千葉大学:LMS の Google Cloud 移行で「止まらない教育インフラ」を実現。運用負荷の大幅軽減とデータ駆動型教育への挑戦
Google Cloud Japan パブリックセクター本部
2020 年に発足した「スマートオフィス」を中核に、千葉大学は全学的な教育 DX を加速させています。オンプレミスから他社クラウド、そして Google Cloud へ。その歩みは、単なるサーバーの移設ではなく、大学が自ら IT インフラの最適解を見極めながら、Google Cloud とともに教育の質を向上させてきた挑戦の記録でした。
千葉大学では、学習管理システム(LMS)として Moodle を運用し、教育活動の基盤としています。この不可欠なインフラをいかにして「持続可能で高品質なもの」へと進化させたのか。実際にこの取り組みに携わった理事(総括・教育・国際)の小澤 弘明 氏、当時のスマートオフィス長・副学長(学修支援)の竹内 比呂也 氏、およびスマートオフィスの皆様にお話を伺いました。
【背景】コロナ禍で露呈したオンプレミスの限界と IaaS の課題
コロナ禍以前、千葉大学の LMS はオンプレミス環境で運用されていました。当時は物理的な機器トラブルやネットワーク障害、さらには停電への対応に追われる日々でした 。
「物理的なトラブルに加え、これらに対応できる専門知識を持つ職員が少なく、運用負荷やセキュリティ面での不安が大きな課題でした」と担当者は語ります 。
2020 年、コロナ禍によるアクセス急増を受け、まずは他社クラウドへの移行を断行しました。しかし、そこでの構成はすべて IaaS(仮想マシン)であったため、物理的なトラブルからは解放されたものの、OS の管理やパッチ当てといった運用負荷は依然として残ったままでした 。
Google Cloud を検討したきっかけは、教育現場での Google Workspace の浸透でした。学生のメールをGmail に移行したり、同時双方向のオンライン授業のためのツールとして Google Meet などの活用が進んだりする中、アカウント認証を統合できるメリットは運用上極めて大きいものでした 。
さらに、学術情報ネットワーク(SINET)とのプライベート接続におけるコストパフォーマンスが優れていたため、教育系システムを全面的に移行することになりました。
【プロセス】組織の壁と技術的ハードルを乗り越えた「三者連携」
移行プロジェクトは、事務補佐員を含め約 10 名の職員と 4 名の教員で構成される「スマートオフィス」が主導しました 。しかし、当時は学内にクラウドに深い知見を持つ人材が不足しており、大きな壁にぶつかります。
- 組織内の合意形成: ISMAP などの評価基準が定まる前だったこともあり、機微な学生情報をクラウドへ移行することに対し、学内のセキュリティ面でのすり合わせに苦心しました 。
- 技術的難所(SINET 接続): セキュリティを担保するため、商用ネットを介さず SINET から直結する構成を目指しましたが、ベンダーとの調整が難航しました 。
技術的なハードルの克服に向けては、コンサルタントとして参画していた早稲田大学アカデミックソリューション(WAS)が各者の橋渡し役を担いました 。千葉大学、Google Cloud、運用ベンダーの三者間に立ち、Google Cloud の知見も取り入れながら実務レベルの調整を積み重ねることで、難航していたシステム実装を実現しました。
【アーキテクチャ】安定性と先進性を両立する「クラウドネイティブへの道筋」
現在のシステム構成は、単なる「リフト&シフト(そのまま移行)」ではありません。将来的なサーバーレス化を見据えつつ、現時点での安定性を最大化する工夫が施されています。
- 安定稼働の追求: 多くの学生が一斉にアクセスするピーク時のパフォーマンスを確保するため、アプリケーションサーバーは Compute Engine(VM)による 3 台構成を採用しています 。
- PaaS への積極移行: データベースは Cloud SQL (MySQL)、キャッシュ層は Memorystore (Redis) へと PaaS 化。これにより、管理者を苦しめていた OS の管理工数から解放されました 。
- 先進的な試行: Cloud Run を活用したフロントエンド構築も開始しており、「使った分だけ支払う」というクラウドのメリットを最大限に享受しています 。
- 強固な防御: WAF として Cloud Armor を、ファイアウォールとして Cloud Firewall(Cloud NGFW) を活用し、機密性の高い学生データを守っています 。


【導入効果】管理工数の削減が、教員と学生の「自由」を生む
導入前に課題となっていた、停電、負荷増大による処理停止や、証明書更新のためのシステム停止等の懸念点については、Google Cloud に移行し、マネージド証明書を利用することによって解決することができました。
システム運用における具体的な効果は以下の通りです。
- 運用の自動化: SSL 証明書の更新はマネージド証明書で自動化。サーバーごとの個別監視も、ログを BigQuery へ転送して一括管理することで不要になりました 。
- 教育の質の向上: 「課題締切直前にサーバーが落ちるかもしれない」という不安から学生が解放されたことは、学習体験に大きなプラスとなりました。教員側も、小テストの自動採点やオンライングループワークといった LMS の機能をフル活用した、より高度な教育設計に躊躇なく挑戦できるようになっています 。
- 運用工数とコストの削減: 全体で約 20~30 %の工数削減を達成し、コスト削減と運用効率化の両方を実現しました。
「LMS は、あって当たり前のインフラとして機能することに意味があります。学習の本質とは無関係なストレスを取り除くことで、初めてデータに基づいた教育改善が可能になるのです」
【展望】AI とデータ分析で「次世代の学び」へ
同大は今後、API を利用した学内向け RAG(検索拡張生成)の構築や、LMS の利用ログを BigQuery で蓄積し、Looker で可視化・分析する「ラーニング・アナリティクス」の計画を検討しています。
【メッセージ】「IT に関する判断」をベンダーに委ねない
「クラウドは、ベンダーの報告を自分たちで直接確認し、判断することを可能にします。少ない学習コストで自ら利活用できるからこそ、ベンダー主導では実現しにくい、教育現場に根差した仕組みを構築することができる。IT に関する判断を自らに取り戻すこと。これこそが、クラウド移行で最も重要な視点です。」


プロフィール(敬称略)
国立大学法人 千葉大学
- 理事(総括・教育・国際):小澤 弘明
- 副学長(教育改革・学修支援)(※2023 年度~2025 年度):竹内 比呂也
- スマートオフィスの皆様
利用サービス: Compute Engine, Cloud Run, Cloud SQL, Memorystore, Cloud Storage, Filestore, Cloud Armor, Cloud Load Balancing, BigQuery, Google Workspace, Looker


