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Google Maps Platform

Google Earth Engine で世界の土壌の二酸化炭素レベルを示す地図を作成して気候変動を抑制

2025年4月3日
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David Schurman

Co-founder & Chief Product Officer, Perennial

※この投稿は米国時間 2025 年 3 月 13 日に、Google Maps Platform blog に投稿されたものの抄訳です。

編集者注: 今回の記事の執筆者 David Schurman 氏は、Perennial の共同創業者 / 最高製品責任者です。Perennial は、Google Earth Engine に移行することで土壌の二酸化炭素レベル地図の範囲を拡大して精度を高め、収益を倍増させる一方で、環境再生型農業を通じて顧客が気候変動を抑制できるよう支援しています。この記事では、同社の手法をご紹介します。


100 万分の 400、つまり 400 ppm。

気候科学者たちは何年も前から、大気中の二酸化炭素量がこの基準値を超えると、地球温暖化が急速に進み始めると警告していました。自分が実際にその場面に居合わせたときのことをよく覚えています。

アメリカ海洋大気庁のインターンとして、コロラド州の大気圏研究所で空気サンプルを分析していたとき、ハワイの姉妹機関であるマウナロア天文台から、400 ppm の二酸化炭素レベルが初めて測定されたというニュースが飛び込んできました。そのとき、地球をより良くする方法を見つけたいと実感しました。

しかし、調査を進めれば進めるほど、絶望的な気持ちになりました。人間は毎年 50 ギガトンもの二酸化炭素を排出しているのです。私は、迅速に適用できるスケーラブルな気候修復ソリューションを求めていました。しかし、光を反射するエアロゾルから二酸化炭素吸収装置まで、私が研究していた気候工学技術(「プラネット ハック」と呼んでいました)は、危険な副作用(何十億人もの人々が水源としているモンスーンが干上がってしまうなど)を伴うか、効果が現れるまでに時間がかかりすぎました。

気候変動の解決策は足下に

この頃、私は NASA のジェット推進研究所に所属し、火星の岩石と土壌を分析して、はるか昔に生命が存在していた兆候を探していました。1 億 4,000 万マイル離れた惑星の岩や泥を眺めていた私は、そこに地球上の生命を維持するためのヒントを見出しました。それは、土壌です。文字どおり、解決策は足下にあったのです。

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土壌のデジタル地図を構成する要素。

農業の産業化によって、土壌から数百億メートルトンの二酸化炭素が放出されました。その後には、まるで建設現場のような、農業に不向きな「泥」が残されました。しかし、土壌は計測可能で、簡単に入手でき、その作用が予測可能であるため、農業の産業化や多くの二酸化炭素排出を伴うその他の産業化が 100 年にわたって地球に与え続けてきたダメージを修復できる可能性を秘めています。

環境再生型農業、つまり「サステナブル」な農業は、「泥」を「土壌」に戻す力を持っています。長年の同僚であり友人である Jack Roswell と Perennial を共同設立した目的は、まさにそこにあります。

場所の特定、測定、モニタリング、レポート、検証

環境再生型農業を根付かせるには、耕作に適した土地の有力候補を見つけ出し、その二酸化炭素レベルと温室効果ガスレベルを測定して、長期にわたって土壌をモニタリングし、気候への潜在的なメリットを報告、検証する機能が必要です。

Perennial は Google Earth Engine を使用して、土壌の状態、二酸化炭素含有量の変化、その他の重要な土壌エコシステムの指標を表す地図を作成しています。Earth Engine の優れたスケーラビリティ、柔軟性、信頼性、費用対効果のおかげで、世界中のどこでもこのサービスを提供できます。

Perennial はこれまで、35 万以上の土壌サンプルを土壌のデジタル地図モデルに統合してきました。しかし、このプロセスの目的は、測定した値を使って地図を作成することだけではありません。独自のアルゴリズムを使用して、30 年分に相当する膨大な他のソースから得た数百のデータポイントを組み合わせ、衛星データから生物物理学的指標を開発して、土壌の状態の予測と記述を行っています。この厳密なアプローチにより、土壌に含まれる二酸化炭素量とエコシステムの状態について、監査に対応した測定を行うことができます。その際に必要となる土壌サンプルと農場に関する情報は、ごくわずかです。

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現場で土壌サンプルを採取し、正確な測定値を得る。

食品、繊維、農業業界のさまざまな企業が Perennial のデータセットを活用し、環境再生型農業を導入した農家にインセンティブを与えることで、気候変動を緩和できるようになりました。また、当社は、環境再生型農業による気候への影響を測定、モニタリング、報告、検証することで、こうした企業がその効果を証明したうえでインセンティブを提供できるようにしています。

究極的には、当社のアルゴリズム(AI および ML ベースのモデリングの産物)で地球上のあらゆる場所の土壌の基礎モデルを構築することで、地球自体に大気中の二酸化炭素を吸収する巨大な球状の流し台の役割を持たせることができるでしょう。

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炭素使用効率を示す地図。

しかし、そのような AI モデリングには膨大なコンピューティング リソースが必要です。そのため、Perennial のすべてのリモート センシング データ、オーケストレーション パイプライン、AI モデリングから取得したデータを Google Cloud Platform に移行し、AI モデルのトレーニングに使用する、実験室で分析された土壌サンプルに関するすべてのデータポイントを BigQuery に移行することにしました。

Google Cloud で気候レジリエンスを強化

Google Cloud を選択することに迷いはありませんでした。3 つの主要なクラウド プラットフォームすべてを利用したことがありますが、Google Cloud だけが、個々のコンポーネントが組織的に統合されていると感じられるソリューションであることがわかっていたからです。緊密に統合されているため使いやすいだけでなく、信頼性も高いため、エンジニアはトラブルシューティングではなく製品開発に集中できます。その優れたスケーラビリティにより、地球上のあらゆる場所のデータを地図化できます。さらに、Google Cloud は既存のワークフローにシームレスに統合できるため、簡単に導入して利用を開始できました。

Google は、クラウドベースの地理空間エコシステムの大部分を生み出した企業でもあります(Google マップを一度も使用したことがない方はいないでしょう)。また、Google Earth Engine のチームは、AI が気候レジリエンスの基盤となるテクノロジーになり得るという私たちと共通の信念を持っています。こうした要因から、Earth Engine コミュニティに加わろうと考えました。

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微生物がいる土壌の温度指数を示す地図。

私たちは Google パートナーの Woolpert Digital Innovations と連携し、概念実証を行いました。その後、数十万行のトレーニング データとすべてのオーケストレーション パイプラインを Google Cloud に、数万行のコードと数十万のデータポイントを BigQuery に、わずか 3 か月で移行しました。客観的に見ても、この移行は成功でした。

二酸化炭素の排出量を削減して収益を増やす

当社の AI モデルの反復速度は以前の 10 倍に、反復で処理されるデータの量は 10 倍に、当社のデータで対応できる地球上の面積は 5 倍に拡大した一方、エンジニアリング費用は減少しました。

しかし、重要なのは、こうした速度向上、量の増加、面積の拡大がもたらす結果、つまり数十万メートルトンの二酸化炭素が大気から除去されたことを証明できる能力です。当社のデータはより広い範囲に対応できるため、世界中のより多くのお客様にサービスを提供できます。その結果、2023 年から 2024 年にかけて収益が 2 倍になり、2025 年の収益は 2024 年の 5 倍に達する見込みです。

環境再生型農業は、世界の食糧システムのあり方だけでなく、農業のエコシステムの管理方法も変えています。サステナブルな農業は、二酸化炭素を大気中に放出するのではなく土壌に戻すことで、地球の急速な温暖化を防ぎます。これにより、地球は 100 年後、1,000 年後も、火星のようにならず、地球のままであり続けることができます。Perennial は、Google Earth Engine、Google AI、そして Google Cloud Platform 全体を活用することで、農家がサステナブルな農業を実践して報酬を得られるよう支援しています。

-Perennial、共同創業者 / 最高製品責任者 David Schurman 氏

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