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AI & 機械学習

FM Logistic が AlphaEvolve を使って倉庫規模の「巡回セールスマン問題」を解決

2026年4月8日
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Mateusz Klimowicz

Sr. Software Engineer, FM Logistic

Anant Nawalgaria

Sr. Staff ML Engineer & PM, Google

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※この投稿は米国時間 2026 年 3 月 27 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

巡回セールスマン問題とは、「すべての地点を 1 回ずつ訪問する最短ルートは何か」という、一見すると単純な問題です。これはコンピュータ サイエンスにおける最も難しい問題の一つであり、数学者は 1 世紀近くもこの問題に取り組んでいます。また、FM Logistic のポーランドの倉庫作業員が日々直面している課題でもあります。

倉庫は全体でサッカー場 8 面分の広さがあり、ピッキング ポイントの数は 17,700 を超えています。シフトごとの作業員数は数十人にのぼり、その各人が電動車両に乗ってフロアを縦横に駆け巡り、1 度の巡回で数十か所の保管場所を回って段ボール箱を回収します。こうした作業において、不要な経路が積み重なっていくと、時間が無駄になるだけでなく、車両の劣化や、納品の遅延にもつながります。

14 か国以上でグローバル事業を展開する物流プロバイダの FM Logistic は、すでにルーティングを最適化する仕組みを有していました。既存のモデルは、費用優先の高速なルート割り当てロジックに基づき、リアルタイムで応答を得られるようなものです。これはこれでうまく機能していましたが、ルートの判断がその都度行われる仕組みになっており、倉庫全体から見たルート調整能力に限界がありました。一度のシフトで同時に働く作業員数が数十人にのぼることを考えると、ルートがわずかでも改善されれば、大きな効果に直結します。

そこで導入されたのが、Google Cloud の AlphaEvolve です。

AI に、もっと優れたアルゴリズムを書いてもらう

AlphaEvolve は、Gemini モデルを使ってアルゴリズムを自律的に生成、改良する進化型のコーディング エージェントです。固定ルールからスケジュールを計算するのではなく、コーディング パートナーのように動作するのが特徴で、新しいコードを記述し、スコアを付け、最初のコードよりも優れたソリューションが見つかるまで反復処理を行います。

この取り組みをゼロから始めたわけではありません。既存のアルゴリズムを AlphaEvolve に「シード」プログラムとして提供しました。このアルゴリズムは、各ステップごとに、最善と思われるルートをその都度採用するというものです。この実際に使用されているアルゴリズム(すでに問題を解決しており、まだ最適化の余地があるもの)をベースラインとして使用し、Gemini を使って変更や新しいロジックを加えて新たなコードを生成して、人間が設計した元のコードを上回ることができるかどうかを調べました。

改善結果の評価

AlphaEvolve によって改善するには、各アルゴリズムのパフォーマンスを測定する方法が必要となります。そこで、60 件の巡回(合計 1 時間以上の作業員データ)を代表的なデータセットとして使ってカスタム評価関数を設計し、生成された数千のアルゴリズムを実際の状況下でテストしました。

この評価では、「ピックごとの平均移動距離を最小に抑える」という基本的な目標に基づいてコードをスコア付けします。また、運用上の問題を回避するため、フォークリフトの容量超過や、注文品の回収漏れ、同じ箱の重複割り当て、注文の先入れ先出しルール違反、リアルタイム運用で許容される計算時間の超過といった事象にそれぞれペナルティを設け、不適切な解を避けられるようにしています。

結果

新しいルーティング ロジックでは、過去最良だったベースラインからの改善をただちに数値で確認できました。

  • 過去最良のソリューションと比較して、ルーティング効率が 10.4% 向上。

  • 全体で、倉庫内の移動距離が年間 15,000 km 以上削減。

この効率化により、人員や車両を増やすことなく、従来と同じ作業員数および設備でより多くの注文を処理できるようになりました。

FM Logistic のグループ CIO である Rodolphe Bey 氏は、次のように述べています。「Google Cloud と協力して AlphaEvolve および Gemini を実装したことで、このスピードが要求される業務においてルーティング アプローチをさらに最適化することができました。既存のアルゴリズムもすでに高度に最適化されていたため、そのベースラインを超えることは困難と思われましたが、上乗せで 10.4% の改善を実現しました。この改善は、納品のスピードアップや、労働条件の改善、車両の劣化軽減に直結しています。」

最終的に勝ち残ったアルゴリズムの動作

AlphaEvolve の実験を繰り返し、実験のたびに数百の候補プログラムを生成するという方法によって、人間が設計した最良のアルゴリズムを上回る新しいアルゴリズムが生み出されました。この新しいアルゴリズムは、人間が解読可能なルールセットとなっており、倉庫チームが内容を確認して適宜調整することが可能です。

3 つの主な改善点:

  1. 密度ベースの開始点(アンカー選択): 旧システムでは、最も多くのピッキングが必要な一か所を開始点として選択していました。新しいアルゴリズムでは、開始点を広く捉えるようになっています。具体的には、互いに近くにあるアイテム同士をクラスタ化して、アイテムが密集しているエリアを開始点(基点アンカー グループ)として使用します。この方法によって、すべての巡回において開始点の効率が高められます。

  2. 距離シミュレーションにおけるフィルタリング: リアルタイムに通用する速度を維持するため、2 段階の処理プロセスを使用しています。まず、クイックフィルタによって、ルートロジックに適さない注文を除外します。続けて、残った適切な候補に対してのみ厳密な距離シミュレーションを実行することで、スピードを落とすことなく最も効率の良い経路を見つけています。

  3. 柔軟なルート構築: ある出発点から初めて、トラックを効率的に満載にできなくなった場合、無駄なルートを強制することはありません。メインプールにいったん積み荷を戻し、後でもっと良いルートでピックすることで、倉庫全体で効率を向上させています。

次のステップ

ポーランドでの試験運用(現在は本番環境に移行済み)では、倉庫規模の複雑なルーティングにおいて、進化型 AI が役立つことが示されました。FM Logistic は現在、大量の商品を扱っている他の e コマース施設にもこのアルゴリズムを適用することを計画中です。また、AlphaEvolve を道路輸送にも応用し、トラックが積載量に満たない場合の効率化に役立てられないかどうか探っています。さらに、倉庫内の商品配置にも AI を活用して移動距離をさらに短縮できないかどうか検討中です。


このプロジェクトは、FM Logistic チーム(Mateusz Klimowicz、Jarosław Urbański、Florent Martin、Alberto Brogio)、Google Cloud の AI for Science チーム(Kartik Sanu、Laurynas Tamulevičius、Nicolas Stroppa、Chris Page、Gary Ng、John Semerdjian、Skandar Hannachi、Vishal Agarwal、Anant Nawalgaria、他)、Google DeepMind の協力によって実現しました。

- FM Logistic、シニア ソフトウェア エンジニア、Mateusz Klimowicz 氏

- Google、シニアスタッフ ML エンジニア兼プロダクト マネージャー、 Anant Nawalgaria

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