Horizon : クラウドでのビルドを加速させる新しい Android Automotive ソリューション

Florian Haubner
Industry Architect Lead Automotive EMEA
Roger Ellis
Technical Program Manager Android
※この投稿は米国時間 2025 年 9 月 8 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
自動車業界は、ソフトウェア定義車両(SDV)の時代に向けて突き進んでいます。しかし、この変化はメーカーとサプライヤーの両方に大きな課題をもたらしています。自動車メーカーの優先事項は、優れたソフトウェアではなく、優れた車両を作ることです。ただし、優れた車両を作るには優れたソフトウェアが不可欠であり、その必要性はますます高まっています。SDV のビジョンを実現するまでのさまざまなハードルがある中、OEM は ソフトウェア デリバリーの効率と品質を上げる方法を特定し、新しいコラボレーション モデルを確立しなければなりません。
これに対処するため、Google は Android Automotive OS を使用したプラットフォーム開発のための新しいオープンソース ソフトウェア ファクトリーである Horizon を構築しました。Horizon は標準化された開発ツールチェーンの提供を通じて、自動車業界のソフトウェア変革を支援し、差し迫った課題に取り組むことを目指しています。これにより、OEM は製品とエクスペリエンスの構築に重点を置きながら、価値を生み出すことができます。
自動車業界のパートナー 6 社が Horizon を早期導入したところ、デベロッパーへのフィードバックの提供が 10 ~ 50 倍速くなり、リリースの頻度とビルドの品質が向上しました。この投稿では、自動車ソフトウェアの変革における主な障害を克服するうえで、Horizon がどのように役立つかについてお伝えします。
自動車ソフトウェア開発のイノベーションにおける足かせ
現在、従来の自動車メーカー(OEM)は、アジリティに欠け、スケーリングが困難なことが多いハードウェア中心の視点からソフトウェア開発を行っています。このアプローチでは、ソフトウェアのライフサイクルに対応することが負担となるほか、多くの場合に一貫性がなく信頼性の低いツールが使用されるため、開発が減速することになります。
OEM は開発費の急増、品質の問題、イノベーションの遅れに直面しており、新規参入者や高度な機能に対する需要の高まりについていくことが困難になっています。さらに、ほとんどの顧客はスマートフォンなどのデバイスで受け取るものと同様に、頻繁かつ高品質の無線(OTA)ソフトウェア アップデートを期待しているため、大半の OEM は家電製品のエクスペリエンスを反映せざるを得なくなっています。
しかし、自動車はテレビでも冷蔵庫でもなく、多くの人が形容するような「走るコンピュータ」でもありません。車両は、多くの独立した非常に複雑なシステムで構成されており、通常は「クローズド ボックス」ソリューションを提供することが多い複数のサプライヤーの多数のコンポーネントを通常は統合する必要があります。車両のコネクテッド化が進み、基本的な操作から高度な操作まで、あらゆる面でコネクテッド システムに依存するようになっても、車両プラットフォームの統合と革新は容易になるどころか、実際には難しくなっています。
Google はもっと良い方法で、優れたカスタマー エクスペリエンスを提供するために必要なペースを維持できるはずだと考えていました。
HORIZON のご紹介: 共同で未来を切り開く
業界が直面するこうした喫緊の課題に対処するために、Google と Accenture は Horizon を開始しました。これは、自動車業界をソフトウェア主導のイノベーション市場に変革するために設計されたオープンソースのリファレンス開発プラットフォームです。
Horizon のビジョンは、自動車メーカーと OEM が製品化までの時間を大幅に短縮してチームのアジリティを高めながら、開発コストを大きく削減できるようにすることです。Horizon では自動車ソフトウェアの未来に向けた包括的なプラットフォームが提供されるため、統合だけでなくイノベーションにさらに投資できるようになります。
優れたソフトウェアを実現する主要な機能
Horizon には包括的な機能スイートが用意されており、デベロッパー中心のクラウドを活用した組み込みソフトウェアの導入しやすいオープンな業界標準が確立されています。


1. AAOS によるソフトウェア ファーストの開発
Horizon は製品設計に対する仮想ファーストのアプローチを提唱し、Android Automotive OS(AAOS)と密接に統合することでソフトウェア主導の開発サイクルを強化しています。これには、Vehicle Hardware Abstraction Layer(VHAL)、virtio、Cuttlefish といった高忠実度のクラウドベースの仮想デバイスを効果的に使用することが含まれます。これらは、必要に応じて数千のインスタンスにスケールできます。スケーラブルな自動ソフトウェア回帰テストや弾力的な直接のデベロッパー テスト戦略が可能になるため、このアプローチは車両の完全なデジタルツインを作成するための最初のステップと見なすことができます。
2. コーディング、ビルド、テストの合理化されたパイプライン
Horizon は、ソフトウェア開発ライフサイクル全体に標準を導入することを目指しています。
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コーディング: Gerrit を使用した柔軟で構成可能なコード管理がサポートされています。Google Cloud Marketplace から GerritForge マネージド サービスを入手して、生産的なデプロイを実現することもできます。Cloud Workstations に統合された Gemini Code Assist では、コードの補完、バグの特定、テストの生成を活用して開発を強化できるほか、Android API の説明も支援されます。
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ビルド: インテリジェントなクラウドの使用と動的なスケーリングを活用したスケーリング済みのビルドプロセスを備えています。これに不可欠なのは、ウォームアップされた環境に基づく AAOS プラットフォーム ビルドのキャッシュと、最適化された Android Build File System(ABFS)の統合です。これにより、ビルド時間を 95% 以上短縮し、キャッシュ ヒット率を最大 100% にして 1~2 分でゼロから完全にビルドできます。Horizon は、Android 14 および 15、Cuttlefish、AVD、Raspberry Pi、Google Pixel Tablet など、さまざまなビルド対象をサポートしています。ビルド環境はコンテナ化されており、再現性が確保されています。
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テスト: 仮想化されたランタイム環境で Cuttlefish を使用して、Google Cloud で Android の互換性テストスイート(CTS)を使ってスケーラブルなテストを実行できます。MTK Connect を使用すると、複数の物理ビルドファームにリモートでアクセスして、ウェブブラウザから安全かつ低レイテンシでハードウェアとやり取りできるため、デベロッパーにハードウェアを送る必要がなくなります。
3. クラウドを活用したインフラストラクチャ
Google Cloud 上に構築された Horizon では、スケーラビリティと信頼性が確保されています。Terraform、GitOps、Helm チャートなどのツールを使用してデプロイが簡素化され、プラグアンドプレイのツールチェーンが提供されているほか、Kubernetes へのツールやアプリケーションのデプロイも追跡可能です。
自動車 OEM と業界全体に価値をもたらす
Horizon リファレンス プラットフォームは、自動車 OEM に次のような大きなメリットをもたらします。
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コストの削減: ハードウェア関連の開発コストが削減され、開発費の全体的な増加が抑えられます。
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製品化までの時間の短縮: 開発とイノベーション サイクルの加速化により、製品化までの時間と機能のサイクル時間を短縮できます。
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品質と生産性の向上: 標準化されたツールセットの提供とチーム コラボレーションのより効果的な促進を通じて、品質が安定し、チームの生産性が向上します。
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カスタマー エクスペリエンスの向上: より高速で頻繁かつ高品質なビルドを可能にすることで、自動車ソフトウェアの開発方法を変えることができます。そうすることで、カスタマー エクスペリエンスが向上し、ソフトウェア主導のサービスを通じて新たな収益源を開拓できます。
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戦略的焦点: 効率的なソフトウェア開発プラットフォームは OEM の差別化の要因となるべきではなく、製品そのもののイノベーションが重視されるべきだという信念が下支えされています。そのため、ソフトウェア開発にさらに時間とリソースを費やし、品質、効率、柔軟性を高めることができます。
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堅牢なエコシステム: 多様な車両プラットフォームで将来を見据えたスケーラブルで安全なデプロイを可能にするため、Horizon では Google、統合パートナー、プラットフォーム採用者間の連携を促進することを目指しています。Horizon では、リファレンス プラットフォームの機能を強化しながら、車両ハードウェア、レガシー システム、コンプライアンス基準との統合と互換性をカスタマイズすることも可能です。
Horizon のエコシステム
最高のソフトウェアはシームレスで完璧に機能するため、ユーザーがその存在に気づくことはないと言われています。道路と移動の楽しさに焦点が置かれるべきソフトウェア定義車両では、これが特に当てはまります。
これは、自動車メーカーにとっての差別化の要因が効率的なソフトウェア開発を可能にするプラットフォームではなく車両そのものであるべきだと、Google が考える理由です。信頼できるタイヤや優れたサウンド システムのように、ソフトウェアは今や不可欠なものとはいえ、製品そのものではありません。それは、設計、エンジニアリング、開発、生産を組み合わせた完全なパッケージにほかなりません。
ソフトウェア開発は現在、自動車製造プロセスに不可欠なため、自動車メーカーにとって妨げではなくイネーブラーであるべきでしょう。それを実現するため、Google Cloud、Android、Accenture の各チームは、関連するツールチェーン コンポーネントへのアクセスと使用を継続的に簡素化することを目指してきました。OpenBSW と Android Build File System(ABFS)の統合は、マネージド Gerrit サービスを提供する GerritForge から始まった取り組みの最新の通過点にすぎません。今後のリリースでは、さらに多くのパートナーが加わる予定です。
ぜひ、この取り組みにご参加ください。コミュニティの一員として、早期のインサイトを入手してフィードバックを提供し、Horizon の今後の方向付けに積極的にご協力いただけると幸いです。また、GitHub でオープンソース リリースを確認し、Google Cloud 環境に Horizon をデプロイしてリファレンス ワークロードを実行することで、プラットフォームを評価、カスタマイズできます。
Horizon は自動車ソフトウェアの未来に向けた新たな幕開けとなりますが、オープンなコラボレーションとクラウドを活用したイノベーションを通じて、皆さまと一緒に実現していく必要があります。
このソリューションの提供を支援してくれた Google 社員と Accenture の皆様、Mike Annau、Ulrich Gersch、Steve Basra、Taylor Santiago、Haamed Gheibi、James Brook、Ta’id Holmes、Sebastian Kunze、Philip Chen、Alistair Delva、Sam Lin、Femi Akinde、Casey Flynn、Milan Wiezorek、Marcel Gotza、Ram Krishnamoorthy、Achim Ramesohl、Olive Power、Christoph Horn、Liam Friel、Stefan Beer、Colm Murphy、Robert Colbert、Sarah Kern、Wojciech Kowalski、Wojciech Kobryn、Dave M.Smith、Konstantin Weber、Claudine Laukant、Lisa Unterhauser に心より感謝します。
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-自動車 EMEA、業界アーキテクト リードFlorian Haubner
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