AI が過去事例に基づいた根拠を即座に提示することで、迅速な判断を支援。照会応答業務の負荷を最大 50% 削減見込み
判断基準を AI で標準化、回答の均質化・平準化による判断精度の向上を実現
Gemini Enterprise の活用により、専門知識の継承と将来の人手不足への備えを見据えた体制を構築
Gemini Enterprise・ADK の活用で、AI エージェント作成やチューニングにかかる時間を削減し、1.5 か月程度で必要な精度・内容を実現
JA共済連は、Gemini Enterprise を用いた業務効率改善を企図。テストケースとして地域貢献活動の支出判断支援に AI エージェント技術を適用し、膨大な過去事例などを参考に、年間数百件におよぶ問い合わせ業務の負荷軽減に挑戦しました。
将来的な人員減を見据え、全国共済農業協同組合連合会(以下、JA共済連)は、富士通株式会社(以下、富士通)とのパートナーシップのもと、Google Cloud の AI エージェント プラットフォーム Gemini Enterprise を活用した業務効率化プロジェクトを始動させました。その第一歩となったのが、各県域における地域貢献活動にかかる積立金の支出可否判断の支援です。ここでは取り組みの詳細をプロジェクトで中心的な役割を担った 4 名のキーパーソンに伺います。
多くの企業・組織で人手不足が叫ばれる昨今。政府試算によると、日本の労働人口は 2040 年までに現労働人口の約 2 割、最大 1,200 万人ほど減少すると言われています。この問題はJA 共済連にとっても無縁ではありません。同会は「相互扶助」の理念を掲げ、全国の JA(農業協同組合)と連携・協調しながら「ひと・いえ・くるま」の総合保障の提供のほか、豊かで安心して暮らすことのできる地域社会づくりに貢献しています。この質の高いサービスを維持するためにも、「2040 年問題」にいかに備えるかが喫緊の課題となっています。そこで着目されたのが生成 AI の技術です。JA共済連 農業・地域活動支援部 地域貢献企画管理グループ主幹の市川 豪氏は、次のように説明します。
「将来的に予想される職員の減少に対応するためには、業務を効率化していくことも有効な手段となります。最近、社会的に大きな注目を集めている 生成 AI 技術を活用することで、現状をかなり改善できるのではないかという期待があり、具体的な活用方法を探ってみることになりました。」
JA共済連は、同会のシステム開発・運用パートナーである富士通に AI を用いた業務効率化を相談。いくつかのユースケースを検討した結果、対応のスピードアップと負荷軽減が求められていた地域貢献活動にかかる基金の支出判断に、AI エージェント技術を活用するプランを採用します。
「地域貢献活動とは、健康増進や防災、交通事故対策、農機具の寄贈など、JA・JA共済連が、組合員や地域住民の方々のために行う活動です。実施に当たっては、ガイドラインに基づいて支出可否を判断します。ただし、地域貢献活動は一般的な共済事業と異なり、明確な約款が定められているわけではありません。実際には、過去事例などと照らし合わせながら個別かつ総合的に検討する必要があり、どうしても判断に時間がかかってしまいます。公益性の高い非常に重要な活動を充実させるうえでも、判断の迅速化が求められていました。」(市川氏)

市川氏とともに同業務を担当してきた地域貢献企画管理グループ 主査、町田 瑞季氏は、AI導入によって期待される効果を、業務負荷の軽減という観点から説明します。
「最大の問題はガイドラインの解釈が担当者によって異なり、判断基準に差が生じるリスクがあったことです。これまでは、そうした問題を未然に防ぐため、部署内で全国からの問い合わせに関する認識をすり合わせたうえで、回答を行っていました。しかし、文書による照会だけで年間 200~300 件、さらに毎日数件、電話による問い合わせがあり、認識のすり合わせだけでも負担になっていました。この部分に AI エージェントをうまく活用できれば、私たち本部の作業だけでなく、地域貢献活動を実施する JA と直接やりとりをしている全国各地の担当者の作業負荷も大きく軽減されるのではないかという期待がありました。」
AI エージェント導入に際しては、『短期間で成果を出したい』『アジャイル的に対話しながら AI を育てたい』というリクエストがありましたので、ノーコード・ローコードで構築できる Gemini Enterprise を選択しました。他の選択肢も検討しましたが、チューニング力や短期間での成果創出の確実性を考えると、今回は Gemini Enterprise が最適解という結論に達しました。
岡田 晋太朗 氏
富士通株式会社 Finance & Public 事業本部 共済事業部
この課題解決にあたり、富士通の営業部門担当者として、JA共済連の業務効率化を担当してきた岡田 晋太朗氏は、さまざまなソリューションの中から、Gemini Enterprise の採用を決定しました。
「AI エージェント導入に際しては、『短期間で成果を出したい』『アジャイル的に対話しながら AI を育てたい』というリクエストがありましたので、ノーコード・ローコードで構築できる Gemini Enterprise を選択しました。他の選択肢も検討しましたが、チューニング力や短期間での成果創出の確実性を考えると、今回は Gemini Enterprise が最適解という結論に達しました。」

2025 年 7 月に開発に着手。その後はスピード感をもって進められ、業務フローのヒアリング後、わずか 1〜2 週間でプロトタイプが完成。富士通のエンジニアとして AI エージェント開発に携わった宇野 健介氏は、Gemini Enterprise を用いた AI エージェント作成について、こう語ります。
「今回は Gemini Enterprise の ADK(Agent Development Kit)を用いてAI エージェントを開発しました。Gemini Enterprise には、Gemini Pro をはじめとする高性能なモデル、SDK、UI、ローコード ツールなどが一通り揃っているうえ、それらを連携させるのも容易で、スムーズに開発を進めることができました。今回、Gemini には、ガイドラインのほか、過去 3 年分、約 600 件の照会票(照会内容と回答の記録)データをナレッジとして追加しました。AI エージェントに新たに照会内容を入力すると、ナレッジを参照し、適切な回答を出してくれる仕組みです。最初のプロトタイプの時点でかなり精度が出ていましたが、そこからさらにご要望に沿うようチューニングしていき、トータルおよそ 1.5 か月程度で必要な精度・内容に仕上げられています。」

チューニングでは、いくつかの工夫も行われました。
「例えば、照会内容によって検討すべき争点が異なるため、まず AI エージェントに照会内容から争点を洗い出させ、そのうえで回答を生成させるようにしました。これにより、担当者の思考プロセスに、より近い回答が生成されるようになりました。また、単に過去事例をナレッジとして追加するだけでは、AI がキーワードにヒットした複数の過去事例の「いいところ取り」をしてしまい、文脈のつながらない回答を生成してしまう恐れがありました。照会票データを 1 つずつ「別のファイル」としてナレッジに追加することで、個別ケースの文脈を維持した回答を引き出せるように対応しました。」(宇野氏)
さらに、回答精度の向上に加え、「この情報が足りていないので教えてください」と AI 側から追加情報の提供を促す機能も実現。これらの改善によって、実用性が大きく高まったと言います。
Gemini Enterprise には、Gemini Pro をはじめとする高性能なモデル、SDK、UI、ローコード ツールなどが一通り揃っているうえ、それらを連携させるのも容易で、スムーズに開発を進めることができました。
宇野 健介 氏
富士通株式会社 クロスインダストリーソリューション事業本部 Forward Deployed Engineering事業部
町田氏は出来上がった AI エージェントを初めて利用した際、瞬時に理想的な回答が提示されたことに感動したと、当時を振り返ります。
「単に承認・否決を判定するのではなく、過去事例なども踏まえ、『ガイドラインのこの箇所に合致します、理由はこれです』と判断の根拠を明確に提示してくれるため、これならすぐに業務に使えそうだと感じたのをよく覚えています。また、チャット形式でやり取りできることも操作の学習が不要でありがたかったですね。」(町田氏)
市川氏によると、本システムの導入によって、照会応答業務負荷が 20〜50% 程度削減できることを見込んでいるとのこと。

「特に回答の均質化・平準化が図れる点を高く評価しています。今後、実務への導入が実現した場合には、まずは各県本部に対してこの AI エージェントをリリースすることで、各地の職員が悩む時間を減らし、迅速に判断できるのではないかと考えています。将来的には他部署へも横断的に展開し、組織全体の効率化を図っていきたいです。Gemini Enterprise の導入で削減できた時間を、本来注力すべき、より良い地域貢献活動の企画・分析に充てていくことで、最終的には組合員や利用者の利益にもつなげていけるのではと期待しています。」(市川氏)
今回の取り組みの成功を受け、JA 共済連と富士通は今後、さらに AI エージェントの活用を拡大していく予定で、すでに別部署では、新たな業務効率化に向けた PoC(概念実証)も始まっています。
「今後は問い合わせ業務に限らず、営業推進、査定、支払いなど、バリュー チェーン全体での活用を提案していければと考えています。また、現場の担当者自らが Gemini Enterprise を操作し、AI エージェントを作成・チューニングしていく取り組みも加速していきたいです。」(岡田氏)
「今回は AI エージェントを用いた業務改善でしたが、今後は、地域貢献活動参加者のニーズ分析などに Google Cloud の技術と知見を活用していきたいと考えています。2026 年 1 月に JA共済連は 75 周年を迎えました。伝統を守りつつも、新しいテクノロジーの力で組織の変革・改革を前に進めて、より深く多角的に地域に貢献していきたいですね。」(市川氏)
Gemini Enterprise の導入で削減できた時間を、本来注力すべき、より良い地域貢献活動の企画・分析に充てていくことで、最終的には組合員や利用者の利益にもつなげていけるのではと期待しています。
市川 豪 氏
全国共済農業協同組合連合会
農業・地域活動支援部 地域貢献企画管理グループ 主幹
(事例制作: 2026 年 3 月)

JA グループの共済事業を全国規模で支える連合会。「相互扶助」の理念のもと、「ひと・いえ・くるま」の総合保障を中心とした活動で、組合員・地域住民の暮らしと営農を支える。全国本部と 47 都道府県本部からなる体制で、総窓口数は約 5,400 か所。従業員数は6,367 名(2025 年 3 月末現在)。
業種: 金融、保険サービス
地域: 日本
利用しているサービス: Gemini Enterprise, 生成 AI
Google Cloud パートナーについて:富士通株式会社
「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げ、世界中のお客様に選ばれるデジタル・トランスフォーメーション(DX)パートナーとして、社会課題の解決に取り組んでいる。AI、コンピューティング、ネットワーク、データ&セキュリティ、およびコンバージングテクノロジーの 5 つの重点技術領域を核に、幅広いサービスとソリューションを提供。これらの技術を駆使し、持続可能な社会の実現を目指すサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を推進している。
