IKEA Retail(Ingka Group)、Recommendations AI によって eCommerce のグローバル市場における平均注文額が 2% 増加
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 7 月 27 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
背景
IKEA では、さまざまなチャンネルのカスタマー ジャーニーの中に、異なる種類のパーソナライズによって優れたカスタマー エクスペリエンスを提供できる場所を複数用意しています。たとえば、買いものかごで表示される商品レコメンデーション、解説セクションで表示されるコンテンツのレコメンデーション、商品ページで表示されインスピレーションを与えるレコメンデーションなどです。幅広い意味での「レコメンデーション」チームが設立されてしばらく経ったころ、商品レコメンデーションに注力するサブチームを設けるためにチームを分割することが決定されました。パンデミックによってお客様の行動だけでなくニーズもまた変化しました。このような転換点にあって、IKEA はこれまでの仕事の進め方を変え、より科学的なアプローチを全面的に採用することで、高品質の商品レコメンデーションを大規模に提供するという、運用上の難題に対処することにしました。これは、パーソナライズ化のレベルを向上させてお客様を総合的に理解するために必要なことだと考えています。
データドリブンな意思決定
最初のステップは、高品質な定量的情報を得る能力を徹底的に高め、自分たちの「レコメンデーション」ソリューションがパーソナライズに与える影響を把握できるようにすることでした。このステップでお客様の行動に関する大量の A/B テストを実施し、最初のテストから次に示すいくつかの重要な教訓を得ました。
ユーザー エクスペリエンスとアルゴリズムの組み合わせは、包括的なカスタマー エクスペリエンスの実現において非常に重要である。
パーソナライズ化の質はサイロ化された状態では測定できない。複数グループのレコメンデーションを一度にテストすることで統計的有意性を得られる。
データ収集のためのしっかりとしたフレームワークを構築して、自分たちがお客様のことをいかに理解していないか認識した後は、信じられないほど多くの独創的な選択肢を余すところなく検討できました。これは、パーソナライズに対する新しい見方に目を開かされ、より探求的で自由な考え方に気づかされたという点で、初心を思い出させてくれる経験でした。データを信頼すれば、予想外の事実が判明することもあるということを学びました。
テストおよび学習フレームワーク
IKEA のチームは、既存のソリューションに実験的な変更を加えて迅速にデプロイする方法を編み出しました。これによって、見出しや画像の細部まで含めたユーザー エクスペリエンスを、フロントエンドでテストできるようになりました。この方法は、レコメンデーションに対する手動での詳細な追加または削除から、自社開発と Recommendations AI の両方によるさまざまなアルゴリズムの組み合わせとマッチングまで、バックエンドにおける調整にも幅広く対応していました。
こうした柔軟性の裏側には、Recommendations AI から直接レコメンデーションを取得する場合に比べて複雑さとコストが増すというデメリットがあったものの、どの案がレコメンデーション システムの改善につながるかを人力で評価する必要がなくなるというメリットもありました。データドリブンの定性的アプローチに従いレコメンデーションをプロビジョニングして、テストのスケジュールを大幅に短縮しました。また、CI / CD パイプラインの最適化により、チームがアイデアもしくは仮説の発案からお客様との A/B テストまでを 30 分以内に行えるようになりました。
Recommendations AI テスト
チームのインフラストラクチャはすでに GCP 上で稼働しており、Recommendations AI への早期アクセスが可能になった際には利用開始の要件が最低限に抑えられていたため、最小限の労力と投資で初期テストを開始できました。
始めにいくつかのユースケースを利用し、既存のレコメンデーション アルゴリズムの改善が必要もしくはアルゴリズムが補足的なレコメンデーションを必要とする箇所を特定しました。また、パーソナライズされたレコメンデーションを通じてお客様により有益な情報を提供する新たな方法も検討しました。
Recommendations AI モデルの組み合わせ
Recommendations AI を一連の商品レコメンデーションを取得するためのシンプルな API だと思っている人もいるかもしれませんが、このソリューションを深く理解するにつれ、いくつかの方法で少し工夫を加えれば、ビジネス目標を達成するための微調整構成をいくつも提供できることがわかってきました。微調整やカスタマイズをしすぎると性能が低下する可能性がありますが、概して ML を活用したレコメンデーションをいくつものバージョンで提供してくれる優れた戦略であることがわかりました。エクスペリエンスをパーソナライズするほど、お客様にとって最適なものを選べる可能性が高くなります。
「あなたへのおすすめ」、「よく一緒に購入されている商品」、「関連商品のおすすめ」などの Recommendations AI モデルは、コンバージョン率、クリック率、および収益の最適化などのビジネス目標と連動しています。私たちは、各種モデルの組み合わせやカスタムルールをテストしました。これらのモデルはすべて、GCP Console で簡単に構成できました。最もシンプルなカスタム構成としては、在庫のある商品のみをおすすめし、在庫がない場合には入手可能な類似商品を探して、エクスペリエンスを強化するという構成を利用しました。
Google との連携
Google Cloud との連携によって、テスト中の学習プロセスが加速されました。製品開発の初期段階から緊密に連携して作業を行いました。また、方向性を変えられる Google モデルの柔軟性によって、これまで以上に多くの選択肢を利用できるようになりました。最終的には、自分たちだけでは達成できないような素晴らしい成果をもたらすサービスがもたらされ、市場投入までの時間を大幅に短縮する方法を獲得できました。
成果と重要ポイント
よりパーソナライズされたリアルタイムのレコメンデーションが利用できるようになり、大きな成功を収めました。1 ページに表示される関連性の高いレコメンデーションの数を、+400% 増加できました。レコメンデーションの種類を増やすにはユーザー エクスペリエンスを変える必要がありました。たとえば、ある場所では水平方向にスクロールして商品レコメンデーションを表示していましたが、これはお客様にとってより使いやすいものでした。
また、よりパーソナライズされたレコメンデーションの表示によって、コンバージョン率や平均注文額が目に見えて改善されるという成果もありました。Recommendations AI アルゴリズムは、次に示す 2 通りの方法でお客様を支援します。
お客様は、気に入った商品をすぐに見つけ出し、他の選択肢の中から好みのものをより早く選択して、はるかに少ないクリック数でも迷うことなく購入できました。すでにいくつかの種類のレコメンデーションを適切に調整していたにもかかわらず、Recommendations AI の導入によって +30% のクリック率増加が見られました。
平均注文額は +2% の増加を示し、お客様が魅力的かつ直接的な補完関係にある商品を見つけられるよう Recommendations AI が支援してお客様の購入を単一の商品からホーム ファニシング ソリューション全体へと拡大させた事例が数多く見られました。
これまでよりも優れたビジネス上の成果を挙げた直接的な影響として、チームは増え続けるレコメンデーションを利用できるカスタマー ジャーニーに対応した場所が他にもっとないか探し始めました。まずは、初期テストで、特定のコンテキストでレコメンデーションを表示することが自然かどうかを確かめます。これらのテストで得られたデータをもとに、お客様の行動が変化する中で、どのような種類のレコメンデーションを追加で表示するのが最も適切か、さらに繰り返し検討しました。現在、IKEA のサイト レコメンデーションのほとんどは Recommendations AI を活用したものです。
重要ポイントの 1 つは、ある種のパーソナライズされたレコメンデーションでは、高水準のデータ サイエンスとエンジニアリングの能力を必要とする高度なアルゴリズムを使用して構築すると、単純なアプローチよりも優れた結果を得られるというメリットがある点です。単純なアプローチが非常に良い成果をあげる場所もあれば、商品レコメンデーションを一切しないのが正しい判断という場所もあります。商品レコメンデーションを効果的に活用するためには、前述したすべての選択肢と、どの選択肢をいつ使うかを見極める能力が必要です。
次のステップ
カスタマー エクスペリエンスと密接に関連した作業ではユーザーの行動が常に変化し、新しい学びを得て変化に順応しなければなりません。商品レコメンデーションが主要なスタンドアロン エクスペリエンスであることはほとんどなく、多くの場合、エクスペリエンスの補助および強化に使用されます。IKEA は、選択肢に関する大規模なツールボックスと、カスタマー エクスペリエンスを向上させる連携に徹底的に焦点を当てたチームを持つことに、大きな価値を見出しています。Recommendations AI チームと直接連携して作業しており、ワクワクするようないくつかの新機能をテストしています。
将来的には、お客様が想像力を働かせて商品群を集まりとして思い浮かべることに頼るのではなく、お客様にインスピレーションを与えるような、より視覚的なエクスペリエンスを通じてカスタマー ジャーニーを改善する機会があると考えています。Vision Product Search はそのような機能を備えており、次にデプロイすることを検討しています。2021 年 7 月 27 日に開催される Google Cloud Retail Summit のセッション「強力なレコメンデーション エンジン構築に向けた IKEA の取り組み」では、Recommendations AI を活用した取り組みについて詳しく紹介します。
IKEA 商品のレコメンデーション チームおよび Google Recommendations AI チームの開発者の皆様、今後ともよろしくお願いいたします。
-IKEA Retail(Ingka Group)、エンジニアリング - Edge 担当責任者 Albert Bertlisson 氏