Google Cloud と SAP - データからより速くより大きな価値を獲得

Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 5 月 16 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
先週、Google は SAP とのパートナーシップの大幅な拡大を発表しました。この拡大により、両社はデータと分析をビジネス変革の中心に置くオープンデータ ソリューションを共同提供します。なお、このソリューションは、BigQuery 上の SAP Datasphere と Google Cloud Cortex Framework を基盤としています。
この画期的なソリューションの共同エンジニアリングを通じて両社のパートナーシップを強化いたしました。これにより、データと分析の効果的な活用においてお客様が自ら抱えている課題の多くを解決できるよう支援いたします。
SAP Datasphere を備えた Google Cloud 上に SAP システム上のデータと SAP 外の企業データを統合できるようになり、事実上どのようなデータソースからでもあらゆるデータを単一のエンドツーエンドのデータクラウドに集約でき、リアルタイムで参照可能になったというのが大きな変化点です。Google BigQuery および Google Vertex AI と ML でそのデータの価値を拡充することが可能です。これらすべてのアーキテクチャは安全でスケーラブルであるため、アプリケーションとワークフローのコンテキストの維持が容易です。
以前は、サイロ化されたデータの統合には、リソースが必要であり、プラットフォーム間でのデータの正規化に関して費用とリスクが発生しうるため問題がありましたが、このたび、人、プロセス、テクノロジーのすべてにおいてリスクを低減し、データ プラットフォームへの投資の TCO を最小化しつつ、サイロ化されたデータを統合できるようになりました。
RISE with SAP 用に Google Cloud を選択されるお客様にとって、これがどのような意味を持つかを考えてみましょう。クラウド インフラストラクチャ、セキュリティ、インテリジェンス、イノベーションのグローバル リーダーである Google Cloud がサポートする、SAP によるフルマネージドの完全なデータ プラットフォームにアクセスできるため、SAP S/4HANA の導入によってお客様は ROI の向上を加速することができるでしょう。
Wipro は情報技術サービス、コンサルティング サービス、ビジネス プロセス サービスを提供する世界有数の企業ですが、基盤テクノロジーの変革のために Google Cloud 上の RISE with SAP を選択しました。Wipro は、顧客ライフサイクル、プロジェクト ライフサイクル、人材サプライ チェーン、従業員ライフサイクル、財務管理など、事業のコア領域を SAP で運用しており、会社の急速な成長を支えるために、クラウドにおけるスケーラブルで柔軟かつセキュアな運用を必要としていました。Google Cloud 上の RISE with SAP を選択した後は、Wipro の SAP システムの多くが Google Cloud 上で動作するようになったため、全社にわたるデータの可視性がかつてないほど高くなり、データから最大限の価値を得るための基盤ができました。
Google のお客様である Telus は、世界有数のテクノロジー企業ですが、重要な SAP ワークロードの実行用に Google Cloud 上の RISE with SAP を採用しました。ビジネス ユーザーはクエリに時間がかかることに悩まされていましたが、以前のように何時間もかけることなく、現在は数分でインサイトを獲得できるようになっています(20 倍の高速化)。SAP システムを Google Cloud 上にデプロイして以降は、自動システムの利用により顧客問題解決の成功率を 50% 上昇させることができました。
Telus は、Google Cloud 上で RISE with SAP を実行することにより、分析能力を強化できるというメリットも確認しています。また、Telus は顧客の全体像をリアルタイムで把握するために多数のソースからのデータを統合しており、これによって、ネットワーク インフラストラクチャへの投資についてデータドリブンな意思決定ができるようになりました。そして SAP のトランザクション データを BigQuery と Cortex Framework に投入することにより、Telus では、サプライ チェーン データフローの最適化、カスタマー サービスの費用削減、カスタマー エクスペリエンスの改善を実現するような取り込みパターンの調整が可能となりました。
データがもたらす価値の拡大と新しい可能性
データはビジネスにおける通貨だと言えるでしょう。データを利用すると、組織のあらゆる側面に関係し改善をもたらすパワフルなインサイトを生成できます。Google Cloud と SAP が先週発表した新機能により、誰でも安全かつ効率的にデータ戦略を構築、利用することが可能となり、プラットフォーム間においてデータ コンテキストの整合性を保ちながら、RISE with SAP、SAP、SAP 外にあるそれぞれのデータを分析と意思決定のための高度なソリューションに統合することができます。
効率、収益の成長、顧客満足度などの重要 KPI をいかに改善できるかを考えてみましょう。実現可能な例として、ある電力会社で、顧客管理と請求業務に SAP を使用していて、サービス停止の管理には SAP 以外のソリューションを使用しているとしましょう。重大な気象事象が発生すると、電力会社では顧客への影響について全体像を把握しようと努めます。そのためには、SAP の CRM 顧客マスターデータと請求マスターデータ、サービス停止管理システムのデータ、そして、Google BigQuery データセットからの気象情報などのコンテキスト データを接続する必要があります。
安全で高度なクラウド インフラストラクチャと分析機能の提供における Google のリーダーシップは、SAP の利用者が Google Cloud を選択する一般的な理由の一つです。Vodafone は、Google Cloud を選択することによって革新に向けた取り組みを加速しました。データ・分析担当のグローバル ディレクター / Vodafone Italy の CIO である Ignacio Garcia 氏は、社内のデータ エコシステムを Google Cloud に移行することにより、さまざまな業務や分析において多大な価値を引き出し、プロセスのボトルネックを把握して、運用を合理化することが可能になったと述べています。たとえば、Vodafone において、従来のサイクルでは 6 か月かかっていた新規事業向けのハードウェアのプロビジョニングが、現在は数分でできるようになっています。これは単純に作業が高速化したためです。
Garcia 氏はこう述べています。「単一のエコシステム中で人や物事をつなぎ合わせることが重要です。Google Cloud を使用して得られたこれまでの成果については大変満足しており、将来に向けて議論しているさまざまな可能性をとても楽しみにしています。」
SAP Datasphere と Google Cloud Cortex Framework による新たなインサイトの実現
Google が目標としているのは、お客様のデータをより入手しやすく利用しやすくすることです。これを実現するために、SAP Datasphere では SAP 由来のデータの BigQuery や Google Cloud Cortex Framework へのレプリケーションやフェデレーションが可能となっています。これにより、お客様は SAP データに共通のセマンティック レイヤを定義し、管理することができ、それにより拡充、重複排除、正規化、スタックをまたがったアクセスが可能になります。整合性のあるビジネス コンテキストをデータに与えておくと、このような相互接続性があれば、ビジネス ユーザー、データ サイエンティスト、エンジニアはデータの管理に時間を取られることなく、データによる改革に集中できます。
Google アナリティクス、Google 広告、業界データセット、気象や交通のパターンなどのソースから BigQuery にデータを取り込むこともでき、Google Cloud Cortex Framework を使用して、一般的なビジネス シナリオのパッケージ コンテンツやリファレンス アーキテクチャを通じて、このデータからインサイトを獲得できます。
SAP データを活用し、社内全体でその価値を広げられるようなオプションが求められています。BigQuery 上の SAP Datasphere と Google Cloud Cortex Framework によって、これが可能となりました。
AI による拡充がもたらす新しい価値と可能性
前述のオンデマンドの機能に加えて、お客様にお届けするソリューションは新しいテクノロジーを組み込める拡張性を備えています。これは Google Cloud を基盤としているからです。セキュアなモデル内に正確で実用的なデータを持つことができるようになると、準備済みのコンテンツを ML と AI で活用して、有用なデータ インサイトを表示し、確信を持ってすばやく判断を下すことができます。ジェネレーティブ AI が一般的になり、ビジネスを単純化するためのセキュアで、費用対効果が高く、保護されたモデルが求められる中で、これは大きな優位性となります。
たとえば、ジェネレーティブ AI によって、企業のサプライ チェーンの管理方法を変革する新たな可能性が開かれています。
文書から重要な情報を抽出したり重要な点を要約するジェネレーティブ AI の能力により、バイヤーやサプライ チェーン マネージャーはプロダクトやサプライヤーについて手軽に自然言語で質問を投げかけて、重要な回答を得ることができます。
Google の Gen App Builder のインフォボットを使用すれば、バイヤーは、発注頻度の高いプロダクトの再注文、マルチターンの会話による検索結果の絞り込み、取引条件改善のためのサプライヤーを変更する機会の提案、発注の最終処理までを実施できます。
サプライヤーのリスク評価におけるジェネレーティブ AI の利用も始まっています。既存の AI アプローチと合わせて、モデルを使用して財務の健全性や最近のニュース情報、過去のパフォーマンス、納品スケジュールなどのさまざまな要因を分析することにより、各ベンダーのリスクスコアを生成できます。これにより、調達戦略に関して十分な情報に基づいた意思決定が可能となるので、サプライ チェーンの混乱を避け、調達費用を低減できます。
ジェネレーティブ AI によって、サプライ チェーンのプロセス全体における文書の作成と利用にも変革がもたらされています。たとえば、Google の Gen App Builder によって、契約の重要条項の抽出、関連するプロダクト データの検索、プロダクトに関する質問への回答などが容易になります。大規模言語モデル(LLM)で抽出型プロンプトを使用すると、プロダクト ドキュメントの構造化されていない記述から構造化されたプロダクト情報を抽出することができ、新規のプロダクトをサプライ チェーン管理システムに導入する際の煩雑な手作業を回避できます。
エンベディングを使用すると、ジェネレーティブ AI によって出荷配送事業者と顧客からの事例レポートから予期せぬ相関を発見することができ、従来は確認できなかったプロダクトの円滑な配送を妨げる関連イベントのクラスタを把握することが可能です。
サプライ チェーンに限らず、同様の機能は人事、商取引、調達、財務、製造などの他のビジネス部門にも適用可能です。インフォボットは簡単に構築することができ、従業員による会社のポリシーの理解や適用を助けたり、顧客の問い合わせにその場で正確な回答を出したりすることができます。LLM では、会社と顧客とのやり取りを分析した結果に基づいてマーケティングの言語を変更することにより、高度にカスタマイズされた商品のおすすめを提示できます。
ジェネレーティブ AI は、効率向上、費用削減、人のやり取りを減らすことによるワークフローの最適化を通じて、業界を変革する可能性を備えています。AI 技術の進展が続くなか、さまざまな産業分野でジェネレーティブ AI の革新的な応用が増加していくと予想されます。
SAP 向け最適化への Google Cloud の継続的投資
データを活用して変革を生むような結果を迅速に得られるという RISE with SAP を使用する際のメリットには高い価値がありますが、Google Cloud 上での SAP エクスペリエンスの最適化に関しても投資を継続しています。Google Cloud のリージョン数は現在 37 で、新しいリージョンはすべて立ち上げ時から SAP ワークロードに対応しています。また、M3 VM 上の要求が最も厳しい最大級の S/4HANA ワークロードに対応する新しい認定も用意しています。2022 年第 4 四半期時点で、SAP RISE のお客様は、市場最高のスループットを誇る新しい Hyperdisk Extreme ソリューションによって、大きなメリットを得ています。
Google Cloud は最近、ABAP SDK を発表しました。これは SAP と Google Cloud のサービス間で双方向のリアルタイムなインテグレーションを実現するものです。この SDK を活用すると、開発者は容易に SAP アプリケーションを Vertex AI、Document AI、Translation AI、Pub/Sub などの Google Cloud サービスと統合できます。ABAP SDK によって、デジタル トランスフォーメーションを加速し、ビジネスの目標をより速く達成することができます。
SAP 向けの自動化機能をさらに進めるべく、Google は、SAP ソリューション向けの Workload Manager の一般提供を最近発表しました。これはワークロード構成の継続的な分析により、問題を特定したり構成ミスを検出したりして、システムの安定性を向上させるものです。
今回の発表内容、そして Google が SAP と継続的に取り組んでいる技術革新は、誰にとっても魅力的な将来を導くきっかけになります。かつてないほどに、企業は、変動の大きな時代を乗り切るために、信頼性の高い正確なデータを必要としています。SAP Datasphere と Google BigQuery を使用して完全に定義されたデータ基盤によって、企業は自社の事業を今後も継続させるための次のステップの準備ができます。つまり、AI と ML ソリューションをトレーニングする能力があり、新しいジェネレーティブ AI ソリューションに即座に適応できるため、事業運営と意思決定に応用できます。両社のパートナーシップをさらに深め、この変革につながるテクノロジー分野で今後も共同でイノベーションを強化していきます。
詳細については、Google Cloud 上の SAP をご覧ください。