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AI & 機械学習

Cloud AI で形作る小売の未来 ーオンラインと実店舗

2019年12月16日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2019 年 11 月 28 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

バーコード スキャンやデジタル POS デバイスをはじめとする初期のイノベーションから、最新ロジスティクスのグローバル フロンティアまで、テクノロジーは数十年にわたって小売業界で重要な役割を果たしてきました。とはいえ、根本的な部分は依然として変わりません。小売業者は膨大なデータを生成し、予測不可能な環境に直面するうえ、絶えず進化する顧客ニーズに継続的に適応する必要があります。ブラック フライデーやサイバー マンデーの混乱は、企業が抱える課題の中でも特に複雑な課題でしょう。

このような課題は AI が得意とするところでもあります。AI はビッグデータによって成長し、変化に円滑に適応して、パーソナライズされたエクペリエンスを大規模に提供できるテクノロジーだからです。クリスマスを間近に控え、Cloud AI のお客様 2 社(オンライン購入客向けの 3PM と実店舗向けの Tulip)が、小売業の効率性やカスタマイズ性、信頼性を高めるためにどのような対策を行っているかをご紹介します。

Tulip は、世界中のブランドが実店舗でのエクスペリエンスに e コマースの柔軟性やパーソナライズを取り入れられるよう支援しています。オンライン専門の 3PM は、さまざまな e コマース市場で数百万もの販売者を継続的に追跡し、偽造品や商標権侵害などの略奪的慣行への対策を一変させるために貢献しています。

3PM:  世界規模でオンライン市場を保護

信頼はすべての小売エクスペリエンスの基盤であり、特にオンラインではそれが当てはまります。
しかし、Amazon、eBay、Walmart.com といったオンライン市場の急増に伴い、商標、著作権保護コンテンツなどのブランド資産があまりにも多くの場所に分散しているため、効果的に監視できないことが少なくありません。

特に厄介なのは、偽造品が世界で急速に増加していることです。偽造品はスニーカーやハンドバッグだけにとどまりません。不正なサプリメントや処方薬、ベビーフードもオンラインで簡単に手に入ります。それらは、お客様を欺くことを目的とした一見よさそうな説明を提示し、消費者の健康を脅かす可能性があります。偽造品は分散化する傾向にあるため、小規模な販売業者も世界的ブランドも一様に、それらを抑制するのは難しいと感じています。そのため、市場の外にあるソリューションが必要とされています。 

3PM Solutions は、この状況に手を差し伸べる機会を見いだしました。3PM のツールスイートは、高度な分析力と世界規模のデータを組み合わせることで、偽造品を自動的に検出することや、長期にわたってブランドの評価を監視すること、そしてブランドがお客様に対する理解を深めやすくすることを可能にします。

しかし、そのような大掛かりなビジョンを実現するうえで、3PM にとって重要な技術的課題が浮上しました。それは、オンライン市場ではリスティングの形式や構造が日常的に変わり、手書きのルールやフィルタがすぐに複雑になるということです。しかも、こうしたリスティング内のコンテンツは信頼性が低いことで有名です。たとえば、偽造者がブランド名や商品名のスペルを意図的に変えて、商品が監視対象から外れるようにすることがよくあります。このような巧妙な仕掛けに対応するには、大量のデータを取り込みながら、データの性質が変化するにつれて進化できる格別に柔軟なソリューションが必要になります。

こうした課題により、3PM は Google Cloud Platform への移行に踏み切りました。自社のデータとインフラストラクチャ、さらには最先端の AI ツールキットを単一環境に導入したのです。

3PM は Google Cloud の柔軟性を活かして、創造的なアジャイル開発プロセスを実装しました。同社の開発者は、TensorFlow ベースの画像分類子を設計し、数十億ものサンプルでトレーニングを行い、セルフサービス ツールの基盤を形成して、商品写真、ロゴ、その他の商標の不正使用をブランドが正確に検出できるようにしました。また、カスタム機械学習モデルを構築し、商品リスティングをインテリジェントに分析できるようになりました。各モデルは画像やタイトルなどの基本的なもの以外についても調査し、さまざまなデータポイントを組み込んで、人はもちろん、ルールベースのシステムが見落としてしまう不正に関連した微妙な特徴を検出できます。3PM は Cloud Translate API も使用して言語の壁を自動的に乗り越えました。

Tulip: 実店舗エクスペリエンスにデジタル パーソナライズを取り入れる

もちろん、実店舗は依然として、無数にあるブランドのアイデンティティの基本となっています。
すべての売上の 80% は実店舗によるものです。それでも、e コマースのスピード、柔軟性、徹底的なパーソナライズは、あらゆる場所で(店頭購入する場合でも)お客様の期待に影響を与えており、小売業者は遅れを取るまいと躍起になっています。

Tulip は、こうした要求に小売業者が応えられるように、強力なモバイルアプリ スイートで支援しています。商品の検索、顧客情報の管理、購入客の照合、お客様とのコミュニケーションを問わず、販売員は店舗内のどこにいてもデジタル世界の力を利用できます。Tulip は、実店舗がお客様との関係を好みや行動、購入に基づいて深められるようにサポートし、オンラインと同じように、グローバル ブランドのビジネスの手法を変えています。

どの小売アプリケーションにおいても、主要な課題は予測です。予期しないファッションの流行や、ブラック フライデーのような毎年恒例の行事など、小売店には販売需要の急増や一時的な落ち込みがあるため、従来方式のコンピューティング リソースの割り当てが非常に難しいことがあります。 

Tulip のインフラストラクチャ用ソフトウェア担当ディレクターである Jeff Woods 氏は、次のように説明しています。「ピーク時の需要に合わせてスケールしなければならなかったため、事前に容量を確保しておく必要がありましたが、販売需要が低いときはほとんどアイドル状態でした。コストがかさむ困難な状況に陥りました。私たちはベンダーに恣意的な制限を差し控えるよう常に求めていました。大量のインスタンスを使用する必要があったのです。しかも、スケールダウンは至難の業でした。」

Tulip は Google Cloud に移行してから、すぐに任意のサイズにスケールできるインフラストラクチャにデプロイできるようになりました。支払いは使用した分のみです。また、その過程で世界最先端の機械学習技術もいくつか利用できるようになりました。現在はデータ、インフラストラクチャ、AI ツールが 1 か所にまとまり、Tulip はまったく新しいインテリジェンスをソリューションに組み込める体制となりました。

Tulip のソリューションは、AI Platform で実行される一連のカスタム TensorFlow モデルを使用して、お客様の店舗用モバイル アプリケーションのデータに基づき顧客分析情報と販売機会を特定します。これにより、お客様に連絡するタイミングや、カスタマイズ性や関連性の高いコミュニケーションでお客様を引き付ける方法について提案が行えるようになります。 

Tulip のソリューションは、Deployed AI の威力が発揮される典型例です。大量のデータの中から、これまで見えなかったパターンを検出することで、明確に定義されたビジネス上の課題を通常の業務に支障のないスピードで解決できるようになります。Tulip の設立者兼 CEO である Ali Asaria 氏は、次のように述べています。「Tulip は毎日、チャネル全体でのお客様とのやり取りから何百万ものデータポイントを収集しています。Google の機械学習とビッグデータ プロダクトをコア プラットフォームに統合することで、そのデータを使用し、取引先の小売店にインテリジェントな分析情報や提案を提供できるようになりました。」

まとめ

ほんの数年前まで、3PM や Tulip をはじめとする多くの企業にとって、AI はコストのかさむ、敷居が高い技術でした。しかし、どちらのケースでも、Google Cloud に移行することで、AI テクノロジーが手頃な価格で相互運用性があり、使いやすいことが実証されています。そして、革新的な結果が得られています。

対象とする客層が実店舗かオンラインかを問わず、Tulip や 3PM などの企業は、小売業におけるやり取りの安全性を確保したり、ショッピング エクスペリエンスを向上させたりするうえで、AI がかけがえのない機能になりつつあることを実感しています。これは、最先端のテクノロジーを使用して、長年のビジネス上の課題が克服された、Deployed AI の応用事例の一つにすぎません。

- by Google Cloud AI プロダクト管理担当バイス プレジデント、Rajen Sheth

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