生成 AI とクラウドゲームでマルチプレーヤー ゲームを強化: 技術解説

Max Gong
Senior Software Engineer
Alex Bulankou
Senior Engineering Manager
※この投稿は米国時間 2025 年 3 月 18 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
生成 AI は、ゲーム業界に革命をもたらそうとしています。パーソナライズされた NPC、動的なストーリー生成、カスタマイズされた環境の提供を可能にし、多くのゲームではすでにそれらを実現していることで、プレーヤー エクスペリエンスを再構築しています。これは、「生きたゲーム」として知られるようになったコンセプトです。
最近発表された、Google DeepMind による Genie 2: 大規模な基盤世界モデルは、この可能性を示す好例です。Kubernetes、Agones、Open Match を基盤とし、生成 AI と統合された生きたクラウドゲームは、パフォーマンスやゲームの楽しさを犠牲にすることなく、こうした進歩を幅広いゲーム プレーヤーに提供できます。
このブログ投稿では、Google の Gemini やオープンモデル(Gemma など)といった最先端の生成 AI モデルを、Google Kubernetes Engine(GKE)と Agones を活用したスケーラブルなマルチプレーヤー ゲームサーバーに統合する方法について説明します。また、生成 AI でサンプルゲームを強化する方法も紹介します。これにより、デベロッパーはスケーラビリティと信頼性を維持しながら、ゲーム プレーヤーへのインタラクティブなガイダンス、リアルタイム チャット機能、ゲーム プレーヤーの進捗状況のパーソナライズされた要約など、AI を活用した機能でゲームを充実させることができます。
Agones によるクラウドゲーム: スケーラブルなマルチプレーヤー ゲーム体験の基盤
Agones は、デベロッパーが多数の専用ゲームサーバーを効率的に管理できるようにする、Kubernetes ベースのオープンソース ゲームサーバー ホスティング ソリューションです。あらゆる Kubernetes Deployment で動作しますが、GKE 上で実行することで Google Cloud のお客様は公式サポートを受けることができます。
Agones は、Open Match とも統合されています。Open Match は、スキルレベルや場所などのプレーヤーの条件に基づいてマルチプレーヤー対戦を簡単に作成できる、オープンソースのマッチメイキング フレームワークです。
Agones と Open Match の組み合わせは、スケーラブルなクラウドゲームの強力な基盤となります。
クラウドゲームにおける生成 AI の可能性
生成 AI をリアルタイムで活用することで、従来のライブサービスを超越した生きたゲームの実現が可能になり、デベロッパーが継続的に関与しなくても、ゲーム プレーヤーはダイナミックで魅力的な体験をすることができます。生きたゲームは、動的なストーリー展開、NPC とのレスポンシブなインタラクション、パーソナライズされたゲーム内コンテンツなどの特徴によって、プレーヤーとゲームの世界との深いつながりを育み、プレイのたびにユニークな体験を提供できます。
生成 AI を使用した言語学習ゲームの開発: 技術チュートリアル
Agones と生成 AI とのインテグレーションの簡単な例を紹介するために、Lexitrail という言語学習ゲームを作成しました。Lexitrail は、インタラクティブな方法で漢字を覚えられるだけでなく、マルチプレーヤー モードで他のプレーヤーと競い合うこともできます。


Lexitrail では、React フロントエンド、Python Flask バックエンド、MySQL データベースを使用しています。これらはすべて、Google Kubernetes Engine(GKE) のクラスタ内にデプロイされています。ゲーム セッション管理レイヤが重要なコンポーネントとなり、ゲーム セッションをシームレスに処理するために Agones ゲームサーバーとしてデプロイされます。
Lexitrail では、Gemini モデルと Imagen モデルの力を活用しています。これらのモデルは、プレーヤーが単語を記憶したり想起したりするのを助ける、巧妙かつ曖昧なヒント画像を生成します。また、ゲームをさらにパーソナライズするために、LLM プロンプトに加えて、プレーヤー固有のコンテキストを追加します。
Lexitrail アーキテクチャの概要
次の図は、Lexitrail システムの基盤となる基本的なアーキテクチャとコンポーネントを示しています。


このアーキテクチャは、ゲームの楽しさを向上させる次の主要機能を提供できるように設計されています。
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シームレスなゲーム セッション: ゲーム セッションの管理に Agones を利用することで、シングル プレーヤー モードとマルチプレーヤー モードのどちらでも迅速に状態を切り替えることでき、プレイが中断されなくなります。
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生成 AI のインテグレーション: 生成 AI インテグレーション レイヤの適応性により、デベロッパーは、クローズド モデル(Gemini、Imagen など)とオープンモデル(Llama、Stable Diffusion、Gemma など)の両方に対応するエンドポイントを作成できます。これらのエンドポイントをゲーム アプリケーションの他のコンポーネントと統合することで、個々のゲームの要件に合わせて特別に調整された、詳細で示唆に富んだヒント画像を作成できます。
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スキルベースのマッチメイキング: マルチプレーヤー環境では、Open Match がプレーヤーのスキルレベルに基づいて対戦相手を決定し、バランス良く楽しくプレイできる対戦ペアを作成します。
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スケーラビリティと信頼性: このアーキテクチャの基盤は GKE であり、ゲームサーバーの管理と自動スケーリングに必要な Kubernetes インフラストラクチャを提供します。GKE で Agones と Open Match を実行することで、小規模な学習グループから大規模なトーナメントまで、世界中のプレーヤーに簡単に対応できます。
スムーズでスケーラブルなマルチプレーヤー ゲーム体験を実現するために設計された、Lexitrail ゲーム アプリケーションのアーキテクチャを詳しく見ていきましょう。
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Lexitrail フロントエンド: プレーヤーに最初に表示されるインターフェースであり、Google ログインによる認証を管理します。ユーザー インターフェース コンポーネントと、そのインタラクションを管理するビジネス ロジックの両方が、フロントエンド内で管理されます。さまざまなゲームモードが用意されており、プレーヤーはソロモードで練習したり、マルチプレーヤー モードで他のプレーヤーと対戦したりできます。また、異なる HSK(漢語水平考試)レベルに基づく単語セットをゲームモードごとに選択することもできます。プレーヤーがマルチプレーヤー モードを選択すると、ゲームのフロントエンドによってマッチメイキング プロセスがトリガーされます。このプロセスでは、Open Match コンポーネントにマッチメイキング リクエストが送信されます。
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Open Match: Lexitrail では、マッチメイキング システム用の GKE サービスとしてデプロイされる Open Match を使用しています。現在の設定は単純で、同じ単語セットを選択したプレーヤーがペアになります。ただし、Open Match の柔軟性により、デベロッパーはゲーム固有の要件に合わせて、より複雑なマッチメイキング アルゴリズムを実装できます。対戦が決定すると、Open Match はゲームサーバーのオーケストレーション システムと連携して、その対戦専用のゲームサーバーを指定します。ゲームの状態がメモリ内シミュレーションであることから、各クライアントが直接接続する必要のあるアドレスとポートはマッチメーカーにより(フロントエンドを介して)ゲーム クライアントに返され、その後、Lexitrail がプレイされます。
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ゲームサーバー: Lexitrail では、ペアになったプレーヤーのゲーム セッションをゲームサーバーが管理します。ゲームプレイのロジックを監視し、中間的な単語想起の結果を追跡し、最終的なスコアボードを維持します。さらに、ゲームサーバーはバッファレイヤとして機能することでパフォーマンスを向上させます。データベースの更新といった時間のかかるタスクをバッチ処理し、非同期的にバックエンドにフラッシュすることで、これらのオペレーションがフロントエンドの応答性に悪影響を及ぼさないようにします。
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Agones: Lexitrail ではゲームサーバーのオーケストレーションに Agones を使用しており、そのアロケータ サービスを活用して、マッチごとに専用のゲームサーバーを割り当てるマッチメーカーのリクエストを容易にしています。Agones は、これらのゲームサーバーの可用性を確保し、ゲームプレイ中にプレーヤー操作が中断されないように管理しています。さらに、Lexitrail では Agones のフリート オートスケーラーを利用して、需要に応じてゲームサーバーの数を動的に調整します。
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ゲーム バックエンド: GKE サービスとしてデプロイされた Lexitrail のゲーム バックエンドは、API インターフェースとデータベースの操作に関するビジネス ロジックを管理します。フロントエンドとゲームサーバーの両方からのリクエストを処理し、単語セット、単語、想起履歴などのプレーヤー データを取得し、更新します。さらに、バックエンドは生成 AI エンドポイントと統合され、プレーヤーが単語を記憶したり想起したりするのを助けるヒントのテキストや画像を生成します。
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データベース: Lexitrail のバックエンド データベースは MySQL を基盤とし、GKE 環境内にデプロイされます。このデータベースには、ユーザー プロファイル、単語セット、個々の単語のエントリ、プレーヤーの想起履歴など、ゲームに不可欠なすべてのデータが格納されます。データベース スキーマはこちらで確認できます。
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生成 AI のインテグレーション: ゲームのユーザー インターフェースには、ゲームプレイ中に記憶すべき単語が表示され、想起を助ける視覚的なヒントも示されます。これらのヒント画像は、GKE 環境内にデプロイされた生成 AI エンドポイントと統合することで生成されます。ゲームのバックエンドは、画像生成モデルのエンドポイントにクエリを送信して、各単語のヒント画像を作成します。Kubernetes ベースの柔軟なアーキテクチャは、デベロッパーが基盤となるさまざまな LLM を簡単に選択して画像生成に利用することを可能にしています。
次のステップ
ゲームにおける生成 AI の可能性は計り知れず、ツールもかつてないほど利用しやすくなっています。まずは、こちらのリポジトリをご参照ください。
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生成 AI の統合を試す: Agones と GKE を使用して、生成 AI モデルを独自のアプリケーションに統合してみましょう。
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Vertex AI と GKE のモデルを活用する: Vertex AI または GKE のオープンモデルのインテグレーションを試して比較してみましょう。AI がゲーム体験をどのように変革するかを確認できます。
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コミュニティに参加する: Agones、Open Match、広範な GKE AI プロジェクトのデベロッパー コミュニティに参加して、インサイトを共有し、他社から学び、AI を活用したゲームの未来をともに築きましょう。
スケーラブルな AI 駆動型の機能を取り入れ、ゲーム テクノロジーの最先端を走り続けましょう。こうした機能は、プレーヤーに新たなレベルのパーソナライズとエンゲージメントをもたらし、生きたゲームを現実のものにします。
Kubernetes と GKE に Agones と Open Match を組み合わせれば、最先端のコンポーネントを活用するクラウドゲーム向けに、スケーラブルで運用実績のあるエンタープライズ グレードのソリューションを提供できます。スケーラブルかつ AI を活用したゲームの取り組みは始まったばかりです。皆様が構築されるソリューションを楽しみにしております。
-シニア ソフトウェア エンジニア Max Gong
-シニア エンジニアリング マネージャー Alex Bulankou