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顧客事例

オートバックスは、いかにお客様の「見えない不安」を解消したのか? 5,600 台の AI カメラを支える Google Cloud 活用術

2025年6月16日
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Google Cloud Japan Team

株式会社オートバックスセブンの子会社である株式会社オートバックスデジタルイニシアチブ(以下、ABDI)は、車のメンテナンスの信頼性を向上させる「安心ピットカメラ」という仕組みを構築しました。全国約 600 店舗に 5,600 台の AI カメラを導入し、メンテナンス作業の透明性を確保するこの大規模な取り組みの裏側では、Google Cloud がその基盤を支え、株式会社 G-gen がパートナーとして技術支援を行っています。

今回は、プロジェクトの背景、技術選定の理由、アーキテクチャをめぐる試行錯誤、そして生成AIを活用した未来の展望についてお話を伺いました。

お客様の不安を「見える安心」へ。業界の常識を覆すオートバックスの挑戦と Google Cloud という選択

近年、自動車整備業界では、お客様の整備作業に対する不安や不信感が社会的な課題となっています。オートバックスは、以前から休憩室をガラス張りにするなど、ピット作業の透明性を高める努力を重ねてきました。しかし、店舗の構造上の制約もあり、すべてのお客様に十分な「見える安心」を提供するまでには至っていませんでした。

この状況を打開し、「安心・安全」という企業のパーパスを改めて形にするため、ABDI は、AI カメラを用いてピット作業を見える化する「安心ピットカメラ」プロジェクトを始動しました。これは、全国約 600 店舗に合計 5,600 台ものカメラを導入する、業界でも類を見ない大規模な挑戦です。

この壮大なプロジェクトの基盤として同社が選んだのが、Google Cloud です。その理由について、同社 執行役員 山原氏は次のように語ります。

「これほど大規模なシステムを安定稼働させるには、スケーラビリティが不可欠でした。また、将来の拡張性やポータビリティを考慮し、コンテナ技術の採用をしたいと考えていました。Google Cloud は Kubernetes や様々なマネージド サービスを始め、この領域に豊富な実績と知見を持つことから、我々にとって最適な選択肢であると考えました」

また、事前に Google Cloud からコンテナ技術のハンズオンを含む 3 日間のワークショップ、Tech Acceleration Program(TAP)を ABDI から 15 名が受講しており GKE をはじめとする各種マネージド サービスについて体系的に学ぶ機会がありました。

ハンズオンに実際に参加した永島氏は、次のように振り返ります。「これまでクラウド環境にサービスをデプロイしたりインフラを構築した経験が少なかったのですが、このハンズオンを通してサービスの使い方を体系的に学ぶことができました。ここで得た知識をそのままプロジェクトに活かせたので、本当に参加してよかったと感じています。」

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安心ピットカメラ利用イメージ

コスト課題への挑戦と、パートナーとの協業によるアーキテクチャ刷新

「安心ピットカメラ」のコアとなる映像配信技術には、プロジェクト開始当初、サーバーレスで手軽に実装できる Live Stream API を採用しました。永島氏は「API で環境が構築でき、サーバー運用も不要なため、非常に使いやすいサービスでした」と当時を振り返ります。

しかし、プロジェクトが拡大するにつれてコストが課題となり、アーキテクチャの見直しが急務となりました。Live Stream API は主に不特定多数への一斉配信(1:N)を想定したサービスです。そのため、お客様一人ひとりがご自身の車の映像だけを視聴する一対一(1:1)の通信が中心となる当プロジェクトのユースケースでは、コスト効率の面で課題があることが明らかになりました。

この課題に対し、ABDI が Google Cloud に相談したところ、3 つの代替案が提示されました。コストや運用負荷を総合的に検討した結果、Google Cloud のパートナー ソリューションである「Wowza Streaming Engine」を Google Cloud Marketplace 経由で導入し、Compute Engine 上で稼働させるアーキテクチャへの変更を決定しました。

この変更に伴い、新たにサーバー運用が必要となったため、Google Cloud のプレミアパートナーである株式会社 G-gen(以下 G-gen)に協力を要請。新たなプロジェクト メンバーとして参画してもらうことになりました。

永島氏はこの新たなパートナーシップの効果を次のように語ります。「G-gen の深い知見をお借りすることで、私たちだけではカバーしきれなかったセキュリティ面などを強化できました。また、アーキテクチャの相談にも乗っていただき、今回の特殊な要件に対して、何度もディスカッションを重ねながらプロジェクトを前に進めることができました。」

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「見える安心」が生んだ成果と、業界全体のDXを牽引する未来への展望

2024 年 8 月から順次導入が始まった「安心ピットカメラ」は、現在約 60 店舗・500 台のカメラが安定稼働しています。この取り組みは社外からも高く評価されており、業界最先端の自動車アフターサービスの展示会である「国際オートアフターマーケット EXPO 2025」に出展した際にも、同業他社から「国土交通省が示すガイドラインにも則った先進的な取り組みだ」と大きな注目を集めました。

また、ABDI が見据えるのは自社のサービス強化にとどまりません。山原氏はその先のビジョンを語ります。

「社名にある『デジタルイニシアチブ』の通り、我々はこのソリューションを外販することも含め、モビリティ業界全体の DX を牽引したいと考えています。この取り組みを通して業界全体に『安心・安全』を提供し、社会に貢献していくことが我々の目標です。」

この大きなビジョンを実現する上で、Google Cloud への期待はさらに高まっています。
「安心ピットカメラ以外にも電子棚札「tagEL」のサービスでも Google Kubernetes Engine を採用しています。ABDI は幅広い小売業の課題をデジタルで解決するソリューション開発に力を入れており、今後も Gemini や Google Workspace といった、先進的なサービス群と、消費者に近いサービスの強さ、これらの技術と我々のビジネスを組み合わせることで、お客様に新たな価値を提供できると確信しています。」

その期待を象徴するのが、生成 AI の活用です。ABDI ではすでに、企画書の草案作成や議事録の要約に NotebookLM を利用するなど、具体的な業務効率化を始めています。将来的には、膨大な店舗マニュアルを AI で瞬時に検索可能にするなど、活用の幅をさらに広げていく計画です。

業界の課題に真摯に向き合い、テクノロジーでお客様の「安心」を実現するオートバックス。Google Cloud とパートナーとの強固な連携を基盤に、その挑戦はモビリティ業界の未来を照らす光となり、これからも進化を続けます。

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インタビュイー(写真右から)

株式会社オートバックスデジタルイニシアチブ
・執行役員 山原 猛 氏
・エンタープライズシステム推進部 永島 由美 氏
・DXインテグレーション推進部 山下 直人 氏

株式会社 G-gen
・クラウドソリューション部 課長 大津 和幸 氏
・クラウドソリューション部 山崎 曜 氏
・営業部 水澤 愛美 氏

株式会社オートバックスデジタルイニシアチブ
オートバックスデジタルイニシアチブは、オートバックスセブンの子会社で、グループの基幹システムを構築・運用しています。IT・DX ノウハウと先進技術で、グループおよび自動車産業の DX を率先しお客様に最適なソリューション提供を目指しています。

株式会社 G-gen
G-gen は「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」をミッションに、企業のクラウド導入を支援するクラウド専業インテグレーターです。マルチクラウド、データ分析基盤、システム・アプリ開発に強みを持ち、特に Google Cloud の利用支援やエンジニア サポート、デジタル プロダクト開発を提供しています。

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