金融サービスの未来予想図: KeyBank 社のケースから、今とこれからを読み解く

Yolande Piazza
VP, Financial Services, Google Cloud
KeyBank 社の 戦略的クラウド移行がもたらしたビジネスへの大きな影響について、CIO(最高情報責任者)である Amy Brady 氏が論じます。
※この投稿は米国時間 2024 年 8 月 15 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
アジリティ、スケーラビリティ、費用対効果を高める必要性から、金融機関はクラウドベース アプリケーションの導入を推し進めており、まさに変革期を迎えています。クラウド テクノロジーを活用することで、銀行は迅速にイノベーションを実現し、市場の変化に対応し、デジタル技術に精通した顧客のニーズに応えることができます。
KeyBank 社のクラウドに対する取り組みは、金融セクターにおけるクラウド導入の成功に不可欠な、セキュリティ重視の戦略的アプローチの見本といえるでしょう。
オハイオ州クリーブランドを拠点とするこの金融機関は、顧客と従業員のエクスペリエンス改善に注力するなかで、重要なマイルストーンを達成し、ビジネス上の大きなメリットを実現しました。また、他の金融機関にとっても指針となるような重要な教訓を得ることになりました。クラウド テクノロジーを取り巻く環境が進化するなか、KeyBank 社はカスタマー エクスペリエンスと運用効率を高める革新と、新たなテクノロジーの活用を続けています。
「KeyBank 社のクラウド戦略は、比較的短い期間で効果を示したコア ビジネスケースに基づいて推進されています」と、KeyBank 社の CIO である Amy Brady 氏は説明します。


現在、KeyBank 社のクラウド戦略は、同行のテクノロジー エコシステムのモダナイズ、セキュリティの強化、将来のビジネス イニシアチブへの準備に役立っています。
Brady 氏は最近のインタビューで、Google Cloud の金融サービス担当バイス プレジデントである Yolande Piazza と、クラウド導入に対する同行の戦略的アプローチについて話し合いました。銀行業界においてクラウド技術の導入を先駆けて行った KeyBank 社は、クラウドがもたらす可能性がどのように広がり、変化していくかを、目の当たりにしてきました。この進化を詳しく探るため、Brady 氏は KeyBank 社の戦略、主要なマイルストーン、取り組みから学んだ知見、そして業界のテクノロジーの将来の展望について話してくれました。
Yolande Piazza: KeyBank 社と Google Cloud は、10 年ほど前にクラウド導入の取り組みを開始しています。KeyBank 社がクラウド戦略を採用した背景と主な事業目標についてお聞かせください?
Amy Brady 氏: KeyBank 社ではクラウド技術のポテンシャルをいち早く認識し、戦略的な視点からアプローチしてきました。KeyBank 社がクラウド導入を通じて目指したのは、ビジネス目標とテクノロジー目標の達成を加速し、新サービス導入のサイクル タイムを短縮し、セキュリティを強化して、テクノロジー エコシステムのモダナイズを図ることでした。クラウド導入のビジネス上の必要性は明確で、効率化、モダナイズ、セキュリティの強化がその最優先事項として掲げられていました。
KeyBank 社の戦略は、アプリケーションの大部分をクラウドに移行させることでした。目標を達成することで、将来を見据えた体制を整え、機能の拡張に必要なスケーラビリティを実現できるようになります。特に Google Cloud の最先端のツールは、お客様や従業員に対するサービス向上に役立っています。Google Cloud は、ユーザー エクスペリエンスとカスタマー エクスペリエンスを充実させると同時に、KeyBank 社のエコシステム全体でテクノロジーの導入を加速するのに貢献しています。
KeyBank 社の戦略には、アプリケーションのかなりの部分をクラウドに移行することが含まれていました。目標を達成することで、将来に向けて体制を整え、必要なスケーラビリティを実現できようになります。
KeyBank 社のクラウド導入の取り組みにおいて、重要なマイルストーンは何でしたか?
この取り組みは、Google Cloud へのデータ移行から始まりました。スケーリングのために追加のハードウェアが要求されることを避け、組織全体にわたる分析とデータ活用のニーズを満たす必要があったのです。顧客データを含む全データの移行に成功したことは、重要なマイルストーンでした。
KeyBank 社では、パフォーマンス、復元力、セキュリティを徹底的に重視し、段階的なプロセスで移行を進めてきました。最近、7 回目の Wave を完了しましたが、これにはオンライン バンキング ポータル(お客様が KeyBank 社との取引業務で最も利用されているチャネル)とオンライン オリジネーション システムが含まれていました。
今年だけで 75 を超えるアプリケーションを Google Cloud に移行しました。年末までにさらに 100 のアプリケーションを移行する予定です。もうひとつの重要なマイルストーンは、コンタクト センターの移行です。2024 年第 3 四半期の終わりごろまでの完了を目指しています。
多くの課題に取り組まれたのですね。他の金融機関が参考にできるような教訓はありますか?
まず、移行の影響を最小限に抑えることに関して言うと、常にお客様を最優先する必要があります。システムの稼働時間とパフォーマンスが何よりも重要です。また、移行の準備が整っていないアプリケーションを無理にクラウドへ移行しないことの重要性にも気付きました。アプリケーションによっては、クラウドの利点を十分に活用するために再構築が必要となる場合もあります。
こうしたことを踏まえて考えると、重要な教訓がいくつか浮かび上がります。
- セキュリティ第一: 初期段階から堅牢なセキュリティ フレームワークを構築することが不可欠です。私たちは、「Ticket to Ride」というセキュリティ ゲートを作りました。
- 財務運用の徹底: 予期せぬ支出を避けるために、クラウド費用をモニタリングして管理することが重要です。他の要素が影響する可能性もあるため、クラウドはコスト削減になるとも、費用が増加するとも決めてかからないようにしてください。
- アクセスの管理: 移行プロセスの途中でセキュリティ問題の修復作業が発生しないよう、プロセス全体を通じて厳しいアクセス管理を実施する必要があります。
- 従業員のスキルアップ: 移行をチームのトレーニングとスキルアップの機会として活用することで、一石二鳥の効果が得られます。KeyBank 社の「Future Ready」は、魅力的なクラウド学習プログラムです。
- 現実的なアプローチ: ときとして、熱意が現実を支配してしまうことがあります。一発逆転的な移行アプローチではなく、段階的な移行アプローチを採用することで、成功率が上がり、リスクが下がります。
これらのアプローチを続けることで、お客様とチームに貢献する次のアプリケーションの Wave を実行できる自信を得ることができます。
KeyBank 社がクラウド移行によって実現したビジネス上のメリットを定量的に教えてください。
KeyBank 社では、クラウド移行によってパフォーマンスとコスト効率が着実に改善しています。たとえば、オンライン バンキングでは、クラウドネイティブ サービスの導入により、費用が削減でき、パフォーマンスが向上しました。応答時間が短くなり、最新のデプロイ パイプラインを通じてお客様向けの新機能を安全にリリースできました。
この移行により、メンテナンスの負担が軽減され、エンジニアは新機能の開発やイノベーションに集中できるようになりました。今後、より多くのアプリケーションがクラウドに移行されるのに伴い、さらに改善されていくことが期待されています。
クラウドが登場したばかりの頃、セキュリティ リスクの懸念から、多くの銀行が導入に慎重でした。KeyBank 社はどのようにしてセキュリティを確保し、懸念を緩和したのですか?
セキュリティは当初から最優先事項でした。包括的なセキュリティ フレームワークと「Ticket to Ride」というシステムを開発しました。アプリケーションをクラウドに移行する前に「Ticket to Ride」で徹底的にテストし、セキュリティ基準を必ず満たすよう義務付けました。このアプローチが功を奏し、パフォーマンスの向上とお客様への対応時間の短縮が実現しました。この分野では、Google Cloud のサポートを定期的に活用し、セキュリティ体制の評価と強化に役立てています。
セキュリティは当初から最優先事項でした。包括的なセキュリティ フレームワークと「Ticket to Ride」というシステムを開発し、アプリケーションをクラウドに移行する前にそこで徹底的にテストするよう義務付けました。
これらすべてを考慮に入れ、KeyBank 社がこの変革のメイン パートナーとして Google Cloud を選んだのはなぜですか?
私は、企業のテクノロジー戦略を実行する上で、相互に利益をもたらすパートナーシップが不可欠だと私は考えています。Google Cloud は、その堅牢なネイティブ サービスにより、特にセキュリティとデータ分析において際立った存在でした。10 年ほど前、Google Cloud を利用してデジタル化への取り組みを始めた頃の KeyBank 社は、Anthos と Kubernetes の先行ユーザーでした。これらのサービスのおかげで、データ ウェアハウスを BigQuery に移行する際、Google Cloud のデータと分析の機能を最大限活用することができました。このことが、より迅速かつスマートに業務を遂行し、顧客ニーズに応えるための変革を加速するための、重要な転換点となりました。
Google Cloud に関して、そのテクノロジーと同じくらい重要だったのが、真に革新的なパートナーシップの形成でした。Google のチームは、KeyBank 社のニーズに真摯に耳を傾け、それらのニーズを満たす機能を提供し、団結した協力的な方法で一緒にイノベーションを起こそうとしてくれました。
KeyBank 社が成し遂げてきたことを踏まえて、金融サービス業界におけるクラウド テクノロジーの今後の方向性をどのようにお考えですか?
特に AI と分析の進歩により、クラウド テクノロジーの未来は明るいと考えています。金融サービスは、顧客価値の創造とリスク管理において、生成 AI と高度な分析から大きな恩恵を受けることができます。適切に管理されたクリーンなデータを持つことと、高いコンピューティング能力へのニーズを手頃な価格で効率的にサポートできるクラウド プロバイダと協力することが、極めて重要です。結局のところ、優れたツールとスキルの高い専門家の組み合わせこそが、最高のビジネス成果をもたらすのです。
クラウドに対する KeyBank 社の次の取り組みは何ですか?
KeyBank 社は、アプリケーションの移行を継続し、2025 年までにこの作業を完了することを目指しています。新たなアプリケーションは Google Cloud 上に直接構築されます。Google Cloud のデータ マイニング機能と分析機能を活用することで、より速く、より深い知見を得て、意思決定を改善し、お客様へのサービス提供を強化できるものと期待しています。KeyBank 社にとって、もうひとつの重要な関心事項がコンタクト センターの移行です。お客様にシームレスなオムニチャネル エクスペリエンスを提供し、当行の代理店にもより良いエクスペリエンスを提供することを目指しています。
冒頭の画像は、Google Cloud で Midjourney を使用し、「An upbeat flat illustration of a bank vault opening invitingly in the clouds」(雲の中で銀行の金庫が誘うように開いている、明るいフラットなイラスト)というプロンプトで作成しました。
-Google Cloud、金融サービス担当バイス プレジデント Yolande Piazza