三建設備工業:Google Cloud 日本初、全社員が利用する業務システムを Bare Metal Solution For Oracle に移行
Google Cloud Japan Team
空気と水の環境創造企業として、空調設備・衛生設備・電気設備に関する企画、設計、施工、メンテナンス、リニューアルに至るまで、建物のライフサイクルをサポートする三建設備工業株式会社(以下、三建設備工業)。同社では、社内で利用している人事給与システム・ID 管理システムの Bare Metal Solution For Oracle(以下、BMS)への移行を実施しました。業務システムの BMS への移行という日本の Google Cloud で初となるこのプロジェクトに携わったメンバーの皆さんに話を伺いました。
利用しているサービス:
Compute Engine、Cloud Storage、Cloud Load Balancing、Cloud Functions、BigQuery、Cloud SQL、Virtual Private Cloud、Cloud DNS、Google Cloud ハイブリッド接続
利用しているソリューション:
Oracle 向け Bare Metal Solution(Bare Metal Solution For Oracle)
BMS でオンプレミスから脱却し、耐障害性や可用性の問題の解消に挑戦
三建設備工業では従来より基幹システムのクラウドへの移行を進めており、2021 年時点では全社の業務で使用するシステムについて、そのほとんどが Google Cloud 上で稼働していました。その中でクラウドへの移行が実現できていなかったのが、人事給与システム・ID 管理システムです。同社の人事給与システム・ID 管理システムはサードパーティの製品で構築されており、使用するには Oracle Database が必須要件となっています。しかしライセンス上の理由から Oracle Database をクラウドで実行することができず、Google Cloud への移行が進められないまま自社サーバーに据え置かれていたため、社内の懸念材料になっていたと、三建設備工業 管理本部 情報企画部の山中氏は語ります。
「自社サーバーでの運用は耐障害性や可用性の面でどうしても不安が残ります。たとえば本社が被災した場合のリスクや、ハードウェア故障時の対応などに課題がありますし、電気設備の点検等でもダウンタイムが発生します。これを解消するためにクラウドに移行できる可能性を模索していたところ、BMS が東京リージョンでも利用できるようになったことを知り、導入を検討するようになりました。」
ちょうどその頃、人事給与システム・ID 管理システムにおいてサービス追加の要件があり、その影響でサーバーをリプレイスする必要性が出てきました。山中氏は続けます。
「このときの選択肢は 3 つありました。このままオンプレミスでハードウェアだけ入れ替えるか、ベンダーが提供している SaaS を利用するか、または BMS に挑戦するかです。しかしオンプレミスには先ほど話したように耐障害性や可用性の問題があり、SaaS はコストが高くなることや VPN の構成が複雑になるなどの問題がありました。BMS であれば、Oracle Database が必須であるという条件をクリアした上で、既存のシステム構成に大きな変更を加えなくてもクラウド環境への移行が可能です。また保守性を考慮すればコスト面でも大きなメリットがあることがわかりました。初挑戦の領域ではありましたが、今後のことを考えて導入にチャレンジすることを決心しました。」
導入の決め手になったポイントは Oracle Database が利用できることだけではありません。三建設備工業には本社や支店、営業所などを含めて 30 以上の拠点があり、それぞれの拠点から VPN で基幹システムに接続する構成になっています。また業務の特性上、約 1,200 人いるカンパニー ユーザーのうちの半数以上が建設現場などの外部から SSL-VPN と SSO(Single Sign-On)を使ってシステムにアクセスしています。そのため、人事給与システム・ID 管理システムの移行にあたっては、従来の接続方式を変えずに利用できるようにしたいというニーズがありました。
SSO を引き継ぐことでユーザーの利用環境に影響を与えることなく移行できた
今回構築したシステムでは、BMS 上に Oracle VM を利用して AP サーバーと DB サーバーの 2 つの仮想マシンを設置しました。AP サーバーには SSO で外部から接続できるようになっており、Cloud Load Balancing を使って負荷分散しています。また、ID 管理システムについては Google Workspace などの外部システムと連携する必要があるため、Compute Engine で NAT ゲートウェイを構築しています。
Oracle VM の管理は基幹システムから Oracle VM Manager を使用して行います。基幹システムはすでに Google Cloud 上の Virtual Private Cloud(VPC)で稼働していたため、BMS とは New VPCを経由した VPN 接続で相互アクセスできる構成にしました。この構成にすることで既存の SSO を引き継ぐことが可能になったため、拠点から基幹システムへの既存の接続環境や、現場のスタッフによる人事給与システムの利用環境にほとんど影響を与えることなく BMS に移行することができたそうです。
開発にかかった期間は約 3 か月。本プロジェクトには、Google Cloud を専門とした導入支援サービスを提供しているクラウドエース株式会社(以下、クラウドエース)が支援をしました。山中氏は今回の移行プロジェクトについて次のように振り返ります。
「BMS を利用するのは初めてでわからないことが多く、クラウドエース様や Google Cloud チームの協力を得て手探りで取り組んでいきました。たとえばネットワーク部分については、当初は New VPC を使わずに BMS と基幹の VPC を直接つなぐ形でしたが、それだと既存の拠点との接続に使用している VPN と AS番号(Autonomous System 番号)が重複してしまうという問題が発生しました。そこで中間に新たに VPC を追加した上で、VPC ピアリングを利用してトラフィックをルーティングすることによって、 AS 番号の重複を解消しました。その他に、外部からの接続のためのロードバランサや NAT ゲートウェアの導入もテストを繰り返すなど、ひとつずつ課題を解決していきました。」
新システムの導入による効果について、三建設備工業 管理本部 情報企画部の上田氏は次のように語っています。
「ハードウェアのメンテナンスが不要で、これまでのような設備点検などによるダウンタイムの心配が無くなったことは非常に大きいメリットだと感じています。現場のスタッフは深夜や土日などにも稼働していることがあるので、その業務を妨げないためにも可用性は非常に重要です。BMS によってクラウドへの移行が実現し、全社員が利用するシステムを安定して提供できるようになったことが何よりの効果と言えます。」
ICT による生産性の向上は不可欠、クラウドならではの強みも生かしていく
本プロジェクトを支援したクラウドエースは、導入支援サービスのひとつとして、顧客による IT システムの内製化にも力を入れているクラウド インテグレーターです。伴走型でサポートする Cloud Booster(導入支援サービス)などは、内製化を後押しする支援の形のひとつです。クラウドエース 技術本部 システム開発部 リーダー 吉村氏と事業推進本部 事業企画部 中野氏は、三建設備工業についてそれぞれ次のように語っています。
「三建設備工業様は、問題解決のために新技術を導入することに躊躇しない会社です。これまでも、ホストコンピュータから Linux への移行、そして Google Cloud を使ったクラウドへの移行も率先して実施されてきました。一方で我々クラウドエースはクラウドの専門家として、既存技術のノウハウを持つだけでなく、触ったことがない新しい技術を扱うプロでもあります。」(吉村氏)
「今回の BMS も、弊社にとって初の取り組みでした。
三建設備工業様とは、こういった新しい技術に一緒にチャレンジできる Win-Win な関係と言えます。
この事例が日本における BMS For Oracle 採用の促進につながればいいと思っています。」(中野氏)
クラウドエース 事業推進本部 営業部 川崎氏と技術本部 システム開発部 長野氏は、それぞれ次のように補足します。
「クラウドの大きなメリットのひとつとしてスモール スタートが可能なことが挙げられますが、その中でも Google Cloud には、操作がシンプルで、コストパフォーマンスが高いプロダクトが豊富だという強みがあります。AI や機械学習のように本来ならば複雑な技術もカジュアルに活用できる点も魅力です。」(川崎氏)
「実際に BMS を利用して感じたのが、Google Cloud はクラウドでありながらオンプレミスとの接続なども意識して設計されているということです。たとえば BMS も Google Cloud とは別のネットワークにあるわけですが、Cloud Router の設定を一箇所追加するだけでスムーズに繋がりましたし、ロードバランサーに関してもハイブリッド NEG(Network Endpoint Group)というものがあらかじめ用意されていて、柔軟にハイブリッドの構成を組めるのが魅力だと感じました。」(長野氏)
三建設備工業では、今後もクラウドを活用した新しい技術の導入に積極的に挑戦していきたいと山中氏は話します。
「今回は、クラウドエース様や Google Cloud チームの手厚いサポートもあって、国内初の BMS プロジェクトを無事完了できました。クラウドへの移行が実現したとはいえ、現状ではまだオンプレミスの頃のサーバー構成を維持したままの移行に留まっています。今後はクラウドならではの強みを生かせる構成への移行も実施していかなければなりません。その他に、まだ BI ツールの導入までは至っていないものの、データ分析のニーズが出てきているので、データを収集する土台は用意したいと考えています。これからは、企業にとって ICT を利用した生産性の向上は不可欠になってくると思います。弊社でも、今回の BMS のように、今まで欲しかったけどできなかったというサービスが登場したら、積極的に採用を検討したいです。」
1946 年の創業以来、空気と水の環境創造企業として、信頼性の高い先進技術でお客様と社会が求める環境づくりを提案している独立系の建築設備会社です。空調設備・衛生設備・電気設備の企画段階から設計、施工、メンテナンス、リニューアルに至るまで、建物のライフサイクルにおけるさまざまな局面でエンジニアリング技術を活かしたトータルサポートを提供しています。
インタビュイー
・管理本部 情報企画部 山中 啓悟 氏
・管理本部 情報企画部 上田 美紗季 氏
インタビュイー
・技術本部 システム開発部 リーダー 吉村 恒平氏
・技術本部 システム開発部 長野 太一 氏
・事業推進本部 営業部 川崎 柊氏
・事業推進本部 事業企画部 中野 直樹氏
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