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AI & 機械学習

HSBC、ポリシーの専門家にかかる電話の負担を Dialogflow のデプロイで軽減

2021年3月24日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2021 年 3 月 11 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

銀行は、世界で特に規制の厳しいビジネスの一つであり、地域や銀行内のポリシーと手順に基づく規制に従う必要があります。リテール バンキング、パーソナル バンキングにおいて世界有数の金融グループである HSBC では、世界中に擁する専門家が、何千人ものリスク管理担当者からの内部ポリシーに関する質問にその都度回答しサポートしています。膨大な業務量が発生する HSBC では、リスク管理に関する日々の意思決定を行うにあたり、内部ポリシーの専門家に毎年何万回もの電話をかけることが必要になります。

世界中から質問が寄せられるため、タイムゾーンの違いや個々の仕事量によって、遅延が生じることも当然あります。また、人々の対応も日によって異なります。HSBC のイノベーション、金融、リスク部門のグローバル ヘッドを務める Steve Suarez 氏と、アジア太平洋地域のリスク変革およびイノベーション部門の責任者を務める Gareth Butler 氏は、同行が人工知能(AI)を使用することで、運用リスクと耐障害性に対する新たなアプローチを実現できると考えました。目標としたのは、質問への迅速な回答と、ポリシー対応における全体的な一貫性と質の向上です。

Contact Center AI を使用した構築により、迅速で一貫した回答を提供

HSBC は、AI と機械学習(ML)を使用して、従業員が手動で集中的に行っていた問い合わせに費やす時間を短縮し、ポリシー対応の一貫性を高め、どのような質問が行われているのかを把握したいと考えていました。そのため、大規模でグローバルな環境をサポートするソリューションの構築を構想しました。同行は、市場の主要な AI ソリューションを評価した後、これまでの戦略的関係を活かして、このプロジェクトに Google Cloud を選びました。HSBC は Google Cloud のカスタマー エンジニア チームと協力し、パートナーである KPMG のイノベーション部門との連携を図って、オペレーショナル レジリエンスとリスク アプリケーション(ORRA)を設計して提供するためにプロジェクト チームを結成しました。HSBC が最初に構築を希望したのは、多数のよくある質問(FAQ)とドキュメントの検索に対応する chatbot です。

ORRA は動的なドキュメント検索を行い、Google Cloud Contact Center AIコア コンポーネントである Google Cloud Dialogflow により自然な会話を実現します。すべての従業員が HSBC のイントラネットから簡単にアクセスできる ORRA は、同行全体に適用される内部ポリシーやフレームワークといった分野の問い合わせに回答します。さらに、Dialogflow の使用により、HSBC はユーザーのニーズに迅速、正確、大規模に対応できる会話型プラットフォームを構築することができました。

HSBC は、大規模な会話型 FAQ フロー向けに、コスト効率が良く機能豊富なソリューションとして Dialogflow を選びました。チームは、インテント、発話、回答で構成される初期のナレッジベースを作成し、一括アップロード機能を使用して Dialogflow コンソールにそのデータを読み込みました。そして幅広いネイティブ機能を利用してインテントを精緻化し、応答をトレーニングしたうえで同義語とエンティティを作成しました。また、bot の反応に人間味が感じられるようにスモールトーク機能を追加して、「実際の個性」も組み込みました。

チームは、Google Cloud の chatbot アーキテクチャ内に、使いやすいユーザー インターフェース(UI)で検索結果を返す社内ドキュメント検索機能を実装しました。この検索機能と Dialogflow を組み合わせることで、HSBC の従業員に画期的なソリューションを提供することができました。自然言語処理(NLP)を使用したアプリの柔軟性により、ユーザーは質問に対して直接回答を得ることができ、大量のドキュメントから補足的な回答を数ミリ秒で取得できます。それもすべて同じ UI からです。また、Dialogflow のネイティブな機械学習と NLP 技術により、ユーザー エクスペリエンスが向上するだけでなく、複雑な会話アーキテクチャを開発するために必要なセットアップの手間も軽減されています。

機械学習を使用した、情報に基づく意思決定

Suarez 氏は次のように述べています。「問い合わせの種類、頻度、ソースの分析から得られる知識は、それ自体が社内で求められている情報に関しての貴重なビジネス インテリジェンスであると言えます。ORRA はあらゆる会話から学習します。最も基本的な部分として、従業員が特定のポリシーについて質問するほど、そのポリシーが簡素化されたり改訂されたりする可能性が高くなります。」

また、Butler 氏は次のように述べています。「ORRA は情報にすばやくアクセスできるようにするだけでなく、学習や開発、そしてポリシーや手順の定着にも重要な効果をもたらします。問い合わせのフローが増えると、アーキテクチャは機械学習とユーザー フィードバックを使用して、最適な対応を決定します。」

「情報を得るまでのスピードが重要です。FAQ chatbot を導入する前は、誰かに質問されて、答えを知らなかったり、以前と違う答えをしたりした場合、少し調べてから答えを返す必要がありました。人々は外出先でも毎日 Google を使用して質問に答え、また瞬時に正確な回答を得ています。同様に、当行のユーザーもポリシー ドキュメント全体を読まなくても、馴染みのある方法で情報を入手できるようになりました」と、Suarez 氏は述べています。これにより、リスク管理マネージャーは瞬時に正確なポリシー情報を入手できるようになり、対象分野の専門家は日常業務ではない分野での付加価値の向上に時間を割くことができるようになったということです。

組織全体にスケールできる会話アーキテクチャの作成

ORRA の今後のバージョンでは、判断に関するガイダンスが含まれる予定です。HSBC でアーキテクチャ、ポリシー、規制マッピング部門の責任者を務める Chris Wilson 氏は、次のように述べています。「今後さらに、リスクの受容、問題、関連性についても機能を追加していく予定です。」

HSBC の次なる進化版の FAQ chatbot では、他のポリシーや手続きデータを取り込むためのアーキテクチャのスケーリングが必要になります。「これは、会話型 AI に対する取り組みの序章にすぎません」と、Butler 氏は補足しています。このソリューションは、より多くのポリシーやドキュメントに対応できるだけでなく、複数の言語、モバイル インタラクション、音声をサポートするよう拡張でき、数値やテキストベースのデータストアを検索することも可能です。同氏は次のようにも述べています。「より多くの情報がクラウドでホストされることで、この分野の可能性がさらに広がります。」

HSBC は、AI / ML ソリューションを組織の他の領域にどのように拡張できるかを注視しています。また、ORRA の開発と実装にリソースを投じたことで、今後の拡張も簡単で費用対効果の高いものになると確信しています。chatbot が私たちの生活のあらゆる分野で普及していることを鑑みると、銀行にとっても chatbot は不可欠であると Suarez 氏は考えています。

「今後、私たちは日常的な取引で、chatbot と頻繁にやり取りすることになるでしょう。金融サービス業界のリーダーであり、テクノロジーのイノベーターでもある HSBC は、クラウドベースの chatbot テクノロジーを活用して、お客様に迅速で正確な回答を提供するための第一歩を踏み出しています」と、同氏は述べています。


-Google Cloud グローバル ファイナンシャル サービス業種別ソリューション部門バイス プレジデント Derek White
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