AI リテラシーの新しい形: 学生デベロッパーを対象とした調査結果
Andrew Harlan, Ph.D.
UX Researcher & Creative Technologist, Independent
Steve Fadden, Ph.D.
UX Research Lead, Google
※この投稿は米国時間 2026 年 3 月 27 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
AI により、学生デベロッパーはかつてないレベルで作業を効率化し、難しい問題を解決したり、野心的なプロジェクトに取り組んだりできるようになりました。一方、この新技術の登場によって、技術専攻の学生たちは学習について本質的な問いに向き合うようになってきています。
それは、AI をどの程度、何に使用すべきか、という問題です。
Google の DORA 2025 レポートによると、現在、日々の業務で AI を使用している技術者は 90% に達しています。こうした状況の中で、次世代が AI ツールとどう付き合っているのかを理解することがこれまでになく重要になっています。カリフォルニア大学バークレー校の学生を対象とした Google の調査では、学業における不正行為や知的作業の省略といった懸念を覆す結果が明らかになりました。学生は AI を近道としてではなく、学習パートナーとして捉え、タスクによって意図的に使用したり、使用を控えたりしています。
AI がソフトウェア開発の基盤となるにつれ、AI ツールを導入するかどうかよりも、懸命な活用方法が焦点になってきています。カリフォルニア大学バークレー校の学生たちは、その答えの一つを示してくれます。それは、彼らのもつ好奇心や、慎重さ、学習に対する純粋な意欲を、AI は支えることはできても、取って代わることはできない、ということです。
調査
カリフォルニア大学バークレー校の 4 人の学生チーム(Andrew Harlan、Mindy Tsai、Kenny Ly Hong、Karissa Wong)が、学業での AI の利用状況を把握するため、コンピュータ サイエンス、電気工学、デザイン、データ サイエンス専攻の学生を対象に調査を実施しました。この調査には、混合手法を使用しています。
また、同校の別のチーム(Edward Fraser、Jessie Deng、Eileen Thai)が、デベロッパー歴 1~5 年の人々を対象に、アイ トラッキング技術を使って AI コーディング アシスタントの使用状況を観察しました。両チームとも専任メンターの支援のもと調査を進め、混合手法調査については Google 社員の Harini Sampath、Becky Sohn、Derek DeBellis が、アイトラッキング調査についてはカリフォルニア大学バークレー校の John Chuang 教授(博士)が助言を行っています。
これらの調査から、学生が AI を活用すると同時に、真の専門知識を身につけるためにどのような方法をとっているのか、3 つの重要な結果が明らかになりました。学生の間で見られるパターンは、実際に開発職に就いている人々を対象にした DORA の調査結果とよく似通っています。
調査結果その 1: 24 時間 365 日、いつでも頼れる先生
AI は近道ではなく家庭教師
調査で AI との関係性について尋ねられた学生は皆一様に、学びの場ならではの言葉を使いました。AI のことを、アシスタントや生産性向上ツールではなく、「家庭教師」や「先生」と呼んでいたのです。
「AI は教師のような存在です。内容の濃い資料を解説してもらったり、データベースにあらかじめ記述されているコードを部分的に説明してもらったりするなど、プロジェクトの基礎的な部分について理解を深めるためにとても役立っています。」
「[AI を] お抱えの家庭教師として利用しています。授業や講義の特定のトピックの [理解を深める] ために。コンピュータ サイエンスだけでなく、あらゆる授業で使っています。」
ここで重要なのは、学生が AI に依存せず、計画的に使用しているということです。AI に課題を完成させるのではなく、自分の理解度を踏まえて AI を使用し、知識の抜けを特定したり、不確かな概念を明らかにしたり、学習プロセスをリードしてもらったりしています。回答の中には、講義で取り上げられた複数の学術論文を要約してもらい、どれを深く読みこむべきかを判断するといった使い方や、コードでエラーが発生する理由を AI に説明してもらう、といったものがありました。
ある学生は、学習プロセスに次のように組み込んでいます。
「教授の説明がわからなかったときは AI に尋ねます。たとえば、ある概念や、コードの機能について説明してもらったりします。また、ラボのどこから手をつけたらよいかわからないときは、AI にプロンプトで尋ねます。それからコードを書き始め、修正すべき点を尋ねるといった具合です。」
学習障がいのある学生にとっては、常に利用できるという点が、不利な状況を克服するために役立っています。
「私は学習障がいがあるため、問題を理解するのに人より時間がかかります。AI にはすごく助けられています。24 時間 365 日、いつでも付いていてくれるサブ教師のような存在です。」
AI を使えば、学校の営業時間に縛られることなく、いつでも理解を掘り下げられます。AI のおかげで脳の処理能力に余裕が生まれ、より高度な思考が可能となります。
「実際にコーディングする時間は減り、全体のアイデアを練るのに時間をかけられるようになりました。今では、手動でコードを生成する代わりに、ロジックとコンセプトの検討や、アイデアの創出に時間を費やしています。」
こうしたコメントから、AI が最終的な作品を仕上げるためではなく、探索ツールとして利用されている様子が浮かび上がります。これは、DORA の調査結果と一致しています。調査によると、AI がルーチンワークを引き受けることで、デベロッパーはユーザーへの価値提供に専念できるようになっています。
調査結果その 2: 過度な依存に対する積極的な抵抗
学びのプロセスを守るために、境界線を設ける
学生たちは、AI を学習ツールとして活用する一方で、AI への過依存への不安を率直に表現しました。
「AI がなくなったら、自分で解決方法を探すのに苦労してしまうかもしれません。」
エッセイ執筆中の脳活動を脳波検査で測定した最近の研究では、AI の利用者は、検索エンジンやツールを使用しない人に比べ、認知エンゲージメントのパターンが弱いことがわかりました。また、AI のヘビーユーザーが、アシスタントを使わずにエッセイを書いてみたところ、以前に書いた作品についての記憶があまりなく、自分の作品であるという意識も低いことがわかりました。このことを、論文の著者は「認知の負債」と表現しています。1
一方で、ポジティブな兆候が明らかになりました。学生たちは、この認知上のリスクをただ受け入れるのではなく、意図的に境界線を設けて対応しています。
機械工学専攻のある学生は、電子機器を何年も使用するうちに、以下のように能力ベースの AI 使用ルールを確立したといいます。
「サーボや超音波などの基本的センサーなら自分でコーディングできますが、複雑なセンサーで、かつ、機能を厳密に把握する必要性がないときは、AI を使用します」と回答し、次のように説明しています。「何かがうまくいかないとき、その理由を理解できても、問題を解決するための直接的な言語を知らない場合があります。AI は、そのような状況で役立ちます。」
この学生は、最近携わったプロジェクト(触って操作できるストーリーテリング ツールの構築)において、基本的なコンセプトを理解した後、カウントおよび比較のシステム構築のために助けを求めたとのことです。「AI は、基本構造のセットアップに大変役立ちましたが、その後、微調整のコーディングは自力でやる必要がありました。」また、作業の振り分けについては、次のように明確な意見を述べています。「自分でも引き続き、コードを書いています。技術者のように丸投げするわけではなく、AI と共同で作業を進め、私が司令塔となって AI にやってほしいことを指示します。ただやみくもにリクエストしても、まったく役に立ちません。」
学生が AI を利用する際には、明確な利用ルールを設けているケースが多く見られました。
「AI にはたまに、完全な答えではなく方向性だけを示すように頼みます。」
過度な依存を避けるため、学生は以下のような具体策を編み出しています。
高度なモデルの利用を避ける:
「料金制の AI ツールを使用するつもりはありません。AI モデルを使いすぎてしまう恐れがありますから。」
AI の使用、不使用を交互に繰り返す:
「for ループの処理など、一部の処理はまた自分で書くようになりました。」
「バイブ コーディング」を警戒する:
「AI ツールがデベロッパーの生産性を高めるために役立つことは間違いありません。ただし、バイブ コーディングに慣れてしまわないよう、十分な注意が必要です。AI が生成するコードを理解して検証し、適切な方法で使用するということが大前提です。」
こうした懸念は、学生たちが認知について意識的に考えているということを示しています。彼らは、一番楽な方法が最も学習効果が高いわけではないと認識しています。これは DORA の調査結果とも一致しています。調査によると、AI の導入率が 90% にのぼるにもかかわらず、利用者の約 30% が AI が生成したコードをほとんど(あるいはまったく)信用していないと答えています。AI を効果的に使用するには、単に導入するだけでなく、厳しい評価と検証の方法を習得することが求められます。
調査結果その 3: AI の使いどころを心得ている
アイ トラッキング データからわかったこと
アイ トラッキング技術を使用した調査では、人の動作の面から検証を行いました。1~5 年の経験を持つデベロッパーを対象に、AI コーディング アシスタントとやり取りする様子を観察したところ、タスクの種類によって AI の利用に大きな違いがあることがわかりました。
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思考と深い理解が必要なタスク: AI への視覚的注目が 1% 未満
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機械的なタスク(ボイラープレート コードなど): AI への視覚的注目が 19%
高度な作業においては、たとえ AI の提案が正確で時間の節約につながるような場合でも、敢えて無視されていることがわかりました。深い理解が必要なときは、AI は認知上の負担となります。熟練デベロッパーは、AI をオフにすべきときを心得ています。
すべてを任せるのではなく、意図的に取り入れる
学生への聞き取り調査からも、学生が AI を用途に応じて使い分けている様子が伺えます。
「私は普段、とっかかりとなるアイデアを得るために AI を使っています。」
「AI の使用が許可されていることは知ってましたが、学習と試行錯誤のプロセスを大事にしました。創造性の余地も必要です。」
カスタマイズが肝
現在、ほとんどの AI コーディング アシスタントは、インライン提案のオン / オフを切り替えたり、オンデマンド専用モードに設定したり、提案頻度を調整したりできます。これらの設定を試して、タスクとその認知要件に応じて AI を使い分けることで、ルーチンワークでは助けてもらいつつ、自分で深く考えたい仕事の邪魔をされないようにすることができます。
この調査結果が業界において意味すること
AI を利用した開発の未来を形作っていくのは、今の学生たちです
調査に協力してくれた学生たちは、時代の一歩先をいっており、すでに AI リテラシーを身につけています。用途に応じた使い分けや、出力の検証方法を心得ており、自らの理解力を維持するためにときには敢えて手動で作業するといった対策をとっています。AI 導入を検討中の方にとって、こうした学生の経験は、進むべき方向を探るヒントとなります。
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さまざまなカスタマイズ設定を試す: 作業の妨げとならず、助けとなるような設定を見つけましょう。
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ワークフローに検証プロセスを取り入れる: AI の提案を無批判に受け入れないようにしましょう。
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自分の聖域を確保する: スピードよりも深い理解が重要となる高度な問題には、AI の助けを借りずに自分で取り組むようにしましょう。
AI がソフトウェア開発の基盤となるにつれ、AI ツールを導入するかどうかよりも、懸命な活用方法が焦点になってきています。カリフォルニア大学バークレー校の学生たちは、その答えの一つを示してくれます。それは、彼らのもつ好奇心や、慎重さ、学習に対する純粋な意欲を、AI は支えることはできても、取って代わることはできない、ということです。
業界の専門家が AI の導入をどのように進めているかについて詳しくは、2025 年 DORA レポート: AI 支援によるソフトウェア開発の現状をダウンロードしてご覧ください。カリフォルニア大学バークレー校の研究者との共同研究による論文全文もあわせてお読みいただけます。
1. Kosmyna, Nataliya, et al. "Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task." arXiv, 10 June 2025, doi:10.48550/arXiv.2506.08872.(参照日付: 2026 年 1 月 28 日)
- Andrew Harlan 博士(独立系 UX リサーチャー兼クリエイティブ テクノロジスト)
- Steve Fadden 博士(Google、UX リサーチ担当リード)



