NTUC FairPrice が Google Cloud でシームレスなショッピングおよび支払いエクスペリエンスを提供している方法
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 8 月 9 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
編集者注: 今回は、NTUC Enterprise の事例を紹介します。同社はシンガポール最大の食料品店チェーンである NTUC FairPrice をはじめとして、薬局の Unity やコンビニエンス ストアの Cheers のネットワークなど、広大な小売業エコシステムを運営しています。NTUC Enterprise は社会的企業として、生活必需品や医療、育児、インスタント食品、金融サービスといった分野で、手頃な価格を提供することをミッションとして掲げています。NTUC Enterprise は、年間 200 万人以上の顧客にサービスを提供しており、シンガポールのすべての人がより有意義な生活を送れることを目指しています。
2021 年 8 月、NTUC FairPrice は新しいアプリ決済ソリューションをリリースし、顧客は QR コードをスキャンするだけで、あらゆる FairPrice の店舗または Unity の薬局で買いものをして、特典ポイントを貯められるようになりました。このアプリによって、物理的なポイントカードやクレジット カードを提示する必要がなくなり、NTUC FairPrice の店舗とサービスのネットワークにおけるすべての顧客アクティビティを統合できます。顧客は FairPrice アプリの決済機能を使うことで、FairPrice と Unity の全店舗でシームレスな購入手続きを利用できます。
200 店舗以上のネットワークにおいて統合されたアプリを構築するというミッションでは、以下の 2 つの課題がありましたが、Google Cloud のソリューションである Cloud Functions、BigQuery、Cloud Run によって克服できました。
財務調整: FairPrice のトランザクション データは、POS サーバーや、FairPrice アプリサーバー、支払いゲートウェイ(販売者が購入者の購入を承認するために使われるサードパーティ技術)など、複数のロケーションにあります。アプリを機能させるために、財務チームは、異なるソースから送られてくるすべての販売データを正しく集計できる必要がありました。
プラットフォームの安定性: 弊社は、段階的なリリースではなく、シンガポール中の FairPrice と Unity の全店舗で「ビッグバン」リリースをすることを選択しました。システムの復元力、シームレスな自動スケーリング、レイテンシがゼロに近いネットワーク環境は、特にピーク時間のネットワーク遅延や停止によって、顧客が行列に並ぶことがないようにするために重要でした。
弊社のような複雑な運用において、主な技術的課題は、トランザクション システム間のアジャイルな同期でした。財務チームは、銀行に入ったすべての資金が、店舗の POS マシンを通して得られた売上と一致することを確認する必要がありました。この課題を解決するには、さまざまな販売における異なるデータソースを統合するカスタム ソリューションが必要でした。
当時、販売システムのアーキテクチャは次のとおりでした。
POS システムによってトランザクションが処理され、そのデータは SAP ネットワークに送られていました。そこから、財務チームが管理する企業資源計画(ERP)ワークフローを経由して、データが送られていました。
しかし、実際の財務トランザクションは FairPrice アプリサーバーで行われていました。このサーバーは、サードパーティの支払いゲートウェイと通信し、資金を銀行に電子的に転送していました。
POS システムは、GrabPay から Visa や Mastercard まで、FairPrice アプリに登録されているさまざまなお支払い方法を集約し、詳細なトランザクション情報を財務チームに送信できるほど高度なものでした。しかし、実際のトランザクションを実行しているわけではないため、財務チームは追加で調整を行い、POS データと決済データが対応していることを確認する必要がありました。このプロセスでは、手作業による負担がチームに大きくかかり、ビジネスが成長するにつれてその負担は増える一方でした。
クラウド技術で財務プロセスを自動化し、ビジネスの成長を促進する
財務調整を自動化するために、Google Cloud ツールを使用し、POS データを決済ネットワークと統合するカスタム ソリューションを設計しました。ここで、トランザクション エコシステムのすべての要素を統合し、FairPrice アプリの成長の可能性を引き出した方法を順を追って紹介します。
まず、POS チームと協力して、リアルタイムのデータ パイプラインを設定し、オンライン販売から実店舗での購入まで、小売ネットワークにおけるすべてのトランザクション データを 5 分ごとに Cloud Storage にインポートしました。
次に、Cloud Functions をデプロイし、Cloud Storage で行われた変更を検出してからデータを処理して、BigQuery と同期させました。BigQuery は、POS システムから SAP システムにインポートしたデータ用のメインのデータ分析エンジンです。
CloudSQL をメインのマネージド データベースとして活用して、アプリサーバーから BigQuery へのデータ パイプラインを作成しました。BigQuery にデータストリームを取り込むための 2 つの並列チャネルを作成しました。これが、無制限でリアルタイムな分析情報のための統合データ処理エンジンとなりました。
この時点で、Google Cloud Scheduler を使って、毎日の終わりに BigQuery のデータ分析を SAP セキュア ファイル転送プロトコル(SFTP)フォルダに送り、データ分析チームがそれを処理しました。
これらの 2 つのデータソースから読み出したデータを組み合わせることで、データ サイエンティストは読みやすいデータポータル ダッシュボードを構築できるようになっています。異なるシステムからのトランザクションが一致しない場合、メール通知アラートが財務チームと他のプラットフォーム関係者に送られます。
その後、財務チームがデータポータルでトランザクションを調整し、POS システムとアプリサーバーからのすべての売上が正しく対応するようにします。
BigQuery の能力をデータポータルの利便性と組み合わせることで、さらにメリットがありました。財務チームは深い技術的な知識がなくても、エンジニア チームからの支援を求めずに、必要なあらゆるデータを簡単に入手できるようになったのです。財務チームは、BigQuery で必要なものを直接クエリし、データポータル ダッシュボードであらゆるビジネス ユースケースのビジュアリゼーションをすぐに作成できます。
Cloud Run によるシームレスな自動スケーリングで顧客を満足させる
FairPrice アプリに Pay をリリースした主な目的のひとつは、迅速かつ簡単な QR コードスキャンによって、小売ネットワークのすべての店舗でより速くシームレスな購入手続きを可能にすることです。「ビッグバン」リリースに伴って、ランチタイムのピークから夜中の落ち込みまで、来店客数の変動に対処するために、最も強力でアジャイルなコンピューティング インフラストラクチャが必要でした。
この自動スケーリング機能を最小限のインフラストラクチャ構成と組み合わせて、開発チームが顧客満足度を向上させる革新的なソリューションの構築に集中できるようにすることを目指しました。
Google Kubernetes Engine(GKE)は、長い間 NTUC FairPrice のソリューションを支えてきました。新しい決済ソリューションを開発することになったとき、アプリを進化させるのに必要な API の複雑な相互作用を踏まえて、Cloud Run を試す良い機会だと判断しました。その目的は、ソリューションのスケーリングとデプロイにおいて、さらなる自動化と使いやすさを実現できるかどうかを確認することでした。
この試みは、Cloud Run の機能を最適化してデプロイすることで、新しい次元の API のアジリティを得て、成果をあげました。以下は、Cloud Run を活用して、ほとんど手動構成をせずに障害のない店舗運営をサポートした方法の概要です。
デフォルトのエンドポイント: FairPrice アプリでは、幅広い独自の API をデプロイし、ソリューションのあらゆる側面を同期しています。ここでの Cloud Run の主な利点は、デフォルトで安全な HTTPS エンドポイントを提供することです。これによって、API とソフトウェア プログラムの接続が自動化され、ネットワーク コンポーネントの追加のレイヤを設定して API を管理する必要がなくなります。この強力な接続性を確保することで、買い物客にシームレスなエクスペリエンスを提供できます。
自動化された構成: 新しい GKE の運用環境である Autopilot でさえも、マイクロサービス クラスタの CPU とメモリを設定する必要がありました。Cloud Run では、このタスクから解放されます。インスタンス変数の最大数を設定するだけで、あとは Cloud Run がニーズに応じてマイクロサービス クラスタをリアルタイムで自動的にスケーリングしてくれます。
これによって、DevOps チームは週あたり数時間を節約でき、その時間を FairPrice アプリの新しい機能とアップデートの開発に充てられます。最終的に、この利便性は顧客に還元され、よりシームレスで楽しいショッピング エクスペリエンスにつながります。
FairPrice アプリにおける Pay のリリースからたった 1 年で、Google Cloud ツールによって実現したイノベーションから目に見えるメリットを得ました。
アプリへの復帰率 90%。つまり、一度アプリを使った顧客 10 人のうち 9 人がその後の買いものにアプリを継続して使うということです。
アプリに新しい FairPrice の顧客が約 27 万人増え、その数は急激に増加しています。
アプリのリリース以降、オフライン トランザクションの 6% をデジタル トランザクションに変換できています。
アプリの可用性とシームレスなエンドユーザー エクスペリエンスが、ネット プロモーター スコア(NPS)の主要な要素であることから、NTUC FairPrice は全体的な顧客満足度で最大 75% を達成しました。
Google Cloud ツールでシンガポールにおける食の「スーパーアプリ」を構築する
デジタル化推進の次のステージとして、FairPrice アプリを食の「スーパーアプリ」にしたいと考えています。NTUC FairPrice Group のネットワーク内で、食に関するすべてにおいて顧客満足度を高めることを目指しています。たとえば、「ホーカー センター」(フードコート)、レストラン、デリバリー、テイクアウトなどです。
これらのサービスはすべて、Google Cloud のソリューション、特に Cloud Run と BigQuery で構築する予定です。自動スケーリングとデータ分析機能を新たに得たことで、NTUC FairPrice はビジネスを新たな高みに導き、シンガポールの美味しい食べものへの欲求を満たす準備ができたと考えています。
- NTUC Enterprise、プロダクト開発リード Alvin Choo 氏
- NTUC Enterprise、プリンシパル ソフトウェア エンジニア New Zheng Ming 氏