スケールアウト高可用性のために SUSE を利用した Google Cloud 上での将来を見据えた SAP HANA デプロイ

Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 8 月 11 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
Google Cloud はこのたび、SAP HANA スケールアウト高可用性デプロイメント分野における最新のサービスである、Terraform Google Cloud Platform プロバイダを活用した新しい自動デプロイガイドをここに発表いたします。
スケールアウトとは、統合された SAP システムを作り出すために、複数の独立した Compute Engine インスタンスを組み合わせるプロセスを指します。このアプローチは、ERP(企業資源計画)や Business Warehouse(BW)システムを 1 つの大きな仮想マシンに適合させる場面で、ハードウェアの制約を克服することを主な目的としています。
今年の初めころに Google は、包括的で詳細な手動デプロイガイドをリリースしました。このガイドでは SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications や SUSE Linux Enterprise 高可用性拡張機能の活用によって高可用性を実現する SAP HANA スケールアウトの設定方法を詳しく説明しています。なお、このガイドは、Google と SUSE の共通のお客様にとって貴重なリソースになっています。
Google は本日、効率性と生産性を向上するために、デプロイ プロセスをより簡略化し、SAP HANA スケールアウト高可用性の実装を合理化する拡張オプションをご紹介します。
途切れないオペレーションを可能にする堅牢な SAP HANA スケールアウト高可用性クラスタ
たとえば PayPal のようなお客様は、96TB 規模という世界最大級の SAP HANA スケールアウト高可用性クラスタを Google Cloud の堅牢なインフラストラクチャ上にホストして、実装しています。
最適な稼働時間を実現し、運用の継続性を確保するためのベスト プラクティスは、複製した 2 つの SAP HANA システムを 1 つのリージョン内の別のゾーンにデプロイすることです。同一リージョン内の異なるゾーンに SAP HANA システムを分散することで、1 つのゾーンで局所的なサービス停止が起こっても、システム全体の可用性には影響が出なくなります。このアプローチは高可用性を担保し、考えられるリスクを低減するだけでなく、SAP 機能の拡充も実現します。
Google Cloud で SAP HANA スケールアウト高可用性ソリューションを選ぶメリット
Google ではすでに、スケールアップ シナリオ向けに SAP ワークロードに特化した大規模な Bare Metal Solutions を提供していますが、Compute Engine インスタンスでワークロードをホストする場合、以下のような数多くのメリットがあります。
水平方向のスケーラビリティにより、ニーズの増大に合わせたインフラストラクチャの拡大を簡単に実現。
ライブ マイグレーションにより透明性の高いホスト メンテナンスを実現することで、途切れないオペレーションと最小限の停止を達成。
デプロイのためのリージョンとゾーンが幅広く用意されており、インフラストラクチャを構成する際に得られる柔軟性とオプションが抜群。
現在、Google Cloud は、最大 12 TB のメモリ容量までのスケールアウト構成に対応しており、PayPal でも一部のデプロイで使用しています。サービス拡充の一環として Google は、スケールアウトの対応範囲をより大型の機器に拡大することを計画しています。それによりお客様の進化し続けるビジネスニーズに対応できるような、さらなるスケーラビリティとパフォーマンスのための選択肢の提供が可能になります。
ソリューション アーキテクチャの概要
Google Cloud 上で実行する SAP 高可用性ソリューションに関しては、SUSE ベースのサービスが多くのパートナー様やお客様に選ばれており、企業の間で広く普及しています。このソリューションには、以下の 3 つの優れた点があります。


- SAP HANA スケールアウト ソリューションの高可用性レイヤは、オープンソースのソフトウェア フレームワークである Pacemaker を活用した、SUSE 高可用性拡張機能によって管理されています。Pacemaker では HANA スケールアウトのフェイルオーバーを自動化しているため、計画的ダウンタイムと計画外ダウンタイムの課題に対処することが可能になります。
- 最適なパフォーマンスと適合性を確保するために、このソリューションは SAP 推奨アプリケーションである、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications 上に構築されています。これはつまり、このソリューションが SAP 環境内でのシームレスなインテグレーションと最適なパフォーマンスのための SAP 標準を満たしていることを意味します。プリロードされた saptune ツールは、SAP ワークロードに対するシステム パフォーマンスを最適化するための構成ツールとして役立ちます。このツールは、多様な SAP ノートに記載されている推奨構成を導入することで、システム管理者のタスクを簡略化します。
- このソリューションは、Google Cloud インフラストラクチャのエコシステムの堅牢さや機能を有効活用しています。
SUSE と Google Cloud の戦略的パートナーシップ
SUSE は常に Google Cloud とのコラボレーションの最前線から、Google Cloud 上の高可用性ソリューション(SAP HANA スケールアップ、SAP HANA スケールアウト、NetWeaver、S/4HANA)のための革新的なソリューションを提供しています [1]。
この分野の業界リーダーとして、SUSE は今後も SUSE のソフトウェア パフォーマンスを最適化しながらイノベーションを推進していきます。SUSE では、SAP 環境の信頼性と完全性を支える 3 つの HA / DR プロバイダ フック スクリプトを実装しています。これらのフック スクリプトは、ダウンタイムの最小化、データ喪失リスクの低減、SAP HANA モニタリング間隔の最適化という重要な役割を担っています。詳細については、以下の付録をご覧ください。
特に、SUSE では SAP NetWeaver と S/4HANA 用の高可用性環境のために、新しいフェンシング エージェントとフローティング IP リソース エージェントを導入しています。これらは間もなく SAP HANA のデプロイでも利用可能になります。そして、これらのコンポーネントは SAP 環境の復元性と安定性を著しく高め、途切れないオペレーションを確実にして、発生しうる停止を最小限に抑えます。お客様にシームレスにご利用いただくことを確実にするために、これらすべてのコンポーネントや追加機能は、SUSE のエンタープライズグレードのソフトウェア リポジトリからアクセス可能になっています。
Google Cloud Marketplace 上の SAP アプリケーション用の SLES イメージ
上述の SUSE が提供するすべてのソフトウェアや機能は、便利なことに Google Cloud Marketplace から利用可能な、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications の従量課金制(PAYG)イメージにプリロードされています。このイメージを選択し、3 年契約を結ぶと、オペレーティング システムに関する運用費用を著しく削減でき、最大で 63% 節約できる可能性があります [2]。
追加の利点として、PAYG モデルで SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications のインスタンスを 10 以上使用しているお客様は、追加料金なしで SUSE サブスクリプションを活用でき、以下の機能に無制限でアクセスできるようになります。
1. SUSE Manager: お客様の Linux 環境全体を管理、簡略化し、安全に保つ、インフラストラクチャ管理ソリューションです。
2. SUSE Linux Enterprise Live Patching: システムを再起動せずに、SAP 環境をホストする Linux カーネルにパッチや重要な更新を適用します。
付録
以下の表は、各 HA/DR スクリプトの機能を簡潔に要約したものです。


脚注
[1] Supported High Availability Solutions by SLES for SAP Applications
[2] リソースベースの確約利用割引
[3] Emergency Braking for SAP HANA Dying Indexserver
[4] SAP HANA Cockpit with SUSE HA integration greatly improves data integrity
- SUSE グローバル ソリューション アーキテクト Abdelrahman Mohamed 氏