「移動で地域をカラフルに」。Google Maps Platform の全面採用で newmo が目指す、社会課題の解決と責任のあるイノベーション

Google Maps Platform Team
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視聴はこちらタクシーをはじめとする移動手段は、人々の生活を支え、地域社会や経済を機能させる重要な役割を担っています。日本では急速な高齢化や人口減少、それに伴う働き手不足などが深刻化し、移動手段の確保が以前にもまして求められるようになりました。newmo株式会社(ニューモ)は、設立直後からタクシー事業・日本版ライドシェア(一般のドライバーが、普通免許で乗客を送迎できる制度)事業を展開するとともに、タクシー配車アプリ「newmo(ニューモ)」を立ち上げ、この社会課題の解決に取り組んでいます。今回の記事では、同社取締役 CTO の曾川 景介氏とエンジニアを務める伊藤 雄貴氏に、意義あるプロジェクトの概要と今後のビジョンについて伺いました。
「責任のあるイノベーション」でタクシー業界をサステナブルに
newmoは 2024 年1月に設立。「移動で地域をカラフルに」というミッションのもと、創業初年度からタクシー・ライドシェアの事業を立ち上げるとともに、同年12 月からタクシー配車アプリ「newmo(ニューモ)」の運用を開始しました。曾川氏は、同社設立の経緯、ならびに起業に託された思いを次のように説明します。


「newmo が設立される直接のきっかけとなったのは、2023 年の夏頃、移動の担い手不足への対応として日本国内におけるライドシェア解禁の議論が高まったことです。これを踏まえて、当初からモビリティ分野に特化して起業することを決め、社名(newmo)にも「新たなモビリティ」という意味を込めました。その根底にあったのは、社会の要請に応えたいという強い思い、高齢化や人口減少、それに伴う働き手不足が深刻化する日本において、移動手段の多様化を通じて地域経済やコミュニティを支え、活性化させるという目標です。弊社には問題解決型のプロジェクトを立ち上げた経験を持つスタッフが多数いますし、自分たちが『何をしたいか』ではなく、『何をすべきか』という問題意識を常に大切にしてきました。大坂における日本版ライドシェア事業も大阪・関西万博で移動手段の確保が急務になる状況を踏まえて、サービスを開始しました。」
ただし日本版ライドシェアは、規制上、サービスを提供できるのがタクシー事業者に限られています。この壁を超えるため、newmo では既存のタクシー事業者を M&A でグループに迎え、タクシー事業の運営を行いながら、日本版ライドシェアの運行も開始。ドライバーとして働きたいと願う人々に、就業機会を創出する方法を採ってきました。
「弊社は、実際にタクシー会社の経営にも深く関わっています。組織が何か新しい手法を展開しようとする場合、その手法を現場の人に押し付け、従来存在していた業界の構造や商習慣を壊す方法を取りがちです。しかし私たちは、そのような一方的なアプローチを避けたいと考えていました。弊社が単に『newmo(ニューモ)』のシステムやアプリを提供するのではなく、タクシー会社にグループ参画いただき直接経営する方法を採ってきたのも、このようなハードルをクリアし、業界全体をサステナブルなものに変えていくために他なりません。『責任のあるイノベーション』を実現していくことは、弊社の成長戦略にもなっています。」
日本の地域交通や市民生活は、今も小さなタクシー会社に依存
「責任のあるイノベーション」という方針には、個人的な経験も反映されています。曾川氏は newmo を設立する前から、他のメンバーとともにタクシー会社を頻繁に訪問。長期間、行動を共にしてリサーチやヒアリングなどを行ってきました。その過程では、タクシー業界の実情を幾度となく目の当たりにしたといいます。
「小さなタクシー会社になればなるほどご家族で経営されており、後継者不足などの話が必ず出てきます。このような会社は伝統的なビジネスモデルで経営を続けてきているため、ドライバーのみなさんが高齢化してくると稼働率が下がり、事業存続が困難になるのです。たしかに最近では、タクシー業界向けに SaaS のソリューションや、モバイルアプリを提供する企業も増えてきました。しかしタクシー会社側は、それぞれのシステムの利用料を払い、残りが売上となるため、規模が小さいと採算性を確保するのは必然的に難しくなりますし、システムに投資を行う余裕ももちろんありません。しかもソリューションを提供する企業は、市場の寡占を武器に利用料をあげていくので、ますます経営が厳しくなってきています。小さなタクシー会社が、時代の流れに取り残されてしまっているのが実情です。」
ただし、と曾川氏は言葉を継ぎます。
「日本では、まさにそういう小さなタクシー会社が人々の足となり、地域の交通や暮らしを支えています。つまり地域の交通手段を確保するうえでは、これらの会社こそ DX や IT 化、あるいは経営の支援などを通して存続をサポートしていくことが不可欠になります。ただし、移行作業は慎重に進めていく必要があります。タクシー会社は 24 時間 365 日稼働しています。その会社のタクシーを日常的に利用している方々もいらっしゃる以上、たとえば業務を中断して、オンプレミスの古いシステムを単純にクラウドにリプレースすればいいという結論にはなりません。求められているのは理想論ではなく、個々の事業者に寄り添い、経営やシステムの実態を把握しながら、一つひとつ問題を解決していく試みなのです。」
Google Maps Platform が、スタートアップに最適な理由
このような課題を解決できる新しい交通手段を構築すべく、newmo は会社設立と前後してソリューションの検討を開始。まずシステム運用基盤として Google Cloud、次にナビゲーション基盤として Google Maps Platform の採用を決定しました。newmo株式会社でエンジニアを務める伊藤氏は、必然的な選択だったと振り返ります。


「システム基盤に関しては、メインとなるアプリケーション サーバーの扱いやすさ、データ関連サービスの機能、料金など、さまざまな評価軸があると思いますが、私たちはそのような観点から様々なサービスの評価を行い、 Google Cloud の導入を決めました。『newmo』はモビリティ サービスである以上、優れた地図データが利用できるのは大前提になりますが、最終的にはクラウド上にデータを集約して、モニタリングや分析、監視を行っていくことが鍵を握ります。この点で Google Cloud は BigQuery をはじめとするツールが揃っており、Google Maps Platform ともシームレスに連携できるので理想的でした。」
伊藤氏は、Google Maps Platform が持つ優位性についても詳しく説明しています。
「PoC(概念実証) ではさまざまな製品を比較しましたが、Google Maps Platform は、あらゆる SDK や API が、モバイル端末での開発・使用を想定して設計されています。また、スマートフォンのセンサーを使って、OBD(車載機器)と連携しなくても現在位置が確認できる仕組みまで用意されています。開発者への配慮は、地図データ自体にも見て取れます。乗客とドライバーの双方にとって使いやすいアプリを短期間で完成させるためには、ランドマークや建物情報、道路情報、信号・標識などのアイコンが、あらかじめデータに埋め込まれていることが条件となります。基本的な地図データは他のベンダーも提供していますが、マップデータのレイヤーの上にこういう要素がすべて揃っていて、本当に必要な開発作業だけに集中できようになっているのは、Google Maps Platform だけでした。弊社のようなスタートアップが、ゼロからサービスの立ち上げを行う場合には、最適な選択肢になると思います。」
開発から実装、運用に至る一連のプロセスでは、地図情報を活用したソリューション構築のスペシャリストである株式会社ゴーガ(以下、ゴーガ)と、Google Maps Platform が継続的にサポートを提供してきました。
ゴーガは目的に応じた API やツール使用方法の提案、実装に向けたイメージ作りと疑問点の解消、課金システムのチェックや ログ収集のアドバイス、newmo のタクシーに実際に乗車したうえでのフィードバックを行ってきました。Google Maps Platform も、API のリミット回避や試算方法などについて、きめ細かなサポートを実施しています。伊藤氏は「PoC が終わった 10月 から開発を開始し、わずか 3 か月でサービスをリリースできたのは、両社の連携とサポートがあったからだと思います」と高く評価しました。
サービス提供開始後に改めて証明された、ポテンシャルの高さ
「newmo(ニューモ)」では現在、10 種類ほどの API や SDK が利用されています。Places Details API は指定した場所の詳細情報の取得、Places Autocomplete は住所の入力補助、Routes API (Compute Routes と Compute Route Matrix) はルート検索と時間や距離の計算、Navigation SDK は Google マップのナビゲーション機能搭載、Nearby Drivers は指定地点の周辺にいるドライバー検索、そして Fleet Engine API は配車指示や車両位置の管理などに使われています。伊藤氏はサービス開始後、各ツールの有用性を実感したと語ります。
「実際の配車サービスでは、ドライバーの位置情報を数秒に 1 回ずつ API コールで取得し、マッチングさせていきます。Fleet Engine は、リクエストが増えてもアプリケーションサーバーとスムーズに連携できるため、非常に効果的な運用が実現できています。Compute Route Matrix は、複数の車両と乗客を対象に、どこに配車すると待ち時間が短くなるか、あるいは車両の予想到着時間や目的地までの所要時間などを算出しますが、実際の交通状況を加味したうえで、かなり精度の高い予測をしてくれるので改めて感心しました。本来、API を使ったこれらの演算は処理が重く、管理も大変になりますが、Google Maps Platform は API がすべて連携されており、クラウド側で負荷も吸収してくれますので、安心して運用できます。実際に車両の運用台数が一気に増えても、性能の劣化はほとんど起きませんでした。これはおそらく Google Maps Platform が世界中で採用され、豊富なノウハウが蓄積されているからだと思います。」
曾川氏は、Google Maps Platform の導入が、これまでの実績や経験が少ないタクシー業界でのプロダクト開発にもたらすメリットについても述べました。
「弊社が採用した Google Maps Platform モビリティ サービスは、実際の収益に応じて利用料金を支払う仕組みですし、API コールの課金体系も 1 回の乗車が単位になっているので、採算性の見通しが立てやすいんです。本プロジェクトでは、お客様側の開発とタクシー会社側のシステム開発を並行して行いましたが、やはり弊社は過去の実績がないだけに、スケールに耐えられるような明確な料金体系になっているのは助かりました。」
さらに曾川氏は、Google が展開する包括的なソリューションが、タクシー業界をサステナブルなものに変えていくうえでも有用だと捉えています。
「サービスの立ち上げでは、開発でも運用でも、認証やアクセス管理の問題が必ず出てきます。その点、Google Cloud のアカウントがあると、Google Maps Platform はもとより、 オフィス業務用の Google Workspace まで、共通の SSO 用システムで認証ができます。権限を細かく一元管理しながら、パスキーまで含まれた環境をそのまま配布できるのは、作業負担を軽減するうえでも極めて便利です。また、このように 3 つの製品カテゴリーを結ぶかたちで、Google のエコシステムが確立されていることは、古いコンピュータなどに依存しているタクシー会社のシステムを少しずつクラウドに統合し、経営体質の改善を図っていく布石にもなるはずです。」
「日本発の自動運転タクシー事業化」へ継承される、当事者意識という原点
newmo は設立以来急速に事業領域を拡大し、タクシー・日本版ライドシェア・配車アプリ「newmo(ニューモ)」と各事業で成長を実現してきました。丁寧な事前研修の実施、保険やドライブレコーダーも完備、そしてアプリの指示に従って安全に運転できる環境は反響を呼び、ライドシェアのドライバー応募者は累計で 1 万人を突破。グループ合計のタクシーの台数も 1,000 台以上になるなど、大阪では 3 番目の規模を誇るタクシー会社にまで躍進しています。このような精力的な活動が、観光客や住民に貴重な移動手段を提供すると共に、タクシー業界の活性化に貢献しています。
newmo は、すでに新たな目標を見据えています。それが「日本発の自動運転タクシー」事業化です。最後に曾川氏は、新たなプロジェクトが秘めた大きな可能性と意義について触れつつ、その根底を貫く、同社の方針を改めて強調しました。
「自動運転タクシーの技術は近年海外で急速に実用化が進んでおり、日本国内でも各社の取り組みが始まりつつあります。急速な高齢化や人口減少が進むなか、地方では都市圏以上に、タクシー ドライバーやバス運転手の減少、鉄道路線の廃止などが深刻になっています。ライドシェアで培った経験と事業基盤を活かしながら、Google Maps Platform を軸に基盤技術の開発や事業化を進めていけば、中長期的にその地域を活性化し、一人ひとりの生活を豊かにしていけると思います。私たちは交通事業者として安全性を重視し段階的な導入を進め、社会課題の解決に取り組んでいく方針です。それが newmo 設立の原点であり、使命でもありますから。」


会社概要
2024 年 1 月設立。「移動で地域をカラフルに」をミッションに掲げ、タクシー事業・日本版ライドシェア事業を展開し、同年 12 月に、タクシー配車アプリ「newmo(ニューモ)」をリリース。Google Maps Platform を全面的に活用したプラットフォームやアプリの開発・提供・運用を通じて、地域交通手段の確保、ドライバー不足の解消、雇用の創出などに取り組む一方、タクシー会社をグループに迎え、テクノロジーを活用した DX・経営改善を推進。利用者視点に立ったサステナブルな地域交通の実現を目指している。
インタビューイ(右から)
伊藤 雄貴 氏 newmo株式会社 エンジニア
曾川 景介 氏 newmo株式会社 取締役 CTO
市川 真利 氏 株式会社ゴーガ Google Maps セールスリーダー