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顧客事例

キユーピー株式会社の導入事例:キユーピー+ブレインパッドの取り組みで次世代の AI 検査装置を実現!

2017年6月6日
Google Cloud Japan Team

工業製品と異なり、個体ごとの揺らぎの大きい食品原料の世界では、良品・不良品の検査・仕分けを人力に頼らざるを得ず、それが現場の大きな負担になっていました。そんな中、昨年 10 月にキユーピー株式会社が、人工知能(AI)を駆使した原料検査装置の開発を表明し大きな話題に。ここではその取り組みについて、その開発を主導した 4 人のキーパーソンに聞いてきました。

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キユーピー株式会社
生産本部 生産技術部 次世代技術担当 
担当次長 荻野武さん(写真中央)

挙母工場 製造二課 鶏卵購買・企画担当
係長 田村崇さん(写真左)

生産技術課 開発係
向井泰平さん(写真右)

■利用している Google Cloud Platform サービス
TensorFlow

キユーピー株式会社
1919 年、食品工業株式会社として設立。1925 年、「キユーピーマヨネーズ」の製造を開始。1957 年に社名をキユーピー株式会社に変更。現在グループ会社 55 社があり、そのうち海外には中国、東南アジア、米国などに拠点を持つ(2016 年 11 月現在)。コーポレートメッセージ「愛は食卓にある。」。

“安全”なだけでなく、“安心”できる原料でなければ良い商品は作れない

おなじみ「キユーピーマヨネーズ」を筆頭に、ドレッシングや各種調味料、ベビーフード、介護食など、日本人の食生活を 100 年近くに渡って支えてきたキユーピー株式会社。そんな同社がこれまで大切にしてきたことが『良い商品は良い原料からしか生まれない』という考え方です。今回のプロジェクトも、まさにここからスタートしたのだと、同社生産本部で次世代技術開発を担当する荻野武担当次長は言います。

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「では『良い原料』とは一体どういうものなのでしょうか? まず、そもそもの前提として我々が仕入れている原料は、どれも信頼できる生産者が手がけた“安全”なものです。しかし、私たちはそれだけでは不十分だと考えます。例えば、ベビーフードの中に、害はなくとも、やや黒ずんだジャガイモが混じっていたらお母さんは心配に思いますよね。それは“安全”かもしれませんが、“安心”ではないのです。」(荻野さん)

これまでキユーピーはそうした原料由来の夾雑物(きょうざつぶつ)を、工場スタッフが目視で発見し、取り除いてきました。今回のプロジェクトに現場の代表として参加した、鳥栖キユーピーの向井泰平さんが勤務するキユーピー鳥栖工場では、スタッフの約 25 %にあたる 30~40 名がこうした検査業務に従事。まさに人海戦術でキユーピー品質を守ってきたのです。

「鳥栖工場では、1 日あたり 4~5 トンもの原料に対し全量検査を行っており、それが大きな負担となっていました。検査には一定以上の熟練が求められるため、人を増やすのも簡単ではありません。結果、思うような増産ができないなど、生産上の大きなボトルネックになってしまっていたんです。当然、これを機械化できないかということは何度も検討したのですが、従来の定番であったマシンビジョンでは、品目ごとに仕分けの定義を設定せねばならず、精度の面でもコストの面でも現実的ではありません。何せ鳥栖工場だけでも約 400 種類、全社的には数千種類もの材料を扱っているわけですから。」(向井さん)

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そんな中、荻野さんは、自ら学習して精度を高めていくことができる AI を活用することで、この問題を解決できるのではないかと考えました。

「具体的な検討を始めたのは昨年夏ごろ。AI を専門に研究する機関も含め、数十社の AI 技術を検討しました。結果、画像解析の分野では、早くからこの方面で注目を集め、既に多くの実績も備えていた Google の TensorFlow がベストであるという結論に達しました。」(荻野さん)

さっそく荻野さんは、Google に自らの考えを打診。信頼できる開発パートナーとして、AI 開発支援で多くの実績を誇る株式会社ブレインパッドを紹介されました。しかし、そんな同社に取っても、キユーピーの目指す理想は簡単なものではなかったそうです。

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「これまでも製造工程上の不良品を発見するシステムは複数開発していたのですが、キユーピーさんはこれまでのどの事例よりも検査基準が厳しく、検査精度を高めることが一つのハードルとなっていました。しかもそれを、ベルトコンベアー上を高速に流れていく原料に対して行わなければなりません。この精度と速度の両立は我々にとってもチャレンジでした。」(株式会社ブレインパッド テクノロジー&ソフトウェア開発本部 下田倫大さん)

AIを活用することによって“現場力”を高めたい

こうして始まった、キユーピーの次世代検査装置プロジェクト。その開発においては、「最初に最も高いハードルを課す」(荻野さん)ため、安全・安心において最も厳しい目が向けられるベビーフードの原料となるダイスポテト(賽の目状にカットされたジャガイモ)を検査対象に設定。約 1 万 8,000 枚のライン写真を TensorFlow に読み込ませ、良品・不良品の閾値(しきいち)を徹底的に学習させたそうです。

「ここで、大きなブレイクスルーとなったのが、AI を正解・不正解を判断する『分類器』として使うのではなく、良品の特徴を学習し、そうでないもの=不良品を弾く、『異常検知』というアプローチを採用したこと。このアプローチですと、良品のデータだけを学習させるだけで高い精度と速度を両立できるようになります(分類器として精度を出すためには、不良品のデータも膨大に学習させる必要がある)。グローバルかつオープンな TensorFlow は、コミュニティの受け皿が大きいことも特徴です。論文で発表されているアルゴリズムが既に実装されているケースも多く、トライの閾値が低いのです。こうしたエコシステムができあがっていることも TensorFlow の強みと言えるでしょう。」(下田さん)

「ブレインパッドさんのおかげで、開発も順調に推移。概念実証(POC)を 11 月頃に行い、年末にそれを踏まえた構想設計を開始。2 月にはプロトタイプが完成し、4 月上旬にはそれを鳥栖工場に持ち込んで実証実験を実施しています。その際、あえて人力で取り除いた不良品を混ぜ込んだ原料を検査させたのですが、ほぼ正確にそれを指摘してくれるなど、結果は上々でした。今後は、実験で明らかになったいくつかの問題の解消や、更なる速度アップを行い、さらに完成度を高めていく予定です。もちろん“その先”もすでに構想しているのですが、今回はまだ内緒ということにさせてください(笑)。」(荻野さん)

将来的にはこの検査システムを、原料メーカーなどの協力会社に外販していくことも考えているとのこと。その点について、本プロジェクトでマーケティング面を担当しているキユーピー挙母工場 企画担当係長の田村崇さんは次のように語ります。

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「マシンビジョンに代表される既存の検査システムは、高価で設置に大きなスペースが必要になる上、応用がきかないため、おいそれと導入できるものではありませんでした。そんな中、AI を活用した汎用性のある検査機構には間違いなく大きなニーズがあります。今はまだダイスポテトだけですが、今後、別の穀物、そして私が買い付けを担当している鶏卵など、さまざまな方面に拡張していけるようにしたいですね。」(田村さん)

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なお、この取り組みに際して誤解されたくないのは、AI による自動化の目的が、人員・コストの削減ではないことなのだと、荻野さんは強調します。

「むしろ、AI を活用する狙いは活人化。人間→AI ではなく、人間×AI によって、“現場力”を高めていくことが真の目的なのです。まずは今回開発した検査システムで大まかに不良品を取り除き、そこから漏れたものを、熟練のスタッフが弾いていくという合わせ技で生産性を高めていけると考えています。実際、実証実験に協力してくれた現場スタッフの反応は極めてポジティブ。単純作業をシステムに任せられるようになることで、よりクオリティの高い仕事ができるようになると期待してくれているようです。」(荻野さん)

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