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データ分析

Built with BigQuery: 米メルカリが BigQuery を ML を活用した顧客拡大マシンに変えた方法

2023年4月27日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 4 月 20 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

ピアツーピア マーケットプレイスのメルカリが 2014 年に米国に進出した際、やらなければならないことは明確でした。eBay、Craigslist、Wish といった巨大マーケットに囲まれたメルカリは、新しいユーザーを獲得するためのアプローチを作り出す必要がありました。さらにメルカリは、ただ特定の商品を購入するためのサイトではなく、買い手と売り手が何度も戻ってくるようなネットワークを構築したいと考えていました。

メルカリは、全米の何百万人もの人々を結び付け、使わなくなった価値のあるものを売買するオンライン マーケットプレイスとして、日々の買い物客やカジュアルな販売者のために作られました。メルカリのエンジニアリング担当バイス プレジデントである Masumi Nakamura 氏が率いる、機械学習(ML)チームとマーケティング技術専門家からなる 2 つのチームは、BigQuery で自社データを活用し、Google Cloud で構築した予測モデルをメール キャンペーンの解約予測やアイテム推奨事項、有料メディアの最適化に向けた LTV 予測などのマーケティング チャネルに直接つなげることで、米国でのメルカリの成長を加速する機会を見出しました。解約予測はマーケティング コミュニケーションのターゲットに、アイテム推奨事項はコミュニケーション内容をユーザーレベルでパーソナライズするために利用できます。クラウド コンピューティング サービスをフル活用することで、サステナブルかつ柔軟に成長し、ユーザー理解やパーソナライズされたマーケティングなど、チームが得意とする分野に注力できました。

2018 年、米メルカリチームは、自社の顧客データをビジネスの成長に活用するエキスパートである Flywheel Software と提携しました。Google Cloud と BigQuery のみを扱う Flywheel は、Masumi が米メルカリのマーケティング技術を変革するのを支援しました。

ユースケース: 課題

Masumi と ML チームは、買い手と売り手の解約を減らすことを第一の目標としました。お客様は初回購入はするものの、再購入や再販率はチームの期待に応えるものではありませんでした。Masumi 率いる ML チームは、お客様に 2 回目、3 回目と購入してもらえれば、ライフタイム バリュー(LTV)を高めることができると確信していました。

チームには強固なデータ サイエンスの能力があり、データ ウェアハウス(BigQuery)に投資していたにもかかわらず、効率的なオーディエンス セグメンテーションとターゲティングのための取り組みを合理化する能力が欠けていました。データをマーケティングに活用しようとするほとんどの企業と同様に、メルカリのチームも、キャンペーンの立ち上げやテスト向けの顧客セグメントを構築するために、エンジニアリングと連携する必要がありました。1 つのキャンペーンを立ち上げるのに、開始から終了まで 3 か月かかることもあります。

つまりメルカリでは、メルカリのチーム全体でプロセスをスピードアップさせる方法が必要でした。チームの予測を、ベロシティとアジリティを向上させながら有効なマーケティング テストに変えるにはどうすればよいのでしょうか?

ソリューション: BigQuery と Flywheel Software が顧客ライフサイクル全体の成長を強化

優れたデータ エンジニアリングの基盤と BigQuery をすでに持ち合わせていたメルカリのチームは、ニーズに段階的に対応し始めました。まず、予測を使用してリテンションの特徴を特定し、その特徴をもとに初期のセグメント定義を構築しました。そこから、チームはテストを開始してパフォーマンスを測定し、改良を加えていきます。メルカリのマーケティング チームは Flywheel を利用することで、他のチームのデータ エンジニアやビジネス インテリジェンス アナリストからの継続的なサポートの必要なしに、予測モデルを活用した独自の顧客リストを構築できるようになりました。単一のセルフサービス型ソリューションによって、解約と獲得に対処できるようになったのです。

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Flywheel による Google Cloud でのメルカリのアーキテクチャ図

ダイナミックな連携: Flywheel Software と BigQuery

  • 360° の顧客管理: Flywheel により、メルカリはデータソースを組み合わせて BigQuery でお客様を一元的に把握し、その後 Flywheel のプラットフォームを介してマーケティングや販売チャネルに接続できるようにしました。特筆すべきは、メルカリが独自の複雑なデータモデルを活用できていることで、これは両面性のあるマーケットプレイスには最適でした。これは、上のアーキテクチャ図にある「収集&変革」ステージに示されています。

  • 予測モデル: Flywheel は、メルカリのチームが BigQuery でスナップショットした予測を有効活用しました。メルカリの ML チームは、Google Vertex AI Workbench の一部として提供される Jupyter ノートブックを使用して、ユーザー解約とお客様のライフタイム バリュー(CLTV)の予測モデルを構築し、Airflow DAG をデプロイするために Cloud Composer を使用して本番稼働し、ターゲティングのために予測を BigQuery に書き戻し、Pub/Sub を使って宛先チャネルへのエクスポートをトリガーしました。これは、上のアーキテクチャ図の「インテリジェンス」ステージに示されています。

  • 測定とデータを広範に可視化: Flywheel から全オーディエンス データが BigQuery に書き戻される仕組みになっているため、メルカリの分析担当チームは、収益からリテンションまでの指標についてパフォーマンス分析を実施できます。Flywheel のパフォーマンスの可視化をアプリ内で利用できるだけではなく、Looker Studio でカスタムデータの可視化を作成することもできます。これも、上のアーキテクチャ図の「インテリジェンス」ステージに示されています。

  • シームレスなルーティングと有効活用: Flywheel のオーディエンス プラットフォームが Customer 360 に直接接続され、予測モデルの結果が BigQuery に保存されるため、マーケティング チームは、Braze、Google 広告、その他の掲載先など、メルカリの主要なマーケティング、販売、製品チャネルすべてで、オーディエンスとそのパーソナライズ属性を立ち上げて同期できます。これは、アーキテクチャ図の「ルーティング」と「有効活用」のステージに示されています。

「何をしているのかを測定できること、つまり結果ベースの志向が重要です。Flywheel について最も気に入っている点は、フィードバックを踏まえ、テストにも無理のない範囲で進んで取り組むという、非常に基本的な考え方をもたらしてくれたことです。他のサービスでは、そうしたフィードバック ループがなかなか組み込まれていないため、混乱しがちです」 - メルカリ エンジニアリング担当バイス プレジデント Masumi Nakamura 氏

予測モデリングにより顧客離れを防止する

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ML モデルをディシジョン ツリーとして可視化し、顧客離れを予測する

Flywheel との提携により、メルカリは Vertex AI Workbench 経由で BigQuery のユーザーデータ分析を開始し、解約した顧客全体のパターンを特定しました。チームは、顧客獲得チャネル、閲覧または購入されたカテゴリ、ショッピング中に検索を保存するかどうかなど、さまざまな属性を評価しました。チームは、さまざまなモデルとパフォーマンスの指標を比較し、買い手と売り手の解約リスクを正確に予測するために最適なモデルを選択しました。売り手の場合は前回の販売からの経過時間、買い手の場合は前回の購入からの経過時間でオーディエンスのメンバーを評価しました。

その後、これらの解約予測スコアを、Flywheel のオーディエンス作成ツールにフィードされるデータ パイプラインに適用します。解約の可能性が高いオーディエンスは、それぞれのグループにセグメント化され、メルカリはその後、そのユーザーをターゲットにして、関連する有料メディアやメール キャンペーンを利用できます。

Flywheel と提携することで、メルカリはデータチームとマーケティング チームのギャップを同時に埋め、セグメンテーションからキャンペーン開始までの時間を数か月からわずか数日に短縮できました。

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オーディエンスを構築するためのユーザー フレンドリーな Flywheel 自社データ プラットフォームの外観

「Flywheel との提携による大きなメリットの一つは、CRM やユーザー獲得などのマーケティング チャネルと、従来のマーケティング チャネルとの統合が進んだことです」 - メルカリ エンジニアリング担当バイス プレジデント Masumi Nakamura 氏

オーディエンス内にオーディエンスを生み出す

買い手と売り手の解約を予測するモデルの作成に成功したメルカリは、解約を減らす効果を測定するためにリターゲティング キャンペーンを立ち上げる必要がありました。現在進行中の各テストは、カスタマイズされたセグメントと自動 A/B Testing が特徴です。メルカリのマーケティング チームは、分析および有効活用を一元管理することで、オーディエンスを作り、ターゲット キャンペーンの効果の測定を開始できました。Flywheel との提携以来、メルカリは 120 を超えるオーディエンスを生み出しました。

「当社のマーケティング チームは、社内の知識を熟知していますが、Flywheel はキャンペーン用のオーディエンスを構築するうえで、非常にユーザー フレンドリーな方法です」 - メルカリ エンジニアリング担当バイス プレジデント Masumi Nakamura 氏

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Flywheel 自社データ プラットフォームの中心となる「オーディエンス ハブ」の概要ビュー

「Flywheel は、テストを含め、問題に関して非常に基本的な考え方をもたらします…テストと結果を整理する能力が重要でした。変数の数は、優れた効率性を持ち合わせていないほとんどの人にとっては多すぎます」- メルカリ エンジニアリング担当バイス プレジデント Masumi Nakamura 氏

セグメンテーションをスマート化する

メルカリが Flywheel を活用した最初のオーディエンスは Braze に送られ、解約予測や自動キャンペーン パフォーマンス評価でメール キャンペーンやクーポンを強化しました。その後、メルカリは Facebook を使った有料メディアのリターゲティングにシフトし、Flywheel のライフサイクル セグメンテーション フレームワークを使ってユーザー ジャーニーの適切なステップにいる顧客をターゲットにしました。最後に、メルカリは Google 広告に焦点を移し、Flywheel を使って商品カテゴリの傾向に基づいて新しいセグメンテーション モデルを実装しました。メルカリは以前から商品リスティング広告に Google 広告を利用していましたが、Flywheel を使用することで、より最適な商品の購買傾向セグメントを定義し、カスタムで増分リフト指標を測定できるようになりました。

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膨大な人の中から新規ユーザーを見つける

最後に、メルカリは解約防止やリテンションに加え、ユーザー獲得も強化したいと考えました。iOS と Facebook の新しいデータ プライバシー規制により、多くのユーザーのキャンペーン アトリビューションの測定が不可能になり、UA キャンペーンのパフォーマンス測定に苦労していました。分析には Vertex AI Workbench、キャンペーン データのパフォーマンス分析には BigQuery、データ パイプラインの本番環境移行には Cloud Composer 経由でデプロイされた Airflow DAG の使い慣れたスタックを使用して、Flywheel はユーザーの地理的位置に基づくターゲット キャンペーンの有効化を可能にしました。それによりメルカリはアトリビューション データではなく、地理的リージョン間のインクリメンタリティ分析を使用して UA キャンペーンを判断することで、ユーザーのプライバシーを保護しました。

顧客データの有効活用と獲得に向けたメルカリの取り組み

他のマーケットプレイスの小売業者は、メルカリが Flywheel を使って BigQuery からデータを有効活用した成功例から学ぶことができます。ここでは適用すべきベスト プラクティスをいくつかご紹介します。

チームのニーズと既存の強みを明確にする

メルカリは、自分たちのチームが BigQuery 内でデータ分析のための優れた基盤を構築していることを認識していました。また、プロセスに、そのデータを有効活用するための重要なコンポーネントが欠けていることもわかっていました。同様の結果を得るためには、チームとデータの強さを評価し、顧客セグメンテーションで何を達成したいのかを正確に定義する必要があります。

適切なプロバイダとの連携

BigQuery により、メルカリのチームはすべてのデータを 1 か所に集約し、予測モデリング、セグメンテーション、有効活用のプロセスを簡素化しました。Flywheel と提携することで、この一元化されたデータをメルカリのマーケティング チーム全体で簡単に活用できました。データ ウェアハウジング、セグメンテーション、有効活用のプロバイダを評価する際には、データを最大限に活用できるプロバイダと提携することが重要です。

対象となるお客様を理解する

お客様への理解を深めることで、メルカリはほぼ即座に価値を見出すことができました。メルカリは、顧客の行動を正確に予測するための適切なツールに投資することで、適切な領域に確実にインパクトを与えることができました。すでにコンパイルした顧客データを使って、Flywheel のような顧客セグメンテーション プラットフォームのプロバイダと提携することを検討してください。実際、Masumi はついに ML チームを次のようなコンセプトで編成するようになりました。「ML チームを Flywheel で増強して作業するチームと、商品データを中心に増強して方向性を位置づけるためのチームの 2 つの領域に分けました」

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メルカリのプラットフォームでのオーディエンス別売上上昇率の増加(実際の結果を意図的に難読化するために、スケールを変更しています)。

3 つのステップでメルカリのように成長を加速させる方法

現在、多くの大手ブランドが Flywheel Software と BigQuery をマーケティングと販売促進に活用しています。Google Cloud の BigQuery と Flywheel Software を連係させたリアルタイム分析によって持続可能な成長を促進する動きは広がりを見せていますが、これは小売業、金融サービス、旅行、ソフトウェアなど業界を問わず導入できるものです。手順は次のとおりです。

BigQuery に顧客データがある場合

  1. ユースケースに合わせてカスタマイズされた Flywheel Software + BigQuery デモを予約します。

  2. BigQuery テーブルと、マーケティングおよび販促活動のチャネルを Flywheel Software プラットフォームにリンクします。

  3. Flywheel Software で最初のオーディエンスを 1 週間未満で立ち上げます。

BigQuery を初めて使用する場合

  1. Flywheel ソリューション アーキテクトが提供するデータ戦略セッション(無料)を受けます。

  2. Google Cloud が提供するクイック スタート プログラムを通じて、4~8 週間で BigQuery の使用を開始します。

  3. その後、Flywheel Software で最初のオーディエンスを 1 週間未満で立ち上げます。

Flywheel と Google: 組み合わせてさらに便利に

現在、多くのマーケティング担当者にとって重要な問題は、「お客様について知っているあらゆることを、よりインテリジェントで効果的なマーケティング エンゲージメントを推進するために、どのように活用できるか」ということです。メルカリは 2019 年にこの問題への対応に着手した際、ML モデルを活用した革新的な BigQuery データ戦略を適用しました。しかし、同社が目覚ましいマーケティング成果を上げたのは、同社が Flywheel Software を発見して適用した最初の企業の一つであり、マーケティング チームが BigQuery のデータセットと予測に直接接続した自社データ プラットフォームでオーディエンスを立ち上げることができたからです。これにより、設計、リリース、測定のフィードバック ループが大幅に加速され、顧客のライフタイム バリューを繰り返し成長させることができるようになりました。

ISV にとっての Built with BigQuery のメリット

Google は、Built with BigQuery のイニシアチブを通じて、Flywheel Software のようなテック企業が Google のデータクラウド上で革新的なアプリケーションを構築できるよう、テクノロジーへのシンプルなアクセス、有益な専任のエンジニアリング サポート、共同市場開拓プログラムなどを提供しています。参加企業には以下のメリットがあります。

  • ISV センター オブ エクセレンスの専任エキスパートから、重要なユースケース、アーキテクチャ パターン、ベスト プラクティスについてのインサイトを得て、プロダクトの設計とアーキテクチャを加速できます。

  • 共同マーケティング プログラムを利用して、認知度の向上、需要の創出、導入の拡大を図り、より大きな成功を実現できます。

BigQuery は、Google Cloud のオープンかつ安全でサステナブルなプラットフォームに統合された、パワフルでスケーラビリティの高いデータ ウェアハウスのメリットを ISV に提供します。Google が提供する巨大なパートナー エコシステムと、マルチクラウド、オープンソース ツール、API のサポートを利用すれば、テクノロジー企業は、データ ロックインを回避するために必要な移植性と拡張性を得ることができます。

Built with BigQuery の詳細については、こちらをクリックしてご確認ください。


当ブログに協力してくれた Google Cloud と Flywheel Software のチームメンバーに感謝します。

  • メルカリ: エンジニアリング担当バイス プレジデント Masumi Nakamura 氏

  • Flywheel Software: プロダクト マーケティング マネージャー Julia Parker 氏、分析担当責任者 Alex Cuevas 氏

  • Google: ソリューション アーキテクト Sujit Khasnis


- Google、クラウド パートナー エンジニアリング担当ディレクター Ali Arsanjani 博士
- Flywheel Software 共同 CEO David Joosten 氏
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