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Google Maps Platform

多様化するニーズと社会課題に対応。Route Optimization API 導入で加速する、ヤマト運輸の業務効率化と働き方改革

2024年9月17日
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Google Maps Platform Team

今日の記事では、ヤマト運輸株式会社の秦野 芳宏氏、アクセンチュア株式会社の並木 繁明氏にお話を伺いました。ヤマト運輸は、全国を網羅する物流ネットワークときめ細やかなサービス提供を通じ、「豊かな社会の実現に貢献する」という経営理念を追求してきました。同社はアクセンチュアの支援のもと Google Maps Platform と Google Cloud のソリューションを導入。新たなニーズと社会課題に対応しながら、物流業界の未来を切り拓こうとしています。

過去 10 年間で激変したニーズと、求められる社会課題への対応

ヤマト運輸株式会社 執行役員 輸配送オペレーションシステム統括の秦野 芳宏氏は、同社の成長を支えてきたビジネスモデルと、現在直面している巨大な変化を次のように説明します。

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「私たちは宅急便をはじめとする多様なサービスを開発し、最終的にお荷物をお届けする『ラストマイル』の効率化も追求しながら、お客さまの毎日の生活や地域社会に新たな価値を提供してきました。しかしインターネットの登場によってお客さまの消費行動が変容し、Eコマースを中心とした BtoC の荷物が増加。過去 10 年間で、取り扱う荷物数は約 1.6 倍の 8 億個増えて、現在では年間約 23 億個に達しています。BtoC の拡大は、都心や東京近郊から全国に発送される荷物の比率を高めて、地域間の配送バランスを変化させる一方、輸送作業の時間的なサイクルも日中帯を基本としたものから、夜間に多く受注するパターンにシフトしてきました。」

秦野氏は、少子高齢化やいわゆる「2024 年問題(*1)」により懸念されるドライバーの人材不足、気候変動への対応も急務になっていると指摘します。

「労働力不足の懸念に対しては、業務負担の平準化や配送の最適化などを行いながら、物流の仕事に就いてよかったと思っていただける勤務環境を作り出すことが重要になります。質と量におけるニーズの変化、そして社会課題に対応するためには、荷物の輸配送、仕分け、現場におけるオペレーションというすべての領域において、ビジネスの構造をダイナミックに変革することが求められています。業務の改革は、持続可能な成長モデルを構築していくうえでも不可欠です。」

(*1: 2024 年 4 月から「働き方改革法案」が施行。ドライバーの時間外労働時間にも上限が課せられようになったため、長期的に労働力の安定的な確保が難しくなるとされています)

中期経営計画を後押しする、Google Maps Platform と AGLOP

これらの課題を解決すべく、ヤマトグループは 2024 年に中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」 を発表。グループ全体の経営基盤を強化する柱の 1 つとして、デジタル技術を活用したイノベーションの推進を掲げています。

「宅急便事業の開始以来、我が社では CtoC にやや比重を置いた物流ネットワークとオペレーションを構築し、お客さまの利便性向上のためにデジタル技術を活用してきました。インターネットで配送状況を簡単に確認したり、荷物を受け取る場所や時間を予約・変更できるようにしてきたのは、その一例です。むろん私たちは、情報がすぐに確認できるデジタルデバイスをドライバーに支給するなど、業務においてもイノベーションを行ってきましたが、配送の現場ではドライバー個人の経験や判断に頼る部分がまだ多く残っています。今後はその部分をデータ化して活用しようとしています。安全運転をしながら、お客さまにお荷物をお届けできる経験豊かなドライバーが揃っていることは、ヤマト運輸の大きな強みです。DX(デジタル トランスフォーメーション)を配送現場で推進し、業務を効率化していくことは、この『ヤマト運輸らしさ』をさらに追求し、お客さまにより高品質なサービスを提供することにもつながります。」

そこで採用されたのが、 Route Optimization API(旧 Cloud Fleet Routing API)をはじめとする Google Maps Platform と Google Cloud を活用し、アクセンチュアが開発した物流業界向けのプラットフォーム AGLOP(Accenture Google Logistics Optimization Platform)でした。

Route Optimization API は、Google マップが持つデータと Google Cloud の AI 技術を活用し、荷物の量や車両の運行時間などに合わせて、ドライバーの担当エリアや荷物の割当量、最適な配送ルートなどを自動的に策定できるソリューションです。AGLOP は、アクセンチュアが Google Maps Platform、Google Cloud の技術を取り入れて開発した物流業界向けのプラットフォームで、拡張性と処理能力、運用性に優れるフルマネージド データベース サービスの AlloyDB も利用し、今後も増え続けることが予想される、大量の配送データを処理する能力を持っています。 秦野氏によれば、両ソリューションが採用されたのは自然な流れでした。

「Route Optimization API は、与えられた目的と制約条件に基づきながら、複数の地点を最も合理的に結ぶルートを瞬時に一筆書きのように計画できます。ベースとなる Google マップは非常に広いエリアをカバーしており、誰もが使い慣れている。さらにシステムの裏側では、一般企業が単独では到底収集しきれないような膨大なデータが、フル活用されてきました。これは AGLOP にも共通する Google Maps Platform ならではの最大の特徴だと思います。一方で、どのルートを通るべきか、どこに駐車して、どの順番で配達していくのがいいかという具体的かつ詳細なノウハウは、私たちが長年にわたって豊富に蓄積してきましたので、2 つのデータをインテグレーションするのは理想的な選択でした。その計画を Google Maps Platform と練っていたときに紹介されたのが、海外で輸配送の最適化プロジェクトを手掛けたことのあるアクセンチュアです。」

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今回のプロジェクトで開発パートナーを務めたアクセンチュア株式会社 テクノロジー コンサルティング本部 マネジング・ディレクターの並木 繁明氏は、Google Maps Platform の特徴をこう語ります。

「Google Maps Platform には、住所情報だけではなく『Place ID』で建物の入り口を表示する機能や、さまざまなパラメータに基づいて荷物を均等に配分する機能などが揃っています。しかも各機能は API 化されているだけでなく、ドライバーの携帯端末用アプリから運用側が使うツールまですでにパッケージ化されており、どの機能をどの部分で使っていくかを検討しながら、AGLOP のレイヤーに組み込んでいく作業をかなり容易にしてくれました。」

グローバルでアジャイルな開発体制、徹底した現場へのこだわり

開発プロジェクトは半年ほどの検討期間を経て、2023 年にスタート。ヤマト運輸を軸に、アクセンチュアの国内外のスタッフ(開発メンバーと業務支援メンバー)、Google Maps Platform の 4 拠点(フランスの R&D 部門、シンガポール、アメリカ、日本)が進捗状況、テスト結果、次の課題と優先順位、スケジュールを絶えず確認しながら開発を進めていくという、かつてない体制が組まれました。秦野氏は、その意図を明かしています。

「今回のプロジェクトは業務システムの根幹に関わるため、Google Maps Platform の開発チームとダイレクトにコミュニケーションを取ることが不可欠です。アクセンチュアに加わっていただいた背景には、そんな狙いもありました。同時に重視したのは、アジャイルな開発です。ウォーターフォール型の開発はコストも時間もかかりますし、完成した頃には利用環境にそぐわなくなっているケースもよくあります。ましてやこのプロジェクトは、急激に多様化してきたニーズや社会環境に対応するものです。数週間から 1 か月単位で改良バージョンをリリースし続けながら、できるだけ早く実装したいと考えていました。開発作業では、現場に軸足を置くことも意識しています。私たちは組織や国境の垣根を超えて、課題ごとにタスクチームを組んでいます。しかし机上の計算だけでは開発は上手くいきません。配送現場にできるだけ足を運び、事実を起点に改良を重ねていく方針を貫いています。現に海外の開発メンバーが配送用のトラックに同乗して、課題や感想を直接ヒアリングする作業も行われていますし、ドライバーにもプロジェクトに積極的に関わってもらっています。これはチームとしての一体感や自分の意見が反映されている実感、問題が解決されていく成功体験を共有してもらうためです。」

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プロジェクトの推進体制

並木氏はテクニカルな観点から、いかに開発が進められているかを詳しく説明しています。

「鍵を握るのは、ドライバーの感覚や経験値と Route Optimization API のロジックを融合させ、違和感なく使えるシステムを構築することです。ヒアリングの際にはさまざまな意見が出てきますので、それらをデータ化して開発チームにフィードバックし、改良されたバージョンを AGLOP 上で再びテストするという PDCA を急ピッチで回しています。難しいのは、データの収集だけでは解けない課題、なぜこの道をわざわざ選ぶのか、どうしてこの順序を指示するのかがクリアではないケースです。そういう場合には、システム側が何を優先して判断しているのかという根本的なアルゴリズムの検証作業を、開発スタッフ全員で集中的に行っています。」

生成 AI の活用がもたらす可能性と、さらに進化していくオペレーション

業務プロセスをダイナミック(動的)に変えるシステムは、 2024 年から一部の配送拠点で導入され始めています。秦野氏は、骨格を作っている段階だと前置きしながらも、今後の展開に強い意欲を示しました。

「現場のドライバーからは、分担する荷物や配送ルートを柔軟に調整できるようになったという声が多数寄せられています。むろん導入するエリアを広げていけばいくほど、別の課題が見えてきます。物理的な条件は各地域ですべて異なりますし、配送は地域の実情に応じて、トラックや手押しの台車、リヤカー付き電動アシスト自動車など複数の方法が組み合わされるからです。しかし特定の地域や条件下では、すでに実運用ができていますので、2026 年度末までにエリアを段階的に拡大し、全国へ導入していく計画です。」

並木氏は AI が秘めるポテンシャルを踏まえ、新たな開発プロジェクトの構想を練り始めていました。

「私たちはプラットフォーム自体のポテンシャルを高めていくことも考えています。例えば個々の配達先に滞在する時間も計測して、さらに正確に所要時間を算出する、あるいは受取人の不在を予測して、より効率的に配送を行うことも可能になるでしょう。また生成 AI を活用していけば、ドライブレコーダーの画像や動画をもとに、リアルタイムでガイダンスをしたり、対話型の音声でドライバーをナビゲートすることもできるはずです。これらの機能を実装することは、配送の効率を高めるだけでなく、ドライバーの安全を確保する意味でも、極めて有用だと認識しています。」

社会課題の解決も目指す、壮大なプロジェクトを成功させるために

質・量ともに急速に変化する配送ニーズへの対応、少子高齢化や労働力不足問題の解消、デジタル技術の活用によるオペレーションの効率化と、将来を見据えた新たな基盤づくり。本プロジェクトは、日本が直面している社会課題を、物流の分野で解決するための試みだと言えるでしょう。それと同時に、ドライバーや社員、パートナーの働き方改革支援を通じて、サービスの品質を高め、結果的に顧客満足度も向上させていく試みにもなっています。経済活動や社会全体を活性化させるという、非常に極めて重要な使命も帯びていることは指摘するまでもありません。最後に秦野氏は、プロジェクトにかける意気込みを語ってくれました。

「私たちは個人のお客さまや地域社会に寄り添いながら、お荷物をお運びする業務を通じて、価値の創出と豊かな社会の実現を目指しています。法人のお客さまにも数多くお取り引きいただいており、これはご商売の根幹をお任せいただくということに他なりませんし、プロジェクトに大きな期待をお寄せいただいていることも、ひしひしと感じています。同じ感覚は、チーム全体で共有されていると思います。アクセンチュアは、高い技術力で各企業の DX を推進してきた企業であり、Google Maps Platform も CtoC から出発し、今や BtoC を支える社会インフラの一部になりつつあります。分野はそれぞれ違うにせよ、私たちは同じ理念やビジョンを抱いています。このプロジェクトはまだ途上にありますが、自分たちに課せられた社会的な使命も全うすべく、ひたむきに改革を進めていきます。」

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インタビューイ(左から)

ヤマト運輸株式会社

・執行役員 輸配送オペレーションシステム統括
秦野 芳宏氏

アクセンチュア株式会社

・テクノロジー コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
並木 繁明氏

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