震源地を突き止める - 海底ケーブルによる地震検知
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2020 年 7 月 17 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
海底ケーブルで地震を検知することは可能でしょうか?Google はその可能性があると考えています。Google の海底光ファイバー ケーブルの 1 つを使用した最近の実験では、世界各地の地震津波警報システムに有効な可能性があることが示されています。
検知用途に光ファイバーを使用することには長い伝統があります。とはいえ、こうした技術の大半の有効距離はせいぜい 100 km ですが、Google は数万キロメートル以上に対応する技術を開発しました。また、従来のアプローチでは特別な検知ファイバーや特殊な装置が必要ですが、既存のファイバーを使用して海底の擾乱を検出できます。さらに、Google の技術は世界中の既存光ファイバー システムの大部分に存在する機器に依存しているため、幅広く適用できます。
光ファイバー ケーブルは海底に沿って広範囲にわたる大陸を接続し、これらのケーブル全体をインターネットの多数の国際トラフィックが移動します。Google の海底ケーブルのグローバル ネットワークにより、光速で世界中の情報を共有、検索、送受信することが可能になります。これらのケーブルは、1 秒あたり 204,190 km で移動する光のパルスとしてデータを伝送する光ファイバーで構築されています。光パルスはケーブルを数千キロメートルも移動すると歪みが生じます。受信側では光パルスが検出され、デジタル信号処理で歪みが補正されます。光伝送の一部として追跡される光の特性の一つとして、SOP(偏光状態)があります。ケーブルに伝わった機械的擾乱に応じて SOP が変化するため、こうした擾乱を追跡すれば地震の動きを検知できます。
2013 年、SOP データを使用して陸上にある地上ケーブルで検出された偏差をより明確に把握する方法を検討しました。しかし、周辺環境の一般的な要因により、地震信号を検出できないほどの大量の乱れが発生したため、このプロジェクトをさらに進めることはありませんでした。続いて 2018 年、地上と海底の回線で地震を検知し、狭帯域の超安定レーザーを使って位相変化を調査した早期の成果に関する論文が科学者たちによって発表されました。ただし、彼らが使用した回線は短く(地上では 535 km 未満、海底では 96 km)、比較的浅い水域(深さ約 200 m)にあり、アイデアの実用化には限界がありました。実際に役立てるためには、海底のはるかに深部で長距離の回線で試してみる必要があります。
私たちはこの論文を非常に興味深く読み、海底ケーブルを使用して地震データを検出するための方法を模索しはじめました。昨年 10 月、スペクトル シグネチャに基づいて地震を検知するアイデアが浮かびました。Stokes パラメータのスペクトル分析を実施すれば地震特有の周波数を調べられるのではないかと。
初期段階テスト
2019 年後半、Google では世界中に敷かれた Google の海底ケーブルの一部の偏光状態(SOP)のモニタリングを開始しました。初期フィールド トライアルの時点で、信号が 10,500 km を通過した後でさえ SOP は驚くほど安定していることがわかりました。海底というものはそのほとんどが静寂に包まれた場所です。
実際のところ、数週間にわたって海底は静かすぎるほどで、地震を示す SOP の変化はまったく見られませんでした。そして 2020 年 1 月 28 日、Google は、ジャマイカ沖で発生したマグニチュード 7.7 の地震を検知しました。海底ケーブルから震源地までの距離は最も近い地点でも 1,500 km 離れていました。SOP の推移図を見てみると、地震が発生してから約 5 分後の時間帯に明らかな急上昇が見られます。これはジャマイカから海底ケーブルまでの地震波の移動時間に一致しています。この急激な山形は約 10 分間続いています。
SOP(偏光状態)の定量分析に利用される、ジャマイカ沖のマグニチュード 7.7 の地震によるストーク(運動粘度)ベクトル、S1(左)、S2(中央)、S3(右)。X 軸は時間、Y 軸は周波数(Hz)で、色の変化により光の強度を表示。緑色の部分は白色やピンクの部分に比べて光の密度が高いことを示す。マグニチュード 7.7 の地震は、0.5 Hz 以下ではほとんど見えない緑色や白色で示される山形部分で、よりはっきりした 1 Hz の線は周囲環境の揺れによるもの。
Google は実験結果をカリフォルニア工科大学地震学研究所の Zhongwen Zhan 博士に提供しました。博士はこの実験結果が確かなものであることを認め、各種地震波の移動時間や SOP の偏位に対する予測周波数範囲に関してさらに細かい分析情報を提示しています。
ジャマイカ地震が発生してから数か月の間に、Google ではまた、短距離のものと長距離のものを含め、複数の中規模地震を検知しています。2020 年 3 月 22 日には、東太平洋(Google の海底ケーブルから約 2,000 km 離れた太平洋中央海嶺)でマグニチュード 6.1 の地震が発生しました。ほぼ同距離地点であるメキシコのトラパにある地震観測所で観測された時間と一致する時間に、Google でも SOP のはっきりした動きを観測しました。その後 3 月 28 日には、チリのバルパライソ近くの沖でマグニチュード 4.5 の地震が発生しました。震源地から海底ケーブルまでの距離は最も近い地点で、30 km しか離れていませんでした。この地震で観測された SOP の動きは、はっきりしてはいるものの短い山形でした。山形が長く続かなかった理由は、この地震が比較的小規模なもので、ケーブルに伝わった激しい揺れが急速に治まったためだと考えられます。
世界の地震検知システムを強化
海底ケーブルを利用して地震を早い時点で検知することに成功したことで、Google では地球の構造と地震の動態の両方を観測できるようにさらに取り組んでいきたいと考えています。しかし、これはほんの序章にすぎません。
たとえば、Zhan 博士は、Google の提供したデータを分析して地殻プレートから発生する地震を検知できるだけでなく、海流そのものの圧力の変化を検知できるようになれば、津波を予測できる可能性もあることを示しています。現時点で津波検知機器の大半が海岸や世界の海中に分散していることを考えれば、これは極めて期待が持てる話です。海岸に設置された検知機器の場合、海岸付近の住民が避難するのに十分な時間が取れず、海中にある場合は、深海にある津波(最大時速 800 km)の進行波の速度を超えることはできません。一方、震源地近くの海底ケーブルであれば、光の速度でデータを送信できる津波警報システムによって、津波の影響が及ぶ恐れのある地域に数ミリ秒で警報を送信できます。
2020 年 3 月 25 日から 4 月 13 日の間の荒天時の海洋波を示す Google のデータを基に Zhan 博士が作成した画像。X 軸は 0 から 0.16 Hz の周波数、Y 軸は時間を示す。海洋波は黄色の筆斜め線で表示。
また、Google の手法には今日の光ファイバー ネットワークで広く普及しているテクノロジーを利用しています。数百万キロメートルに及ぶ光ファイバー ネットワークがすでに世界中に敷設され、各国政府機関や通信プロバイダ、Google を含む IT 企業が運営しています。世界中の海底ケーブル共同体が協力すれば、世界が一丸となって世界中の地震の動きを検知し研究できるように取り組めるかもしれません。
もちろん、これは最初の実証実験にすぎず、稼働システムではありません。今後成すべき課題は多く残っています。まず、科学者は SOP をモニタリングして得られる大量の複雑なデータを深く理解する必要があります。地震データは複雑極まりないことで知られています。それぞれの地震で生成される波形は一つ一つまったく異なり、こうした形状はマグニチュードや場所などの変数によって大きく変化します。堅牢な地震検知システムを構築するために、研究者には高度な数学知識とデータ分析能力が求められます。この場合に、Google Cloud のような高度なコンピューティング システムが役に立つことは言うまでもありません。そのうち、こういった仕事は、人間の脳の限界を超える大量のデータセットを読み解くことが得意な機械学習の仕事であると、科学者は結論付けるかもしれません。
Google ではこの手法を、専用の地震センサーに代わるものとしてではなく、地震や津波を早い時点で検知して警報を出すための補完的な情報源として活用できるものと考えています。光学、海底、地震研究団体と協力し、Google は、Google のすべてのケーブル インフラストラクチャを活用することで、より良い社会の実現を目指し今後も一心に努めてまいります。
- Google Global Networking Valey Kamalov、Mattia Cantono