Earth Engine ラスター分析と地図上の可視化で BigQuery の地理空間機能を強化

Sheba Rasson
Senior Product Manager
Kel Markert
Cloud Geographer
※この投稿は米国時間 2025 年 8 月 26 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
地理空間分析は、豊富なデータを実用的な分析情報に変換し、持続可能なビジネス戦略と意思決定を推進します。Google Cloud Next ‘25 で、BigQuery の Earth Engine のプレビュー版が発表されました。これは、BigQuery の現在の地理空間サービスを拡張するもので、データ アナリストが既存の構造化データを衛星画像から得られた地理空間データセットとシームレスに結合できるようにすることに重点を置いています。そしてこのたび、BigQuery の Earth Engine の一般提供と、BigQuery Studio の新しい地理空間可視化機能のプレビュー版のリリースを発表いたします。世界中のデータ専門家の皆様には、この新しいツールセットを介し、地理空間分析をさらに気軽にご利用いただけるようになりました。
Earth Engine とデータ アナリストをつなげる
BigQuery の Earth Engine を使用すると、データ アナリストは BigQuery 内から Earth Engine のコア機能を簡単に活用できます。データ分析に BigQuery を使用している組織では、ワークフローでラスターデータ(および衛星データから作成されたその他のデータ)をベクターデータと結合できるようになったことで、自然災害リスクの経時的な評価、サプライ チェーンの最適化、気象および気候リスクデータに基づくインフラストラクチャ計画などのユースケースに向けて新たな可能性が開かれます。
この初回リリースでは、次の 2 つの機能が導入されました。
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ST_RegionStats() 地理関数: データ アナリストが、定義された地理的境界内のラスター(ピクセルベース)データから、山火事のリスク、平均標高、森林伐採の確率といった重要な統計情報を導き出すことができる新しい BigQuery 地理関数です。
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BigQuery Sharing の Earth Engine データセット: BigQuery Sharing(旧 Analytics Hub)で 20 個の Earth Engine ラスター データセットにアクセスし、土地被覆、気象、さまざまな気候危機指標などの重要な情報を分析するために即活用できます。データセットは今後も増えていく予定です。
BigQuery の Earth Engine の新機能
BigQuery の Earth Engine の一般提供開始に伴い、プレビュー版で利用可能だった機能に加えて、以下のような拡張された機能を利用できるようになりました。
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リージョン デプロイの拡大: BigQuery の Earth Engine は、データ ストレージとコンピューティングの両方で、米国リージョンに加えて EU(マルチリージョン)と europe-west1 をサポートするようになりました。これにより、地域的なニーズや規制に対する柔軟性が高まります。
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メタデータの可視性の向上: BigQuery Studio の [画像の詳細] タブが新しく追加され、バンドや画像プロパティなど、ラスター データセットに関する情報が拡充されました。これにより、BigQuery 内での地理空間データセットの探索がこれまで以上に簡単になります。
- 使用状況の可視性の向上: ジョブごとに使用されたスロット時間を表示し、BigQuery の Earth Engine の割り当てを設定して使用量を制御することで、費用を管理し、予算内に収めることができます。


BigQuery Studio の新しい [画像の詳細] タブに表示されている Aqueduct Flood Hazard データセットのメタデータ
BigQuery 地理空間データを可視化する新しい方法
運用ワークフローで地理空間データとその分析情報を理解するには、可視化が不可欠です。そこで、Google は BigQuery の地理空間機能の拡張セットにおいて可視化機能を改善する取り組みを進めてきました。そしてこのたび、BigQuery Studio の地図上の可視化がプレビュー版でリリースされました。
BigQuery Studio のクエリ結果ペインの [グラフ] タブが [可視化] という名前のタブに変更されたことにお気づきのお客様もいらっしゃるかもしれません。以前は、このタブでクエリ結果を視覚的に確認できました。新しい [可視化] タブでは、これまでのすべての機能に加えて、GEOGRAPHY データ型を含む地理空間クエリを Google マップ上で直接シームレスに可視化する新機能が利用できるようになり、次のことが可能になります。
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地図ビューの即時表示: クエリの結果が地図上に即座に表示され、元データが直感的なビジュアル分析情報に変換されます。
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インタラクティブな探索: マップを直接操作して結果を検査し、クエリをデバッグして、迅速に反復処理することで、分析ワークフローを加速します。
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カスタマイズ可能な可視化: 使いやすいカスタマイズ可能なスタイル設定オプションを使用して、クエリ結果を視覚的に探索し、重要なパターンや傾向を効果的に強調できます。
- BigQuery Studio のクエリ結果に直接組み込まれた地図上の可視化機能により、クエリの作成と反復処理が簡素化され、地理空間分析が誰にとってもより直感的かつ効率的になります。


[可視化] タブに表示された Wildfire Risk to Community データセットを使用した、コロラド州の山火事リスクが最も高い国勢調査区のヒートマップ
サンプル ユースケース: 極端な降水イベントの分析
BigQuery の Earth Engine と地図上の可視化を 1 つのプラットフォームに統合することで、強力で統合された地理空間分析プラットフォームが実現します。これにより、アナリストは単一のプラットフォーム内でデータ探索から複雑な分析や可視化に移行できるため、分析情報が得られるまでの時間を大幅に短縮できます。企業にとっては、既存のデータ ワークフロー内で気候リスクを直接評価できる強力な新機能となります。
ある保険会社が、ドイツのポートフォリオ全体で水文気候リスクがどのように変化しているかを評価する必要があるシナリオを考えてみましょう。この保険会社は、BigQuery の Earth Engine を使用して、数十年にわたる気候データを分析し、異常降水イベントの傾向と変化を特定できます。
最初の手順は、必要な気候データにアクセスすることです。BigQuery Sharing を使用すると、Earth Engine データセットを直接サブスクライブできます。この分析では、ERA5 Land Daily Aggregates データセット(日次のグリッドまたは「画像」の天気図)を使用して、過去の降水量を追跡します。


ERA5 Daily Land Aggregates がハイライト表示された Earth Engine の BigQuery Sharing リスト(左)と、[登録] ボタンが表示されたデータセットの説明(右)
データセットに登録したので、クエリを実行できます。ST_RegionStats() 関数を使用して、指定した地理的エリアの画像バンドの統計情報(平均値や合計値など)を計算します。以下のクエリでは、ドイツの郡のサブセットについて、期間内の各日の 1 日あたりの平均降水量を計算し、各年の最大値を求めています。
次に、最初のクエリの出力を分析して、異常なイベントの頻度の変化を特定します。これを行うには、再現期間を計算します。再現期間は、特定の規模のイベントが発生する可能性を統計的に推定したものです。たとえば、「100 年に一度のイベント」は、正確に 100 年ごとに起こるイベントではなく、1 年間に起こる可能性が 1%(1/100)の極端なイベントを指します。このクエリでは、2 つの 30 年の期間(1980~2010 年と 1994~2024 年)を比較して、異なる再現期間において降水量の値がどのように変化したかを確認します。
注: このクエリは、米国のリージョンでのみ実行できます。Overture データセットは米国でのみ利用可能です。また、Earth Engine のデータセットは今後数週間以内に EU リージョンに展開される予定です。
ドイツ全土の計算を実行すると非常に時間がかかるため、デモとして迅速に結果を得るために、上のクエリ例では、人口の多い 5 つの郡をフィルタリングしています。さらに多くのジオメトリ(関心領域)に対して分析を実行する場合は、分析を 2 つに分割できます。
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1980~2024 年の、ドイツの各郡における 1 日あたりの最大降水量の時系列データを計算し、結果のテーブルを保存する。
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これらの結果を使用して、2 つの異なる期間の降水量の再現期間を計算して比較する。
分析が完了すると、BigQuery Studio の新しい可視化機能を使用して、結果をすぐにレンダリングできます。これにより、次のことが可能になります。
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高リスク地域を特定: 極端な降水量の増加が見られる郡の集まりを視覚的に特定し、リスクを事前に軽減して、保険料を最適化します。
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分析情報を伝える: 関係者とインタラクティブな地図を共有し、複雑なリスク評価を一目で理解できるようにします。
- 戦略的な意思決定に役立てる: このタイプの分析は保険に限定されません。たとえば、日用品メーカーは、これらの分析情報を利用して、気候条件がより安定している地域を選び、倉庫や配送センターの配置を最適化できます。


ドイツにおける極端な降水イベントの変化に関する BigQuery 分析を実行し、新しい地図上の可視化機能で結果をインタラクティブに探索する
Earth Engine、BigQuery、統合された可視化機能の組み合わせにより、企業は事後対応的な対策から脱却し、急速に変化する世界でデータドリブンな予測を立てることができます。
地理空間分析の未来がここに
BigQuery の Earth Engine の一般提供と地図上の可視化のプレビューが開始されたことで、さまざまな業界のデータ専門家が地理空間データからより豊富で実用的な分析情報を引き出せるようになります。洪水が発生しやすい地域の建物における気候リスクの把握から、企業計画やサプライ チェーンの最適化まで、これらのツールは運用上の意思決定を強化するように設計されており、ますますデータドリブンになっていく環境において、ビジネスの成長を支援します。
Google は、この新しい一連の機能の有用性とアクセシビリティを拡大するために、継続的に取り組んでいます。
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データセット カタログの拡大: Earth Engine と BigQuery Sharing の両方でデータセットを増やしていくことで、即時分析可能なデータセットを個別に、またはカスタム データセットと組み合わせて利用できるようになります。
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インテリジェントな地理空間支援: Google は、高度な AI とコード生成機能により、地理空間ワークフローがさらに合理化される未来を想定しています。今年中にさらに詳しい情報をお届けしますので、お見逃しなく。
BigQuery の Earth Engine と新しい地図上の可視化機能に関する包括的なドキュメントをご確認のうえ、ぜひこの新機能をお試しください。
-シニア プロダクト マネージャー Sheba Rasson
-クラウド ジオグラファー Kel Markert