コンテンツに移動
Media & Entertainment

レーサー諸君、エージェントを始動せよ!フォーミュラ E がリアルタイム AI をエッジに導入

2026年10月9日
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/THOMAS_0490_-_FormulaE_-_Goodwood_FOS_-_Ju.max-2500x2500.jpg
John Abel

Managing Director, Specialized Software, Office of the CTO, Google Cloud

Alastair Breeze

Staff Software Engineer, Office of the CTO, Google Cloud

グッドウッド ヒルクライムで記録に挑むフォーミュラ E は、企業向け Gemini、Gemma、ダッシュボードに固定された Pixel スマートフォンを活用し、AI とエッジ コンピューティングの可能性を押し広げました。

Gemini を今すぐお試しください

職場での AI 活用、その入り口に

今すぐ試す

グッドウッド フェスティバル オブ スピードのヒルクライムのスタートラインに立つダン ティクトゥム(Dan Ticktum)選手の気分を想像してみてください。新しいフォーミュラ E Gen4 マシンに体をしっかり固定しています。コックピット内は華氏 120 度(摂氏 49 度)の酷暑であり、走行時の激しい振動が身体を襲います。わずか 3 秒後には、時速 100 マイル(約 160 km/h)を超えるスピードでコースを駆け抜けることになります。

この速度域では、視界や身体のコントロールが曖昧で不安定になるだけではありません。ネットワークのレイテンシ(遅延)が原因で、クラウドベースのデジタル アシスタンスや AI への接続がほぼ不可能になります。勝利に貢献するような極めて重要な情報が、文字通り車両の後方に遅れて取り残されてしまうのです。

仮にクラウドからの実行可能な提案が数秒の往復で戻ってきたとしても、ティクトゥムのようなドライバーはその情報が届く前にすでに次のコーナーを通過しています。無線越しに指導するコーチ陣も、マシンからの真のリアルタイムのテレメトリ データにアクセスできないまま、次の重要な指示を出さざるを得ません。

最大の競争優位性が優れたタイヤやシームレスなシフト トランスミッションから生まれていた時代を覚えている往年のモータースポーツ ファンは、データの遅延に関する懸念を些細なことと笑い飛ばすかもしれません。しかし、現代のあらゆるスポーツにおいて、勝利はテクノロジーがもたらす極めて僅かなアドバンテージ(マージナル ゲイン)によって生み出されることが少なくありません。すべてのチームとドライバーがほんの少しのアドバンテージを求めてしのぎを削り、表彰台の順位が 10 分の 1 秒や 100 分の 1 秒で決まる現在、すべてのデータポイントが極めて重要な意味を持ちます。

レーシング チームにとって、マシンを構成する高度なテクノロジーに AI を組み込む方法を見つけることが重要です。モータースポーツは常に最先端を走り続けているため、私たちの多くにとって日常的になったテクノロジーを無視することはできません。

記録的なレースカーを製造するうえで軽量素材が鍵となるのと同様に、Google の Gemma モデルのような軽量 AI モデルも、コース上にとどまらずフォーミュラ E にさらなる車載インテリジェンスをもたらすことができると分かってきました。すでに、あらゆる種類の車両を革新する軽量 AI の成果が表れ始めています。

今年 7 月、ティクトゥム選手はグッドウッド ヒルクライムにおけるシングルシーターのコース記録更新まであと 0.86 秒に迫る快走を見せました。このコースは非常に狭く、びくともしないフリント(火打石)の石壁と藁束で覆われ、ミスの余地が実質的に存在しないことで知られています。フォーミュラ E マシンで樹立されたこの基準記録(41.6 秒)は、四半世紀もの間破られていません。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/Formula-E-Goodwood-YT-hero.max-1300x1300.jpg

Gemma と Gemini Nano をベースとし、Pixel スマートフォン上で動作するオンデバイス AI「デジタル ウィングマン」のサポートにより、ティクトゥムのチームはエッジでライブ テレメトリを処理し、彼のヘルメットに自動コーチングを直接届けることができました。この新しいツールはパフォーマンスを研ぎ澄まし、2026 年のレースカーで実現可能な限界を押し広げるのに貢献しました。

リアルタイム コーチングの実現

フォーミュラ E チームと Google Cloud のパートナーは、共に追求するイノベーションがいつか世界中のドライバーに恩恵をもたらすことを強く意識しているため、単に記録の更新だけを目指しているわけではありません。そもそもフォーミュラ E は、電気自動車のパワーと可能性によって人々にインスピレーションを与える目的も兼ねて開発されたものであり、現在は自動車向け AI の可能性に対しても同様の役割を果たしています。

ティクトゥムのチームは、コックピットにリアルタイム コーチングを持ち込むには新しいアプローチが必要であると認識していました。彼らは、Google の軽量でありながら柔軟性の高い Gemma モデルを用いたエッジ コンピューティング手法を活用することで、Gemma の超高速な処理速度を損なうことなく、レースの意思決定を分析するのに十分なインテリジェンスをシステムに組み込める可能性があると判断しました。

チームは、データやネットワークの要求の先を見据えていました。フォーミュラ E Gen4 のコックピット内に配置された従来のエッジ ハードウェアでは、車内の極端な熱、振動、無線干渉に対処するのが困難であることを理解していたからです。

その解決策とは、一般的な軽量デバイスである、ダッシュボードに直接ボルトで固定された Android 搭載の標準的な Google Pixel 10 Pro XL でした。スマートフォンは日常的に多様な使われ方をするため、多くの産業用機械よりも過酷な使用に耐えられるように設計されていることが分かったのです。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/THOMAS_9851_-_FormulaE_-_Goodwood_FOS_-_Ju.max-1500x1500.jpg
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/THOMAS_9775_-_FormulaE_-_Goodwood_FOS_-_Ju.max-1500x1500_gKzvofY.jpg

今夏のグッドウッドでの記録挑戦中、ダン ティクトゥム選手のフォーミュラ E Gen4 マシンのコックピットに固定された Pixel 10 スマートフォンがリアルタイム コーチングを提供しました。

この Gemma + Pixel のソリューションを実際に機能させるため、チームはスタック全体にわたって革新を行い、マイクロ秒単位で正確なテレメトリをリアルタイムで処理できるようにしました。

  • 超低レイテンシ オーディオ: 最適化されたオフライン自動音声認識(ASR)モデルをデプロイすることで、システムは超低レイテンシでティクトゥムの声を検出することができました。この実戦で鍛え抜かれたアプローチにより高い信頼性が確保され、コミュニケーションは迅速、スムーズ、かつ自然に保たれました。
  • よりスマートなエッジ処理: チームは、高頻度(100Hz)のテレメトリをマシンから軽量なオンデバイス SQLite データベースへと直接ストリーミングしました。このデータを AI でローカルに前処理することにより、クラウドを待つことなくリアルタイムの状況に即座に反応することが可能になりました。
  • Pixel TPU 上の Gemma: Google LiteRT-LM 実行エンジンを活用することで、チームは Pixel の TPU 上で直接動作するように Gemma を最適化し、信じられないほどの低レイテンシで高速推論を実現しました。この強力な処理はデバイス上でネイティブに行われ、ここでもクラウドを待つことなく、即座でシームレスなレスポンスを提供しました。

エッジにおける AI はサーキットを越えて広がる

物流、交通、医療などの業界全体において、現場にリアルタイム AI を導入することは、歴史的に諸刃の剣でした。

接続性が弱いとクラウドとのデータ送受信の信頼性が損なわれますが、小型のエッジデバイスでローカルにデータを処理すると激しい熱が発生し、システム障害につながる可能性があります。Pixel に Gemma を統合することで、ティクトゥムのチームはそのギャップを埋め、クラウドに固有のセキュリティ、プライバシー、接続性のリスクを軽減しながら、即座で安全なオンデバイス意思決定を可能にしました。

この試みを通じて、Google Cloud は以下の機能を提供することで、ハードウェアと接続性の限界を克服しました。

  • ワークロードをインテリジェントに分割するハイブリッド AI アーキテクチャ: 即時性が求められる意思決定をデバイス上で直接実行し、より重い処理をクラウドにルーティングすることで、シンプルな操作を瞬時に行いつつ、ハードウェアのオーバーヒートを防ぎました。
  • オンボードの Tensor Processing Unit を備えた Google Pixel 10 Pro スマートフォン上でのオンデバイス AI エージェント処理: デバイス上でローカルに動作する Google の Gemma 4 は、エッジでの即時性が求められる分析を処理し、重要な意思決定のために永続的なインターネット接続を必要としないようにしました。
  • 企業向け Gemini のプラットフォームにおけるより深いインテリジェンス レイヤ: レイテンシの制約が少ない複雑なタスクをサポートし、エッジ環境とクラウド環境のエージェント間で双方向の Agent2Agent(A2A)運用モデルを構築しました。

このアプローチはセキュリティの観点からも重要でした。1 ミリ秒が明暗を分ける時速 100 マイル以上のスピードにおいて、レイテンシの削減は極めて重要だったからです。安全で主権的なクラウド アーキテクチャを車両に直接拡張することで、AI はローカル データベースに即座にアクセスできるようになりました。

このセットアップにより、高頻度のテレメトリをエッジで完全にプライベートかつ保護された状態に保ちながら、即座のリアルタイム ドライバー コーチングが可能になりました。また、マシンからのすべての 100Hz テレメトリはローカルで取り込まれ、書き込まれ、構造化されたため、機密性の高いデータが車両外に出ることはありませんでした。

Pixel に Gemma を統合することで、ティクトゥムのチームはセキュリティ、プライバシー、接続性のリスクを軽減しながら、即座で安全なオンデバイス意思決定を可能にしました。

Agent2Agent の連携による勝利

レース中、コックピットは完全にエアギャップ(外部ネットワークから孤立)されており、完全なデータ主権とセキュリティが確保されていました。しかしレース後、エッジはもはやクラウドと競合することなく、クラウドの安全な拡張機能として機能しました。このレース後の段階で、ローカルの Gemma インスタンスは Agent2Agent(A2A)プロトコルを使用してクラウド上の AI エージェントと通信を行いました。Gemma から Gemini への自動的な A2A 引き継ぎ(ハンドオフ)を実行し、レース後のメディア分析やエンジニアリング アナリティクスを即座に開始しました。

これは究極のピットストップのようなものであり、すべてのデータをレース後のメディア対応だけでなく、次のレースに向けた準備や微調整に活用できます。その後、すべてのデータが車載の Gemma ベースのシステムへとフィードバックされ、エッジにおけるテクノロジーの連携が、好循環の中で何度も繰り返されていきました。

グッドウッド ヒルクライムから最も要求の厳しいエンタープライズ環境に至るまで、新しいフォーミュラ E Gen4 における Gemma のパフォーマンスは、ハイブリッド AI アプローチを究極のエッジに導入した際に何が可能になるかを改めて実証するものとなりました。

※この投稿は米国時間 2026 年 9 月 3 日に Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

- Google Cloud、CTO オフィス、専門ソフトウェア担当マネージング ディレクター、John Abel

- Google Cloud、CTO オフィス、スタッフ ソフトウェア エンジニア、Alastair Breeze

投稿先