金融サービスにおけるエージェント型 AI を活用したオペレーショナル レジリエンスの構築

Pankaj Ojha
Director & Lead Architect – Agentic Resilience Platform, Deutsche Bank
Florian Graf
Staff Solutions Consultant, Google Cloud Consulting
※この投稿は米国時間 2026 年 8 月 19 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
金融機関にとって、オペレーショナル レジリエンスは、消費者の高い期待はもとより、規制当局や監督当局の期待事項として長年織り込まれてきました。欧州連合のデジタル オペレーショナル レジリエンス法(DORA)の施行により、こうした期待は一段と厳格なものとなり、より明確で整合性が取れた、エビデンス重視の要件が課されるようになりました。企業は、重要なビジネス サービスとそれを支えるデジタル インフラストラクチャが、業務の中断に耐え、連携した対応を可能にし、統制を保った状態で復旧できることを実証しなければなりません。
これらの条件を満たすために、Deutsche Bank は AI 搭載のエージェント型レジリエンス プラットフォームを開発しました。これにより、規制に関する机上レジリエンス演習を大規模にモダナイズし、手動で行っていた準備作業を、実際の運用データに基づいたコンテキスト アウェアで、かつ即座にエビデンスとして活用可能なシミュレーションへと刷新しました。このプラットフォームは、アーキテクチャ、データフロー、ログ、インシデント履歴、アラート シグナル、運用テレメトリーからエンタープライズ コンテキストを構築し、シナリオ、シミュレートされた運用エビデンス、構造化されたセッション レコード、規制当局に対応したアーティファクトを生成します。
相互に依存するアプリケーション、データフロー、サードパーティ サービスにまたがる業務を抱える多くの大手銀行にとって、これは重要かつ不可欠な変化です。金融サービス全体で監督当局の期待が高度化するなか、銀行の机上演習においても、本番環境の依存関係や実際の運用条件、そして一貫したエビデンス基準への準拠を、より直接的に反映させることが求められています。
Deutsche Bank は、この移行を大規模かつ効率的に成功させる方法を検討するにあたり、長年のパートナーである Google Cloud と、その拡大するエージェント型 AI ツールのスイートに注目しました。
机上演習からレジリエンス インテリジェンスへ
Deutsche Bank は、エージェント型レジリエンス プラットフォームを活用することで、従来の手動による準備を伴う机上演習を、継続的なインテリジェンス モデルへと進化させました。さらに、実際の運用コンテキストが必要な場合には、この同じエージェント レイヤを根本原因分析にまで拡張して活用できるようになっています。
つまり、実行されるすべてのシナリオが、実際のエンタープライズ シグナルに基づいたものとなっています。これにより、リアルタイムのインサイトよりも推測に陥りがちな「静的な入力」に頼るのではなく、実際のシステム依存関係や障害パターン、ビジネスへの影響を正確に反映できるようになります。
Gemini Enterprise Agent Platform を使用することで、Deutsche Bank はこの運用コンテキストを、明確なタイムライン、意思決定ポイント、予想される回答を含む構造化されたシナリオに移行できました。これにより、各演習は実際のシステム動作に基づいたものとなり、規制当局の期待に応える、一貫性のある監査対応のエビデンスを確実に生成できるようになっています。
制御と柔軟性を実現するデュアル オーケストレーション
規制当局レベルの制御と運用の柔軟性を両立させるため、Deutsche Bank のプラットフォームには、ワークフローを 2 つの補完的な実行モデルに分離するデュアル オーケストレーション アーキテクチャが採用されました。
まず、規制に準拠した実行を実現するため、同行は LangGraph を活用しています。これにより、入力コンテキストから出力まで明確なリネージを備えた、追跡可能かつ決定論的なプロセスを通じてすべてのシナリオを生成し、監督審査で求められる監査可能性を担保しています。
次に、適応型シナリオと調査型シナリオについては、Google Agent Development Kit(ADK)を使用してエージェント主導の連携を実現しています。このアプローチにより、同行のプラットフォームは、あらかじめ実行パスを定義しておく必要がなく、状況を動的に分析して回答を生成できるようになります。


図 1. コンテキスト アセンブリ、オーケストレーション、シナリオ生成のアーキテクチャ。
このアーキテクチャ上の分離により、プラットフォームは共通のインテリジェンス レイヤを維持しながら、統制された実行と適応型の調査を組み合わせることができます。同一のエージェントとツールを使用して、机上演習シナリオの生成から関連するインシデント分析ワークフローに至るまで、アーキテクチャ、データフロー図、ログ、コード アーティファクトを横断的に推論できます。重要なのは、計画された演習と実際の運用イベントの両方で一貫したレジリエンス モデルがサポートされることです。
「Deutsche Bank がこのプラットフォームで目指したのは、極めて複雑な分散環境においても、規制当局の期待に応える重要金融システム向けのレジリエンス モデルを構築することでした。動的に生成されたシナリオを実際のビジネス コンテキストに結びつけ、統制されたオーケストレーションと適応型の分析を組み合わせることで、このプラットフォームは、オペレーショナル レジリエンスのためのインテリジェントで継続的に適応可能なモデルを当行にもたらしました。」- Deutsche Bank、マネージング ディレクター、監視テクノロジーおよびコンプライアンス クラウド担当グローバル責任者、AI トランスフォーメーション リード、Sanjay Tripathi 氏
Google Cloud で生成とガバナンスを強化
Google Cloud のエージェント ツール スイートは、Deutsche Bank のプラットフォームを、管理されたエンタープライズ グレードのレジリエンス ワークフロー全体にスケールするための基盤を提供しています。その仕組みは次のとおりです。
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Cloud Run が、シナリオおよびエビデンス生成サービスの弾力的な実行をサポートします。
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Gemini Enterprise Agent Platform が、運用コンテキストを構造化されたレジリエンス シナリオに変換します。
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Google ADK が、適応型エージェントの連携を可能にします。
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Cloud SQL が、シナリオ、セッション アーティファクト、レビュー記録に対して、高い耐久性と永続性を提供します。
これらのサービスを組み合わせることで、コンプライアンス レビューと継続的な改善に不可欠な、追跡可能な生成、制御された実行、永続的なエビデンス記録の保持を、Deutsche Bank が実現できるようになります。
スケーラブルでエビデンス対応のレジリエンス テスト
Deutsche Bank のプラットフォームで生成されるあらゆるシナリオは、対応、エスカレーション、復旧を担うチームの構造化された机上演習セッションを推進します。これらの演習は実際のエンタープライズ コンテキストに基づいているため、運用の実態を反映すると同時に、チーム間の一貫性を強化し、規制当局の期待に応える監査対応のエビデンスを生成します。これにより、DORA や同様のフレームワークの規制下にある金融機関にとって、統制され、連携の取れた、規律ある対応を大規模に実証することが容易になります。
このモデルは現在、Deutsche Bank の複数のポートフォリオに適用されており、同行がより一貫性のあるスケーラブルなレジリエンス パラダイムを確立し、金融セクター全体で活用できる再現可能なブループリントを構築する一助となっています。
このモデルでは、根本原因分析が実際のインシデントと将来のレジリエンス テストの間のフィードバック ループとして機能します。本番環境のイベントから得られたインサイトは、将来の机上演習シナリオに反映させることができます。また、演習の結果は、対応ハンドブック、エスカレーション パス、復旧準備の強化に役立てられます。
こうした一連の取り組みにより、シナリオベースのレジリエンス テストを主なユースケースとして維持しつつ、計画的なレジリエンス演習から実際の運用イベントに至るまで、プラットフォームの価値が拡張されます。
導入が拡大するにつれて、このプラットフォームはコンテキスト アウェアなレジリエンスに関する Google Cloud の手法を組み込むことで、運用の一貫性をもたらします。また、断片的な手動アプローチを解消し、同行全体で部門横断的な AI 活用型運用モデルを確立します。
レジリエンス インテリジェンスに向けて
同行の次のステップは、このアプローチをより広範なレジリエンス インテリジェンス レイヤへと拡張することです。同じパターンを展開することで、ハンドブックの改良、復旧準備の評価、そして刻々と変化するシステム状況に対する制御の継続的検証が可能になります。
金融機関にとって、これは戦略的な転換です。システムの分散化が進み、規制当局からの要求が厳しさを増すなか、銀行は定期的なレジリエンス テストから、インテリジェンス主導の継続的な対応能力へと移行する必要があります。Deutsche Bank では、Google Cloud によって組織全体でこの移行を簡単に行うことができています。
コンテキスト アウェアなレジリエンスに関する Google Cloud の手法について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
- Deutsche Bank、エージェント型レジリエンス プラットフォーム - ディレクター兼リード アーキテクト、Pankaj Ojha 氏
- Google Cloud コンサルティング、スタッフ ソリューション コンサルタント、Florian Graf



