BigQuery の地理空間分析により、アンダーライターに優れたインサイトを提供

Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 9 月 9 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
CNA について
保険会社にとっての重要な目標は、顧客のニーズ、商品の内容、保険料の組み合わせを最適化して提供することです。しかし、保険料と最終的な収益性は、保険対象となるリスクを保険会社がいかに理解し、評価するかによって左右される部分があります。通常、この作業には時間がかかり、多くの場合は主観的なプロセスです。そのため、膨大な量の関連データポイントを取得、分析、解釈するアンダーライターの能力に加えて、そのアンダーライターの独自のスキルに大きく依存しています。
CNA は、120 年以上の歴史を持つ米国最大手の商業用不動産および損害保険会社であり、米国、カナダ、欧州の企業や専門家に、標準的および専門的な保険商品やサービスを幅広く提供しています。同社は、この 3 年間、Google のデータクラウド上にデータ分析基盤を構築してきました。これにより、世界中の数百ものデータソースを統合し、Vertex AI による自動化を活用して ML モデルの市場投入までの時間を短縮し、主要なビジネス パフォーマンス指標に関する一連のエグゼクティブ レポート ダッシュボードを提供しています。
課題: 商業用不動産の洪水リスクの引き受け
CNA は、分析基盤の構築が完了したことで、自社の事業部門に付加価値の高い分析プロダクトを本格提供することにさらに注力するようになりました。特に、高度な分析テクノロジーを使用して保険引き受けの機能を強化し、保険引き受けのエコシステム内でより堅牢なインサイトを提供することに重点を置きました。これにより、アンダーライターは不動産リスクを迅速かつ正確に評価でき、さらに分析を行うことで、さまざまな意思決定の影響をより深く理解し、高品質の保険商品を提供できるようになります。
洪水リスクの引き受けを効果的に評価することは、CNA の優先事項でした。これは難しいプロセスであり、以下の重要な要素を考慮する必要がありました。
洪水がもたらす被害は、その性質上、多面的なものであり、沿岸の高潮、河川の氾濫、大雨(土砂)などが原因となります。沿岸や河川のリスクは、水域に近接していることが直接関係します。しかし、土砂災害の場合は自然発生であることが多く、通常は、激しい降雨や表層崩壊により、都市の排水システムが許容範囲を超えた場合に発生します。大雨による洪水は予測が困難であることが多く、都市部は特に脆弱であることから、甚大な被害に見舞われることがあります。
洪水の危険分析を行うには、保険対象となる商業用不動産とその周辺環境との間に存在する複雑な空間関係を包括的に理解することが必要です。また、隣接する不動産の場所に起因するリスクを特定する能力も重要です。
「洪水リスクの評価や理解をする方法を改善する必要がありました。より堅牢な氾濫原データソースを組み込んだプロセスに移行し、存在する複雑な空間関係をより深く理解するために地理空間分析テクノロジーを適用することは、アンダーライターが必要とする正確かつタイムリーなインサイトを提供する上で非常に重要です。」 - CNA、アグリゲーションおよび災害管理部門担当バイス プレジデント Tom Stone 氏 |
洪水リスクを評価するための CNA の現行プロセスには、以下のような制限がありました。
データ範囲が限られている: 分析に使用されるデータにはギャップがあり、カバーされていたのは河川と沿岸の水害のみで、洪水被害の 3 分の 2 を占める大雨は、リスク評価プロセスには含まれていなかった。
地理的範囲が限られている: このプロセスは、ジオコーディングされた地点(不動産の住所)に依存しており、対象となる地域全体を把握できていなかった。そのため、洪水の危険が及ぶ地域全体、あるいは隣接する地域に与える影響を把握することが困難だった。
関連するリスクの問題: ジオコーディングされた地点は、どの場所でも存在する可能性がある。これらの地点は既存の氾濫原データと交差する可能性があるが、正確な交差地点が存在しない場合は、実際に氾濫原に近い場所であっても評価できない。
ソリューション: BigQuery の地理空間分析で洪水リスク評価を強化する
この課題を解決するために、CNA は、Google Cloud および複数のサードパーティ データベンダーと協力して、洪水リスク評価の引き受けに関する現在の課題に対処する、より洗練されたソリューションを開発しました。
洪水および関連する影響は場所的な要素が強く、位置情報(緯度、経度)を使用して空間関係やパターンをより深く理解する地理空間分析がソリューションの基礎となります。地理空間分析の精度を向上させるには、包括的なデータにアクセスする必要があるため、CNA は、建物、洪水リスク(沿岸、河川、大雨)、土地区画などを含む、自然環境と人為的環境に関する複数のデータセットを取得しました。
これらのデータセットは大規模なもので、国内と世界の両方の地理をカバーしていました。このため、CNA は、データセット間に存在する複雑な関係や、現在および将来のビジネス ポートフォリオに対する総合的な影響をより深く理解するための、大規模で計算費用のかかる地理空間分析を保存、処理、実行できるデータ分析ソリューションを必要としていました。
「当社は長年にわたって Google Cloud と協力し、データ ジャーニーを加速させてきました。この洪水リスクの評価には、堅牢なデータ管理機能、強力な地理空間分析機能、大規模なデータセットを迅速に分析するための大量の計算能力が必要で、それらの課題解決には BigQuery の地理空間分析が最適でした。」 - CNA、チーフ エンタープライズ アーキテクト Pierre Braganza 博士
CNA は、これまでの戦略的投資に沿ってこの課題を解決できる独自の立場にありました。同社はすでに、十分な量のデータを大規模に保有しており、BigQuery 上に構築され、高度に管理されたデータウェア ハウスにデータの 90% が存在していました。BigQuery には、地理空間データ管理と地理空間分析の両方に対応する強力な機能が備わっているという利点もあります。また、地理空間分析に BigQuery を使用することで、標準 SQL の地理関数を使用して地理データを分析できます。これらの関数は実行時に BigQuery の計算能力を利用するため、データセット内およびデータセット間に存在する複雑な空間関係を迅速に分析するための理想的なプラットフォームとなります。
インテリジェントな地理空間洪水リスク API の構築
このソリューションでは、Dataflow と geobeam を使用して、テラバイト規模の地理空間データをラスター形式とベクター形式で BigQuery に取り込みます。このソリューションを支えているのが、Google Kubernetes Engine 上に構築されているインテリジェントな API で、複数の BigQuery 地理空間分析関数を動的に実行することで、引き受け候補地(緯度、経度)、関連する基礎区画、関連する建物の地理的範囲、氾濫原と交差地点との間の空間関係を探索します。そして、対象地点の空間交差(ST_Intersects)または、氾濫原ゾーン、区画、関連する建物に対する近接(ST_Buffer)に基づいて、マルチレベルの洪水リスクのスコアが自動的に生成されます。


プロセスは以前に比べて大幅に改善されました。
「以前は、場所の住所(緯度、経度)をジオコーディングする際、氾濫原と重なっていない場所であっても、すべてが見つかってしまっていました。今では、場所全体の地理的範囲に基づいてリスクを複数のレベルで評価するインテリジェントな API を利用できます。」 - Tom Stone 氏
CNA は、洪水が及ぼす影響を、以前は 1 か所だけだったものが、現在は地域内のあらゆる地点について把握できるようになりました。これは、保険対象の場所が、複数の氾濫原ゾーンにまたがる地理的範囲に存在する可能性がある場合に特に重要です。このようなシナリオでは、一見低リスクに見える場所が、この空間関係によって、より高リスクであると判断される可能性があります。
この API は、CNA の引き受けシステムおよび関連するビジネスデータと統合されています。引き受けプロセスにおいて、さまざまなリスクスコアがアンダーライターに自動的に提供されるため、保険対象となる商業用不動産について、より多くの情報に基づいた意思決定が可能になります。また、CNA はこの API を利用することで、ビジネス ポートフォリオ全体を分析し、洪水リスクをより深く理解できるようになります。
成果: 地理空間テクノロジーによりリスク評価を改善
CNA の洪水リスク引き受けソリューションは、アンダーライターのインサイトを向上させ、以下のような多くの利点をもたらします。
アンダーライターは、洪水が発生しやすい場所を迅速かつ正確に通知する新機能を利用し、潜在的な影響についての詳細な分析が可能。
CNA は、このソリューションを通じて、大雨によるリスク情報を含むより完全な洪水リスクのデータセットを取得し、より多くの情報に基づいた意思決定が可能。この種の危険性に対する不適切な価格設定に基づいて発生している損失の削減にも貢献。
CNA は、任意の場所と、その場所が属する不動産、建物、氾濫原ゾーンとの関係をより詳しく理解する能力が向上。このことは、複数の氾濫原ゾーンにまたがる可能性のある場所の直接的なリスクと関連するリスクの両方を分類するために極めて重要であり、予備分析では、洪水リスクを包括的に把握する能力が約 25% 向上。
CNA はさらに探求を進めるために、将来的に、地理空間の可視化機能を追加することを予定しています。このソリューションは、ビジネスニーズに応じて危険のタイプを追加できるように設計されています。また、ビジネス ポートフォリオ全体とその洪水リスクに対する脆弱性について、シナリオベースの分析を迅速に行う機能も備えています。
CNA は、地理空間分析に BigQuery を活用することで、洪水リスクをより詳しく理解し、測定できるようにするという空間の問題に取り組みました。全データの 90% に位置情報が含まれているため、地理空間分析を他のビジネス分野や問題に適用することもできます。
- CNA、データ分析、エンタープライズ アーキテクチャ担当アシスタント バイス プレジデント Gaganpreet Randhawa 氏
- Google Cloud、プリンシパル アーキテクト Damian Graham