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AI & 機械学習

損保ジャパン、機械学習モデルの開発を AI エージェントで自動化 ─ 1 週間かかっていた実験サイクルが 1 日に

2026年7月27日
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Google Cloud Japan Team

保険の現場では、代理店やお客様からの「この保険は契約できるのか」「この事故は補償されるのか」といった照会が日々発生します。損害保険ジャパン株式会社(損保ジャパン)は、こうした問い合わせ対応を支援する社員向けツール「おしそん LLM」を提供しています。Chrome の拡張機能から質問を投げると、関連する社内資料を検索して回答に反映する検索拡張生成 (RAG) が裏側で動き、AI がまとめます。

その回答の良し悪しを左右するのが、社内で育てている検索用の機械学習モデルです。ただ、このモデルを改良する作業は工程が複雑で、どの工夫がなぜ効いたのかを言葉で説明しづらく、担当者の経験と勘に頼る、いわゆる属人化した状態でした。損保ジャパンは、このモデル改良の進め方を AI エージェントに進めさせる仕組みをつくり、これまで何日もかけていた試行錯誤を、短いサイクルで回せるようにしています。

今回は、この開発を率いる損害保険ジャパンの眞方様と、チームで実務を担う SOMPO ホールディングスの キム様に、その舞台裏をうかがいました。

実験は回せるのに、良し悪しが見極められない

いちばんの悩みは、実験はたくさん回せるのに、その良し悪しを見極められないことでした。モデルの改良では、何度も試しては結果を確かめます。ところが、その 1 回 1 回が良い実験だったのかを見直す作業が追いつきません。「質のいい実験なのかどうかのレビューはすごく難しい。そこを効率化、自動化できないかというのが出発点でした」と 眞方 様は振り返ります。実験によっては結果が出るまでに 1 本で 1 週間かかることもあり、数を増やすほど見直しが回らなくなっていました。

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そこで 眞方 様は、この一連の流れを AI エージェントに任せられないかと考えます。「データ分析ができて、計画も立てられる。機械学習の知識も Web 検索で補える。だとしたら、できない要素がないなと思い始めました」。こうして、モデル改良の自動化に踏み出しました。

3 つの役割分担で、EDA から学習・評価までを回す

仕組みは大きく 3 つの部品でできています。

  • 学習プログラムを Gemini Enterprise Agent Platform(以降 Agent Platform) 上で動かすML 実行基盤
  • データの中身を調べる EDA Agent
  • 実験の段取りを考えて回す実験オーケストレータ

EDA(探索的データ分析)とは、いきなりモデルを作りはじめる前に、手元のデータにクセや問題がないかをひと通り点検しておく作業のことです。

中心になるのが、損保ジャパンが内製した EDA Agent です。Agent Development Kit (ADK) で開発し、Agent Platform の Agent Runtime 上で動かしています。経験豊富なデータ分析の担当者が最初に行う点検作業を、まるごと肩代わりします。

BigQuery に取り込んだデータを、エージェントが自分で SQL を書いて点検します。「自動車保険ばかりで火災保険がほとんどない」といった件数の偏り、文章データのノイズ、全角と半角が混じった表記の不統一(Unicode の正規化が必要な箇所)などを確認。さらに BigQuery ML で小さなモデルを試し、どの前処理が効きそうかのあたりもつけます。データが大きいと費用がかさむため、重すぎる処理は事前に見積もって止めます。結果は元データと同じ場所に決まった命名規則で残すので、人もエージェントも後から判断の理由をたどれます。

データの加工の流れは、Knowledge Catalog のデータリネージが自動で記録します。どのデータが、どんな処理を通って、どう変わったのかという来歴を線でつないで地図のように見せる仕組みです。中間データの出どころを後からさかのぼれるので、原因さがしや作り直しがぐっと楽になります。

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もう一方の実験オーケストレータは、コードを書いて実験を動かすコーディング エージェントです。自ら方針を立て、EDA Agent の点検結果をふまえて、学習を Agent Platform Pipelines で回し、できあがったモデルの成績を評価します。良ければ本番へ、いまひとつなら EDA Agent に戻ってやり直す、この往復を自動でくり返します。役割を 2 つに分けたのは、あとから経緯をたどれるようにするためです。「コーディング エージェントで全部やることもできますが、それだと、なぜこのデータ分析をしたのかというログが残らない。だから分けています」と眞方様は話します。

1 週間の実験サイクルが 1 日に

効果は、かかる時間にはっきり表れました。データを調べて、学習させて、結果を見直す。この実験のひと回りに、1 週間かかるものもありました。それが、エージェントを使うと 1 日ほどで終わります。キム様も「以前は 1 回の実験サイクルに 3 日以上かかっていましたが、いまは 1 日のうちに何度も試せるようになりました」と語ります。

回せる回数が増えただけではありません。担当者の頭の中にあった判断の理由が、エージェントの記録として残るようになり、属人化もほぐれてきました。これまで手の回らなかった、結果を 1 件ずつ見て確かめるような地道な分析にも取り組めるようになっています。

AI に「作業」を、人に「課題づくり」を

時間が空いたぶん、チームの重心はどこに移ったのでしょうか。眞方 様が最も重要だと語るのは、タスクを作ること、データを作ること、課題を見つけることでした。

「ビジネス上の課題を機械学習のタスクに落とし込んで、そのためにデータセットを加工する。ここが一番大変で、まだ AI にはできないところなんです。だから、AI でできないところに注力するよう心がけています」。エージェントが出した定性分析が本当に合っているのか、最終的な判断は人が担います。いまはそのレビューに力を入れているそうです。

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人と AI の線引きを、眞方 様は自動運転にたとえます。「自動運転の技術ができたとしても、どこにどう行きたいかを決めるのは人です。機械学習も同じで、どういう文脈でどこに使いたいのか、どんなデータセットを作るのかを考えることは、人にしかできない部分だと思います」。キム様も同じ方向を見ています。「AI に任せるのは作業のほうですね。定型的なところは AI に任せて、エンジニアはもう少し上のレイヤー、戦略を考えることに時間を割くべきかなと」

変化の時代に、気軽に試せるチームでいたい

最後に、これからの展望と、同じ挑戦に向かう人たちへのメッセージを聞きました。狙いは、自動化できる領域を広げていくこと。そして、AI エンジニアが意思決定や戦略にフォーカスできる状態を作ることです。

「今のやり方も、半年後には陳腐化している可能性が全然あると思っています。だからこそ、気軽に試していくことが大事なのかなと。うまくいかないことも多いですが、それをチームとして取り組める状態になっていくと、AI 時代を生き抜けるエンジニアになり、強い組織になるんじゃないかな」と 眞方 様は語ります。

キム様は、人と AI の関わり方をこう締めくくりました。「AI は何でも自動化できそうなんですが、実際はそうでもないんです。やってみると、ここはうまくいかない、人間が必要だ、というところがちゃんと見つかる。人間がそこにフォーカスして価値を出していく。AI に合わせるのではなく、AI と共同して価値を作っていきたいです」

人手では追いつかなかった機械学習の開発に、AI エージェントとの分担で挑む。損保ジャパンの取り組みは、保険の現場の問い合わせ対応という足元の課題から始まり、開発のあり方そのものを変えはじめています。

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利用している主なサービス:

  • Gemini 2.5 Pro / Gemini 2.5 Flash / Gemini 3.5 Flash
  • Gemini Enterprise Agent Platform(Custom Jobs / Pipelines / Agent Engine)
  • BigQuery / BigQuery ML
  • Agent Development Kit (ADK)
  • Knowledge Catalog(Data Lineage)

SOMPO Digital Lab
https://zenn.dev/p/sompojapan_dx

インタビュイー

損害保険ジャパン株式会社
部署・役職 DX推進部 開発推進グループ チーフエンジニア
眞方篤史 様

SOMPO ホールディングス株式会社
部署・役職 デジタル・データ戦略部 シニアAIエンジニア/主任
キム ヘン 様

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