AI を「パイロット」から「本番」へ: Google Cloud が実戦で得た 5 つの教訓

Amy Liu
Head of AI Solutions, Value Creation
Raymond Peng
Senior Principal, AI Value Creation, Google Cloud
実験的なプロトタイプから、高付加価値かつ統合されたエンタープライズ本番環境へ。AI をスケールさせるための 5 ステップのフレームワーク。
「2025 年の AI の費用対効果に関するレポート」によれば、AI の実験フェーズは急速に本番稼働へとシフトしています。経営幹部の半数以上(52%)が、自社で AI エージェントを積極的に活用中と答え、39% はすでに 10 以上のエージェントを本番展開しています。一方で、多くの組織が、プロトタイピングは比較的容易な取り組みであるものの、営業、マーケティング、人事、オペレーションといった複数の事業部門にわたって継続的な活用と AI リテラシーをスケールさせることは、はるかに難しいという事実に直面しています。特に現在、多くの企業が、戦略の不統一によるワークフローの断片化、ガバナンス リスク、そしてモデルを真の企業の実体にグラウンディングすることへの苦慮から生じる「AI スプロール(無秩序な乱立)」の壁に突き当たっています。
Google Cloud においても、Go-To-Market(GTM)組織においてこの移行を進めています。生成 AI の初期段階を脱し、エンタープライズ スケールでの展開という本質的な難しさに向き合うフェーズへと進んでいます。リーダーや経営幹部の皆様が、イノベーション段階におけるこうした「成長痛」を乗り越えられるよう、Google Cloud 社内での取り組みを通じ、実験段階から持続可能で高付加価値な AI 統合へと成熟させるための 5 つの核心的な教訓をまとめました。
1. AI に与えるデータとコンテキストを精選する
AI エージェントやアプリケーションの質は、与えられるコンテキストとデータの質に左右されます。だからこそ、モデルは「企業の実体」にグラウンディングさせなければなりません。Day 1 に優れたモデルを構築できたとしても、コンテキストの提供を PDF やドライブのフォルダのような静的なドキュメントに頼っていては、ビジネスの進化に合わせてデータを更新するために手動アップロードを繰り返すという、終わりのないサイクルを従業員を強いてしまうことになります。
新しいアプローチ: 静的から動的へ
データの動的なストリームへの移行に焦点を移しましょう。生のファイルやドキュメントを単に添付する代わりに、定型化された自動ジョブを活用します。ここでは、マルチモーダルな Gemini モデルが複数のリポジトリを横断して検索・精選し、正確に必要なコンテキストを提供する詳細なデータを抽出します。また、Agent2Agent(A2A)プロトコルを活用することで、GTM AI エージェントは、Google Cloud 全体の他チームが構築している(それぞれの専門データと知見で訓練された)エージェントから情報を取得することも可能です。このアプローチにより、データパイプラインを構築したり、データの統合方法を模索したりすることなく、複数チームの精選済みデータセットに即座にアクセスできるようになります。
最大の教訓
パフォーマンスを左右するのは、データの「量」ではなく「適切な選択」です。小さく的を絞った関連情報のデータセットは、大規模で包括的なデータ ダンプ(整理されずに詰め込まれた膨大なデータ)を一貫して上回ることが分かっています。 AI エージェントに追加のソースを接続する際も、無関係または冗長な情報を除去するための中間自動化レイヤーを実装しています。
この戦略の実行を支える主要な要件:
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人材: 信頼できるエンタープライズ データソースを特定できるデータ スチュワード(データの品質管理の担当者)と、データ抽出パイプラインの自動化を支援するプロンプト エンジニア。
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プロセス: 完全、正確、かつリアルタイムのデータを提供し、AI ハルシネーションのリスクを最小化する自動化ワークフロー。
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ツール: BigQuery や Gemini のように、 AI とデータが一体となって存在し、リアルタイムのデータとコンテキストを AI モデルに継続的に供給できる自律的な「フライホイール」を生み出す統合プラットフォーム。
2. 最適なユーザーエクスペリエンスを設計する
業界内では、AI とは単にチャットボットを構築することだと誤解されていることが多いようですが、自由形式のチャットインターフェースは、エンタープライズ ユーザーにとって明確な出発点を欠くことが多く、日常のワークフローで活用できる一貫して高品質な成果を得る能力を制限してしまいます。従業員はプロンプト エンジニアリングに 20 分を費やしたいわけではありません。彼らが求めているのは、何を入力すべきかの指示と、専門家が設計した既存のプロンプトを実行するボタンなのです。
新しいアプローチ: ガイド付きタスク完遂 チャットベースのプロンプト入力から転換し、Web アプリケーション上の「ガイド付きエージェント体験」へと移行しました。これは、既存のワークフローですぐに使用できるカスタマイズされたアウトプットを届けるために、最小限の入力しか必要としません。例えば、私たちは社名といくつかのアカウント詳細を入力するだけで、GTM の営業担当者向けにカスタマイズされたプレゼンスライドや資料を生成する内部 AI エージェントを構築しました。このプロンプトは、営業担当者からのコンテキストに加え、「Google 検索によるグラウンディング」を使用して最新かつ正確な企業調査データを取得し、さらに Google Workspace と連携して公式のブランドガイドラインに準拠したテンプレート アセットを自動生成します。
最大の教訓
ほとんどの従業員は、単にタスクを完了したいだけなのです。つまり、彼らの日常業務を複雑にすることなく、その目標を達成するための最適な体験を設計することが重要なのです。会話型プロンプトの「あてずっぽう」を排除したことで、営業担当者の間での定着率は急上昇しました。ビジネスユーザーと緊密に連携して現在のプロセスをマッピングし、自動化によって最もインパクトが出る領域として、まずは高頻度のユースケースを特定することを推奨します。
この戦略の実行を支える主要な要件:
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人材: IT や開発チームが想定する働き方ではなく、実際の現場の働き方に基づいてワークフローを設計できるビジネス分野のエキスパート。
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プロセス: 既存の習慣に溶け込む、すぐに使えるアウトプット(メール、スライド、ドキュメントなど)に焦点を当てた協働設計サイクル。
- ツール: プロンプト入力や手動のコンテンツ アップロードなど、一般的なユーザーの摩擦ポイントを解消するシンプルなユーザー エクスペリエンス。
3. 完璧よりも成果を優先する
もう一つの核心的な課題は、AI には、リリースの前に完璧さを求める従来の IT とは異なるマインドセットが必要であるという点です。AI エージェントは「非決定論的」であり、同じプロンプトを与えても状況によって異なる結果を出す可能性があります。さらに、新しい AI 機能の価値や魅力はまだ完全には実証されておらず、その多くは実世界での利用を通じてのみ明らかにされます。
新しいアプローチ: リリースしてから反復する
個々のエラーすべてを解決しようとする試みは、市場投入までの時間を著しく遅らせました。そこで段階的なデプロイメント モデルを採用しました。スピードを上げるために初期スコープを縮小し、できる限り早くリリースするために手動でのワークアラウンド(手作業による代替対応)を選択しました。例えば、内部 GTM AI エージェントの初版では、Gemini モデルと迅速なアプリ開発プラットフォームである Apps Script を用いて、シンプルな Web インターフェースを「バイブ コーディング」で構築しました。Workspace とのネイティブ統合によりスライド生成を自動化し、Google スプレッドシート を簡易データベースとして活用しました。このアプローチにより、エンジニアリングのボトルネックを回避し、即座に営業担当者の手にツールを届けてテストを開始できました。その後、スター評価や Google フォーム、インタビューを通じてフィードバックを収集し、パターンを特定しました。シンプルかつ統合されたスタックにより、プロンプトやコードを改善し、同日または数日以内にアップデートを届けることが可能になりました。
最大の教訓
「完璧」を待つことは、往々にしてリリースそのものを逃し、プロジェクトがスケールできるかどうかを真に理解する機会を失うことを意味します。コアとなる AI 機能に集中することで、開発を遅らせるデータ依存関係や複雑な統合を排除し、開発サイクルを劇的に短縮できました。 AI においては、データや統合が整うのを待つ間も、ワークアラウンドを採用してユースケースを即座に本番稼働させることを優先すべきです。
この戦略の実行を支える主要な要件(Key Enablers):
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人材(People): AI のアウトプットを厳密に評価し、モデルを訓練、改善、指導するための評価基準を策定できる AI 推進リーダーと専門の評価者。
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プロセス(Process): 5 段階評価のアンケートやフォーカスグループ インタビューなど、新たなパターンや繰り返し発生するエラーを特定するための直感的で使いやすいフィードバックループ。
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ツール(Tooling): Apps Script、Antigravity、Vertex AI Studio などのローコード環境。複雑な開発サイクルなしにプロトタイプを展開し、ビジネスユーザーがエンジニアのように機能できるようにします。
4. エージェント スプロール(エージェントの乱立)をマネジメントする
定着が進むにつれ、複数のチームが重複する機能を構築し始め、ユーザーに混乱を招く事態が必然的に発生します。しかし、すべての AI プロジェクトを厳格に管理するゲートキーパーになろうとすれば、イノベーションを阻害してしまいます。中央集権的なアプローチでは、現場からのアイデアの大部分に予算がつかず優先順位も下げられ、組織全体の AI リテラシー向上と定着が著しく遅れることが分かりました。
新しいアプローチ: 相互運用可能な「ボディレス」エージェント
再作業や機能の重複を最小化するため、他チームとの相互運用性を最大化する「アトミック」なエージェント モデル(部品型のエージェントモデル)を採用しました。A2A プロトコルと Google の Agent Development Kit(ADK)を使用し、Gemini Enterprise、Workspace、またはカスタム Web アプリなど、ユーザーがいる場所ならどこでもデプロイできるようにエージェントを設計しました。アトミック AI エージェントは「情報の検索と取得」のような再利用可能な機能を中心に構築され、あらゆる AI アプリケーションから呼び出したり組み込んだりできます。また、製品チームのようなソースデータの所有者が、自チーム固有のエージェントを通じてそのデータを公開できる「フェデレーテッド データモデル(分散型データモデル)」への移行も進めています。
最大の教訓
あなたがユーザーにいてほしい場所ではなく、「ユーザーがすでにいる場所」に合わせて構築してください。複数のチームが、ゼロから構築することなく必要な場所で AI エージェントを利用できるべきです。責任ある AI の原則と実践を基盤とした上で、標準化と再利用性を確保しつつ、チームレベルでの柔軟性とイノベーションを許容する「相互運用可能なエージェントのエコシステム」を構築することが私たちのビジョンです。
この戦略の実行を支える主要な要件:
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人材: 価値が証明された高トラクションなツールを、エンタープライズ利用向けに標準化するために介入できる専属の技術チーム。
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プロセス: ロードマップを整合させ、冗長な作業を削減するための四半期ごとの共有会議。
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ツール: エージェント間の通信と連携を保証する ADK や A2A プロトコルなどの標準とフレームワーク。既存の AI コンポーネントを容易に発見できる堅牢な API と開発環境。
5. 活動量ではなく、成果を測定する
AI 戦略のパフォーマンスと投資利益率(ROI)の測定には新たな課題があります。AI のKPI は、必ずしも具体的なビジネス成果と明確に相関するとは限らないからです。ツールの利用人数を追跡するのは容易ですが、それがセールスサイクルを短縮したと証明するのは困難です。ツールによって週に 2 時間が節約されたとして、その時間はどこに消えたのでしょうか?高付加価値な業務に再投資されたのでしょうか、それとも単に他の事務作業で埋められたのでしょうか?
新しいアプローチ: 定着、センチメント、インパクト
より実用的な洞察を得るため、 AI ツールのインパクト測定に三方向のアプローチを採用しました。第一に、どの AI 機能が誰によって、何の活動のために最も使われているかを可視化するトラッキングを構築しました。第二に、スター評価やチャットグループなどのフィードバックチャネルへの容易なアクセスを提供し、定期的にフォーカスグループやインタビューを実施しました。第三に、利用状況を特定の顧客アカウントや商談機会などの具体的な項目に紐付けました。これらの指標を組み合わせることで、定着状況とユーザー センチメントに詳細な透明性をもたらし、 AI 活用と実際のビジネス成果との相関を把握しやすくしました。
最大の教訓
利用データは定着を促進する鍵です。AI ツールの利用をビジネス価値に直接結びつけられない段階でも、利用量とユーザー センチメントは、従業員にとっての有用性を示す有効な代理指標となります。より高度なインパクト分析を構築する間は、追跡しやすいKPIから着手しましょう。「今日リリースするツールは、それが最も未成熟な状態である」と受け入れることで、目標に向けた具体的で測定可能な前進に集中できます。
この戦略の実行を支える主要な要件(Key Enablers):
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人材: ROI が成熟途上の段階でも実験を奨励する、心理的安全性の文化のためのエグゼクティブ スポンサーシップ。
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プロセス: ツールの品質と有効性を測定するための、定着状況とユーザーセンチメントを追跡するメカニズム。
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ツール: AI 利用を機能別、ユーザーグループ別に分析し、可能な場合は収益、CSAT、解約率などのコア KPI に紐付けて提示する高度な分析ダッシュボード。
2026年の AI 投資の潜在力を完全に解放する
AI 施策の次の段階を計画するにあたり、目標は単に「AI を取り入れる」ことではなく、長期的な企業全体の成功を収めることにあります。多くの組織が正しい取り組みをしていながら、初期の勝利を体系的、構造的、かつ再現可能な成功へと転換する仕組みを持てていません。上記の重要な教訓は、今年だけでなく将来にわたって AI の価値を運用化し、持続させるための実践的なフレームワークとして機能します。
この投稿は米国時間 2026 年 2 月 26 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
- Google Cloud、カスタマー バリュー ハブ、AI ソリューション担当責任者、Amy Liu
- Google Cloud、AI バリュークリエーション、シニア プリンシパル、Raymond Peng



