MLB の Google Cloud 活用: AI が変える野球の未来

Google Cloud Japan Team
変化が著しいスポーツの世界において、スポーツ団体はファンとの絆を深め、観戦体験を向上させる革新的な方法を常に模索しています。アメリカのスポーツ文化の礎であるメジャー リーグ ベースボール(MLB)は、最先端技術を活用し、試合の分析方法と、ファンの体験の両方を刷新しています。
2025 年 3 月 18 日に日本で開催される 2025 年シーズン開幕戦「MLB 東京シリーズ by グッゲンハイム」を直前に控え、 MLB が米国でどのようにテクノロジーを活用し、アメリカの国民的スポーツを世界中のファンに発信し、魅力的な体験を提供しているかをご紹介します。Google Cloud と MLB は、パートナーシップを通じて、何世紀にもわたる伝統と最新技術を組み合わせ、野球を世界的なスポーツへと進化させています。
現代のニーズに応える、歴史あるスポーツの変革
野球の 1 試合から生み出されるデータ量は膨大です。30 チームによる年間 4,000 以上の試合やイベントから、ペタバイト規模のデータが生成されます。従来の統計データに加え、選手一人一人の動き、フィールド上のあらゆる物の位置、ボールの回転まで、さまざまなデータが記録されています。
MLB はこの膨大なデータを活用するため、従来の静的なレポートだけでなく、試合中の判断に役立つデータのリアルタイム分析と遅延の少ない配信システムを求めていました。そのためには、リアルタイム予測モデルの開発が必要でした。
これは、データを瞬時に分析し、選手、コーチ、解説者、そしてファンに即座に情報を提供するシステムの構築を意味します。また MLB は、日々大量のファンが生成するデータも取り扱うため、競技への信頼性も担保し、ファンの個人情報を保護する安全なプラットフォームも不可欠でした。
2020 年に始まった MLB と Google Cloud のパートナーシップは、データ分析とファンとの関わり方の観点で大きな進歩をもたらしています。現在 MLB は、Google Cloud のツールを使用し、1 試合あたり 1,500 万以上のデータポイントを取得し、分析しています。これらの膨大なデータを、BigQuery や Vertex AI などの強力なツールで処理し、予測モデルの生成やリアルタイム分析を実現しています。
2023 年以降、生成 AI 技術が急速に普及し、一般の関心も飛躍的に高まっています。Google の Gemini は、テキスト、画像、音声など異なる情報を処理できるマルチモーダル能力、強固なセキュリティ対策、長文を処理できるロング コンテキスト能力など、この分野において大きな進化を遂げています。
MLB は 2024 年から Gemini を活用し、MLB アプリの最新機能「My Daily Story」におけるファンの体験を向上させています。
Major League Baseball のプロダクト マネジメント シニア バイス プレジデント、Josh Frost 氏は「ファンの皆様は、MLB の盛り上がりを魅力的かつコンパクトに、パーソナライズされた形で体験することを望んでいます。My Daily Story はリーグ全体からお気に入りのチームや選手の最高の瞬間を毎日独自のビデオでファンの皆様に提供します。MLB は、Gemini を活用し、英語とスペイン語のコンテンツ、およびパーソナライズの取り組みを強化しています」と述べています。
国境を越える洞察
Google Cloud とのパートナーシップの成果は、「MLB 東京シリーズ by グッゲンハイム」開幕戦のような場面で発揮されます。MLB のグローバル展開を支えるには、強固なインフラが不可欠です。MLB は、Google Cloud のインフラを活用することで、米国内では以下を実現しています。
- リアルタイム分析: MLB は Vertex AI と Gemini を使用してデータをリアルタイムに分析し、歴史的瞬間を瞬時に特定します。例えば、プレーを野球の全歴史データと比較して、前例のない記録やユニークなプレーを識別します。
- 統計配信の高速化: 統計配信を 300 ミリ秒短縮し、ボールやストライク判定をリアルタイムで分析できるようになりました。
- スケーラビリティと信頼性: 150 以上の Google Kubernetes Engine(GKE)クラスターと 6,000 のアプリケーションが 34 の事業部門とすべての MLB 球場で稼働しており、シーズン中のピーク需要にも対応できるスケーラビリティと信頼性を実現しています。
- 分析の高速化: 従来より 50 倍速く大量のデータセットを分析できるようになり、これまで見えなかった洞察を発見できるようになりました。
ファン体験の刷新
Gemini と Vertex AI の活用により、MLB のファンとの関わり方は一変しています。Google Cloud の高可用性ソリューションを通じて、MLB はファンとの関わり方を変革し、過去最高水準のアプリ評価を獲得しています。
- コンテンツのパーソナライズ: MLB は Vertex AI を活用してファン データを安全に分析し、一人一人に合わせてパーソナライズされたコンテンツを提案しています。これにより、すべてのファンが求める情報をタイムリーに提供します。
- コンテンツの強化: Gemini を活用し、最も盛り上がる瞬間や重要な統計データを特定し、コンテンツ制作チーム、解説者や放送関係者、そしてファンにリアルタイムに提供します。
Vertex AI と Gemini は、野球を世界中のファンに届ける上で重要な役割を果たしています。高度な翻訳機能により、 MLB はさまざまな文化圏の視聴者にコンテンツを多言語で発信しています。日本の野球ファンは、これまで英語でのみ利用可能だったリアルタイムの統計、選手情報、試合分析を日本語で楽しめるようになりました。
チームの強化と運営の効率化
MLB と Google Cloud のパートナーシップは、チームのデータ活用、分析、戦略的意思決定の方法を根本から革新しています。MLB は、リーグ全体の運営を効率化し、全チームにデータとツールへのアクセスを提供する強力なエコシステムを構築しました。
- データドリブンな意思決定: MLB の全 30 チームが Statcast データに平等にアクセスでき、選手のパフォーマンス向上や選手育成、戦略に関する判断を支援する独自の AI モデルを構築できます。
- 統合プラットフォーム: MLB は、統合開発およびデプロイ プラットフォームとして Anthos を採用し、コンテナ化されたアプリケーションの実行には Google Kubernetes Engine を活用しています。これにより、需要に応じてリソースをスムーズに拡張できます。
- エッジ コンピューティング: Google Distributed Cloud を活用し、球場に近い場所でデータを処理することで、レイテンシを低減し、ファン体験を向上、また、試合中リアルタイムのデータドリブンな意思決定が可能になりました。
- Cloud Monitoring: Google Cloud の Logging、Monitoring、CloudTrace を活用してクラウド監視を一元化しています。これをBigQuery による詳細なデータ分析と組み合わせ、貴重な洞察を得ています。
野球を世界中のファンに
MLB の Google Cloud との取り組みは、スポーツ団体がテクノロジーを活用してパフォーマンスを向上させ、ファン体験を強化し、運用効率を改善できることを示す好例です。これは始まりに過ぎません。MLB は AI やクラウド技術の新たな活用方法を模索し続けており、野球が世代を超えて魅力的なスポーツであり続けるよう取り組んでいます。
MLB が日本でシーズンを開幕することが示すように、野球は今後ますますグローバルに展開されていきます。Google Cloud のテクノロジーにより、東京、ニューヨーク、あるいは世界のどこから観戦していても、高品質で豊富なデータとともに野球をさらに魅力的なエンターテインメントにとして楽しむことができます。
Google Cloud は今後も MLB とともに革新を続け、AI とクラウド テクノロジーを活用して野球を世界中の次世代のファンにとってより魅力的で親しみやすいものにするための新しい方法を探求していきます。