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データベース

Ford Pro、Bigtable を使用してコネクテッド カーのテレメトリー データを有効活用

2025年1月20日
Gavarraju Nanduri

Head of Data Engineering, Ford

Anton Gething

Senior Product Manager

※この投稿は米国時間 2024 年 12 月 13  日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

Ford Pro Intelligence は、法人のお客様のフリート運用の管理とサポートに使用するクラウドベースのプラットフォームです。Ford の法人のお客様は、小規模企業から、United Postal Service Pepsi のような数千台規模のフリートを保有する大企業、ダラス市などの自治体や政府団体まで多岐にわたります。Ford Pro Intelligence プラットフォームは、フリートからコネクテッド カーのデータを収集し、車両の状態やメンテナンスに関するアラートを発信することで、フリート オペレーターの業務の合理化、生産性の向上、所有コストの削減、フリートのパフォーマンス向上と全体的な稼働率の改善を実現します。

車両からのテレメトリー データはさまざまな機会をもたらすと同時に、自動車やサービスの進化に伴う将来計画の策定という課題も生じさせます。当社は、新しいタイプの自動車センサー、より高度な車両、拡張データソース(ドライバー情報、地域の天候、道路状況、マップなど)の連携の拡充など、自動車のイノベーションが新たに登場するなかでも、車両データの量、多様性、速度に対応できるプラットフォームを必要としていました。

今回のブログ記事では、当社のプラットフォームを構築するうえでの技術的要件と意思決定プロセスをご説明するとともに、高スループットかつ低レイテンシの大規模なアプリケーションに適した Google Cloud の柔軟な NoSQL データベースである、Bigtable を使用することで、車両の状態に関するリアルタイム通知、AI を活用した予測メンテナンス、詳細なフリート モニタリング ダッシュボードといったお客様向けの優れた機能を実現した方法をご紹介します。

問題の特定

当社は、コネクテッド カーのデータに基づいて、プラットフォームの目標を設定しようと考えました。主な目標の一つは、フリート管理者にリアルタイムの情報を提供することです。たとえば、タイヤの空気圧低下、ブレーキのメンテナンスが必要な車両、エアバッグの作動などについて、すぐにフリート パートナーに通知して対応できるようにしたいと考えています。

コネクテッド カーのデータは、非常に複雑で頻繁に変化します。Ford Pro は車両テレメトリー プラットフォームの構築を開始するにあたり、当社固有の課題に対応できるデータベースが必要だと考えました。主な検討事項は以下のとおりです。

  • 多様かつ成長する車両エコシステム: 当社は、数十の自動車およびトラックモデルのテレメトリー データを処理しており、さまざまな要件に対応するために毎年新しいセンサーが追加されます。さらに、Ford 以外の車種にも対応しています。

  • 接続性は保証されない: 「コネクテッド」カーは常に接続されているわけではありません。サービスが不安定な場合や、トンネルを通過しただけでも車両はオフラインになります。そのため、当社のプラットフォームは、時系列データ ストリームの予測不可能性や重複に対応する必要があります。

  • 車両は常に進化している: メーカーは頻繁に無線アップデートを配信し、車両の動作や生成するテレメトリー データを変更します。つまり、データは非常に動的であるため、当社のデータベースは柔軟で進化し続けるスキーマに対応する必要があります。

  • セキュリティは最重要課題: Ford は、お客様のデータ プライバシーとセキュリティに真摯に取り組んでいます。それは、当社のテクノロジーに不可欠なことです。世界中のお客様にサービスを提供しているため、当社が事業を展開するすべての国において、GDPR などの規制コンプライアンスを維持しながら、プライバシーおよびセキュリティ対策を簡単に取り入れられるようにする必要があります。

上述の課題やアプリケーション機能の要件から、リアルタイム データと履歴データの両方に低レイテンシでアクセスできる柔軟なスキーマを備えた運用データストアが必要だと判断しました。

当社の出発点

Ford Pro Intelligence プラットフォームは、お客様の多様なニーズに応える多様な機能とサービスを提供しています。データアクセスの柔軟性を確保するため、車両の状態に関するリアルタイム レポート、イベントベースの通知、位置情報サービス、過去の移動経路の再構築を優先事項としています。これらの機能を実現するには、リアルタイム データと履歴データの両方に対応するさまざまなデータアクセス方法が必要です。それと同時に、Ford のお客様のニーズを満たすため、低レイテンシと高スループットを維持する必要もあります。

当社の出発点となったのは、貴重な履歴データを含む Apache Druid ベースのデータ ウェアハウスでした。Apache Druid は高スループットの書き込みトラフィックを処理してレポートを生成できますが、低レイテンシの API 要件や大量のデータには対応できませんでした。そこで、当社は Google Cloud と協力して選択肢の検討を開始しました。

最初に検討したのは BigQuery でした。すでに BigQuery をレポート作成に使用していたため、当社の既存のソリューションを基に、サーバーレスのマネージド サービスを構築できないかと考えました。BigQuery では想定どおりのクエリを実行できたものの、API チームからレイテンシとスケーリングに関する懸念が寄せられました。当社では、高スループットで 1 桁ミリ秒のレイテンシが求められます。そこで、BigQuery の前にキャッシュ レイヤを配置して、最新データの提供を高速化することを検討しました。しかし程なく、当社がお客様に提供するリクエストの量や多様性に合わせてスケールできないことが判明しました。

その後、Memorystore PostgreSQL など、他の複数の選択肢も検討しました。これらの各ソリューションには一定のメリットがあるものの、複数の重要な分野において当社の特定の要件を満たしていませんでした。当社は、データのリアルタイム処理とシームレスなユーザー エクスペリエンスを確保するために、低レイテンシのパフォーマンスを優先していました。また、スキーマ設計においては、進化するデータ構造とワイドカラムの要件に対応する柔軟性も必須でした。時間とともにデータ量とトラフィックの大幅な増加が見込まれたため、スケーラビリティも不可欠な要素でした。

Bigtable を検討してみると、スケーラブルなスループットと低レイテンシというコア機能は有力な候補となりました。NoSQL は柔軟なスキーマを作成するうえで理想的であり、Bigtable は空の値を格納しないため、疎データとコスト最適化に適しています。時系列データも Bigtable 設計に固有のものであり、書き込まれたデータはすべてタイムスタンプでバージョン管理されるため、当然ながら車両テレメトリー データを使用するユースケースに最適です。また、Bigtable は運用データストアと分析データソースという当社のニーズも満たすため、この両方の大規模なワークロードを単一のプラットフォームで処理できます。さらに、Bigtable のデータ ライフサイクル管理機能は、特に車両テレメトリー データの時間指向の性質に対応するように設計されています。自動化されたガベージ コレクション ポリシーは、時間とバージョンを条件として古くなったデータを効率的に削除するため、ストレージ費用の管理と運用上のオーバーヘッド削減を実現できます。

最終的に、当社は迷うことなく、Bigtable を車両テレメトリー データの中央リポジトリとして使用することに決めました。

Ford Pro Telematics Bigtable

まず、Compute Engine 上でホストされるパススルー サービスへのプロトコル バッファとして車両テレメトリー データを受信します。次に、そのデータを Pub/Sub push し、Bigtable への書き込みを行うストリーミング Dataflow ジョブによって Google 規模で処理します。Ford Pro のお客様は、当社のダッシュボードまたは API を通じてデータにアクセスし、過去に構築した移動経路などを見返すことも、現在のフリートの状態、位置、アクティビティをリアルタイムで確認することもできます。

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図 1: 車両テレメトリー データの取得方法を示すアーキテクチャの概要

Ford Pro Telematics Bigtable を活用することで、以下をはじめとする数多くのメリットをお客様に提供できました。

  • テレマティクス データにアクセスするための API サービスの実現

  • Bigtable の組み込みの時系列データ管理機能によるデータ品質の向上

  • フルマネージド サービスによる運用上のオーバーヘッド削減

  • 複数のリージョンにわたる堅牢なデータ規制コンプライアンス ツールの提供

このプラットフォームでは、リアルタイムの車両位置、移動経路の履歴、詳細な移動経路情報、ライブマップ追跡、EV 充電状況などの関連情報を表示できるインタラクティブなダッシュボードが提供されます。また、車両の状態や、事故、遅延、EV 充電障害などの重要なイベントに関するリアルタイム通知をお客様が設定することもできます。たとえば、フリート管理者はダッシュボードを使用して車両の位置を追跡し、事故が発生した場合に支援を派遣できます。

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図 2: フリートの状態と位置を表示するリアルタイム ダッシュボード

レポート生成には、Bigtable BigQuery を活用しています。BigQuery は長期にわたるレポートと分析に使用し、Bigtable はリアルタイムのレポートや車両テレメトリーへの直接アクセスに使用します。フリート管理者は、車両の燃料消費量、ドライバーの精算レポート、毎月の移動経路のまとめなどの定期レポートを確認できます。また、お客様は当社の API を使用することで、このデータを活用して自社のツールに統合できます。これにより、車両の状態をクエリできるほか、最大 1 年分の履歴データにアクセスできます。

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図 3: 車両テレメトリー分析

今後の展望

自動車業界は常に進化しており、コネクテッド カーの出現により、Ford の法人向けのカスタマー エクスペリエンスを向上させる機会はかつてないほど増えています。Bigtable などのフルマネージド サービスを導入することで、自社のインフラストラクチャのメンテナンスに費やす時間を削減し、プラットフォームのイノベーションや新機能の追加に取り組む時間を増やすことができました。このイノベーションを最前線で活用できることを嬉しく思うとともに、当社のプラットフォームを使用してさまざまな方法でお客様を支援できると考えています。

特に期待しているのは、ML を使用して車両のメンテナンス時期を予測し、修理スケジュールを作成することです。車両診断に関する時系列データを収集することで、この情報を ML モデルにフィードして、パターンや傾向を特定できます。これにより、潜在的な問題が発生する前にお客様に警告し、都合の良い時間に修理の予約を入れることができます。

また、効率性の改善の面でもお客様を支援できます。充電パターン、EV の航続距離、燃料消費量に関する分析情報を提供することで、フリート管理者の業務を最適化できます。たとえば、フリート管理者が走行距離の短いルートを把握していれば、フル充電が完了していない車両でも走行させることができます。これにより、時間と費用を節約し、排出ガスも削減できます。

お客様の時間と費用の節約に加えて、安全性とセキュリティの向上にも取り組んでいます。当社のプラットフォームは、警告灯、オイル寿命、モデルのリコールに関するアラートを発信します。こうした情報は、お客様の走行中の安全を確保するだけでなく、高額な修理を回避するうえでも役立ちます。

当社のプラットフォームについては、すでにお客様から素晴らしいフィードバックを頂いており、今後はさらなるお客様の安全性、セキュリティ、生産性向上を目指します。当社のプラットフォームは、自動車業界に革命を起こす可能性を持ったものであると考えており、その取り組みの一端を担えることを楽しみにしています。

使ってみる

  • Bigtable の詳細と、Bigtable が自動車テレメトリーおよび時系列データに最適なソリューションである理由をご確認ください。

  • Palo Alto NetworksFlipkartGlobo などの企業が Bigtable に移行することで、クラウド費用の削減と、サービスのパフォーマンス、スケーラビリティ、信頼性の向上を実現した事例をご覧ください。

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-シニア プロダクト マネージャー Anton Gething

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