メタデータがなくても、AI と Dataplex Universal Catalog があれば OK
Sai Charan Tej
Product Manager, Dataplex
Chandu Bhuman
Head of Data Strategy, Cloud & Engineering, Virgin Media O2
※この投稿は米国時間 2025 年 12 月 4 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
BigQuery でデータセットを開いたときに、col1、col2、value_x のような汎用的な名前のカラムしか見つからなかった経験があるなら、不十分な文書化が分析においてどれほど重荷になるかをよくご存じでしょう。この問題の中心にあるのはスキーマです。スキーマとは、データの構造化、命名、関連付けの仕組みの設計図です。しかし、スキーマに一貫性がなく、不明瞭で、文書化が不十分な場合は、知識のギャップが生じ、検出、ガバナンス、信頼の質が低下します。
「メタデータの負債」の現実的な例を挙げます。cust_id という名前のカラムは、あるデータセットでは「顧客識別子」を意味し、別のデータセットでは「税関記録 ID」を意味する可能性があります。この曖昧さが数百のテーブル、数千のカラムに及ぶと、最新のデータスタックにさえ災厄をもたらす問題となります。
データ エンジニア、アナリスト、ガバナンス チームにはよく知られている、不十分なメタデータがもたらす課題には、次のようなものがあります。
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手動の文書化はスケーリングできない。専任のデータ スチュワードがいても、テーブルとカラムの説明を最新の状態に保つのは非常に困難です。
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コンテキストが分散している。詳細情報の中には、チームの Wiki で管理されているものもあれば、スプレッドシートに記載されているものもあり、さらには別の部署に異動したエンジニアの脳内にしか残っていないものさえあります。
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ガバナンスがボトルネックになる。ポリシーの適用とデータの分類は、明確な定義がなければ推測に頼ることになります。
現在、分析ワークフローでは AI エージェントが台頭しているため、スキーマの文書化が不十分な場合は、単に不便なだけでなく、障害にもなります。簡単に言うと、AI エージェントは理解できないカラムをクエリできません。
自動化の登場
AI もこの問題に悩まされることがありますが、Google Data Cloud の新機能である自動メタデータ生成(一般提供が開始されました)は、AI がこの問題を解決するのに役立ちます。AI システムは、スキーマ コンテキストとともにプロファイル データ(think: データ型、値の分布、パターンなど)を分析して、テーブルとカラムについて人が読める説明文の下書きを瞬時に作成できます。
具体例を示します。
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sales_fact_2025 という名前のテーブルでは、次のような説明文が生成されます。「2025 年の販売取引データ(商品 ID、地域、数量、収益など)が含まれています。」
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qty という名前のカラムでは、次のような説明が生成されます。「各取引で販売されたユニット数。」
単に空白が埋められるだけではなく、データセットを環境に取り込んだ瞬間に、一貫性があり、検索可能で、理解しやすい文書化が行われることが重要です。
BigQuery + Dataplex の力
Google Cloud 環境では、Dataplex Universal Catalog を使用して、BigQuery データセットのメタデータ作成を現場で自動化できます。
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Dataplex のプロファイリングにより、BigQuery テーブルに関する統計情報が収集されます。
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これらの統計情報は、Gemini を活用した生成により、テーブル、カラム、さらには用語集の用語に関する、コンテキストに沿った明確な説明文に変換されます。
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Dataplex Universal Catalog は、環境全体で検索、ガバナンス、AI ワークフロー用にこれらの説明文を保存します。
BigQuery コンソールでデータセット内を検索するときも、Dataplex でガバナンス ポリシーを適用するときも、AI を活用したデータ エージェントを使用するときも、ユーザーは自動メタデータ生成のメリットをすぐに享受できます。具体的には、次のようなメリットがあります。
1. 分析情報の取得に要する時間
データが何を表しているかを把握するための事前分析に時間を費やさずに、BigQuery で直接クエリを実行できます。
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メタデータ生成前: アナリストは c1 という名前のカラムを含むテーブルに遭遇します。カラムのデータは数字の羅列のように見え、何を表しているのかよくわかりません。
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メタデータ生成後: アナリストは、c1 カラムの説明文「アカウントの推定年間収益」を確認できます。これにより、最初から次のような正しいクエリを記述できます。SELECT account_id, c1 AS estimated_annual_revenue FROM accounts WHERE c1 > 1000000;
2. ガバナンスの大規模な管理
AI が生成する説明文を Dataplex Universal Catalog で保存できるようになったため、ガバナンス ルールをより効率的に適用できます。すべてのカラムに説明文があると、手動で調査する必要がなくなり、機密データの特定、フィールドの分類、コンプライアンス ポリシーの適用が容易になります。
3. AI エージェントの原動力
データ エージェントは、根拠づけにメタデータを使用します。説明文が完全で一貫している場合、AI は自然言語によるリクエストを高い精度で適切なデータセットにマッピングできます。したがって、ハルシネーションが減少し、より関連性の高い結果が得られ、会話型分析の信頼性が向上します。
お客様の視点: Virgin Media O2
Virgin Media O2 は、Virgin Media と O2 UK の合併によって誕生した英国の大手通信会社です。英国最大級の通信事業者として、モバイル、ブロードバンド、テレビ、固定電話サービスを提供し、データの管理および活用方法にイノベーションを起こし続けています。
「Virgin Media O2 は、将来を見据えたデータ戦略の一環として、広範なデータ資産全体でメタデータを作成、理解、管理する方法を強化しています。ビジネス ユニットとデータユーザーの連携アーキテクチャ全体に分散している 20,000 以上のデータアセットを使用して、組織はデータの意義、検出可能性、信頼性を高める新たな機会を切り開いています。
この取り組みを実現させるため、私たちは生成 AI の力と社内エキスパートの深い専門知識を結合したスマート メタデータ ソリューションを実装しました。BigQuery データ インサイトを活用して、AI はスキーマ、データ プロファイル、関係を分析し、豊富なコンテキスト メタデータを自動的に生成します。たとえば、txn_amt という名前のカラムは、「Transaction Amount (in GBP) - derived from the daily retail sales feed」(ポンド単位の取引金額 - 日次小売販売フィードから算出)に変換され、アナリストやビジネス ユーザーにとって即座に意味を持つデータになります。このメタデータは、クラウドソーシングによる組織全体の専門家からのインプットにより改良、検証されて、実際のビジネス コンテキストを反映するものとなり、その正確性、関連性、実用性が維持されます。
自動化と人間の知性を融合させることで、Virgin Media O2 はスケーラブルかつインテリジェントで統制されたメタデータ基盤を構築しました。このアプローチにより、データ検出が強化され、データ品質が向上し、部門横断型のチームが自信を持ってデータ主導の意思決定を行えるようになります。つまり、メタデータがイノベーションをもたらし、信頼を高め、企業全体の価値を創出する戦略的な強みとなるのです。」
- Virgin Media O2、クラウド&エンジニアリング、データ戦略責任者、Chandu Bhuman 氏
今後の対応
自動メタデータ生成は、人間の判断に取って代わるものではありません。重要なビジネス定義は、依然として人間がレビューして改良する必要があります。しかし、自動化は、データが作成されたときと使用可能になるときの間に存在するギャップを埋めてくれます。Google Cloud で作業するデータ分析チームにとって、これは生産性の大幅な向上をもたらすだけでなく、人間と AI エージェントが明確に定義された同一のコンテキストに基づいて作業する次世代の分析の基盤となります。また、自動メタデータ生成は API を介してアクセスできるので、既存のデータ エンジニアリング パイプラインと容易に統合できます。Google Data Cloud で自動メタデータ生成を始めるには、ドキュメントをご覧ください。
-Dataplex、プロダクト マネージャー、Sai Charan Tej 氏
-Virgin Media O2、クラウド&エンジニアリング、データ戦略責任者、Chandu Bhuman 氏

