インターネットに日焼け止めは不要: 太陽嵐から保護されている海底ケーブル
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 11 月 18 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
何気なく空を見上げていると、太陽はいつも同じで、ずっと変わらないように思えるでしょう。しかし、実際には、非常に球形に近いプラズマの塊である太陽は、大量の超高温ガスを惑星間空間に向けて定期的に放出しており、それにより太陽嵐が発生しています。太陽嵐が地球の大気の方に向かってきて、通り過ぎる際には、地球の磁場を大きく乱します。この地磁気の乱れは、北極光や南極光(オーロラ)として北極や南極の空に現れ、自然がもたらす壮観な光のショーとして知られています。
太陽嵐は、このような美しい景色をもたらす一方で、非常に破壊的な影響も引き起こします。それは、電線に非常に高い電圧の誘導電流を生じさせ、電力網の安定性を脅かすためです。世界中のインターネット トラフィックの多くを伝送している海底インターネット ケーブルが機能を停止する危険性もあります。
Google は、電気通信事業者のパートナーとともに長年にわたり光ファイバー ケーブルを敷設してきました。現在までに、22 か所の海底ケーブル プロジェクトに投資しており、Google および Google Cloud をご利用の世界中のお客様向けにサービスを提供しています。そのため、当然のことながら、大規模な太陽嵐がこれらのケーブルに与える影響については注視しています。特に、太陽活動第 25 周期と呼ばれる太陽の活動が活発になる時期に差し掛かっている今、その対策が急務となっています。
このリスクを評価するため、Google の科学者チームは、宇宙天気現象が相互に接続された大規模な電力系統に与える影響について理解を深め、現実のデータと照らし合わせて評価する作業に取り組みました。その結果、Google が敷設している海底ケーブルは安全で、太陽嵐によってケーブルに大きな被害が生じるリスクは低いことがわかりました。一安心といったところでしょうか。どのようにこの結論に至ったかをご理解いただくために、まずは太陽嵐について、そして太陽嵐が海底ケーブルに与える影響について説明します。
ファラデーの法則の発現
太陽嵐は、磁場の変動により誘導電場が生じるというファラデーの電磁誘導の法則を大規模に発現させます。太陽嵐が近づくと、地球の磁場が歪み、弱められます。それにより電場が生じ、地球内部の導電性の高い流体を通して伝播されます。これらの地球電場が接地点を通して送電線網に侵入し、大きな電圧の変動を引き起こすことで、電力網の運用に問題が生じます。
最も有名なのは、1859 年に発生したキャリントン イベントと呼ばれる太陽嵐でしょう。この太陽嵐は観測史上最大級の磁気嵐を引き起こし、当時の電信網に甚大な被害をもたらしました。現在の電力網もその被害を免れません。1989 年 3 月に発生した磁気嵐は、カナダ東部の広い範囲で停電を引き起こしました。つまり、ファラデーの法則に基づくと、接地され、相互接続されたあらゆる電力系統が被害を受ける可能性があるのです。
遠く離れた大陸間を銅線でつなぐ海底ケーブルもその例外ではありません。ケーブル内部はガラス繊維でできており、その中でレーザー光を照射することで相手側へと情報が伝達されます。さらに、ケーブルに沿って一定間隔で海底に光増幅器が設置されており、光信号が増幅されます。
海を挟んだ両側には陸揚局があります。この施設には、レーザー、および冗長性を確保した高電圧給電装置(PFE)が用意されており、経路上の多数のリピーターに電力を供給しています。電気回路は、接地により閉回路となっています。冗長性を確保するため、2 台の PFE により、陸揚局間での設計電圧が維持されています。たとえば、10,000 ボルトが必要なケーブルの場合は、一方の PFE が +5,000 ボルトを、他方の PFE が -5,000 ボルトを供給します。いずれかの PFE が故障した場合は、他方の PFE の電圧を 2 倍にすることで、ケーブル全体で同じ電圧が保たれるようになっています。このような事態が生じると、それまで 5,000 ボルトを供給していた PFE が出力を上げて、全体の電圧をまかなう冗長設計となっています。
電力系統に生じる電圧
大規模な太陽嵐が発生した場合、海底に敷設された長距離の銅線にはどの程度の電圧がかかるのでしょうか。その答えを探るため、Google の科学者は、中規模および小規模な太陽嵐の活動が見られた 5 か月間における、さまざまな地域の多数の海底ケーブルでの電圧の変動を分析しました。その結果、ケーブルの長さや向きにかかわらず、電圧の変動は地磁気摂動の強さと大きな関連性があることがわかりました。この結果をもとに、将来キャリントン イベントに似た大規模な太陽嵐が生じた場合の影響を、あらかじめ推定することができました。
このグラフは、さまざまな海底ケーブルでの電圧の上昇を、世界中の地磁気観測所のネットワークにより記録された太陽嵐による磁場の変動の関数として示したものです。各データポイントは、海底ケーブルおよびその最近傍の磁力計で記録された太陽嵐に対応しています。観測期間中は大規模な太陽嵐は発生しなかったため、いずれの太陽嵐でも大幅な電圧の変動は生じませんでした。
幸いなことに、1989 年の太陽嵐では、誘導電場により、ある大洋横断ケーブルでケーブルの通常の電圧から 300 ボルト上昇したことが記録されています。これらの観測結果から、1859 年のキャリントン イベントと同規模の太陽嵐が発生した場合でも、800 ボルトの電圧上昇にとどまることが推定されます。電力系統の冗長設計により、Google の大洋横断ケーブルなどの海底ケーブルでは、通常、最大 6,000 ボルトまでの変動であれば吸収することができます。これは、1859 年の太陽嵐による影響をはるかに上回るレベルです。
このように、海底ケーブルは太陽嵐の影響から十分保護されていると考えられます。この研究結果は、査読済みの科学論文として来年発表する予定です。少なくとも海底インターネット ケーブルに関しては、インターネットが切断されるなどの影響は生じませんので、引き続きオーロラの美しい光景を安心してお楽しみいただくことができます。
- Urs Hölzle Google Cloud 技術インフラストラクチャ担当シニア バイス プレジデント