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Google Cloud

Google Cloud と FDA MyStudies: 医学研究にリアルワールド データを利用

2020年1月23日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2020 年 1 月 8 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

Google Cloud は、人々の命を救うため、新しい薬剤、医療機器、治療法の研究を行っているお客様への支援の一環として、リアルワールド データ(臨床現場から得られる匿名化された患者単位のデータ。以下、「RWD」)に隠された知識を明らかにします。同様に、米国食品医薬品局(FDA)の目標達成にも賛同し、FDA のオープンソース プラットフォームである MyStudies を Google Cloud Platform で利用できるようにしました。Google Cloud は、FDA が開発したプラットフォームを基盤とすることにより活発なオープン エコシステムを生み、参加する研究機関の研究実施能力が向上し、患者アウトカム(治療成績)の向上につながることを願っています。こうした連携は、Google Cloud の長年の取り組みであるオープンソース化と、医療界やライフ サイエンス界に役立つ使いやすいツールの開発への取り組みを引き継ぐものです。

リアルワールド エビデンス(RWD から導き出されたエビデンス。以下、「RWE」)を重視する FDA の方針により、新しい医薬品や治療法の適用申請時に提出する書類に患者から生成されたデータを盛り込むことを検討する製薬会社や医療機器メーカーが徐々に増えています。しかし、この種のデータを規制を遵守した形で収集、保存、提出できるモバイル テクノロジーや手段は、つい最近までは存在しませんでした。この欠落部分を補うため、FDA はオープンソースのテクノロジー プラットフォーム MyStudies を開発し、医薬品、生物学的製剤、医療機器のメーカーが申請書類に盛り込む RWD をこのプラットフォームを使って収集、報告できるようにしました。

Google Cloud は現在、FDA の MyStudies プラットフォームの機能拡張に取り組んでいます。今後セキュリティ機能と構成可能なプライバシー管理機能を新たに組み込めば、個人を特定可能な情報を研究機関側で自動的に検出して保護できるようになります。FDA MyStudies を Google Cloud にデプロイすると、論理的に独立した固有のプラットフォーム インスタンスが作成され、デプロイした研究機関とその委託先のみにアクセス権が付与されます。これらのテクノロジーを使用する研究機関では、所属する研究者や臨床医の誰がどのデータにアクセスできるかを選択できるようになり、そのデータが被験者の指示どおりに使用されるよう用途を最適化できるようになります。Google Cloud を FDA MyStudies デプロイの基盤インフラストラクチャとして活用することで、研究に使用するデータの所有、管理における安全保護対策が強化されます。

さらに Google Cloud はスタンフォード大学への支援の一環として、FDA MyStudies プラットフォーム上で同大学の MyHeart Counts(心臓疾患関連の調査研究用アプリ)を実行することで、この画期的な仮想臨床研究に Android と iOS のユーザーが被験者として登録できるようになりました。iOS 初の医療研究用アプリの一つとしてリリースされて以来、MyHeart Counts には 6 万人を超える被験者が登録し、スマートフォンを使用した大規模な臨床試験の実施に関する理解が一段と前進しました。 

患者報告データを MyStudies で活用する

FDA は、研究支援団体から提出された臨床試験結果や研究結果に基づいて、医薬品、生物学的製剤、医療機器の米国での販売を承認、認可、許可するかどうかを判断します。これまで、こうした情報はほぼすべて、厳しく管理された条件の下で実施される従来型の臨床試験を通じて取得されてきました。しかし、デジタル化された患者の医療データが増加したことで、質の高い RWE による健康増進や臨床試験の効率化が図りやすくなる可能性があります。

FDA はこの好機を認識していました。たとえば FDA の Patient Engagement Advisory Committee(患者の関与に関する諮問委員会)は現在、医療機器の規制に伴う複雑な問題を FDA が審査する過程で、患者の経験が必ず考慮されるように配慮しています。また 2017 年には、FDA の医療機器・放射線保健センターが手引き書を公表し、医療機器向け RWE の生成について言及しています。FDA は他にも Patient-Focused Drug Development(患者中心の医薬品開発)に関する手引き書を公表し、規制上の判断を下す裏付けとなる患者の経験データの収集、提出方法について説明しています。2018 年には Real-World Evidence Framework もリリースし、21 世紀の治療法の義務規定に従い FDA が行っている、医薬品や生物学的製剤向け RWE の評価について詳しく説明しています。

当初、誰でも利用可能なリソースとして 2018 年 11 月に公開された FDA の MyStudies プラットフォームには、患者のアクセシビリティとプライバシーをサポートする重要な機能が組み込まれています。患者向けモバイル アプリケーションの Android 版はオープンソースの ResearchStack フレームワークを、iOS 版は Apple の ResearchKit フレームワークを使用して構築されました。これらのフレームワークを使用することで、デベロッパーはオープンソースのモバイル アプリケーションの機能拡張や、自社ブランドのアプリケーション開発が行えます。MyStudies モバイル アプリケーションは、さまざまな治療領域や健康上の問題に応じてウェブベースのインターフェースから構成を変更できるため、カスタム ソフトウェアを開発する必要性が少なくなります。このプラットフォームは、21 CFR Part 11(連邦規則第 21 条第 11 章(電子記録・電子署名に関する規則))に準拠して監査要件を満たすように設計されているため、Investigational New Drug(IND)の監督下での臨床試験を実施できます。

研究支援団体はすでに、FDA の既存の MyStudies プラットフォームを活用して自社ブランドのモバイル アプリケーションやカスタマイズ版を開発し、患者が報告した問題、処方箋および市販薬の使用に関する患者の報告、被験者日誌、その他の患者経験データを評価するアンケートを実施しています。Google Cloud 上で MyStudies をサポートすることで、新たに加わった研究支援団体はさらに手軽に MyStudies プラットフォームのメリットが得られるようになりました。

新しいプラットフォーム、新しい機会

現在 Google Cloud では、手間や間接費を削減する追加機能一式を FDA の MyStudies プラットフォームに搭載する作業を進めており、これが完了すると、製薬会社や医療機器メーカーは迅速にプラットフォームの利用を開始できるようになります。法令に準拠した環境をゼロから構成するのは避けたいと思っている治験デザイナーのために、「クリック デプロイ」オプションが今年の後半に Google Cloud Marketplace で公開される予定です。このオプションを使用して FDA MyStudies を Google Cloud 上でデプロイすると、MyStudies のプライベート インスタンスがオープンソース リポジトリから構築されます。その後このインスタンスはベスト プラクティスに従って、選択した Google Cloud サービスと連動するように構成されます。そのため、FDA MyStudies プラットフォームの事前構成済み専用インスタンスを数分で立ち上げられます。

FDA 医薬品評価研究センター医療政策部の Real-World Evidence Analytics 担当アソシエイト ディレクターである David Martin 医師は、次のように述べています。「FDA は「21 世紀の治療法」で規定された義務に従い、官民両者の実証プロジェクトを通じて RWE を取り巻く規制科学の振興を図っています。患者中心のアウトカム研究信託基金の出資によりリリースされた FDA MyStudies は、この目標に向けた第一歩です。FDA の MyStudies は誰でも利用できますが、オープンソース リソースを発展させ、リブランディングした新しいプラットフォームをデプロイするには専門知識と時間が必要です。Google Cloud は当然ながらこれらのリソースを使用しており、その他のヘルスデータやアナリティクスにリンクしたクリック デプロイのオプションも作成しています。」

FDA MyStudies を Google Cloud 上で稼働している製薬会社や医療機器メーカーは、オープンソースのソフトウェアを効率的にデプロイできるだけでなく、HIPAA コンプライアンスをサポートする Healthcare API などのマネージド サービスや Google Cloud のサーバーレス データ ウェアハウスである BigQuery といった Google Cloud の他のサービスを統合して利用することもできます。
Google Cloud Platform でのコンプライアンスの詳細と、Google Cloud の BAA でカバーされるプロダクトの最新リストについてはこちらをご覧ください。

Google Cloud を所定の方法で使用して関連するデータやワークロードを取り扱っている場合、Google Cloud は HIPAA への準拠のほかにも CFR 21 Part 11 の諸規定への準拠に対応しています。Google のクラウド テクノロジー スタックは CFR 21 Part 11 に準拠した多数のワークロードに対応していますが、最終的なコンプライアンス状況はお客様が選択した構成内容によって決まります。

FDA MyStudies と Google Cloud 上の MyHeart Counts

モバイルを活用した健康管理の歴史が幕を開けたのは、iOS の最初の医療研究アプリの一つとしてスタンフォード大学が 2015 年に MyHeart Counts をリリースしたときでした。自由参加型の研究であるため、MyHeart Counts アプリをダウンロードした人は誰でも、同意のうえで心臓疾患関連の研究の被験者になることができます。被験者登録を済ませたら、健康状態と身体活動に関する質問を含むアンケートに回答します。スマートフォンやその他のウェアラブル デバイスから MyHeart Counts に身体活動データが収集されることに同意することもできます。健常者の場合は 6 分間の歩行テストを受け、リスク要因や血液検査に関する情報を入力すると、この情報を元に心臓疾患のリスクスコアが判定されます。

MyHeart Counts の現行バージョンを利用できるのは iOS デバイスのみです。MyHeart Counts に携わるスタンフォード大学の研究者は、Google Cloud 上で FDA MyStudies を使用して、Android でも iOS でも動作する世界初の多群無作為化比較試験を実施する予定です。FDA MyStudies プラットフォームの機能がさらに向上することで、MyHeart Counts や類似した治験の研究者は、これまで数か月かかっていた研究の構成とデプロイをほんの数日でできるようになり、ソフトウェアを開発する必要は一切なくなります。

この研究はスタンフォード大学の医学、遺伝子学、生物医学データ サイエンス担当教授で医学博士の Euan Ashley 教授が監督を務めています。教授は次のように述べています。「誰もがスマートフォンを使用している今のデジタル時代は、アプリで試験を実施することで非常に大きな集団にアクセスできます。Google の支援のおかげで、被験者の対象範囲を iOS のユーザーだけでなく Android のユーザーにも拡大できたほか、モバイルアプリに自由参加型の無作為化比較試験を初めて組み込むことができたので、Google には感謝しています。」

「MyHeart Counts やこれに似たデジタルアプリを使用すると、センサーで取得した測定データがそのまま収集されるため、専門家はより迅速かつ広範囲に患者と直接つながることができます。Google Cloud がこうした取り組みに対応することで、重要な研究計画を研究者がより迅速かつ確実に準備して実施できるだけでなく、最終的に患者と医師が健康上の問題にいち早く気付き、すぐに対処できるようになります。」

次のステップ

Google Cloud は医療とオープンソースに真摯に取り組むと同時に、これからも MyStudies への投資を続け、プラットフォームの全般的な機能強化、サポート対象の評価数の拡大、下流のアナリティクス ツールや可視化ツールとの統合機能の組み込みを行う予定です。

詳細を知りたい方や、Google Cloud Marketplace で FDA MyStudies が入手できるようになったときに通知を受け取りたい方は、こちらからお問い合わせください

- By Google Cloud Healthcare および Life Sciences 担当プロダクト マネージャー Jameson Rogers 博士

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