クラウドにおける二酸化炭素排出量の管理: 実例
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 6 月 10 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
気候変動に対する世界的な懸念が高まり続ける中、組織はサステナビリティに向けた取り組みを進めることが必要不可欠です。その際、企業がポジティブな影響をもたらすことができる重要な領域の一つが、クラウド上の二酸化炭素排出量の削減です。Thoughtworks は、オープンソースの Cloud Carbon Footprint(CCF)ソフトウェアを使用して、クラウド全体における温室効果ガス排出量を推定できます。また、Google Cloud サービスを活用してサステナブルなインフラストラクチャを構築し、効率的にソリューションを設計しています。CCF は、Google Cloud でより正確かつ詳細な排出量を把握するための推奨ツール、Google Cloud Carbon Footprint を補完するものです。
取り組みの内容
エネルギーと排出量の指標をリアルタイムで社内に提供することで、サステナビリティ文化を創造し、計画の修正を迅速に進められるように支援します。
私たちのアプローチの基盤は、Green Software Foundation(GSF)が提唱する Green Software Fundamentals のフェーズ、学ぶ、測定する、削減する、を中心に展開しています。これらのフェーズには、排出要因とその相互関係の理解、適切なデータの測定とアクセス、組織の温室効果ガス排出量を削減するために必要な最適化戦略の導入が含まれます。
排出量の指標を理解し、特定のクラウド サービスが他のものより二酸化炭素排出量が多い(または少ない)理由を解明するには、グリーン ソフトウェアの原則、排出量の要因、技術分野におけるサステナビリティの幅広い領域について基本を理解していることが重要です。炭素効率性からエネルギー比例に至るまで、プラットフォーム エンジニアが Google Cloud インフラストラクチャの最適化を検討する際には、これらの原則を把握していることが不可欠となります。
私たちは、組織にはエネルギーと排出量の指標へのリアルタイムのアクセスが必須であると考えています。ここで重要なのは、クラウドの費用、使用状況、温室効果ガス排出量に関するデータが毎日取得でき、かつ過去のデータを確認できるようにすることです。これにより、プラットフォーム チームは、意思決定のためのコンテキストと短経路のフィードバックの両方を得ることができます。
カスタムグラフやダッシュボードで二酸化炭素排出量データを表示できることで、気軽にモニタリングできるだけでなく、クラウド インフラストラクチャを直接管理する実務者から、可視化を使用してクラウドの費用や排出量を削減する機会について説得力のある話をするエグゼクティブ レベルの意思決定者まで、多くの異なるペルソナに対して明確性を提供できます。
リアルタイム データへのアクセスを確保し、ダッシュボードを介して気軽にモニタリングできるようになったら、自然な流れとして、次のステップは急増やトレンドをより深く分析し、最終的には排出量、費用を削減するための戦略を実行する機会を特定することです。すでに、クラウド リソースにタグやラベルを付けることで、実務者はメタデータを使ってより細かいリソースレベルで費用と排出量の影響を評価し、炭素と意味のあるグループを結びつけて、正確なペインポイントや機会領域を特定できるようになることがわかっています。
Thoughtworks のチームは、十分な分析を行い、クラウドの温室効果ガス排出量を削減する方法を検討し、目標、要件、インフラストラクチャのニーズに最も適した改善策を特定します。
取り組みの状況
Google の Carbon レポートデータと Google Cloud サービスを使用してデータを取り込み、オープンソース ソフトウェアを使用して、有意義な分析情報を推定、可視化します。
CCF は、Google Cloud やその他のクラウド サービス プロバイダに関連する二酸化炭素排出量やエネルギー使用量の測定、分析に役立つオープンソース ツールです。これは、Compute Engine インスタンス、Cloud Storage バケット、Cloud SQL データベースといった Google Cloud リソースのエネルギー使用量と排出量を追跡することによって実現されます。
CCF は、請求データと使用状況データを BigQuery にエクスポートするように請求プロジェクトを構成することで、Google Cloud と連携し、その後そのデータに対してクエリを実行して、特定の時間枠やその他の関連情報をフィルタします。詳しい説明については、CCF ドキュメントをご覧ください。
当社では、複数の Google Cloud サービスを使用して、二酸化炭素排出量データをパイプライン化し、可視化を実現しています。たとえば次のようなものです。
App Engine は、ウェブ アプリケーションのデプロイとスケーリングを容易にするフルマネージド プラットフォームです。App Engine を使用して当社の CCF アプリケーションを実行します。
Cloud Scheduler は、ジョブを定期的に実行するようにスケジュールできる cron に類似したサービスです。Cloud Scheduler を使用して、毎日深夜にジョブを実行するようにスケジュールします。このジョブは Pub/Sub メッセージをトリガーします。
Pub/Sub は、アプリケーション間でメッセージを送受信できるようにするメッセージ サービスです。Pub/Sub を使用して、Cloud Scheduler から Cloud Functions の関数にメッセージを送信します。
Cloud Functions は、サーバーのプロビジョニングや管理を必要とせずにコードを簡単に実行できるサーバーレス プラットフォームです。また、ゼロへのスケーリング機能により費用を軽減できます。Cloud Functions を使用して、Google Cloud とアマゾン ウェブ サービス(AWS)の二酸化炭素排出量データを収集するために使用される毎日のリクエストを自動化します。
BigQuery は、大量のデータの保存と分析を容易にする、サーバーレスでスケーラビリティの高いデータ ウェアハウスです。BigQuery を使用して、二酸化炭素排出量データを保存します。
Looker Studio は、インタラクティブなダッシュボードとレポートを簡単に作成できるビジネス インテリジェンス プラットフォームです。ここで、二酸化炭素排出量データを可視化します。
Cloud Scheduler は、Pub/Sub メッセージを毎日トリガーします。このメッセージは、1 日分のデータに対するクエリで CCF API をヒットする Cloud Functions の関数によって消費されます。この関数はこのデータをアップストリームに push し、BigQuery テーブルに追加します。このテーブルは Looker Studio で使用され、請求エクスポート データと結合してさまざまなビジュアリゼーションに利用されます。
取り組みの結果
CCF オープンソース ソフトウェアを通じたクラウド炭素推定値の把握と Google Cloud サービスの使用
Thoughtworks で中央チームがクラウドの請求データを使用して CCF データを収集できるようになると、社内チーム向けの広くダッシュボードが利用可能になり、過去および毎日のクラウド排出量の指標が確認、モニタリングできるようになります。この新しい透明性とリアルタイムのデータへのアクセスにより、チームはデータの急増とトレンドを特定できるようになり、定期的な排出量レポートを自動化したことで、必要な改善策を把握できるようになりました。
例を見てみましょう。次のグラフでは、使用料金では 3 か所の急増、排出量では 4 か所の急増を確認できます。ここから、少なくとも 2 つのことを結論づけることができます。1 つ目は、使用料金と排出量は必ずしも比例するわけではない、ということです。3 月上旬に排出量が急増していますが、それに伴う費用の増加は見られません。2 つ目は、2 月と 3 月に何が起こったのか、掘り下げて理解する必要がある、ということです。実際、そうすることで、急増を解消することができました。
Cloud プロダクト別の排出量を時系列で示したグラフを使ってみましょう。3 月 4 日~3 月 12 日に範囲を絞ると、このようになります。
これは、排出量が最大に急増したポイントを含む期間です。排出量の増加に最も影響を与えているプロダクトは、Cloud Composer であることが確認できます。さらに詳しく見てみると、3 つの Google Cloud プロジェクトがこのうちの 90% を占めていことがわかります。そこで、これらのプロジェクトを担当するチームに連絡を取り、調整が開始されました。
4 週間後の状況を見ると、Composer と Compute Engine の差が大幅に縮まっていることがわかります。Composer の使用による推定排出量が大幅に削減されました。
よりサステナブルな組織を描く
私たちは、Google Cloud は、温室効果ガス排出量の削減を目指す企業にとって、頼もしいリソースになり得ると考えています。最適な測定ツールを選択するにあたり、オープンソースの CCF は、クラウド間で結果を比較するのに最適であると同時に、オープン データソースからの平均値を活用してリアルタイム データにアクセスできると考えられます。また、Google Cloud Carbon Footprint ツールは、真のマシンレベルの電力消費データにアクセスできるため、Google の炭素推定に最も適した精度を備えています。私たちは、これらのツールは根本的に異なるものの補完的なものであると考えています。Cloud Carbon Footprint についてさらに詳しく知り、Google Cloud が提供するほかのサステナビリティ ソリューションについてもご検討いただくことをおすすめします。
- Thoughtworks、シニア ソフトウェア エンジニア&クリーンテック ストラテジスト Cameron Casher 氏
- Thoughtworks、クラウド スペシャリスト Mark Richter 氏