日本特殊陶業 : 生成 AI とベクトル近傍探索を活用した類似図面検索システム

Google Cloud Japan Team
Niterra グループ 日本特殊陶業株式会社(以下、日本特殊陶業)は、世界トップシェアのスパークプラグやセラミックス製品等を製造、販売する、国際的な総合セラミックス メーカーです。
同社は、これまでも Google Cloud を有効活用されてきましたが、より優れたサービス提供を目指し、非構造化データである図面を社内ナレッジとして有効活用するための社内システムを開発しました。このシステムでは、図面データをアップロードするだけで、過去に作成された類似図面を社内データから検索することが可能となります。
今回は日本特殊陶業グローバル戦略本部 DX 戦略室の岩切佑弘氏からのお話を伺い、その取り組みと成果について詳しくご紹介いたします。
利用している Google Cloud サービス:
Vertex AI Vector Search, Mutimodal Embeddings API, Gemini API, Cloud Runなど
Google Cloud 導入前の課題
これまではある事業部において、顧客からの引き合いを受けた際に、要求仕様や図面から過去の類似図面や製品を人手で検索していました。この作業は属人化しており、ベテラン社員であれば記憶を頼りにある程度探すことができましたが、それでも網羅性に欠けるケースが多く、検索漏れの懸念がありました。新人社員にとっては、過去のナレッジにアクセスする手段がなく、該当情報を見つけ出すまでに非常に時間を要していました。こうした非効率な情報探索プロセスは、組織全体の対応スピードや顧客満足度に影響を与えていました。


Google Cloud の選定理由
Google Cloud は、Vertex AI や Multimodal Embeddings API といった高度な生成 AI 機能を備えており、非構造化データである図面の検索・類似性判定に最適と考えました。また、Google Cloud の持つグローバルな信頼性やセキュリティ、そしてスケーラブルなインフラ環境は、当社がグローバルに展開する上でも安心して導入できるものでした。特に、Vertex AI Vector Search を用いた高速かつ高精度な類似検索の実現が、課題解決の鍵になると判断しました。
Google Cloud アーキテクチャ


システムの中核となるのは、Cloud Run 上で動作する Web アプリケーションです。
利用者はブラウザ上から図面 PDF をアップロードするだけで、登録または検索を行うことができます。アップロードされた図面は、PDF から画像形式に変換され、Google Cloud Storage に安全に保存されます。登録図面と検索対象図面は、それぞれ「本番用」と「一時保存用」のストレージに分けて管理されています。画像化された図面データは、Google Vertex AI の Multimodal Embedding モデルを活用してベクトル化されます。これにより、図面ごとの視覚的特徴を数値的に表現でき、言葉では表現しづらい「図面の類似性」を数値で比較できるようになります。生成されたベクトルは BigQuery に格納され、エンベディング テーブルとして管理されます。さらに、検索効率を高めるためにベクトルデータをインデックス化し、類似度に基づいた近似再近傍探索(Vector Search)が可能となっています。利用者が図面をアップロードして検索を行うと、その図面も一時的にベクトル化され、インデックスと照合されます。その結果、視覚的に類似した図面がスコア付きでランキング表示され、過去の設計図面や流用可能な類似例を瞬時に見つけることができます。
導入効果とメリット
現在、本システムは 6 月末の本番リリースに向けて最終調整を進めており、運用部門での実利用はこれからとなります。しかし、PoC(概念実証)やテスト環境での評価においては、従来の人手検索と比較して類似図面の探索時間を大幅に短縮できることが確認されています。特に、Top 5 再現率で 80% 以上の検索精度を記録しており、今後の実運用においても大きな効果が期待されています。属人化していた過去図面探索の業務が標準化され、ベテランから新人まで幅広いメンバーが同じ情報基盤を活用できる体制の実現が見込まれています。
今後の展望と Google Cloudへの期待
本開発では、画像 × 属性情報の複合検索 UI を実現しました。ユーザーは図面画像に加え、仕様や用途といったキーワードを組み合わせて検索できます。さらに、検索結果には過去の設計・見積対応履歴もリンク表示され、設計判断や見積根拠の可視化にもつながっています。
今後は、類似度学習の強化(ユーザーのフィードバックを取り込んだ再学習)や、外部業者との類似性比較機能、3D データとの連携といった拡張も視野に入れています。
Google Cloud には、生成 AI とベクトル検索を一貫して統合的に扱える基盤を引き続き提供していただくとともに、Gemini などのマルチモーダル API の精度向上・コスト最適化、そして検索精度改善のためのチューニング支援などにも期待しています。


Google Cloud のコメント
現代のビジネス環境において、データ分析や可視化のハードルを下げ、あらゆる部門でデータを活用できる環境を整えることは、企業の成長戦略に不可欠です。Google Cloud は、生成 AI を活用することで、従業員のスキルレベルに関わらず誰もがデータを扱える環境を実現し、組織全体のデータ活用を促進することが、企業の持続的な競争優位性につながると考えています。
本事例は、Google Cloud のマネージド サービスを最大限に活用して、長年の課題であった図面データの属人化を解消し、さらには社内の貴重なナレッジとして有効活用できる画期的なシステム構築に至った好例です。
今後は、類似度学習の強化や外部システム連携、3D データとの連携も視野に入れているとのこと。Google Cloud は、生成 AI とベクトル検索を統合した基盤の提供はもちろん、Gemini の特色の 1 つであるマルチモーダリティの精度向上といった継続的な改善に努め、引き続き日本特殊陶業のビジネスの発展に貢献していきます。
(Google Cloud Customer Engineer : Shunsuke Ito)