WED:フルマネージド サービスの全面的な活用によりビジネスの柔軟かつ迅速な変革を実現

Google Cloud Japan Team
「現象を生み出し社会に実装していく」ことにより「もっとエネルギッシュでワクワクした世界」の実現を目指す WED株式会社(以下、WED)。レシートがお金に変わるというキャッチーなコンセプトで累計 500 万ダウンロードを突破した、お金がもらえるお買い物アプリ「ONE」や、商業施設のアナログで複雑な売上管理業務のシンプル化を実現する SaaS 型クラウドサービス「Zero」を展開。両プロダクトでは、レシートや伝票を読み取る OCR(光学文字認識)機能に Vision API が採用されています。注目すべきは、学習済みの機械学習 API をそのままビジネスのコアに利用し、マネタイズまでを実現していること。同社の取り組みについて、技術リードに話を伺いました。
利用しているサービス:
Vision AI、Google Kubernetes Engine(GKE)、Cloud SQL、Memorystore、Virtual Private Cloud(VPC)、Identity and Access Management(IAM)、Cloud Spanner
利用しているソリューション:
アプリケーションのモダナイゼーション / クラウドネイティブ アプリケーションの開発、データベース、スマート アナリティクス、AI と機械学習のソリューション
WED のビジネスの肝となるデータ分析に BigQuery が必要
「消費の未来を追求する」というミッションに基づき、主力サービスの「ONE」、および「Zero」を展開する WED。2018 年のサービス開始から 4 年で累計 500 万ダウンロード(2022 年 9 月現在)と、着実にユーザーを増やしている「ONE」で目指すのは「毎日のお買い物が楽しくお得になるアプリ」。レシート買取サービスは、そのための機能の 1 つと位置づけ、2022 年 7 月には、旅行、コスメ、食品、ファッションなど、複数のカテゴリに分類されたショップで「ONE」アプリ内からオンライン ショッピングをするだけで、購入金額の最大 12% がキャッシュバックされるという新サービス「ONEモール」もリリースしました。
一方、もう 1 つの主軸サービスである「Zero」は、流通大手企業と共同開発した商業施設向けの売上管理サービスです。これまで紙ベースの煩雑な作業が多かった売上管理をアプリで一括管理でき、商業施設の DX 化を推進します。
リリース当初の「ONE」および「Zero」では、OCR の仕組みは現在と同様に Google Cloud の Vision AI や Cloud Storage などを利用していましたが、アプリやデータベースなどの仕組みは他社の PaaS 上に構築していました。しかし、2018 年 6 月のリリースから 1 年以上が経過して、いくつかの課題が露呈してきたといいます。


VP, Engineering の丹俊貴氏は、「他社の PaaS は、新しい機能を開発するときの細かい設定が困難なことに加え、アクセスが急増したときの拡張性やモニタリングなどにも問題があり、どこかで限界がくると感じていました。そこで Kubernetes でアプリを管理できる仕組みに移行したいと考えていました。また、(当時利用していた)PaaS と Google Cloud の 2 つを管理するのは、運用の工数とコストがかかることも課題で、なるべくシンプルな構成にすることが必要でした」と話します。
そこで 2019 年 8 月より、他社の PaaS で稼働しているすべての仕組みを Google Cloud に移行するための検討を開始します。Google Cloud の採用を決めた理由については、「WED のビジネスの肝となるデータ分析に BigQuery が必要だと考えました。レシートを買い取り、購買データを収集、加工して、分析結果をクライアントに提供したり、ユーザーに価値を還元したりするためには、膨大なデータを加工できるデータ ウェアハウスが必要でした。ほかのクラウドも検討しましたが、経験した中では BigQuery がもっとも使いやすく、将来性も、管理性も高いと考えました」(丹氏)と振り返ります。
また全社で Google Workspace を利用していたことも、Google Cloud の採用を後押ししました。丹氏は、「全社員が Google アカウントを持っているので、Identity and Access Management(IAM)で、アカウントを一元管理できることも便利でした」と話しています。
フルマネージド サービスによりインフラ管理の労力を想定以上に低減
Google Cloud に移行後の「ONE」および「Zero」のほとんどのアプリは、Google Kubernetes Engine(GKE)で動いています。データベースには Cloud SQL が採用され、ネットワークは Virtual Private Cloud(VPC)で構築されています。「ONEモール」に関しては、データベースに Cloud Spanner が使われています。
「こだわったのは、プロジェクトの分け方です。データベースや Memorystore、GKE、OCR などのマイクロサービス、IAM による ID 管理などは、小さなプロジェクトで管理しています。これによりプロジェクトを、細かく制御したり、再利用性を高くしたりすることができます。また、Kubernetes のヘルスチェックの仕組みを作ったり、ロギングの設定を変えたりという工夫もしています。」(丹氏)
Google Cloud に移行した当初は、オートスケールに Kubernetes の Horizontal Pod Autoscaler(HPA)が使われていましたが、急なスパイクによる影響を考慮し、メディアなどで紹介される前には手動での対応が必要だったといいます。現在も、基本的には HPA が使われていますが、メディアなどで紹介される前にはスケジュール設定する工夫で対応しているとのこと。


また、データベースについても、ユーザー数の大幅な増加にしたがって、スパイク時の処理性能が限界に近づいてきているといいます。丹氏は、「現在は、Query Insights を見てチューニングをしていますが、レシート数が約 6 億枚分、レコード数が約 30 億レコードに増え、アクセス数も増大しているので、データベースを Cloud Spanner に移行することも検討しています」と話します。
Google Cloud を採用した効果について、丹氏は次のように語ります。
「第一に、フルマネージド サービスなので、インフラ管理の労力が想定以上にかからず、アプリケーションやビジネス ロジックの開発に集中できたことは大きかったです。またコンソールがシンプルで見やすく、直感的に使うことができます。公式のドキュメントが豊富で、オンラインのコースも充実していて、新たに Google Cloud を利用するエンジニアが学習しやすい環境が整っていることもメリットの 1 つでした。」(丹氏)
さらに丹氏は、「特に BigQuery は、ビジネス部門であるカスタマー サクセス部門のメンバーが、日々クエリを書いて分析に利用できるくらい簡単に使えています。パフォーマンスも期待どおりで、クエリが遅いなどの話は聞いていません。これはお客様のサービス向上を目的としたデータ分析の実施においてすごく役立っています。サービスの概念も分かりやすく、とても使い勝手のよいクラウド サービスだと感じています」と話します。
学習済み機械学習 API の利用でビジネスロジックの開発に注力
WED では、画像から分析情報を取得する Vision API を「ONE」のリリース時から採用していますが、ここでのポイントは、そこにすでに学習済みの機械学習 API が利用されているということ。学習済みの API を使うことで、画像からテキストを抽出する仕組みについては Vision API に任せ、Vision API から得られた座標と文字情報を、ビジネスに活用できる形式に加工するロジックの開発に注力することができたといいます。
「当初は、エンジニア 2 名でメンテナンスをしていました。少ないリソースで、Google Cloud と同じレベルの OCR 機能を独自に開発し、メンテナンスをし続けるのは現実的ではありません。したがって学習済みの機械学習 API を使うのは極めて現実的な選択肢でした。他社の機械学習 API も検討しましたが、Vision API は数字やアルファベットはもちろん、漢字の認識率が高いことが採用の決め手となりました。今後は Vision API で読み取ったレシートの文字列と商品のマスターデータを紐付け、より正確に商品を把握できる仕組みの実現も目指しています。」(丹氏)
ショップの増加に伴い、BigQuery ML や Vertex AI を使って、どのコンテンツをどのユーザーに見せると最も効果があるかを、データとアルゴリズムに基づいて分析することも検討しているとのこと。さらに今回の「ONEモール」で Cloud Spanner が利用されていますが、2023 年前半にはすべてのデータベースを Cloud Spanner に移行する計画もあるといいます。セキュリティの観点では、Security Command Center(Premium)を利用することで、システムのどこにリスクがあるかをモニタリングすることも検討しているようです。
最後に、今後の事業への思いについてお話しいただきました。「WED が提供するバリューの 1 つに『世界観ファースト』があるのですが、まず自分たちが実現したい世界観を考え、それをユーザーに伝える稀有な会社でありたいと思っています。デザインや世界観を前面に出しインパクトを与えつつ、その裏では堅実なビジネスをしている、そんな会社を目指しているので、そのための堅牢なインフラのサポートを Google Cloud には期待しています。」(丹氏)


2016 年 5 月に設立。「消費の未来を追求する」というミッションに基づき、お買い物をしてお金がもらえるアプリの「ONE」、収集した購買データをビジネスに活用するための「ONE for Business」、および大型施設向けの売上管理サービスの「Zero」の 3 つのサービスを事業として展開。社名は「水曜日(ゲルマン諸語でオーディンの日)」に由来する。オーディンは北欧神話の知識に対し非常に貪欲な神のことで、知に対して貪欲に向き合っていきたいという思いが込められている。
インタビュイー
VP, Engineering 丹 俊貴 氏