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顧客事例

AI が自らモデルを進化させる時代へ。カインズが AlphaEvolve で需要予測の誤差を 19% 改善

2026年10月30日
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Google Cloud Japan Team

全国に 281 店舗以上のホームセンターを展開し、独自のプライベート ブランド(PB)商品の開発やデジタル戦略に注力する株式会社カインズ(以下、カインズ)。同社では、膨大な商品の発注・在庫管理を最適化するため、Google Cloud を基盤とした需要予測プロジェクトを推進しています。本記事では、アルゴリズムを自律的に進化させる AlphaEvolve(プレビュー版)を導入し、3 年間のチューニングの壁を突破して需要予測の誤差を 19% 改善した取り組みについて、同社の矢口氏と神戸氏にお話を伺いました。

利用しているサービス:
BigQuery、AlphaEvolve

全店舗・最大 3,000 万行におよぶ需要予測の歩みと、属人化からの脱却

カインズにおける需要予測プロジェクトは 2021 年 11 月に発足し、約半年間のプロトタイプ検証を経て、2022 年 6 月にミニマムでの本番運用をスタートしました。その後、段階的に対象を拡大し、2024 年 9 月には約 200 店舗、2025 年 10 月には全店舗へと展開を完了しています。

現在、同社では大きく分けて「長期予測」と「短期予測」の 2 つの軸で需要予測モデルを実行しています。

  • 長期予測(PB 商品の海外生産向け):カインズが注力する PB 商品は海外で生産されるケースが多く、長いリードタイムが求められます。そのため、食品から雑貨まで全カテゴリーにわたる約 1 万 SKU を対象に、単品別で 39 週先の需要予測を行っています。
  • 短期予測(店舗の自動発注・在庫管理向け):店舗の在庫が一定水準を下回った際に自動で発注を行う「自動発注点管理」に用いられます。店舗の限られた在庫スペースを最適にコントロールするため、店舗別・単品別(SKU 別)に 6 週先の細かい予測を実施しています。通常時で約 190 万 SKU、繁忙期には最大 500 万 SKU(× 6 週間分で約 3,000 万行)という膨大な規模の予測を処理しています。

この仕組みを導入する以前、長期予測においては各ディストリビューターの経験や個人のオペレーション マニュアルに依存しており、担当者のスキルによって発注精度にばらつきが生じることが課題でした。また、短期予測においても、従来は表計算ソフトで前年や直近の実績をもとに発注点を管理していましたが、直近実績だけでは季節性商品の立ち上がりを捉えきれず、欠品が発生するなどの課題を抱えていました。

Google Cloud の Vertex AI Forecasting を用いた需要予測モデルの導入により、新任の担当者であっても一定の精度を担保した発注が可能になり、店舗における欠品削減など着実な成果を上げてきました。

3 年間の試行錯誤で見えてきた、人間による特徴量設計とモデル改善の限界

全店展開によって一定の成果を上げていたカインズですが、運用を続ける中でさらなる精度向上に向けた「壁」に直面していました。当時の課題について、矢口氏は次のように振り返ります。

「一番の課題は、モデルの改善における試行錯誤の限界でした。私たちは週に 1 回、業務ユーザーと打ち合わせを行い、『ピークにもっと追従してほしい』『特定のイベントによる特需の影響は来年の予測から除外してほしい』といったドメイン知識や要望をヒアリングし、特徴量の出し入れやハイパーパラメーターの調整を行っていました。しかし、人間が自分で考えて調整し、検証を回すやり方では、試せる回数にも限界があり、本当にこのモデルが最適なのかを追求しきれないという実情がありました。」(矢口氏)

また、新商品が投入された際に既存商品の売上が分散する「カニバリゼーション(社内競合)」の予測も難題の一つでした。月 1 回のモデル再学習を行っていたものの、新商品の売れ行きトレンドが実績として現れるまでにはタイムラグが生じるため事前の予測が難しく、実績が出始めた後のトレンド変化やカテゴリー内の需要分散を素早く捉えるための特徴量設計も複雑を極めていました。3 年間にわたり PDCA を回し続けた結果、人間の手作業によるチューニングではこれ以上の改善は難しいという手詰まり感が生まれていたのです。

自律的にアルゴリズムを進化させる「AlphaEvolve」との出会い

この状況を打破するきっかけとなったのが、2026 年 4 月頃に矢口氏が目にした Google のブログ記事で紹介されていた「AlphaEvolve」でした。AlphaEvolve は、AI が自律的にアルゴリズムの最適化やモデルの進化を行うエージェント技術です。一般的なコーディング支援 AI との違いについて、矢口氏は次のように語ります。

「一般的な LLM やコーディング エージェントでも、対話を通じて『こういう特徴量やパラメーターが良いのではないか』という提案やサポートはしてくれます。しかし、それを実際に実行して結果を確認し、ダメなら次の手を考えるというプロセス自体は、結局人間がワンショットで 1 回ずつ回さなければなりません。これでは既存の作業が多少早くなるだけで、本質的な改善にはなりませんでした。私たちが求めていたのは、実行結果を踏まえて AI 自身が自己学習的に新しいパラメーターや特徴量を何百、何千と自動で試し、テストと検証を繰り返して最適解を導き出してくれる仕組みでした。AlphaEvolve を見たとき、『これならモデルの改善を自動でやってくれるのではないか』と強い可能性を感じました。」(矢口氏)

「需要予測の精度を高める」という明確な評価指標を持っていたカインズにとって、目標に向かって自律的にアルゴリズムを進化させる AlphaEvolve はまさに理想的なソリューションでした。さらに、実業務へ導入する上では、Antigravity などのコーディング エージェントと AlphaEvolve を組み合わせることで大きな相乗効果が得られたと矢口氏は続けます。

「AlphaEvolve は自律的にモデルを進化させてくれますが、その土台となる初期プログラムの作成や、データリークを防ぎつつ精度を正しく測る評価ロジックの設計、さらには生成されたモデルの本番パイプラインへの組み込みなどを AlphaEvolve 単体で行うのは正直なところ簡単ではありません。そうした周辺の実装や検証環境の構築をコーディング エージェントにサポートしてもらい、コアとなる何百・何千回のアルゴリズム探索を AlphaEvolve に任せるという組み合わせが非常に相性が良く、実践におけるハードルを大きく下げてくれました。」(矢口氏)

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予測誤差を 19% 削減し、複数モデルの統合による運用効率化とコスト削減を実現

カインズは AlphaEvolve を長期予測モデルの本番環境に導入し、劇的な成果を上げています。長期予測モデルの改善を担当する神戸氏は、その定量的なインパクトについて次のように語ります。

「私がジョインしてから約 3 年間、長期モデルの改善を段階的に行ってきましたが、手詰まり感があった中で AlphaEvolve を使ったアルゴリズム改善に取り組んだ結果、予測の誤差を一気に 19% 改善することができました。3 年間かけて人間がチューニングしてきたものから、さらに 19% 跳ね上がったというのは非常に大きな成果です」(神戸氏)

さらに、AlphaEvolve の導入は精度向上だけでなく、システム運用の効率化とコスト面でも大きなメリットをもたらしました。

  • 複数モデルの統合による汎用性の向上:従来は販売数量などの条件に応じて複数のモデルに分割して予測を行っていましたが、AlphaEvolve によって生成されたアルゴリズムは極めて汎用性が高く、すべてを「1 つのモデル」に統合した上で 19% の誤差改善を達成しました。

  • 運用負荷とコストの削減:これまで Vertex AI Forecasting で複数のモデルを稼働させていた環境を、AlphaEvolve による単一の高精度モデルへと置き換えたことで、管理・運用の手間が大幅に軽減されるとともに、ランニング コストの削減も実現しました。

今後の展望:人が特徴量を考える時代から、AI が自らモデルを進化させる時代へ

新しい長期予測モデルが本番稼働を開始して約 4〜5 週間が経過し、現在は 13 週〜39 週先のリードタイムに向けた予測が進行しています。また、AI がカテゴリー内の需要変化を捉える特徴量を自律的に探索できるようになったことで、従来は人手での対応に限界があったカニバリゼーションに伴う需要変動に対しても、今後さらに改善していける可能性が見えてきています。今後は、予測精度が向上したカテゴリーにおいて、実際の店舗やサプライチェーンでの欠品削減や在庫水準の最適化にどれだけの経営インパクトが表れるか、効果測定を楽しみにしていると語ります。

最後に、今回の実績を踏まえ、これから需要予測や機械学習のビジネス活用を目指す企業へのメッセージとして、矢口氏は次のように締めくくりました。

「これまでもノーコードやローコードのツールを使えば、機械学習モデルを『作ること』自体はできました。しかし、実務で使えるレベルまでモデルの精度を高めるには、経験豊富な AI/ML エンジニアが試行錯誤して特徴量を考えたりチューニングしたりする必要があり、十分な精度が出せないことが壁となってビジネスへの機械学習の適用はなかなか進みませんでした。しかし、AlphaEvolve に目標を与えれば、パラメーターの調整だけでなくドメイン特有の特徴量まで AI が自ら生成し、モデルを進化させてくれます。専門の AI/ML エンジニアがいなくてもモデルの精度を高めることができるため、需要予測に限らず、ビジネスにおける機械学習の適用可能性が飛躍的に高まっていくと考えています。」(矢口氏)


 

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株式会社カインズ
株式会社カインズは、全国に 289 店舗を展開するホームセンター チェーンです。「くらし DIY 」をブランド コンセプトに、くらしを豊かにする価値ある商品・サービスを開発し、お値打ち価格で毎日提供します。Kindness(親切心)と創意工夫のアイデアあふれる店舗づくりに努めることで、お客様一人ひとりの、ご家族の、そして地域の日常を楽しいものとし、お客様とのプロミスである「くらしに、ららら。」をお届けします。

インタビュイー
株式会社カインズ 
ビジネスソリューション部 需要予測グループ グループマネジャー 矢口 未知彦 氏
ビジネスソリューション部 需要予測グループ データサイエンティスト 神戸 佑太 氏

インタビュアー
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
シニア アカウント エグゼクティブ 西森 万晃
カスタマー エンジニア 遠山 雄二

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