Vertex AI、マルチエージェント システムの構築と管理の新機能を提供

Saurabh Tiwary
Vice President and General Manager, Cloud AI
すべての企業は近い将来、「マルチエージェント システム」を活用するようになるでしょう。これは、異なるフレームワークやプロバイダー上に構築された複数の AI エージェントが連携して動作するシステムです。エージェントは、推論、計画、および記憶機能を活用し、ユーザーに代わって行動できるインテリジェントなシステムです。ユーザーの監督のもと、複数先のステップ先を考え、さまざまなシステム間でタスクを達成することができます。
マルチエージェント システムは、Gemini 2.5 のような高度な推論能力を持つモデルに支えられます。また、ワークフローとの統合や企業データへの接続も不可欠です。Vertex AI は、AI エージェントを構築および管理するための包括的なプラットフォームであり、これらの要素をシームレスに統合します。オープンなアプローチと総合的なプラットフォーム機能を独自に組み合わせることで、エージェントの信頼性を確保します。このような組み合わせなしでは、断片的で脆弱なソリューションしか実現できません。
本日、Vertex AI の機能強化を発表し、以下が可能になりました。
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オープン アプローチでエージェントを構築し、エンタープライズ グレードの制御で実行
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Agent Development Kit (ADK) は、Google Agentspace および Google Customer Engagement Suite(CES)エージェントと同じフレームワークに基づいて構築されたエージェント設計のためのオープンソース フレームワークです。Agent Garden では、多数の強力な事例と拡張可能なサンプル エージェントがすぐに利用できます。
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Agent Engine は、Vertex AI のフルマネージド ランタイムです。テスト、リリース、信頼性の機能が組み込まれたカスタム エージェントを、グローバル規模で安全に本番環境にデプロイできます。
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企業のエコシステム全体でのエージェント連携を実現
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Agent2Agent プロトコルは、フレームワークやベンダーの違いを超えて、エージェント間の共通言語となります。Google Cloud が推進するこのオープン イニシアチブには、業界をリードする 50 以上のパートナー企業が参加し、拡大中です。共通のビジョンであるマルチエージェント システムを実現します。
エージェントへのデータ提供は、Model Context Protocol (MCP)などのオープン標準を使用するか、Google Cloud 上で管理されている API やコネクタに直接接続できます。AI 回答のグラウンディングには、Google 検索、独自のデータソース、Google マップのデータが活用できます。
Agent Development Kit と Agent Garden: オープン アプローチでエージェントを構築
Agent Development Kit(ADK)は、エージェントや高度なマルチエージェント システムの構築を簡素化する新しいオープンソースフレームワークです。エージェントの動作を正確に制御しながら、100 行未満の直感的なコードで AI エージェントを構築できます。
現在、Pythonに対応しており、2025 年後半にほかの言語にも対応予定です。次のことが可能となります。
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決定論的なガードレールとオーケストレーション制御により、エージェントの思考、推論、コラボレーションの方法を設計し、動作と意思決定プロセスを緻密に制御できます。
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ADK 独自の双方向オーディオおよびビデオ ストリーミング機能で、エージェントと人間のような自然な会話が実現します。数行のコードで、テキストを超えた高度な双方向コミュニケーションが可能となり、エージェントとの新しい働き方が生まれます。Google Cloud Next 25 の基調講演では、ADK 上に構築したインタラクティブ エージェントのデモを紹介しました。
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Agent Garden は、すぐに使えるサンプルとツール集で、ADK 内で直接アクセスし、開発を迅速に開始できます。事前構築されたエージェント パターンとコンポーネントで開発プロセスを加速し、実例から学べます。
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最適なモデルを自由に選ぶことができます。ADK は、Gemini や Model Garden からアクセス可能なモデルと連携し、Google のモデルだけでなく、Anthropic、Meta、Mistral AI、AI21 Labs、CAMB.AI、Qodo などのプロバイダーの 200 以上のモデルに対応します。
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デプロイ先を、ローカル デバッグ環境もしくは Cloud Run、Kubernetes、Vertex AI などのコンテナ化された本番環境まで選択可能です。Model Context Protocol(MCP)もサポートしており、データとエージェント間の安全な接続を実現します。
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Vertex AI への直接統合で、本番環境にデプロイします。開発からエンタープライズ グレードの本番環境への明確なパスは信頼性が高く、エージェントを本番環境に移行する際の一般的なオーバーヘッドを大幅に削減します。
ADK は任意のツールと連携しますが、Gemini と Vertex AI に最適化されています。例えば、Gemini 2.5 Pro Experimental を使用して ADK で構築された AI エージェントは、Gemini の高度な推論能力で複雑な問題を分解し、ツール使用機能で様々なシステムと連携させることができます。また、このエージェントをフルマネージド ランタイムにデプロイし、ADK から Vertex AI へのネイティブ統合を使用してエンタープライズ規模で運用することもできます。


マルチエージェント システムの構築方法を示す ADK フレームワーク
お客様による ADK 導入事例
「Revionics では、Agent Development Kit を使用して、小売業者向けのマルチエージェントシステムを構築しています。これにより、ビジネス ロジックに基づいて価格を設定し、競争力とマージンのバランスをとりながら価格変更でき、価格変更の影響を正確に予測できます。ADK はエージェント間の連携と計画を効率化し 、専門エージェント間の転送タイミング(データ取得)とツール(制約適用)の連携を最適化します。Revionics の価格設定 AI とエージェント AI を組み合わせることで、価格設定の全工程を自動化します。データは、 Revionics のプロセスの中核であり、データ処理においては、 LLM コンテキストだけに頼らず、ストレージ アーティファクトを通じて効率的にビッグデータを推論できます」– Revionics、Product Engineering and AI 担当バイスプレジデント Aakriti Bhargava 氏
「私たちは ADK を使用して、EV 充電器がドライバーのニーズに適した場所に設置されているかを確認するためのエージェントを開発しました。このエージェントは、データ アナリストが地理、区画、交通のデータを活用して、チームの負担を軽減しながらドライバーの利便性を最大化する重要な EV インフラ投資の情報収集と優先順位付けを支援します。」 – Renault Group、最高データ (& AI) 責任者 Laurent Giraud 氏
「私たちは、Gemini を搭載したビデオ分析 AI エージェントのバックボーンとして Agent Engine を実装しました。これにより、インフラストラクチャを気にせずに Python Vertex AI SDK を活用でき、推定 1 か月の開発時間を節約できます。さらに、Agent Engine の API は Workflows などの他の Google Cloud プロダクトとシームレスに連携し、保守性に優れており、今後の進化に期待しています。」 – 日本テレビホールディングス株式会社 経営戦略局 経営戦略部 主任、辻 理奈氏
Agent Engine: エンタープライズ グレードの制御を備えた AI エージェントの導入
Agent Engine は、AI エージェントを簡単に本番環境にデプロイできるフルマネージド ランタイムです。プロトタイプから本番環境への移行時にエージェント システムを再構築せず、エージェントのコンテキスト管理、インフラストラクチャ運用、スケーリングの複雑さ、セキュリティ、評価、および監視を一括で処理します。また、Agent Engine は ADK を含むお好みのフレームワークと統合され、開発から本番環境までのスムーズなエクスペリエンスを実現します。
さらに、以下も可能になります。
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どのフレームワークで構築されたエージェントもデプロイ可能: ADK、LangGraph、Crew.ai などさまざまなフレームワークで構築したエージェントを、Gemini、Anthropic の Claude、Mistral AI など、モデルを問わずデプロイできます。この柔軟性に加え、ガバナンスとコンプライアンスのためのエンタープライズ グレードの制御機能も備えています。
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セッション内のコンテキストを保持: Agent Engine は、毎回ゼロから始めるのではなく、短期および長期メモリをサポートします。これにより、セッション管理や、過去の会話や設定の記憶が可能になります。
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エージェントの品質を測定し、改善: Vertex AI の包括的な評価ツールを活用し、改善します。Example Store を使用、もしくはモデルのファインチューニングして、実際の使用状況に基づいてエージェントを改良することで、エージェントのパフォーマンスを向上します。
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Agentspace に接続して導入を拡大: Agent Engine でホストしているエージェントを Google Agentspace に登録できます。このエンタープライズ プラットフォームにより、Gemini、Google 品質の検索機能、強力なエージェントを従業員に提供しつつ、一元化されたガバナンスとセキュリティを維持できます。
ここでは、その仕組みをご紹介します。


Agent Engine は、マルチエージェント システムのために企業全体に接続
今後数か月のうちに、Agent Engine の機能をさらに拡張し、高度なツールとテスト環境を提供する予定です。エージェントはコンピュータ操作機能を持ち、コード実行も可能になります。さらに、専用のシミュレーション環境で、さまざまなユーザー ペルソナと実用的なツールを使った厳密なテストにより、本番環境での信頼性を確保します。
Agent2Agent プロトコル: エンタープライズ エコシステム全体でのエージェント連携を実現
企業における AI 普及の大きな課題の 1 つは、異なるフレームワークやベンダーが構築したエージェント間の連携です。そこで Google Cloud は、マルチエージェント システムのビジョンを共有する多くの業界のリーダー企業と協力して、オープンな Agent2Agent(A2A)プロトコルを開発しました。
Agent2Agent プロトコルにより、ADK、LangGraph、Crew.ai などのフレームワークやベンダーの違いを超えて、あらゆるエコシステム上のエージェント間の通信が可能になります。A2A を使用すると、エージェントは自身の能力を公開し、テキスト、フォーム、双方向のオーディオ、ビデオなど、ユーザーとの安全な対話方法を調整できます。
現在、Box、Deloitte、Elastic、Salesforce、ServiceNow、UiPath、UKG、Weights & Biases など、50以上のパートナーが、このプロトコルに参加しています。


パートナーと共に相互運用性を定義
エージェントは、エージェント間での接続だけでなく、データソース、API、ビジネス機能のエコシステムであるエンタープライズ トゥルースにもアクセスする必要があります。エージェントに既存のエンタープライズ トゥルース データを提供するために、ゼロから構築し直すことなく、お好みのアプローチを使用できます。
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ADK は Model Context Protocol(MCP)をサポートしており、エージェントは、MCP 互換ツールのエコシステムを活用して、すでに利用している膨大で多様なデータソースや機能に接続できます。
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ADK から、エージェントをエンタープライズ システムや機能に直接接続できます。100 以上の事前構築済みコネクタ、アプリケーション統合で構築したワークフロー、AlloyDB、BigQuery、NetApp などのシステム内に保存されたデータにアクセスできます。たとえば、NetAppの既存データ上に 直接 AI エージェントを構築できるため、データの複製が不要です。
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ADK を使用し、LangGraph などの他のフレームワークで構築されたエージェントにシームレスに接続したり、MCP、LangChain、CrewAI、Application Integration、OpenAPI エンドポイントなどのさまざまなソースからツールを呼び出すこともできます。
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Apigee API 管理は、Google Cloud 内外でビジネスを強化する 80 万以上の API を管理しています。ADK を使用すると、エージェントは、適切な権限でこれらの既存の API 投資を活用できます。
接続後は、Google 検索情報や Cotality、Dun & Bradstreet、HGInsights、S&P Global、Zoominfo などのプロバイダーによる専門データを使用して、AI の応答のグラウンディングが可能です。地理空間のコンテキストを必要とするエージェント向けに、本日からGoogle マップによるグラウンディングが利用可能になりました。Google マップのデータは毎日 1 億回更新されており、常に最新かつ正確な情報が提供されます。Google マップでのグラウンディングにより、エージェントは米国内の何百万もの場所に関連付けられた地理空間情報を回答に含められるようになります。
エンタープライズ グレードの AI エージェント セキュリティ: 信頼できるエージェントの構築
機能面以外にも、本番環境で動作するエンタープライズ AI エージェントは、プロンプト インジェクション攻撃、不正なデータアクセス、不適切なコンテンツの生成などのセキュリティ上の課題に直面しています。Google Cloud の Gemini と Vertex AI を活用することで、これらの課題を多層的に解決できます。
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Gemini に組み込まれた安全機能で、設定可能なコンテンツ フィルター、禁止トピックの境界設定、ブランド トーンに合わせたシステム指示などで、エージェントの出力を制御できます。
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ID 制御を通じてエージェント権限を管理し、エージェントを専用のサービス アカウントで動作させるか、個別ユーザーの代理として操作させるかを設定できます。これにより、権限昇格や不正アクセスを防止します。
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Google Cloud VPC サービス コントロールを使用してエージェントのアクティビティを安全な境界内に制限し、機密データ保護、データ流出防止、影響範囲の制限を実現します。
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エージェント周囲にガードレールを設置し、モデルに到達する前の入力スクリーニングからツール実行前のパラメータ検証まで、全ステップでのインタラクションを制御します。データベースクエリを特定のテーブルに制限したり、軽量モデルで安全性検証を追加するなどのポリシーを適用する防御境界を構成できます。
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包括的なトレース機能を使用してエージェントの動作を自動監視し、推論プロセス、ツール選択、実行パスなど、エージェントが実行するすべてのアクションを可視化します。
マルチエージェント システム構築の始め方
Vertex AI の真の価値は、個々の機能だけでなく、それらが統合された全体としての連携にあります。以前は、複数のベンダーの断片的なソリューションをつなぎ合わせる必要があったものが、今では単一のプラットフォームでシームレスに実現できます。この統一アプローチにより、モデル選択、エンタープライズ アプリやデータとの統合、本番環境準備における難しい選択が不要になります。結果として、開発の高速化だけでなく、エンタープライズワークフローに対応した信頼性の高いエージェントが実現します。
今すぐ始めるには
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Agent Development Kitで開発を開始
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Vertex AI コンソールにアクセス
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ドキュメントを参照
Google マップによるグラウンディングは、現在、米国で試験運用版として提供されており、米国内の場所データのみにアクセスできます。