AI の利用で 2 年以上かかる AI 開発プロジェクトを半年で実現
Google Cloud を採用した ∞AI は、2023 年 7 月より開発に着手し、PoC を繰り返して、約半年で本番環境をリリースしています。システム構成に関して ∞AI Ads のプロジェクトでは、Vertex AI の PaLM2 で構築された機能はもちろん、システム全体が Google Cloud 上に構築されています。一方、∞AI Chat は、社内のセキュリティ ポリシーの関係から他社のクラウド サービス上に構築され、生成 AI の部分に関しては Google Cloud 上に構築された生成 AI の機能に連携する仕組みになっています。




Vertex AI のメリットをデータ & AI 部門エグゼクティブ ディレクターのアグチバヤル アマルサナー 氏(以下、アマル氏)は、次のように話します。「PoC で構築した仕組みを、そのまま本番環境に移行できるのがメリットです。Vertex AI を使わずに開発していたら 2 年以上はかかるプロジェクトが、約半年という短期間でリリースできました。またエンタープライズ環境における安定感や、特にファイン チューニングによるパフォーマンス改善など、Google Cloud のサポートの充実が短期開発、安定稼働という目標達成に大きく寄与しました。」
一方、PaLM 2 のメリットを、「リリース当時の PaLM 2 は入力トークン数の上限が少なかったのですが、継続的に機能改善がなされているため、今では我々が求めるトークン数が入力できるようになりました。さらに PaLM 2 ではチューニングの機能が提供されており、チューニングによってお客様の個別課題にも対応できるようになりました。その結果、生成 AI の領域において、当社は業界をリードできていると自負しています」とアマル氏は語ります。
マルチモーダル対応の生成 AI 実現に向け Google Cloud の Gemini に期待
電通デジタルの AI 開発チームでは、今後制作する動画広告が 400 倍程度になるという予測から、どのような動画広告を制作すれば最大の効果を発揮できるのかを把握するための業務の効率化と、パフォーマンスの担保を目指しています。そこで ∞AI Ads で、Gemini などの先進技術を利用する計画をしています。
山本氏は、「AI の専門知識を持たない非エンジニアでも手軽に生成 AI を活用し始められる Vertex AI は快適で、また Gemini など最先端の技術を容易に利用できることも Google Cloud のメリットです。特に Gemini には期待しており、Google ならではの技術で動画認識の精度を向上できるのではないかと思っています」と話します。
∞AI Chat に関しては、Google Cloud のサポートも得ながら、より一層安定した正確な会話ができるように改善し、∞AI Contents では、バーチャル ヒューマンを実現するプロジェクトにおいても Google Cloud と協業していく計画です。今後の技術面での取り組みについてアマル氏は、こう述べます。
「現状ではテキストベース、画像ベースの生成 AI を別々に実装していますが、今後はマルチモーダル対応の生成 AI を実現したいと思っています。特に動画系のサービスに注目しており、Google Cloud の優れた技術に興味があります。こうした先端技術の情報提供やアーリー アクセス、および技術サポートなどを今後の Google Cloud に期待しています。」
一方、今後のビジネス面については、「基本的には、 ∞AI が今後の AI ビジネスの方向性そのものですが、社会課題への取り組みも含めて検討していきたいと考えています。そこで重要になるのが ∞AI Marketing Hub です。∞AI Marketing Hub を利用することで、クライアント企業の非エンジニアが AI のサポートによって活躍する環境を作ることができ、リスキリングにもつながります。Google Cloud には、課題解決のための具体的なサポートを期待するとともに、実現した成功事例を一緒にどんどん世の中に広めていきたいと思っています。」(山本氏)


株式会社電通デジタル
2016 年 7 月に設立した電通グループにおける総合デジタルファーム。「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」というパーパスに基づき、生活者に寄り添うクリエイティビティと高度なテクノロジーを軸に、トランスフォーメーション、テクノロジー、クリエイティブ、コミュニケーションという 4 つサービスを統合的に提供することで、クライアント企業の成長を支援。いまだ見ぬ価値、新しい景色を創り出すことを目指しています。
インタビュイー(写真左から)
・執行役員 データ & AI 部門 部門長 山本 覚 氏
・データ & AI 部門 エグゼクティブディレクター アグチバヤル アマルサナー 氏
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