ワークマンが実践するデータと AI の民主化:Google Cloud で加速するデータドリブン経営と現場起点の DX

Google Cloud Japan Team
作業服・作業用品の専門店から、高機能・低価格製品でアウトドアやスポーツ、日常着の領域へとフィールドを広げ、近年目覚ましい成長を遂げている株式会社ワークマン(以下、ワークマン)。「WORKMAN」「WORKMAN Plus」「#ワークマン女子」「ワークマンColors」といった多様な店舗フォーマットを展開する同社では、データに基づいた意思決定文化の醸成と、現場の業務効率化・高度化が重要な経営課題となっています。
本記事では、ワークマンが Google Cloud を活用し、データドリブン経営の推進と、現場起点のデジタルトランスフォーメーション(DX)をどのように実現しているのか、同社 データ戦略部、店舗エンジニアリング部のご担当者様(長谷川様、井上様、森池様)へのインタビューに基づき、その具体的な取り組みをご紹介します。特に、「経営ダッシュボードによるデータ文化の変革」と、「AppSheet、NotebookLM、Gemini Advanced といったツールを活用した現場 DX と AI 活用」の 2 点に焦点を当てます。
Looker Studio で KPI を可視化、データ起点の改善サイクルを確立
ワークマンは 2013 年より BI ツールを活用し、データに基づいた意思決定を各部署で進めてこられました。しかし、「WORKMAN Plus」や「#ワークマン女子」といった新業態の展開に伴い、従来の部署単位でのデータ活用には限界が見え始め、部門横断でのデータ連携や全社的な視点での分析が不可欠な状況となりました。ワークマンのデータ戦略部の長谷川氏は「経営層から現場まで、全社が一貫したデータに基づき迅速な意思決定を行う必要性を感じ、分析基盤の刷新に着手しました」と語ります。
分析基盤刷新の核となる経営ダッシュボード構築に向けて、データ戦略部では「売上に対し最もインパクトのある KPI は何か」という問いを起点に、徹底的な分析と議論を重ねました。その結果、最重要初期 KPI として特定されたのが「棚割り導入率」です。これは、本部が推奨する商品リスト(年間品・季節品 SKU)に対し、各店舗がどの程度導入できているかを示す指標です。


この「棚割り導入率」をダッシュボードで可視化したところ、導入率が低い店舗は売上も低迷する傾向が明確に示されました。これにより、注力すべき店舗を迅速に特定できるようになっただけでなく、SV(スーパーバイザー)が店舗指導を行う際に具体的なデータという根拠を持ってコミュニケーションできるようになり、的確な改善活動を通じて売上向上に貢献しています。
しかし、ビジネスの状況や課題は常に変化します。「棚割り導入率」の改善が進むと、次に注目すべきは「滞留品のマークダウン(値下げ)率」や、データ精度に関わる「マイナス在庫(実在庫とデータ上の在庫の乖離)の修正率」といった新たな KPI が重要性を増してきました。このように変化し続ける KPI に迅速かつ柔軟に対応するため、分析基盤の開発・改修を内製化する方針を決定しました。変化の都度、外部ベンダーに要件定義から依頼するプロセスでは、スピードとコストの両面でビジネスの要求に応えられないと判断したためです。


「もちろん、顧客情報のような機密性の高いデータの扱いは専門家に委託しますが、それ以外の大部分は自社で開発・改修できる体制を目指しました。KPI が変化した際に即座に対応できるアジリティ(俊敏性)こそが重要だと考えたからです」と、内製化への強い意志を語ります。
この内製化推進と社員のスキルアップを強力に支援したのが、Google Cloud パートナーである G-gen です。G-gen は、システム構築を請け負うだけでなく、ワークマンの「自分たちでデータ活用を推進したい」という主体性を尊重し、社員が自走できる状態を実現するための伴走支援に注力しました。具体的には、BigQuery を活用するための研修、Looker Studio によるデータ可視化ワークショップ、基幹システムからのデータ連携設定支援、さらに Cloud Run や AppSheet といった Google Cloud の各種サービス活用トレーニングまで、実践的なスキル習得を目的とした多岐にわたるワークショップと技術サポートを提供しました。
導入を担当された方は、「G-gen には、まさに手取り足取りご指導いただきました。チャットでの細かな質問にも一つひとつ丁寧に対応いただき、その過程で確実に社内に Google Cloud に関する知識やノウハウが蓄積されていくのを実感しました。手厚いサポートとトレーニングを提供いただけたことは、内製化を進める上で大きな助けとなりました」と、G-gen の伴走支援を高く評価しています。
現場の課題解決を加速する AppSheet 活用
ワークマンでは、経営ダッシュボードによるデータ分析文化の醸成と並行し、店舗や本部スタッフの日常業務の効率化と高度化を実現するため、AppSheet や生成 AI といった新しいテクノロジーの活用にも積極的に挑戦しています。
特に AppSheet は、現場が抱える課題に対し、迅速にソリューションを提供できるツールとして高く評価され、活用が進んでいます。その一例が「棚割り確認アプリ」です。店舗スタッフは、商品のバーコードをスマートフォンのカメラで読み取るだけで、その商品が現行の棚割りリストに含まれる対象商品か、あるいは棚割りから外れた非対象商品かを瞬時に確認できます。これにより、売り場の正確な商品構成と効率的な在庫管理をサポートしています。
もう一つの活用例が「店舗カルテアプリ」です。これは、経営陣や SV が店舗を訪問した際などに、手元のスマートフォンから担当店舗に関する様々な重要情報を即座に確認できるアプリケーションです。店舗の基本情報(担当 SV、売上実績、予算達成率など)はもちろん、品番ごとの前年比分析や、特定のカテゴリ(例:夏物衣料)の在庫状況といった詳細データまで、ドリルダウンして把握できます。このアプリの価値を最大化しているのが、データ分析基盤である BigQuery との連携です。これにより、ほぼリアルタイムのデータに基づいた、正確な店舗状況の把握と、それに基づく的確な指示やアドバイスが可能になりました。
長谷川氏は、その効果を次のように語ります。「特に店舗カルテアプリの導入効果は絶大です。以前は、店舗訪問後に本部へ戻り、必要なデータを集計・確認してからフィードバックするという流れでした。しかし AppSheet と BigQuery の連携により、訪問先の店舗で、その場で最新のデータを手元で確認し、即座に的確なアドバイスや指示を出せるようになったのです。具体的なデータ処理速度で言えば、例えば 100 店舗分の店舗カルテ表示に必要なデータ集計に、以前は約 8 分かかっていました。全店舗分となると単純計算で 1 時間以上です。これが BigQuery 導入後は、わずか数秒で完了します。この圧倒的な処理スピードが、AppSheet アプリ上で現場担当者が必要な情報をストレスなく、リアルタイムに近い形で確認できる、という体験を実現する基盤となっているのです。」
さらなる業務革新へ:ワークマンが注目する NotebookLM と Gemini 活用による未来
データ活用基盤の整備と AppSheet による現場改善に加え、ワークマンでは、さらなる業務革新を目指し、NotebookLM や Gemini といった Google の最新 AI ツールの活用にも期待を寄せています。
特に NotebookLM は、ドキュメントの読み込みと対話を通じて、情報整理や組織内のナレッジ共有を効率化するポテンシャルがあると考えられています。「例えば経営企画部では、会議の音声データを取り込み、NotebookLM で議事録の自動作成や必要な情報の発掘ができないか、
倉庫部門では、業務マニュアルや関連資料を NotebookLM にインプットし、新人スタッフ、パートスタッフが業務中に不明な点を自己解決できる環境を構築しています。」


一方で、Gemini の活用も一部業務での活用が始まっています。特に注目されているのが、情報収集・分析能力を強化する Deep Research 機能です。「競合他社の動向分析や、業界全体の最新トレンドを把握するようなリサーチ業務において、Gemini Advanced の Deep Research 機能が非常に役立っています。この機能は、ウェブ上の複数の情報ソースを横断的に調査し、要点をまとめてくれるため、従来のリサーチ作業にかかる時間を大幅に短縮できました。これにより、経営層からの急な調査依頼に対しても、より迅速に、かつ質の高い分析レポートを提出できる体制が整いつつあります」と、その効果を実感しています。


株式会社 ワークマン
1982年に設立された作業服・作業用品の専門店です。フランチャイズシステムを主体とし、全国47都道府県に1000店舗以上を展開する業界のリーディングカンパニーです。近年では、「WORKMAN Plus」や「#ワークマン女子」といった新業態を通じて、アウトドア・スポーツウェアや女性向け製品にも注力し、一般消費者からの支持も拡大しています。
株式会社 G-gen
G-gen は「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」をミッションにお客様のクラウド導入を支援します。マルチクラウド、データ分析基盤、システム・アプリ開発などを得意とするクラウド専業インテグレーターです。Google Cloud を効果的にご利用いただけるように、利用支援やエンジニア サポート、デジタルプロダクト開発等のサービスを展開しております。