小売業者が Google Cloud Retail Search に切り替えるべき理由
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 2 月 25 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
多くの人は、ユーザーの個人的な設定と検索履歴を考慮しながら関連性の高い結果をすばやく提供する Google 検索についてすでに知っています。検索結果はユーザー個人の意図に沿ったものとなり、ユーザーが次のページを閲覧することがほとんどないほどです。Retail Search は、小売業者が Google 検索と同様の機能を使用できるように Google Cloud が提供するサービスで、小売業者の商品を検索対象とするものです。
今日、小売業者には、e コマース ウェブサイトを支える検索システムを構築するための多くの選択肢があります。それでは、なぜその中でも Retail Search を使用すべきなのでしょうか?その理由を知るには、まず以下のことを理解する必要があります。
e コマース小売業者にとっての検索システムの重要性。この点を理解することは、業績向上に寄与しうるこのシステムの重視につながります。
検索システムを構築するための具体的なプロセス。これにより、プロセスを改善して開発と運用の総コストを削減できるどうかを見極めることができます。
小売業者が直面する課題。これにより、解決可能な課題という観点で他の検索プロバイダとの比較を行いやすくなります。
e コマース小売業者にとっての検索システムの重要性
次のシンプルな問いに答えてみましょう。e コマース小売業者にとって検索システムはどれくらい重要でしょうか?この問いに答えるには、小売業者のウェブサイトのどのページで検索システムが利用されていて、それらがコンバージョン率にとってどの程度重要かを知る必要があります。
セールス ファネル
一般的に、多くの e コマース小売業者はセールス ファネルを次の 3 つのカテゴリに分類しています。
ファネルの上層部(Top of Funnel: TOF): ホームページ、ランディング ページ、カテゴリページ、検索ページ、商品詳細ページ
ファネルの下層部(Bottom of Funnel: BOF): カートページ、購入手続きページ、注文確認ページ
- 購入後: 注文管理ページ、注文キャンセル ページ、アカウント ページ
顧客のトラフィックは、通常はファネルの上層部(TOF)ページでは多く、ファネルの下層部(BOF)ページに近づくにつれて減少します。注目すべき点は、TOF ページの方が BOF ページより数が多いことです。TOF ページは、最終的に顧客をコンバージョンに導く要因であるといえます。顧客は BOF ページより TOF ページで多くの時間を費やすことになるため、小売業者が TOF ページに重点を置く必要があることは明らかです。まとまりのあるカスタマー エクスペリエンスは購入ジャーニー全体にとって重要ですが、TOF ページもそれと同じくらい重要な役割を果たします。通常、顧客は購入プロセスを開始する前に、TOF ページにアクセスします。
TOF ページはカスタマー ジャーニーの開始を促す主な要因であるため、TOF ページのカスタマー エクスペリエンスが不十分だと放棄率が高くなる傾向があります。
このように、TOF ページには以下の特徴があるといえます。
コンバージョンを促すために慎重な設計が求められる
ページの種類と数が多い
顧客トラフィックが多い
カスタマー ジャーニーの開始点である
検索を活用したページ設計
TOF ページが小売業者にとって非常に重要であることは明らかですが、実際にはどのような TOF ページで検索システムやその他のバックエンド システムが利用されているのでしょうか?主要な TOF ページについて考えてみましょう。
カテゴリページ
まずは、[アパレル] -> [メンズ] -> [シャツ]
のようなカテゴリページの例から始めましょう。このページでは、[アパレル] カテゴリの [メンズ] サブカテゴリの [シャツ] サブカテゴリに属する商品のみが表示されます。そのカテゴリの商品を取得するために、e コマース ウェブサイトがクエリするのはどのシステムでしょうか?なんらかのデータベースを活用するソースシステムは多数あるかもしれませんが、ほとんどの場合、このようなカテゴリページの商品を取得するために利用されるのは検索システムです。この例では、特別なタイプのクエリが検索システムに送信されます。このクエリはなんらかのキーワードを検索するのではなく、[アパレル] -> [メンズ] -> [シャツ]
というカテゴリの商品をフィルタするようシステムに要求します。つまり、このようなページでは顧客がキーワードを使って検索を明示的に呼び出しているわけではありませんが、e コマース ウェブサイトはページを支える原動力として検索システムを活用しています。なお、カテゴリページの商品は、商品担当者によって完全な手作業でキュレートされる場合もあります。この場合、検索システムは呼び出されません。しかし、一般的にカテゴリページはもっと動的であり、検索システム自体によって支えられています。
ランディング ページ
ランディング ページについてはどうでしょうか?ランディング ページは、外部ソース、メール、その他のマーケティング経路で宣伝されていることから、ウェブサイトの中でも、顧客が直接アクセスするページです。完全に静的なページとして、商品担当者が完全な手作業でコンテンツをキュレートすることもできます。
しかし、多くの進歩的な小売業者は、ページを複数のセクションに分割することで、ランディング ページも動的にしています。各セクションでは、多くの場合、さまざまなカテゴリの商品が表示されます。上の図に示すように、これは小売業者がランディング ページのレンダリングで採用するアプローチの一つです。小売業者によっては、これとはまったく異なるレイアウトとデータを使用する場合もあります。
それでは、ここでもう一度質問します。各カテゴリ セクションごとに上位 5~10 個の商品を表示するために使用されているのはどのシステムでしょうか?ほとんどの場合は、それもまた検索システムです。カテゴリページが検索システムにフィルタクエリを発行することによって支えられているのと同様に、同様のクエリ(この場合は複数のクエリ)が検索システムに発行されて、ランディング ページの複数のカテゴリ セクションのデータが入力されます。
ホームページ
次に、ホームページについて考えてみましょう。多くの e コマース ウェブサイトのホームページは、おすすめ商品、いくつかのカテゴリのベストセラー、セール、プロモーション、ヒーロー画像など、さまざまなセクションに分割されています。
「ベストセラー」カテゴリの上位の商品と「セール」カテゴリの商品は、ランディング ページに似たブラウジング パターンに従います。つまり、複数のクエリが呼び出されて検索システムに送信され、それぞれのカテゴリの商品がフィルタされます。なお、「セール」は他と同様に、小売業者が手作業でキュレートしたカテゴリである場合があります。
商品詳細ページ
商品詳細ページ(PDP)についてはどうでしょうか?ここでのおすすめの検索システムの使用方法は、条件に基づいて商品 ID を取得し、商品カタログ サービスや商品情報管理(PIM)システムなどの別のソースシステムから商品属性を追加して結果を充実させるというものです。
通常、商品詳細ページでは検索エンジンを利用しませんが、一部の小売業者は検索システムから商品詳細を取得し、それを商品データの信頼できる情報源として扱っています。おすすめはしませんが、一部の小売業者は商品詳細ページを支えるためにも検索システムを利用しています。
一般的に、商品詳細ページには、似た種類の商品を表示するセクションや、パーソナライズされたエクスペリエンスを顧客に提供するレコメンデーション セクションもあります。小売業者は、この機能を支えるために、さらに別のレコメンデーション エンジンを構築することもできます。アクティビティ データや商品カタログデータなどは、通常、検索システムにフィードされるのと同様に、レコメンデーション エンジンにフィードされます。Google は、同じデータとデータ パイプラインを使用しつつ小売検索とレコメンデーションの機能を組み合わせる小売業向けの Discovery AI を提供しています。そのため、小売業者は 2 つのシステムと 2 つのデータ形式を管理する必要がありません。
検索ページ
最後に、検索ページについて考えてみましょう。これは、指定されたキーワードを使って検索条件と一致する商品を表示する検索結果ページです。
このページはバックエンド検索システムによって支えられています。小売業者で働く商品担当者は、検索システムを調整し、さまざまな検索キーワードに対して適切な商品のセットを表示するために多大な労力を払っています。
検索の重要性
この分析から、以下のことがわかります。
今日の顧客は、興味を引かれる商品をより簡単かつ迅速に見つける方法を求めています。
小売業者は、TOF ページの機能を構築および強化して、今日の顧客の購入ジャーニーを支援できます。
TOF ページの機能は、コア バックエンド検索システムとレコメンデーション システムによって支えることができます。
TOF ページは顧客にとって非常に重要であり、その大部分は検索システムによって支えられています。このことから、検索システムは e コマース小売業者にとって最も重要なシステムの一つになりうると結論付けることができます。検索システムは e コマース ジャーニー全体に非常に大きな影響を及ぼすため、小売業者は、最小限の労力で最適なカスタマー エクスペリエンスを提供できる優れた検索システムを慎重に選択する必要があります。
検索の実装
それでは、検索システムの実装に e コマース小売業者がどのようにアプローチし、どのような課題に直面するかを見てみましょう。前述の選択にかかわらず、小売業者が検索を実装する際にたどる一般的なプロセスを次に示します。
商品データを統合する
小売業者は、選択した検索エンジンに取り込まれる商品ソースデータを取得するために、なんらかのタイプのパイプラインを構築します。最初にすべての商品データを一括インポートして、検索エンジンのテストを開始します。このプロセスで小売業者は、選択した検索エンジンによって規定されているスキーマに沿ってソースデータを調整する作業の必要性に気づくことになります。
最初のテストの後、さらに別のストリーミング パイプラインを作成して、商品カタログの更新を段階的に取り込みます。こうした更新には、在庫状況データ、価格データ、在庫目録データなども含まれる可能性があります。これらは最終的にまとめられ、後で取得できるように検索システムに保存されます。通常は、このストリーミング機能を実現するためにメッセージング サービスが利用されます。
小売業者が直面する課題
商品データはさまざまなソースに存在する可能性があり、小売業者はそれらすべてのソースからなんらかの形で集計データを作成する必要があります。そのためには、時間とお金とリソースの投資が必要です。
この段階では、検索エンジンは主に用語頻度と逆文書頻度をベースとする関連性に基づいて動作します。
キーワード検索は常に小売業者が希望する順序で商品を返すとは限らないため、小売業者は商品ソースデータを大幅にクリーンアップする必要があることに気づきます。
SKU の在庫状況、在庫目録、価格の情報などの商品属性をすべてホストするために、検索エンジン内ではフラットかつ広範な商品ドキュメントがキュレートされています。
さらに、商品ソースデータがクリーンアップされていても、関連性は頻度に基づいており、商品のマージンや売上などのビジネス KPI 用に最適化されていません。たとえば、あるキーワードを検索すると、商品の販売状況ではなく用語の頻度に基づいて、関連性が高いと検索エンジンが見なした順序で商品が返される場合があります。
検索結果を手動で微調整する
商品担当者は、求めている検索動作を実現するために、検索エンジンを手動で構成し始めます。このプロセスで、商品担当者は類義語、スペルチェック、リダイレクト、ブーストとベリーなどに関連するルールを追加します。なお、過剰なオーサリングはアンチパターンと見なされるため、マーチャンダイジング ルールは慎重かつ控えめに使用することをおすすめします。
小売業者が直面する課題
小売業者は、検索ルールを定期的に微調整し続けるには多大な労力がかかることに気づきます。
さらに、商品カタログが大きすぎると、カテゴリ別または業種別の微調整作業を担当する人材の増員が必要になります。
最終的に、数百のルールをオーサリングした後でも、関連性の高い結果が得られない非効率なクエリが多数残ります。通常、非効率なクエリは複数の単語から成るフレーズです。たとえば、商品担当者が「ドレス」のようなクエリにブーストルールを追加しても、「黒 ドレス 女性向け」のような非効率なクエリはうまく機能しない可能性があります。
検索システムがビジネス ユーザー向けのマーチャンダイジング ルール インターフェースをすぐに使える形で提供していない場合は、デベロッパーが別途作成する必要が生じることがあります。
一部のルールは、実際のデータではなく直感に基づいてオーサリングされます。そのため、最適化後の収益は予想より低くなります。
一部のルールは、特定のブランドまたは商品でバイアスを示すようになります。
商品の販売状況を取り込む
最適化された関連性の高い検索結果を自動的に実現するため、小売業者は別のパイプラインを構築して、商品の販売状況に関連する属性を検索エンジンに追加します。こうした新しい販売状況属性には、コンバージョン率からウェブサイト上のインプレッション数まで、さまざまなものがあります。小売業者は、検索エンジンで商品ドキュメントのスキーマを調整して、これらの属性が使えるようにしなければなりません。それらが商品カタログの一部としてインデックス登録されると、商品の販売状況に基づいてブースト / ベリーの効果を高めるために、さらに検索ルールが追加されます。これにより、小売業者は手動ではなく自動で関連性を最適化できるようになります。ただし、この機能を利用するには、最初に販売状況データを検索インデックスに統合する必要があります。
小売業者が直面する課題
小売業者は、任意のタイプの販売状況属性を追加するために、検索エンジンで商品ドキュメントのスキーマを常に変更し続ける必要があります。検索エンジンでは、商品データと商品の販売状況データは分離されないため、単一のワイドカラム型の商品カタログを処理する必要があります。
小売業者は、関連性の確保を自動化した後も、検索結果の順序を手動でオーバーライドする必要があるケースが多いことに気づきます。そのようなケースには、顧客が検索する可能性があるが、商品担当者がルールのトリガーに組み込んでいない単一の語句と複数の語句の両方があります。
機械学習
この段階では、「腕時計」や「ドレス」のような単純なキーワードは小売業者にとって非常に効果的です。しかし、「ハロウィン ドレス」や「青 シャツ 男性向け」のような複数の語句から成るキーワードを使用するユーザーの意向はうまく捉えられません。オーサリングされた検索ルールをすべて使用しても、単にキーワードをマッチングするだけでは、最適な結果は得られません。たとえば、「青 シャツ 男性向け」のような複数の語句を検索した場合の結果は、アパレル カテゴリで「シャツ」を検索し、色と性別の属性をそれぞれ「青」と「男性」でフィルタしたときに得られる結果とは異なります。そのような結果を得るには、機械学習モデルを構築してクエリを解析し、ユーザーの意図を分析して、それに応じて検索クエリを作成する必要があります。
小売業者が直面する課題
小売業者は、単純な自然言語処理(NLP)機能を活用したモデルを構築できる ML 人材を採用しなければなりません。
ML モデルは、常に新しいキーワードで調整する必要があります。
任意の複数の語句について適切なクエリを生成するためのバックエンド ロジックが増え続けます。
パーソナライズ
小売業者は、関連性が全体的に均一であり、顧客の好みや過去の購入歴などは考慮されていないことに気づきます。検索エンジンから新しい機能(在庫目録やフルフィルメントなど)を求められるたびに、データを商品カタログに追加する必要が生じ、商品ドキュメントが非常に広範なものになります。しかし、パーソナライズ データを使用して同じことを行うのは容易ではありません。パーソナライズ データは各顧客に固有であるため、それを商品ドキュメントに直接追加して体系的なパーソナライズ済みクエリを作成するのはあまり現実的ではありません。この段階で、パーソナライズの別個のシステムが検索システムとは別に構築される場合があります。両方のシステムに対してクエリが実行されて結果がマージされるため、提供されるパーソナライズ エクスペリエンスは標準レベル未満になります。また、多くの場合、ファセットとページネーションで件数の不一致が生じます。
小売業者が直面する課題
検索エンジンにはパーソナライズ機能を追加できないため、小売業者は独自の機能をゼロから開発することになります。
別個のシステムを構築すると、2 つのシステム間でさらに統合を行ってデータの同期を維持することになります。
パーソナライズ データは、検索システムの商品ドキュメント内の分類に合わせて、個人ではなく上位レベルのセグメント(東部地域や西部地域など)に分割されることがあります。この場合、パーソナライズされたエクスペリエンスはグループで一般化されるため、標準レベル未満に低下します。
まとめ
以上の説明を要約すると、次のとおりです。
ファネルの上層部(TOF)ページは顧客がブラウジング時間のほとんどを費やす場所であるため、e コマース小売業者にとって非常に重要です。
多くの e コマース ウェブサイトでは、ほとんどの TOF ページを検索エンジンによって支えることができます。
検索システムは、e コマース ウェブサイトの最も重要なコンポーネントの一つです。
優れた検索システムを実装するには、多大な労力がかかります。
マルチフェーズ アプローチで検索システムを構築した後でも、パーソナライズ、非効率なクエリ、関連性、または顧客の意向といった面で、最終的な商品の検索がうまくいかない場合があります。
一部の小売業者は e コマース ウェブサイト用の優れた検索システムを構築できますが、すべての小売業者が同様の成功を収められるとは限りません。
何年にもわたって複雑な検索システムを開発し、継続的な微調整を行った後でも、小売業者が求める結果を得られない領域がいくつかあります。
従来は、小売業者は次のようなさまざまな検索エンジン技術のいずれかを選択してきました。
Google Cloud Retail Search は、AI のパワーを活用して小売業者向けの検索を実装し、前述の欠点のほとんどを解決するために Google が提示する答えです。
意向に基づいた関連性をスタート地点とし、最初からパーソナライズを活用します。継続的に学習し、AI を使用して非常に複雑なクエリからコンテキストを構築します。これらがすべてフルマネージドで行われます。
Retail Search は、他の検索ソリューションと異なり、関連性だけでなく購入可能性とパーソナライズにも重点を置くことで、1 回の訪問あたりの収益(RPV)を高めて収益の最適化を改善することに取り組みます。
さらに、同じデータを使用して、小売検索とともにレコメンデーション サービスが提供されるため、小売業者は 2 つの別個のシステムを管理する必要がありません。
ぜひとも Google の小売業向け Discovery AI ページをご覧ください。顧客の検索エクスペリエンスを最適化し、e コマースサイトにレコメンデーション機能を追加するために、Retail Search がいかに役立つかをご確認いただけます。