印刷物から音声、そしてその先へ: トヨタが変える車のマニュアル
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 7 月 22 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
大量の物理的な情報を合理的かつ効率的に、そして簡単に利用できる形で整理するためにテクノロジーが活用されるようになってから、数十年が経ちます。長文がひたすら連なる百科事典はもう必要とされなくなっています。今では、Google 検索にキーワードを入力するか、音声で検索するだけで、多数の検索結果をすぐに見つけることができます。音楽のストリーミング サービスでは数十万という楽曲にアクセスできます。CD やカセットテープのケースを持ち歩く必要もありません。
Google は、ある出版物もこれらと同じぐらい利用しやすくしたいと考えていました。それは、印刷された自動車マニュアルです。今回のブログでは、トヨタの車「シエナ」のマニュアルを紙からデジタルに移行し、新車のオーナーが簡単に利用できる音声起動型のマニュアルにした方法をご紹介します。この移行により、トヨタ社と同じく現代的で実用的なリソースが完成しました。
クラウド テクノロジーを運転席に
紙の運転マニュアルは、未使用のままグローブ ボックスでほこりをかぶっている場合がほとんどです。緊急時に道路脇に車を止めたり、突然ダッシュボードに見慣れないランプが点灯したりしない限り必要とされません。マニュアルが必要になったときでも、気が急く場面で何百というページをめくるのは大きなストレスです。加えて、紙のマニュアルは印刷と更新に高い費用がかかる場合もあります。
手始めに PDF ファイルなどのデジタル版にするという方法がありますが、紙のドキュメントから形式が変更されたというだけで、使い勝手が大して変わらないことがほとんどです。視界が悪い道路脇で、スマートフォンの画面に目を凝らしたり、小さな文字で埋め尽くされたページをスクロールしたりしたいと思うドライバーはまずいないでしょう。また、紙のマニュアルと同様、ここぞという場でドライバーが自動車メーカーとリアルタイムでやり取りする際もデジタル版が役に立つわけではありません。多くの場合表示されるのはテキストと図のみで、せいぜい概略図を参照できる程度です。
こうしたことを念頭に、車のマニュアルを進化させてパーソナライズするため、Google Cloud を活用した音声起動型のデジタル オーナーズ マニュアルを作成することにしました。運転中のドライバーにとって最も直感的で自然な選択肢は、音声ベースのアシスタンスだと考えたのです。実際、米国のドライバーのうち、運転中に音声アシスタントを使用したことがあるドライバーは 51% に上ります。また、全ドライバーの 95% が、今後 3 年間のうちに音声アシスタントを使用するようになると予想しています。
Google は現在、2021 年モデルのトヨタシエナ全車に Toyota Driver’s Companion アプリを搭載することで、このテクノロジーを実用化しようとしています。トヨタの既存のアプリからアクセスできるこのガイドは、いつでもリアルタイムでアシスタンスを提供します。ドライバーが質問すると、ガイドは音声、3D のチュートリアル、探索可能な環境など、便利な方法で実用的な回答を効率的に提供します。
最新の車のマニュアルが備えている機能
Toyota Driver’s Companion は、シエナの計器盤の配置の確認、車の内外装の設定、車両のメンテナンス方法の理解、あるいはダイナミック レーダー クルーズ コントロール、車線はみ出しアラートなどの機能の探索といったことに役立つインタラクティブな機能を備えています。
Toyota Driver’s Companion で注目すべきその他の重要な機能の一部を以下にご紹介します。
Toyota Driver’s Companion から簡単にアクセスできる仮想音声機能では、2021 年型のシエナについて「私の車の車高は?」などの個人的な質問をすることができ、音声、ディスプレイ、対話型のやり取りのいずれかで即座に回答が得られます。
マニュアルは購入した車両の VIN 番号に自動的に紐づけられ、ドライバーに合わせて完全にパーソナライズされたエクスペリエンスが構築されます。たとえば、ダッシュボードに見慣れないライトが点灯した場合、Toyota Driver’s Companion がライトの意味を知る手助けをしてくれます。
車内全体の重要なポイントをインタラクティブに紹介する機能で、ドライバーはバーチャル画面で車内を探索できます。ドライバーは、各ボタンの機能や具体的なダイヤル番号を知り、シートのスライド方法やドアの開閉方法などを詳しく学ぶことで、新しい車に慣れることができます。
このエクスペリエンスの実装には、Google Cloud の主要なソリューションがいくつか活用されています。
Google Cloud 人工知能テクノロジーを搭載した API は、Google の自然言語処理を活用することで、特定の車両情報に簡単にアクセスできるようにしています。
Google Cloud DialogFlow API は、Companion がエンドユーザーの質問に対する回答を見つけ、質問に応答する方法を判断するためのインテリジェンスを提供するディシジョン ツリーとして機能します。
Google Cloud の Text-to-Speech API の 1 つである Wavenet は、Companion の自然な音声を生成します。
さらに、Speech-to-Text API は、ユーザーの声に「耳を傾け」、応答を作成するための正確な情報を見つけます。つまり、ドライバーは複数の方法で質問でき、Companion はどの方法で質問されても正しい回答で応答します。
Google の Firebase モバイルアプリ開発プラットフォームが、OEM とドライバーの両者にとっての全体的なエクスペリエンスとサービスの向上につながる分析情報を収集します。
Google は、音声という自然で利用しやすい形式により最新の情報にすばやくアクセスできるようにすることで、消費者エクスペリエンスの向上を促進しています。しかし、この新しい音声起動エクスペリエンスはドライバーを支援するだけではありません。ドライバー、車両、自動車メーカーという三者間の関係を強化することにもつながります。
Google は、このような情報交換を通じて、ドライバーが誤解しやすい機能についてフィードバックを提供できるようになり、OEM が早い段階で問題に対処できるようになることを願っています。また OEM は、ドライバーからの要望が多い機能を理解することで、そうした機能に関するドライバーの質問を予測したり、質問に対する回答を充実させることも可能になります。Google は、ドライバー エクスペリエンスを従来よりもインタラクティブで、親切なものにするお手伝いができることを大変うれしく思っています。
-製造および工業担当マネージング ディレクター Dominik Wee