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AI & 機械学習

Google Cloud AI による米国フリースタイル スノーボードとスキーの物理解析

2026年3月2日
Google Cloud Team

※この投稿は米国時間 2026 年 2 月 20 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

ほとんどすべてのスノーボードのトリックには、回転数を示す数字が付いています。1080 は 3 回転、1440 は 4 回転を意味します。ルールはシンプルで、あらゆる軸まわりの回転を合算し、180° 単位で数えます。何十年ものあいだ、この表記は競技における難易度を示す共通の略記法として機能してきました。ジャッジ、コーチ、選手はいずれもこの言語を自在に使いこなしています。

しかしこれは、言ってみれば必要に迫られた「概算」にすぎません。選手の身体にセンサーを装着しない限り、空中で実際に何が起きているのかを正確に測定する方法はありませんでした。トリック名は、計画された回転数を数え、それぞれを 1 回 360° の回転として扱います。それが当時取り得る最善の方法でした――これまでは。

私たちは、2026 年ミラノ コルティナ冬季オリンピックを前に、U.S. Ski & Snowboard と連携し、通常の映像から完全な 3D バイオメカニクス データを抽出する AI ツールを Google Cloud 上に構築しました。Gemini と Google DeepMind による最先端のコンピュータ ビジョン研究を活用し、あらゆるカメラをモーションキャプチャ システムへと変換します。これにより、選手のトレーニングやパフォーマンス分析を支援することが可能になります。

このツールは、回転速度、身体の姿勢、滞空時間などを追跡するために開発されました。結果は、選手やコーチにとって直感的に理解しやすいものでした。しかし、踏み切りから着地までのあいだに選手の身体が実際にどれだけ幾何学的に回転しているのかを追跡し始めると(しかも数十人のトップライダーを対象に分析したところ)、トリック名と物理的現実のあいだに一貫した差があることがわかりました。

たとえば、米国のオリンピアンである Shaun White 選手が、2017 年の U.S. オープン(コロラド州ベイル)で披露した Cab Double Cork 1440 を考えてみましょう。このトリックは「YOLO flip」と呼ばれ、大きな話題を呼びました。当時これに挑戦するには、無謀ともいえる覚悟が必要だったからです。名称の内訳はこうです。オフ軸の 2 回の反転に加え、水平回転が 2 回。それぞれをきれいに 360° として数え、合計 1,440° となります。White 選手はこの技を完成させるまで何年も取り組み、試合で成功させました。そして約 10 点差で 7 度目の U.S. オープン優勝を果たす原動力となりました。ところが、空間内での 3D 姿勢の実際の幾何学的回転量を測定すると、推定値は 1,122° でした。名目上の 1,440° との差である 318° は、熟練度の指標ともいえます。選手がより少ない回転角度でトリックを完遂できるということは、回転軸をより正確に制御しているということです。そしてその分、スタイルや高さ、さらにはクリーンな着地のための余裕が生まれるのです。

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Cab Double Cork 1440 の動作を分解し、抽出した 3D ポーズと左右に並べて比較したもの。なお、ボードの回転は、選手の肩の向きを代理指標として算出している。

斜めの軌道は、常に短い

スノーボードで特によく見られる回転として、フラットスピンコークがあります。フラットスピンは、ライダーがほぼ直立した姿勢を保ったまま、垂直軸まわりに回転します。これに対してコークは、その軸が垂直から 45°~60° 傾き、選手は斜めのらせん軌道を描きながら回転します。ところが命名上の慣例では、軸の向きにかかわらず、どちらも 1 回転あたり 360° として同一に扱われます。

一方で、物理的には挙動が異なります。選手が複数の軸まわりの回転を同時に行うと、身体の姿勢は「取り得る向き」の球面上を斜めに横切る軌道をたどりますが、これは空間内で見たときにより短い経路になります。考え方は、大圏航路(飛行機の最短ルート)と同じです。曲面上では、斜めの近道のほうが、直線成分を足し合わせた経路よりも短くなります。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/original_images/cork-blog-graphic-2.gif

効率の差を可視化した図。フラットスピン(青)は大回りの軌道をたどるのに対し、ロデオ(ピンク)は斜めの近道を通る。いずれも「540」として着地するが、コークを含むロデオのほうが、同じ回転数に到達するまでに必要な実際の身体回転量は大幅に少ない(Gemini のコード支援によりシミュレーション)。

査読付き学術誌『Sports Biomechanics』に掲載された研究(Merz ほか、2024 年)では、149 種類のトリックを対象にこの現象が検証されました。その結果、コークでは中央値で 25° の「近道」が確認された一方、フラットスピンでは中央値で 21° の「遠回り」が見られ、想定よりも実際には多く回転していることが示されました。研究者らは、マルチコークのトリックではこの効果がさらに増幅されるのではないかと仮説を立てました。そして、私たちがトップライダーを対象に行った分析結果も、その仮説を裏付けるものとなりました。

測定方法

Google Cloud AI を活用した本システムは、まず動画から 3D スケルトンを抽出し、各フレームにおける身体の向きを推定します。回転する選手の動きは非常に複雑なため、安定した基準を得るべく、剛体としての「Body Frame」を定義します。これは脊柱軸と肩の軸から構成した座標系で、そこから胴体の直交軸を導出します。このフレームにより、手足の動きに左右されず、選手の体幹の向きを追跡できます。

この向きは、クォータニオンで表現します。クォータニオンは、多軸回転をきれいに扱える数学的枠組みで、選手が 3 つの軸を同時に使ってコークするような状況でも、一般的な角度ベースの手法が破綻しがちな特異点の問題を回避できます。

この基盤の上で、2 つの計算を行います。

Rotational Degrees(回転角度):総回転量(実際の身体回転)を測定するため、各フレームにおける体幹座標系の向きをクォータニオンとして扱い、踏み切りから着地まで、隣り合うフレーム間の角度変位を合算します。

qrel = q(i+1)qi-1
q = [w, x, y, z]
q = [cos( θ 2 ), ux sin( θ 2 ), uy sin( θ 2 ), uz sin( θ 2 )]
w = cos( αi 2 )
αi = 2 • arccos(|w|)
Rotational Degrees = Σαi

これにより、身体が空間内を実際に通過したすべての角度を捉えることができます。すなわち、コークにおける完全な斜めのらせん軌道、グラブ中の微調整、着地に向けた減速動作までを含めた総回転量です。

軸の傾きとコーク回転面リボン:回転の「スタイル」を可視化するため、各フレームにおいて体幹座標系の瞬間的な回転軸とグローバルな鉛直軸とのなす角を測定します。その際、最も高速で回転している局面がより強く反映されるよう重み付けを行います。その結果として生成されるのが「コーク回転面リボン」です。これは、トリック全体を通じて選手の回転平面を連続的な曲面として描き出すもので、回転軸の一貫性やドリフト(軸のぶれ)を一目で可視化します。

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「Rotational Degrees」の導入

これを単に「Rotation」つまり「回転」と表示してしまうと、たとえば「1440」というトリック名の横に「1,270°」と示された場合、視聴者は回転不足だと誤解してしまうでしょう。しかし、この 2 つの数値は測っている対象が異なります。トリック名は慣例上の回転数を示すものであり、Rotational Degrees(または Rotational Magnitude)は幾何学的な実回転量を示します。

スノースポーツの専門家との協議を踏まえ、私たちは放送用グラフィックやコーチング ツールにおいて「Rotational Degrees」という用語を採用しました。これはトリック名とは別の概念であることをコミュニティが認識できる表現です。既存の評価体系に、新たなインサイトの層を加えるものとなります。

Google Cloud AI で追求する回転効率

コークがより短い経路を生むのであれば、回転軸の傾きを自在に操れる選手は、実際の身体回転量がより少ないまま、より高得点につながるトリック名の技に到達できます。さらに、必要な滞空時間も短くて済むため、スタイルやクリーンな着地のための余裕が増えます。コーチはこの感覚を長年持っていましたが、今では、ある選手の 1080 が 940° と計測され、別の選手の 1080 が 1,020° と計測される、といった違いを可視化し、効率的な経路がどこで分岐しているのかを特定できます。

選手がクアッドコーク以上の領域へ挑戦していく中で、Rotational Degrees は、滞空時間と人間の反応速度という制約のもとで「どのトリックが物理的に可能なのか」を見極める手がかりにもなります。トリック名は、選手が何を狙ったのかを示します。Rotational Degrees は、それを着地させるために必要となる物理量を示します。

最後に、これらのインサイトを届けてくれた Google Cloud チームに心からの謝意を表します。Alejandro Ballesta Rosen、Noah Bassetti-Blum、Hemanth Boinpally、Mike Santoro、どうもありがとう。

- Google Cloud チーム

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