コンテンツに移動
顧客事例

膨大な表計算作業から脱却。AI と数理最適化で実現する、需要予測の先の「発注・在庫管理の自動化」

2026年4月14日
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/image2_UcB191V.max-2000x2000.png
Google Cloud Japan Team

商品、サービス、店舗を通じて、より効率的で最適なサプライチェーンの実現を目指す中で、需要予測の精度向上は株式会社カインズにとっても最優先課題です。しかし、精度の高い需要予測モデルを構築し予測結果を出力することはサプライチェーン全体においては入り口に過ぎません。

実際には、予測値が出た後に、SKU ごとの特性や季節性に応じた「予測結果の精査」や「発注・在庫管理のためのメンテナンス」という不可欠な実務工程が存在し、その膨大な作業を表計算ソフトによる手作業で支えているという実態がありました。

本記事では、Vertex AI による需要予測の次のステップとして、AI エージェントを組み合わせることで、190 万行に及ぶ SQL 処理と複雑な表計算ソフト作業をどのように刷新したのか、株式会社カインズの取り組みの舞台裏を詳しく紹介します。

利用しているサービス:
Big Query、Vertex AI、Cloud Run Jobs、Workflows、Vertex AI Agent Builder (SDK)

「表計算ソフト作業」への依存がもたらす限界

これまで、需要予測の結果を実務に反映させるプロセスは、まさに「表計算ソフト作業との格闘」でした。システムから出力されるデータは、190 万行に及ぶ膨大な SQL クエリ結果を発注点メンテナンス向けの表計算ソフトの作業用シートに書き出したもので、その出力だけで丸 2 日を要していました。

出力されたデータは 1 ファイルに収まりきらず、20 万行ごとに 6〜7 個のファイルに分割して管理されていました。現場の担当者は、これらのファイルに対して棚割りデータや在庫データ、直近の売上実績などから様々なフラグを作成したり、他システムで管理しているマスタデータを VLOOKUP 等の関数で紐付けたりしていました。さらに「この在庫は動かさない」といった個別のフラグを手作業で立てるなど、複雑で膨大な表計算ソフト作業を行っていました。

「こうした表計算ソフト作業でメンテナンスを行うこと自体が、もはや正解ではないと感じていました」と、矢口氏は当時の課題を振り返ります。表計算ソフトの作業用シートのメンテナンスは、専任の担当エンジニアがつきっきりで数式の変更や列の追加要望に対応していましたが、列ずれの確認やテストに多大な工数がかかり、現場のニーズに即座に応えることが難しい状況にありました。

AI エージェントの導入:自然な対話で「発注点メンテナンス」を民主化

この課題を根本から解決するために導入されたのが、AI エージェントを活用したデータ処理基盤です。Vertex AI Agent Builder を活用し、ユーザーが自由な条件でデータの絞り込みを行える仕組みを構築しました。

従来の運用では、メンテナンスの要望があるたびに表計算ソフト作業のロジックを書き換える必要がありましたが、AI エージェントを介することで、ユーザー自身が「この条件でデータを抽出してほしい」といった指示を出し、BigQuery 上のデータを直接操作・抽出することが可能になりました。

また、需要予測の「後工程」として非常に負荷が高かったのが、酒類などの発注において「車建発注(在庫回転日数をコントロールしつつトラック積載量を最大化する)」の最適化計算です。これまでは、カインズ側でベースの発注量を 1 日かけて表計算ソフトで算出して翌日に取引先に送付し、取引先側で車建計算を行っていました。しかし、数理最適化を使ったアルゴリズムを開発し、計算を組み込むことでこのプロセスを自動化。現在ではカインズ自身で車建発注量の計算を行えるようになりました。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/image3_ZChPmq1.max-1000x1000.jpg

導入効果:劇的な業務削減と「あるべき姿」への集中

今回の取り組みにより、主に以下の 3 つの成果が得られました。

  • 劇的な工数削減: 2〜3 日かかっていた発注点メンテナンスのためのデータ抽出および表計算ソフト作業が大幅に効率化されました。
  • 柔軟性の向上:Vertex AI Agent Builder を使った AI エージェントの導入により、自分たちで「やりたいこと」を AI エージェントを通じて即座に実行できる内製化のスピード感が実現しました。
  • データの正確性と一貫性:複数のファイルに分散しローカル保存されていた表計算ソフト作業のデータが BigQuery という単一のソースに統合され、属人的な数式ミスや列ずれの不安が解消されました。

「需要予測を起点に発注管理から在庫管理まで、すべて統合された基盤で実行することが可能になった」と矢口氏は語るように、点在していた業務プロセスが Google Cloud 上で統合されたことが、最大の価値となっています。

今後の展望:数理最適化のさらなる拡張と AI エージェントの融合

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/image1_6mqxAKt.max-900x900.png

現在はローカル環境で行っている数理最適化計算のリクエスト処理なども、順次 AI エージェント上に移行していく予定です。またシーズン商品の最適化や棚割の最適化など、より複雑な変数が絡む領域への数理最適化の適用も視野に入れています。

AI が単に予測値を出すだけでなく、実務における判断をサポートし、複雑な計算を肩代わりする。株式会社カインズにとって、この「需要予測のその先」の実現こそが、小売・流通業界における真の DX の鍵となるはずです。

株式会社カインズ
株式会社カインズは、29 都道府県下に 264 店舗を展開するホームセンター チェーンです。「くらし DIY 」をブランド コンセプトに、くらしを豊かにする価値ある商品・サービスを開発し、お値打ち価格で毎日提供します。Kindness(親切心)と創意工夫のアイデアあふれる店舗づくりに努めることで、お客様一人ひとりの、ご家族の、そして地域の日常を楽しいものとし、お客様とのプロミスである「くらしに、ららら。」をお届けします。

インタビュイー
株式会社カインズ 
ビジネスソリューション部 需要予測グループ グループマネジャー 矢口 未知彦氏

投稿先